まだ空は青色のままだが、太陽は天頂から随分と角度を落としていた。
公園を囲む木々の影は既に長く、合間の暗がりも色濃く見通しが悪い。夏至に近づく五月終盤ではあるが、五時近くともなればそれなりに夕方らしい風合いを見せる。
そんな図書館前の公園の入り口に、いつも通りのTシャツと木綿パンツの正太と、これまたいつも通りにパステルカラーの袖付きワンピースの蓮乃が並んで立っていた。思い立ったが吉日と、利辺との決着をつけに二人は図書館と公園までやってきたのだ。なので蓮乃は気合い満々で鼻息荒く、それでいて落ち着き無く視線を動かす不安気味の顔をしている。一方の正太は、啖呵を切った割には随分と微妙な表情だった。先日のやりとりから既に数日は経過しているのだ。少年こと利辺が公園にいた理由も二人は知らない。今更会いに行ったとしても利辺に会えるとは、正太には考えづらかった。
事実、正太は緊張感と面倒くささの混じった表情で辺りを見渡すが、目に入るのは学校帰りとおぼしき少年たちが野球に興じる姿だけだった。記憶の姿を見直せば、目的の人物が蓮乃と同年代の小学生であることは想像が付く。だが、ランドセルを背負った彼らの中には、小憎たらしい天使面はどこにも見当たらなかった。
蓮乃の気合いに乗せられたとは言え、元々利辺と顔を合わせたくない正太としては、蓮乃には悪いがそれはそれで良かったと思える。小学生相手にビビるつもりは到底無いが、拳骨を出したら捕まる相手と神経を逆なでするイヤミ合戦をするのは、精神衛生上とてもよろしくない。
『どうやら居ないみたいだな。図書館行って帰るか』
「ん」
会えなくてほっとしたような、でもやっぱり残念なような複雑な顔をしているが、蓮乃は素直に頷いた。腰の重い正太を動かすくらいに気持ち十分な蓮乃であったが、同時に鈍感極まりない正太から見ても判るくらいに不安と緊張にいっぱいいっぱいでもあった。いくら正太が後ろ盾に支えてくれるとは言え、嫌悪する相手に真っ向から最後通牒を叩きつけに行くのだいくら気合いを入れたとは言え、緊張するくらいは当然だろう。ましてや主に正太に向けてだったが、感情のままに魔法を使おうとしたり暴れ回ろうとした相手でもある。蓮乃の表情に安堵の色が混じるのも無理はない。
その顔を見て遅くならない程度に図書館で本でも読んでいくかと予定を立てた正太は、繋いだ手を引いて図書館へと歩き出した。手を引かれた蓮乃も散歩に慣れた子犬よろしく、直ぐに歩調を早めて正太の手を引っ張り出す。その顔には既に図書館での読書の期待に切り替わっている。切り替えが早いのは蓮乃の特長だ。
なお、二人が手をつないでいるのは別に正太が求めたわけではない。図書館への道の途中、蓮乃が当然の顔で正太の手を握ってきただけである。正太としてはどうにも気恥ずかしい、でも振り解くのもなんだしと無駄に懊悩しながら結局そのままで公園までやってきてしまったのだ。
緊張の気が抜けた顔の正太を引っ張る様に、小走り気味の蓮乃はとなりまち図書館へと向かう。その耳に、待ち望んでいながらも出会いを拒否したい相手の声が届いた。
「いたっ!」
図書館近くのベンチの横で、聞き覚えのある声に二人が振り返ってみれば、これまた見覚えのある姿が目に入る。ブロンド二歩手前の淡色の髪に、新生児の薄ピンクの肌。透明な薄茶色の瞳は、長く柔らかな睫毛でデコレーションされている。宗教画から飛び出してきたとおぼしき外観を、小学生丸出しの短パンにアメコミTシャツで包んだそいつは、二人の探し人である少年こと利辺 翔に他ならない。ただし顔色は(主に正太への)悪意が全開だった前回と異なり、先ほどまでの蓮乃同様に緊張と不安で張りつめている。
「なうっ!」
ターゲットを発見した蓮乃が臨戦態勢に入った。握った拳をフック気味に振り回し、猫パンチのファイティングポーズを構えている。緊張と不安に揺れる心境を表しているのか、重心は前後にリズムを取っている。
蓮乃が飛び出さないように半歩前で手で制しつつ、正太も重心を落として即応体勢を形作る。先日は何度と無く飛びかかろうとしてきた相手である。襲ってくるなら即座に盾となり、跳んでくるなら拳骨で迎撃するつもりだ。ただし表情までは即応できなかったらしく、正太は少々困惑した顔を浮かべている。
正太の困惑の原因は予想と当てが外れただけではない。利辺の後ろに二つの知らない顔を見つけたからだ。一五〇cm代の正太より確実に頭一つは背丈の高いチョコレート色の美青年に、南部アメリカ舞台の映画でメインヒロインを張れるだろう赤毛碧眼の美少女。
コンチクショウ、どいつもこいつも整った顔立ちをしていやがる。蓮乃は美男美女専用の引力でも発揮しているのか。困惑から憮然へと表情を変えて、げんなりした気持ちを胸の内でこぼす正太。だが文句を言ったところで顔が良くなるわけではない。顔立ちのことは心の棚に仮置きして改めて二人を観察する。日本人の想像する肌色からほど遠い焦げ茶色の肌に、染めない限り大和民族には手に入らない茜色の髪。蓮乃と相対している天使顔の少年もそうだが、全員が日本人離れした面構えをしている。帰化外国人の子女の集まりなんだろうかと正太は首を捻った。
魔法と呼ばれるよく判らない力が世に溢れるようになって、一番特をしたのはテロリストと犯罪者と科学者だが、一番割りを食ったのは被差別民族などの虐められていたマイノリティーである。特に魔法を得てしまった少数派は悲惨の一言だった。社会が混乱すれば真っ先に酷い目に遭うのはいつだって弱者だ。加えて社会混乱の原因である魔法を持ち合わせているとなれば、もう目も当てられないことになる。
そうして恐怖や嫌悪に煽られた多数派の排斥活動もあって、少数派は泣く泣く故郷を離れることとなった。その行き先はアメリカやアジアやあの世等々様々だったが、その一部は日本にもやってきていた。アニメや特撮、当時はまだ一般的だったマンガなどがる日本なら、他国よりはいくらか許容してもらえるのではないかと考えたからだ。社会不安が比較的少ないこともあり、混乱する国よりいくらか魔法使い差別は大人しかったのは事実だ。しかし、それと移民難民を受け入れるかは完全に別問題であり、申請や認定の厳しい日本では多くが違法な移民となってしまった。
それでも以前と比べれば日本に帰化した外国人、通称:帰化外国人とその子供たちは格段に増大し、白黒黄の肌色に赤金茶黒の髪と学校の教室は色彩豊かになった。そして仕事の増えた先生方の顔色もカラフルになったが、それは別の話である。
正太の思考をよそにガチガチに緊張している利辺は、一六ビートで暴れる心臓を宥めようと深呼吸を繰り返す。あこがれの兄貴の見ている前で、好きな子のハートを射止める大一番だ。カッコ悪いところは見せられない、見せたくない。
一方、憧れの対象であるピーノは、利辺の緊張を余所に安堵したような疲れたような表情で弟の様子を見ている。ここ数日の間、蓮乃と合ったことのある病院と公園とその周辺で、ピーノ・利辺・友香の三人は蓮乃を探し回っていた。しかし、健康優良児である蓮乃は月検診以外に病院に行く用事がない。次の月検診は六月なので五月の今、蓮乃は当然病院では見つからない。そして図書館は、利辺にまた会いたくない二人の心境もあって足が遠のいていた。なので蓮乃が覚悟を決めてやってきた今日まで、図書館でも発見できなかったのだ。
そういう事情もあってピーノの内心としては安堵の気持ちで一杯である。利辺には言っていないが実を言うと、いい加減面倒くさくなってた処だった。もし今日見つからなかったら止めようかと考えていたが、見つかったので一安心という処である。
緊張でパンクしそうな弟に「頑張れよ~」と胸中で適当なエールを送ると、ピーノはその弟の思い人に視線を向ける。蓮乃の顔立ちを見るや否や、ピーノの表情は興味の笑みに形を変えた。
--にしても翔の奴、どんな娘かと思ったら実にマブいというか、強烈にハクいというか、ちっさいくせにすっげぇ美人じゃねぇか。
口笛を吹きそうな勢いでピーノはストリート的な表現で蓮乃の外見を絶賛する。原義通りにハンサムなピーノから見ても、蓮乃の外観は十分に琴線に触れるものだった。ストライクゾーンからは遙かに下回るほど幼すぎるが、それを除けば全部が全部及第点といえる。さすがは俺の弟だ、いいセンスしている。
自画自賛も込めてピーノは弟の見る目を賞賛する。そうして蓮乃を観ていた黒茶色の目が、不意に蓮乃を庇う正太に向けられ……直ぐに外れた。正太の存在は眼中にも思考の内にもない。誰が道ばたに捨てられた吸い殻を注視しようか。独自のセンスで他人を測るピーノにとって、感性に一片たりとも触れない正太などその程度だ。
そんな目線を向けられた正太の顔は、げんなりという言葉を体言する形に崩れている。なるほど、あのクソガキが連れてだけあってデカいだけの同類か。しかも『腕輪』を付けている点、つまり魔法使いであることまで同じとは。面倒なことに成らなきゃいいんだけど、無理だろうな。
気分の悪くなる確信を得た正太は、もう一人へ確認の視線を向ける。クソガキ(女)で無いでくれと祈るような心境だ。一人でもあれだけ嫌な気分にさせられた相手が、倍になってやってきたのだ。さすがに三倍は勘弁願いたい。
正太の祈りが何かしらに通じたのか、目を向けた先の友香はニッコリと書かれた笑みを浮かべて斜め四五度の深いお辞儀を返して見せた。丁寧な態度にほぅと正太は感心の息をこぼした。あの赤毛の子は実に礼儀正しい。ろくでもない朱に交わっても赤くならないのは素晴らしい、髪はもう茜色だけど。
蓮乃もあんな風に礼儀正しくあって欲しいものだと、正太は一人胸の内にこぼす。しかし、礼儀とは作法であり胸の内とは特に関係はない。『面従腹背』『口に蜜あり腹に剣あり』等々熟語に諺が示すように、一件礼儀正しくも態度とは真逆の内心を持っている人間はいるのだ。事実、ニコニコを張り付けた友香の目は、実験動物を見るような平板な視線で正太と蓮乃を見つめている。陸亀が裁判所に申し立てするほどに鈍い正太は、友香の目つきに全く気づいていない。正太の祈りを聞き遂げた何かしらは、きっと名状しがたい形状で冒涜的な色合いをしているに違いない。
「ぬ~っ!」
「すぅーはぁーすぅーはぁー」
立派な子だと身勝手に賞賛している正太の後ろで、蓮乃はというと唸り声をあげて利辺を威嚇するのに忙しい。対面する利辺も未だ整わない呼吸の調子を調整するので必死の様子だ。
二人が二人とも自分のことで一杯一杯で相手のことなんか考えていられない。だからようやく気息を整え、覚悟を決めた利辺が吐いた決め台詞も、実に頓珍漢な的外れの代物だった。
「お、お前は俺が好きになる価値がある女だ。ええっと、俺と付き合わなかったら後悔する。だから俺だけを見て、お、俺色に染まれ!!」
--なんじゃそりゃ! 気持ち悪ぅっ!
調子と図と勢いに乗ったかつての自分でも口にしないような台詞に、正太は表情筋全てをガチガチにひきつらせた。悪寒を感じて撫でた二の腕は、鳥肌が総毛立って粟だらけになっている。聞こえていないと知りながらも正太は思わず蓮乃を見ていた。こんな気色悪い口説き文句(?)を聞かされる蓮乃が気分を悪くしないか、正太は本気で心配していた。
幸いというか当然というか、蓮乃は利辺の口走った妄言の内容を一切理解していない。蓮乃は障害の関係で、音声を聞き取ることができないからだ。やな奴が何かしら言った、きっと私たちを馬鹿にしているんだろう。そのくらいの認識だ。疑わしきを罰する態度であるが、利辺には暴言罵声の前科があるので致し方ない。尚、先日悪罵の標的にされたのは蓮乃でなく正太だが、蓮乃としては以前から自分にちょっかい出してくるやな奴だし、何より兄ちゃんの敵は自分の敵でもあるので問題ない。
やな奴がまたも自分たちに悪口を言ったという誤認を最後の引き金に、唸る蓮乃の覚悟も決まった。最後の確認と蓮乃は振り返り、ひきつり顔の正太の目を見つめる。正太は表情筋を固めたままだったが、蓮乃の気合いで張りつめた顔で理解したのか、小さく頷いてGOサインを出す。正太の顔で誤解を深めた蓮乃は、腰のポーチから会話用ノートを取り出すと利辺への返答の代わりにノートを突き出した。
『私は聞いたり喋ったりすることができません』
蓮乃の親である睦美が書いたその一文は、茹だった利辺の脳味噌に氷水をぶっかけた。自分に見せつけているのかと正太と蓮乃のアイコンタクトに憤っていた利辺は、想像外で想定外の事実に顎を外して半開きの口で呆ける。蓮乃が喋る相手に真っ先に知らせるこの事実を、利辺は今の今まで知らなかった。蓮乃が独自言語で喋る様を見てれば一発で気づきそうなものだが、『恋は盲目』『あばたもえくぼ』全開な利辺は、「日本人に見えるけど外国の子なんだろう」と結論づけて疑いもしなかったのだ。
頭の中も真っ白になった弟の無様に、ため息をこぼしたピーノは頭を抱えて首を振る。焦るあまり教えた口説き文句全部まとめて言ってしまう不手際もさることながら、理解できないからと石になって固まるのも致命的だ。女の子はグイグイ引っ張ってくれる異性を求めている。自分の経験はそれを証明している。石像になって停止する男子なんぞ鼻で笑って願い下げだ。それを期待していた弟がやっている現状には、正直目を背けてしまいたくなる。
利辺の晒した醜態に、友香はニコニコお面顔を一時取り払って本音と同じ失望の表情に取り替える。利辺のお子さまっぷりは少なからず理解しているつもりだったが、現実はそれを下回っていたらしい。想定外を口にしたいのはこっちの方だ。これじゃ目的を達するのは難しいかもしれない、作戦を変更しないと。
当事者二人を除くこの場にいる全員は、利辺が蓮乃を口説き落とすのは不可能と結論づけた。蓮乃は口説かれている事実を認識していないし、利辺は成功失敗を認識できる精神状態ではない。
だが、蓮乃のターンはこれで終わったわけではない。続いて呆然とする利辺をそのままに、鼻息荒く蓮乃はページをめくる。目的のページを見つけた蓮乃は、「ふんすっ!」と気合いと緊張を鼻から吹き出した。出かける前に書き込んだそのページは、利辺に突きつけてやるつもりで書き込んだ。今がその時である。
右ストレートの要領で体重込めて、蓮乃は開いたページを石像の利辺へと叩きつける。余りに勢いをつけすぎてたたらを踏むが、勢いに乗ってる蓮乃はそんなことを気にはしない。私はこれを伝えるためにここまできたのだ!
『私はあなたが嫌い!』
石となった利辺へと言葉のハンマーが振り下ろされた。余りに強烈な一言に、ガチガチに固まった利辺の精神に無数のヒビが走った。数え切れないヒビからにじみ出た感情が涙となって目尻に溜まる。しかし、蓮乃はそれが流れ落ちるのを待ちはしない。ページ一杯に書かれた文句を次から次へと投げつける。ここが正念場、前進制圧あるのみ。
『あなたが投げてきた物が当たって痛かった! あなたが揺さぶってきたから本が全然読めなかった! あなたが大声でなんか叫んでてすごくうるさかった! 髪の毛をグチャグチャにされるのがすごく嫌だった!』
留まること無い怒濤の非難に、ヒビまみれになった精神がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。グロッキー状態の利辺はひたすらに打ちのめされることしかできない。その上、蓮乃の感想はともかくとして、利辺が物を投げたのも揺さぶったのも、大声かけたのも髪の毛いじくったのも、何か何まで全部事実なのだ。反論など出来るはずもなかった。
物言わぬサンドバックの様に、次々にたたき込まれる言葉の暴力にひたすら打ち据えられる利辺。その姿から正太は思わず左斜め上へと目をそらす。哀れみを覚えたのではない。蓮乃が全力で投げつける文句の中に、正太にも覚えのある行動があったからだ。
--髪の毛グシャグシャにするのは嫌だったのか……
正太が蓮乃を褒めたりご機嫌を捕ったりする際、まあるい頭を力強く撫でくり回すことが多い。力を入れて乱暴に撫でれば、当然蓮乃の長い髪の毛は強く乱れる。蓮乃の黒髪は形状記憶繊維が入っているんじゃないかと思うくらいに復元性があるので、正太は蓮乃の髪を乱すことを今の今まで気にしていなかった。しかし当人がああも嫌だと感じていたならば、これからは撫で方を考えならねばなるまい。少なくとも髪を乱すような真似は二度としない。両親に誓おう。
今まで嫌な思いさせていてすまんと、正太は胸の内で謝罪の言葉を呟いた。無論、後でしっかり文字にして蓮乃へと謝罪を伝えるつもりだ。尚、蓮乃は常々「言わなきゃ判らんので、言いたいことがあったら言うように」と正太から教えられている。なのに正太に嫌だと伝えていないのは、単に嫌でないからだ。蓮乃は利辺に髪の毛をいじられるのが嫌なのであって、正太にいじられるのは別に嫌ではない。寧ろ嬉しく感じていたりする。
一人上手に反省する正太を後目に、蓮乃の対利辺コンボアタックは〆の一撃に入りつつあった。威嚇時の猫よろしく荒い呼吸を繰り返し、蓮乃は暴走する心拍を酸素加給で落ち着かせる。それでも心臓は全力疾走後のビートを刻み、ノートを握る手に汗が滲む。これで最後なのに。焦る蓮乃の記憶から、不意に正太の言葉が浮かび上がった。
心はアツアツでも頭はヒンヤリで行けって兄ちゃん言ってた。その時の正太はもう少し漢語表現を使っていたはずだが、いつの間にかに蓮乃が擬態語に翻訳していたらしい。独自言語で翻訳済みの正太の言葉を参考に、蓮乃は体を反らすほどに息を吸い込み、体を丸めて全て吐き出す。全力の空冷で頭が冷えたのか、心臓も平素から幾らか早い程度の鼓動となり、滲んだ汗も引いていく。今だ!
『だから、私はあなたが大っ嫌い!』
蓮乃は利辺を殴りつけるつもりで一気にノートを突き出した。利辺の骨の髄まで蓮乃の本音は響きわたった。それも「ごめんなさい」「お友達でいましょう」等という、オブラートと糖衣錠で包んだ毒薬ではない。『嫌い!』の気持ちを鉄心剥き出しの剛速球で、急所めがけて全力投球だ。言い訳などできようもないほどに蓮乃の拒絶は明確に明言された。
利辺のハートは蓮乃の一撃に砂と砕けた。初夏の臭いを帯びた風と共に、粉みじんになった利辺の残骸が吹き消える。ピーノは弟の惨状にだめだこりゃと諦観の息を付き、友香は想像以下の結果ねと醒めた目で同年代の家族を見つめていた。