二人の話   作:属物

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第六話、二人が買い物にいく話(その六)

 結局蓮乃が選んだのは「お徳用香味醤油ゴマ煎餅」のどでかい紙袋だった。やっぱり蓮乃はしょっぱいお菓子が好きらしく、ルンルン気分のほくほく顔で醤油ゴマ煎餅の特大紙袋を抱えている。その様を見ながら正太もまた、「ご機嫌な顔しやがって」と苦笑をこぼした。

 さて蓮乃のご機嫌取りという目的を果たしたわけだし、なすべきをなさなくてはならない。つまりは頼まれた買い物を済まさなくてはならないのだ。さもなければ帰宅後に母と妹の宇城家最強のタッグの手で、油の一滴も出ないくらいに絞り上げられてしまうのだから。その時を想像し無駄に顔を強くする正太はさっさと売場へ向かうべく、棚の間を抜けて足を進めた。

 一方、にへにへと笑う蓮乃は正太の後をついて回っていた。「後に付いている」だけなら「貞淑な婦人のよう」と表現できるかもしれない。だが、実際は「にへへへー」と聞こえてきそうなふやけた顔のおかげで、刷り込みされたアヒルの雛にしか見えなかった。

 

 綿菓子のように甘く柔らかに笑う美少女、いや美幼女。

 体毛を逆立てた猪めいて厳つい相貌の少年、いや醜男。

 

 童話「美女と野獣」を思わせる異様な取り合わせである。幸い、まだ人も少ない三時過ぎなので視線の針山にならずにすんでいる。それでも夕方のラッシュに備える従業員や、少し早めの夕食買い出しに売場を回る買い物客から、正太と蓮乃のコンビは周囲の視線を二人占めしていた。

 おかげで針のむしろに正座している心地の正太は、せむし男の体で背中を丸めた。素敵なくらいに居心地が悪い。「前の一件」のせいで他人とのコミュニケーションのみならず、周囲から目立つのも大の苦手になった正太にとっては、現状は苦痛の一言である。

 もし正太一人で来ていたならば、あっという間に頼まれ物をひっつかんで会計を済ますや否や、すぐさまビッグバスケットから逃げ出していただろう。しかしながら現状は一緒に行進中の蓮乃が居るわけで、しっぽ巻いてトンズラこくわけにも行かない。コンチクショウ、連れてくるんじゃなかった。

 今までの人生と「前の一件」と蓮乃を連れてきたことをまとめて後悔しつつ、同年代の中でも低い背を丸めて正太は壁際の通路を進んだ。豆乳製品の冷蔵庫から冷気がほのかに漂う。冷蔵庫特有の何ともいえない臭いを感じながら正太はバックからメモを取り出し、改めて目を通した。いい加減気分を切り替えよう。買わなきゃならない物は何だっけ。

 

 ――でんぷん米五kg、零余子芋(ムカゴイモ)と皮無玉葱(カワナシタマネギ)を五個ずつ、酵母肉五〇〇g、ベルモントカレー中辛・甘口一箱ずつ等々

 

 メモに書かれた商品を頭の中でシミュレートしながら正太は顎に手を当てる。正太が考え込むときの癖だ。どうせ持たなければならないならば、重い米や野菜のたぐいは後回しにしたい。新鮮でないと困る肉類も、持ち歩く時間を短くすべきだから後の方に。となればまずは多少荒く取り扱っても大丈夫そうなカレールウからだな。考えをまとめた正太は小さく頷くとぐるりと首を回して、カレールウを売っているだろう「調味料」売場の看板を探す……あった。

 

 となれば次は、脳内お花畑で遊んでいる真っ最中の娘っ子をどうにかする番だ。正太が蓮乃の方へと振り返ると、締まりのない表情で大事そうに大きな紙袋を両手で抱える蓮乃の姿が目に入る。

 蓮乃は言葉を聞き取れないし喋ることもできない、そういう障害を持っている。なので基本は筆談である。しかし、伝えることが有るからといって両手が塞がっている現状でノートを取り出させるのは、少しばかり難しそうだ。だからといって他人の、それも女子のポーチに手を突っ込むのは躊躇われる。まあ、蓮乃なら問題ないかもしれないが「親しき仲にも礼儀あり」とも言うし、一応止めておこう。

 数秒ほど考え込んだ正太は、蓮乃の肩を手のひらで軽く叩いた。微妙にこの世から外れた所に居た精神が戻ってきたのか、切れ長い目の焦点が正太に合わされた。蓮乃が注目したことを確認し、正太は目的の方向へと指をさして向かう場所を伝えようとする。理解しているのかいないのか、蓮乃はふわふわとした顔のまま首を縦に振った。一応、首肯したんだしきっと付いてくるだろう。自分にそう言い聞かせて無理矢理ながらも納得させると正太は足を動かした。

 

 壁際の冷蔵庫には豆乳を筆頭に、各種プロセスチーズや大豆油マーガリン、ヨーグルトもどきの醸しおぼろ豆腐と言った豆乳製品が並ぶ。牛乳がそこそこお高くなった現在、乳製品より基本的に安い豆乳製品は代用品としてニッチを占めている。

 もっとも主原料である「救荒蔓大豆」の関係で味は代用品の枠から出れず、乳製品は高級品として新しい立ち位置を得ているのだが。そしてそのまま少し歩くと、豆乳製品から大豆全般の加工品へと冷蔵庫の中身が変化してゆく。豆腐、厚揚げ、納豆、味噌、生醤油。台所でよく見かける日本家庭の主戦力だ。

 

 ふと、エプロン姿の店員が正太の視界に入った。同時に袖口が背後に引っ張られる。振り返れば店員を食い入るように見つめる蓮乃の姿。はて、何が気に止まったのだろうか?

 蓮乃の好みの顔立ちは知らないが、正太の目から見て視界の先の店員は別に極端なイケメンには見えない。極端な顔立ちというなら、むしろ正太と蓮乃の方が忘れ難い顔かたちをしていると言えるだろう。ただし、正太は負の意味であり、蓮乃は正の意味ではあるが。

 細い目をさらに細めて正太は店員を注視する。ついでに眉根が寄せられて、おかげで強い顔がさらに怖くなっている。そこでようやく正太は気が付いた。店員はテーブルに容器を並べている。何のことはない、試食の紙容器を並べていただけだ。よく見れば瓶詰めらしき小瓶も見える。どうやら蓮乃はそれに気が付いて足を止めたようだ。蓮乃の奴はメシ相手ならずいぶんと勘働きが良いらしい。試食の載ったテーブルを一心不乱に見つめる蓮乃を見ながら、正太は鼻から太い息を漏らした。

 どーせ『あれ食べたい!』って言うんだろうし、先んじておいて損はないかね。預かっている子供に極端なもの食わせたら、どっちの意味でもマズいだろうし。蓮乃の考えを代弁した気分になっている正太は一人勝手にそう決め込むと、じぃっという擬音がでそうな様子で試食を見据える蓮乃を後目に、足早く店員の方へと歩み寄った。

 

 「新発売のオキアミ塩辛の試食です、お一つどうですか?」

 

 歩み寄る正太の存在に気が付いた店員は四角い紙器を差し出した。そこには海老に似た小さな甲殻類が小いさな山を作っている。赤茶色いそれから独特の発酵臭がぷぅんと漂って来る。癖のある臭いが正太の鼻孔をくすぐり、口の中に唾がわき始める。

 

 魔法発現による混乱期以降、遺伝子改造された異常な生物群とそれを利用したテロリズムのおかげで、海洋輸送のコストは上昇の一途をたどっている。それに従って食品輸入価格は右肩上がりを続けており、今や舶来品=高級品のイメージが当たり前となるに至っている。

 当然、輸入品である各種加工食品の原材料価格も跳ね上がっており、国産合成食品が一般化するまで家庭の大黒柱の晩酌は日毎に寂しくなるばかりであった。

 そんな中、手に入りやすく、なかなかに旨く、何より安い「オキアミ塩辛」は、世のお父さんたちの強い味方として家庭経済と仕事終わりの一杯を支えて来たのだ。食糧問題が解決した現在においてもその人気は衰えることなく、オキアミといえば塩辛と言われるほどである。余談ではあるが、そのおかげで成形オキアミの売れ行きは一向に上がらず、ほとんどが家畜用飼料として消費されていたりする。

 宇城家の大黒柱も例に漏れず、オキアミ塩辛をアテにして緑茶割りのデンプン焼酎をあおるのがいつもの晩酌スタイルである。そのため正太もご相伴に預かってオキアミ塩辛を頂くことは少なくない。おかげで齢十四にしては珍しいことに、正太はオキアミ塩辛が好物だったりする。

 

 「あ、じゃあ一つ」

 

 一言断りを入れて紙スプーンと一緒に紙器を受け取ると、正太はオキアミ塩辛を頬張った。プチプチと小さなアミが潰れる触感と共に、口中に複雑な味わいが満ちあふれる。発酵によって生じた芳醇なうま味成分が正太の味蕾を存分に刺激し、反射反応によって分泌された唾液が口いっぱいにそれを広げていった。ああ、ご飯がほしい。どんぶり飯にこいつを振りかけて、一気にかき込めばきっと堪えられないだろうに。

 恍惚の表情で塩辛を味わう正太に商機を見いだしたのか、店員はささやくように購入を勧めた。

 

 「今夜の晩酌にどうですか? ご飯のお供にも抜群ですよ」

 

 催眠にかけられた様な表情で正太は値札を見る。元々「安くて旨い」を売りにしていただけあって、正太の小遣いでも十分に手が届く値段だ。しかし、今日は箱入りカスタード大福を自費で購入する予定であり、財布の中に余裕はない。その上、蓮乃のご機嫌取りのために醤油ゴマ煎餅を買ってしまったのだ。今や懐は晩秋の北海道のように冷えている。その上、カスタード大福を購入すれば財布の中は真冬のオホーツクと同じ具合。瓶入り塩辛を買う余裕などどこにもない。でも塩辛は旨そうだ、というより実際旨かった。

 只でさえゴツい顔に厳めしい表情を浮かべながら正太は悩む。塩辛喰いたし妹怖し、さてどーしたもんだろか。こんな理由で大福買いそびれましたなんて言った日にゃ一体どんな目に遭うことやら。しかしながらどんぶり飯に塩辛の至福を諦めるのは心苦しい。くっそ、こんな所に試食があるからいけないんだ。こんな誘惑さえなければ何も考えずに大福と頼まれ物買って帰宅できたものを。

 無駄に悩む正太はついに試食に責任を転嫁し出した。そんな正太の裾を引っ張る手が一つ。懊悩を一時中断し、正太は手の方へと視線を向ける。視線の先には不機嫌と書かれた表情をした蓮乃の顔があった。形良い眉をハの字に変えて、アヒルよろしく唇を付きだしている。一〇〇人中九〇人ぐらいは「機嫌が悪い」と表現しそうな顔をしている。残りの一〇人は「とても機嫌が悪い」と表現するだろう。

 

 ――あ、やっべ

 

 塩辛を味わうことに夢中で蓮乃のことはきれいさっぱり忘れていた。正太の表情が強ばり、こめかみに脂汗が滴る。醤油ゴマ煎餅を買ってどうにか機嫌をとったのだ。このままでは元の木阿弥、不機嫌極まりない反抗心旺盛なお子ちゃまを連れ歩く羽目になってしまう。そうなったらどう考えてもコントロールが効かない。暴走して大騒動を起こす蓮乃の姿が正太の脳裏によぎる。この場合の責任は当然自分に帰結する訳で。こいつは非常にまずい。

 

 「お嬢ちゃんもどうかな、おいしいよ?」

 

 それを止めたのは店員が差し出した紙器だった。不機嫌顔を取りやめると、蓮乃は好奇心を体現した表情で紙器を受け取る。機嫌が悪いのはどこへ行ったやら、先までの文句と不満はワクワクと書かれた顔のどこにも見あたらなかった。正太は胸の内で親指を突き出す。店員さん、ナイスフォローです。

 受け取った紙器に顔を近づけると、蓮乃はすんすんと子犬みたいに鼻を鳴らして臭いを嗅ぐ。知らない臭い。でも、醤油か味噌な感じがする。それよりキツいしクサいけど。それと瓶に書いてある「オキアミ」って何だろうか。「塩辛」もよくわかんない。どーしたもんだろ? まあいいや、食べてみようっと。

 結論がでないという結論しかでなかった蓮乃は、取りあえずということでオキアミ塩辛を口の中に放り込んだ。

 

 「○×△□~~~!?」

 

 次の瞬間、蓮乃の口腔内で磯臭さが炸裂した。余人に知るもののいない言語で蓮乃は悶絶を表現する。磯遊びをした人間なら理解できるだろう強烈な磯のかほりが鼻を突き抜けたのだ。液質になるまで醸された海草の臭い、フナムシがたかった腐りかけの魚の臭い。ナマモノの臭い、生き物の臭い、腐敗の臭い、発酵の臭い。それら全てを合わせた臭いが蓮乃の嗅覚神経をブン殴った。

 もっとも磯溜まりの現物に比べればずいぶんとマイルドな香りだ。当たり前だが市販の食品なのだから、「くさや」や「シュールストレミング」のような特殊例をのぞけば、万人向けの落ち着いた食べやすい仕上がりになるのが基本である。それでも一切合切そんなもんを食った経験のない、そして海で磯遊びをした経験もない蓮乃にとっては、オキアミ塩辛初体験は余りに激烈なものだった。

 

 「お嬢ちゃんにはちょっと早かったかな?」

 

 口を押さえて悶える蓮乃へと苦笑を浮かべた店員は水の入った紙コップを差し出す。おそらく、紙コップは現状の蓮乃同様にオキアミ塩辛がダメな人向けなのだろう。それをひったくると死にそうな顔の蓮乃は一息で飲み干した。その顔は苦虫を噛み潰したという表現では、少々足りないくらいに酷い表情だ。口の中の激臭を揮発させようと舌を出しつつ口を広げて、ついでに両の目に涙を滲ませている。

 なんてものを食わすんだと、蓮乃は非難がましい涙目を店員に向ける。

しかし店員は少しばかり苦笑を深めただけで、蓮乃の涙混じりの視線を意に返す様子はない。店員から見れば子供がちょっと衝撃的な初体験をしたと言うだけなのだろう。実際その通りなのだから、そうだとしか言いようがない。

 

 そりゃあ、当人の苦難がどれほどのものかなど、端から見ている人間にはわかりはしない。だが、そもそも先に食べた正太に何も聞かず、躊躇もなしに試食を口にした時点で、蓮乃が店員に文句を付けるのはお門違いも甚だしい。試食は蓮乃が望んで口にした以上、蓮乃の自己責任なのだから。

 そんなことを考えながら正太は紙器を備え付けのゴミ袋に放り込むと、もう一杯の紙コップを受け取り蓮乃へと手渡した。他人の気持ちなんぞよくわからんが、蓮乃がベーベー言ってるのは見て取れる。必死の形相で舌を出している蓮乃は、礼も言わずに紙コップを受け取ると大急ぎで口の中に注ぎ込んだ。二杯も水を飲んでいくらか落ち着いたのか、蓮乃はベロを体内に格納した。それでもまだつらいのか、目尻の涙と眉間のしわが存在を主張している。

 

 「少しばかり娘さんの口には早かったみたいですねぇ」

 

 瓶詰めから塩辛を新しい紙器に移しつつ、店員は少々ばつ悪げな表情を浮かべる。幾多のモンスターお客に応対してきたであろう店員でも、流石にこうも強烈な反応を返されると多少は罪悪感を感じるようだ。その上、その外観が目を引きつけて止まない美少女とくれば、感じる後ろめたさも小さくはないだろう。

 

 (俺、十四なんだけど……)

 

 ただ正太としては蓮乃の父親扱いされた方を問題にしたい気分だ。いくら顔立ちが怖くて厳ついからといって、蓮乃くらい大きい子供のいる年齢にされては堪らない。蓮乃は大体十歳かそこらだから、正太は三十路あたりに見られているということだろう。倍以上老けてみられるってどう言うことだ。いつも寄ってる眉間のしわをいつも以上に深くして、正太は拳を握りしめた。

 

 「あっ、はい……」

 

 だが、それでも口に出せないあたりが正太である。顔は店員の着けるエプロンのロゴと対面していて、視線は床面を滑ってモップがけしている。なにせ「前の一件」以来、正太はコミュニケーション障害気味なのである。なぜか蓮乃相手ならなんとでもなるのだが、人様相手だとこの様だ。事務的な話なら何とかなるものの、それ以上の雑談や会話になると大いにボロが出てしまう。恥ずかしいやら情けないやら、入る穴をスコップ持って掘りたい気分だ。

 一人落ち込みうつむき加減の正太に、娘の割にはずいぶんとしょぼくれた親父さんだなとでも思ったのか、店員は小さく息を吐いた。これ以上会話にならない会話を続けていても商売にならないと判断したのだろう。塩辛を新しい紙器に移し終えた店員は会話を切り上げると、声を上げて呼び込みに移った。

 

 「今夜の晩酌晩ご飯に、病みつきになる味! 李屋のオキアミ塩辛は如何でしょうか~~!」

 

 他人に愛想を尽かされる(ように感じる)この瞬間、自分が本当にイヤになる瞬間だ。臓腑が鉛に変わったような不快感の中、肩を落とした正太はノソノソと形容できる鈍さで歩き出した。調子が悪かろうが気分が落ち込んでいようが、買うべきものは買わねばならんのだ。それが約束と言うものだし、只でさえ迷惑をかけた家族の信頼をこれ以上裏切るようなことはしたくない。重りを引きずるカタツムリの心境で正太は足を進める。

 そんな正太の内心が顔にでていたのか、口から磯の後味が消えて調子の戻った蓮乃は、不思議顔でノートを突き出した。

 

 『どーしたの? おなかが痛いの?』

 

 おなかよりも心が痛い。もしも家族相手なら事情を話して泣き言を聞いてもらう所だろう。しかし、子供相手に泣き言漏らして慰めてもらおうとするのは年上としていかがなものか。男の子たるもの痩せ我慢も時には必要だ。正太は表情筋を活を入れて無理矢理厳めしい表情を作ると、蓮乃のノートに書き込んだ。

 

 『ちょっと腹痛気味みたいだ。さっきの塩辛が少しばかり腹にキツかったかもしれん』

 

 確かに酷い目にあったと蓮乃も頷く。何せあまりの臭いのあまり空えずく羽目になったのだ。今後一切、あのオキアミとやらが使用されている食品に手を出さないと、蓮乃は一人胸の内で誓う。もっとも色々な加工食品の原材料にオキアミは使用されている。蓮乃が今抱えている醤油ゴマ煎餅の調味液にも使われているのだからその誓いは不可能に等しいのだが、当人に気が付く様子はない。

 ただ正太の気分が良くなさそうなのはしっかり気付いたようで、『少し休んだら?』と背中のつもりで腰をさすりつつ、心配顔を浮かべている。帰宅直後に腰をイわした正太にとっては、仮病の腹痛よりもある意味ありがたい。けれど腰は調子を戻したし、気分が悪いのは文字通り気の持ちようだ。正太は心配する蓮乃を片手で制すると、取りあえずカレーを買いに調味料売場へ足を進めた。

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