二人の話   作:属物

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第四話、二人が友達の家に行く話(その一)

 足を止めた”宇城 正太”は長い息を吐き、ごつい額に滲んだ汗を拭った。隣に並んだ”向井 蓮乃”も息を弾ませ、小さな肩を上下させている。

 厚徳園に呼んだ”氷川 友香”からは命徳山という小高い丘の頂上と聞いていたから、ちょっとした坂を上ればすぐ着くものだと思っていた。

 しかし鬱蒼とした雑木林を抜ける九十九折りの坂は、上れども上れども一向に終わる様子はない。毎日こんな坂を上り下りしているのだと思うと、厚徳園の住人達に尊敬の念が浮かんでくる。

 

 「ぬぅぅぅっ」

 

 腰を伸ばして背を反らすと変な声が出てくる。想像外に長い坂道に、足すことの両手荷物で足腰が凝った気分だ。行けども行けども頂上が見えないお陰で徒労感がすごい。

 

 「ぬぅ~~っ!」

 

 正太の真似してそっくり返って腕を振り回す蓮乃も似たような変な声を上げている。こっちは始めて見る雑木林の光景に興奮気味だったから、荒い息ははしゃぎすぎに違いない。

 正太にとっては蓮乃の心と体の疲れより、天敵並に嫌っている二人の方が心配だ。今日は蓮乃の友達である友香から厚徳園にお呼ばれしたわけだが、同じ厚徳園に蛇蝎の如き連中が居るのだ。

 

 質の悪い悪戯とサブイボが立つ格好付けで蓮乃にアプローチをしてくる”利辺 翔”、面白半分兄貴風半分で利辺を後押しする”ピーノ・ボナ”。

 蓮乃は両方に『大嫌い』と思い切りぶつけてやったのだが、利辺こそ一刀両断したものの諦める様子はなかった。ピーノに至っては堪えてすらない始末。

 友香が大丈夫と約束してくれたが、正太はどうしても疑念が拭えない。

 

 その隣で蓮乃もまた微妙な顔をしている。

 友香ちゃんにお呼ばれしたのはすごく嬉しいけど、やなやつらに会うとなると気分が落ち込む。本当に会わずに済むんだろうか。またちょっかい掛けられないだろうか。

 

 「ほれ、下向くな。氷川さんに心配されるぞ?」

 

 「ほなっ!?」

 

 沈み始めた蓮乃の後頭部を正太の平手が軽く叩いた。意識外の一撃に驚いた蓮乃は思わずたたらを踏んで大きくふらつく。幸い正太の助力もあり何とか体勢を整えてほっと一息。

 そのまま吐いた息を吸い込む様に頬を膨らませると、蓮乃はばつ悪げに顎の下を掻く正太に会話用ノートを突きつけた。

 

 『なにするの!?』

 

 『すまんすまん』

 

 蓮乃は障害故に音声のやりとりができないのだ。正太は愛想笑いに片手合掌で軽く謝るが、ふくれっ面の蓮乃はまだご機嫌が斜めっている。

 

 「むー」

 

 『すまんかった』

 

 「ふー」

 

 頭を下げて陳謝した正太の面を見て蓮乃はようやく立てた腹を横にした。ちょっかい掛けた甲斐はあったようで蓮乃の表情から暗い色が薄れた。

 代わりにこちらを見る目に呆れの色が見える気もしたが、正太は空元気も元気のうちと自分を納得させた。

 

 『それで……おお!」

 

 「なー!」

 

 お喋りしながら年季の入った大樹を回ると、不意打ちで重厚な正門が姿を見せた。思わず声を漏らす二人。かつて命徳寺の山門だった入り口の横には、達筆な筆文字で『厚徳園』の縦看板が掛けられている。

 

 「蓮乃ちゃん! お兄さん! こっちですよー!」

 

 児童養護施設にしては非常に厳つい入口に驚く二人に子供特有の甲高い声が届いた。自分達を呼ぶ声の主は縦看板の下で大きく片手を振っている。

 三つ編みに束ねた茜色の髪を踊らせて、色素のない腕を回すその人こそ、二人を呼んだ”氷川 友香”に他ならない。

 

 「なーもーっ!」

 

 「こんにちは!」

 

 さっきまでの心配はどこへやったのか、友達を見つけてテンション急上昇の蓮乃が駆け寄る。

 頭上で腕をぶん回す蓮乃の後頭部を眺める正太はお土産のスコーンを自分が持っていることを感謝した。折角持ってきた物を人に食わせる前に土に食わせるのは御免被る。

 ちゃんと両手の中にスコーン入りの紙袋があることを確認し、正太は猪盲突進な蓮乃の後に続いた。

 

 『今日は来てくれてどうもありがとう!』

 

 『どういたしまして!』

 

 --そこはまず呼んでくれてありがとうじゃないのか?

 

 友香のお礼に元気よく答える蓮乃は小鼻を自慢げにぷっくりと膨らませる。実に蓮乃らしい反応に甘苦い呆れの笑みが正太のごつい顔に浮かぶ。

 友香は正太に向き直ると碧眼を細めて礼儀正しく頭を下げた。今時、サラリーマンでもなければ見ないだろう斜め四五度の綺麗なお辞儀だ。

 

 「お兄さんも今日は来て頂きましてありがとうございます」

 

 「どーも、こちらこそ呼んでくれてありがとう。そこまで畏まらないでいいよ」

 

 「なーも、なーも」

 

 口ではそう言いながらも反射的に会釈を返すのは日本人の遺伝子故か。日本社会的条件反射かそれとも単なる正太の真似っこか、正太の横で蓮乃もぺこりと目礼する。

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 日本民族のDNAを持ち合わせていないとはいえ、お辞儀に返されたお辞儀をさらにお辞儀で返すあたり友香もきっちり日本人である。

 

 「じゃあそろそろ行きましょうか」

 

 「そうしますか」

 

 「なうっ! なーっ!」

 

 正門をくぐる友香に続いて二人も元山門を通り抜ける。初めて友達の家に入る蓮乃は、やなやつ二人の事など綺麗さっぱり忘れて興奮しっぱなし。何から何まで興味深いのか泳ぎ回る目もそぞろだ。

 一方、天敵二人の事を忘れられない正太は警戒を怠ることはない。友香や蓮乃から視線を外す度に、目つきは野生の鋭さを帯びる。

 

 --二人には一応釘を刺したけど今のお兄さんだと過剰反応しそうね。

 

 対称的な二人を眺めながら友香は人の良い笑顔の下で冷静に算じる。利辺とピーノがやらかして二人が帰ってしまったら全てがおじゃんだ。

 だから厚徳園の兄弟が余計なことをしないよう、先手を打って友香は言葉の五寸釘を刺しに刺した。しかし二人絡みだと利辺の知性が劇的に低下する傾向がある。

 兄弟がバカをした場合、二人が厚徳園から足が遠のかないようフォローを入れなければ。ああ面倒くさい。

 

 --皆が私の思い通りに動けばいいのに。

 

 ふと浮かんだ言葉に友香は胸の内で盛大に顔をしかめた。これではまるで『あいつ』と変わらない。怪物から逃れるために怪物になってどうする。

 

 「なーも?」

 

 「どうかしたかい?」

 

 「あ、いえいえ。ちょっと思い出しただけです。それより行きましょう」

 

 そんな胸中が顔に出ていたのか、蓮乃と正太が心配顔でのぞき込む。ほつれた表情をすぐさま笑顔で取り繕うと、友香は中へ中へと二人を促した。

 『あいつ』に共感するなんて反吐が出そうだ。パッチに張り付けた微笑みの下で苦い感情を胸の内で噛み殺しながら。

 

 

 

 

 

 

 大きな扉を抜けてみればそこは学校のグラウンドだった。トンネルを抜けた先の雪国ほどではないが、鬱蒼と生い茂る雑木林の奥に学園的な建物が表れるのは中々にインパクトがある。

 

 「ほーっ!」

 

 「ほー」

 

 友香にとっては見慣れたいつも通りの光景だが、蓮乃と正太の二人にとっては初めての光景だ。山中に隠れた秘密基地な風情に、驚き顔の正太と蓮乃は興味深く辺りを眺めている。

 

 『厚徳園へようこそ!』

 

 驚かせた事が嬉しいのか踊るような足取りで二人の前に回ると、友香は細密な作り笑いに自慢げな色を滲ませて、ホテルマンを思わせる大仰なお辞儀で歓迎を示した。

 

 『おじゃまします!』

 

 「お邪魔します」

 

 蓮乃は長い髪が踊るほど勢いよく九〇度、正太は目礼で三〇度頭を下げてそれに答える。伏せた顔を上げた拍子にグラウンドからの幾つもの視線と目があった。ボール遊びに興じていた男子達がじろじろとこちらを見つめている。

 

 「すっげぇ!」「うっわ、マジで美人だ」「こりゃ、翔もバカになるよ……」

 

 利辺や友香から噂話は聞いていたが、訪ねてきた現物は期待を超えていた。

 蓮乃は美少女といっても何ら差し支えないどころか追加の形容詞を必要とする程の外見である。

 男子のテンションは鰻登りで、高まるボルテージは今にも放電しそうだ。

 

 「おーっ!」

 

 「すごいなこりゃ」

 

 そして子供達から視線の集中砲火を浴びている蓮乃も、その隣の正太も子供達をまじまじと見つめ返している。何せ、子供達全員が髪も肌も目も色とりどりな、列島外のルーツの持ち主なのだ。

 髪は白・黒・赤・茶・金にグラデーションで分かれ、白色人種(コーカソイド)黒色人種(ネグロイド)黄色人種(モンゴロイド)の肌色がリズミカルに並ぶ。瞳の色は青・金・緑・灰・黒・茶と簡単な風景画なら描けそうな色数をしている。

 

 魔法なるものがこの世に現れて以降、日本に移民する外国人は爆発的に増えた。その殆どは様々な理由で差別された魔法使いたちだ。創作にあふれ超常の妄想に親しみのある日本なら、差別にあふれ暴力の行使に親しみのある此処よりまだマシだと踏んだのだ。

 しかし魔法使い差別が弱いことと、移民が生活できるかは全くの別問題である。結果、日本に取り残されたり捨てられたりして親のない子供達も急増し、その受け皿として公的支援を受けた児童養護施設が次々に生まれることとなった。

 厚徳園もまたその一つで、それが外国系日本人が大半を占める理由である。

 

 一応、友香から厚徳園では外人系日本人が大半だと聞いていたが実際に目にしたインパクトは圧倒的だ。カラフルな厚徳園の子供達と、モノトーンな蓮乃と正太はお互いに興味津々と見つめ合う。目線の圧力が釣り合って妙な均衡状態ができた。

 

「何、お見合いしてるの?」

 

 それを横合いから、純粋な興味を装った揶揄の声が蹴り飛ばす。声の出所は視線を遮らないように横に退いていた友香だ。声の裏に込めた皮肉は兎も角、男児達も第三者視点の自分たちに気づいたらしい。

 

 「別に……」「そんなんしてないぞ!」「えっと、あの、その」

 

 彼らはすぐさまカッコつけて興味ない振りを取り繕う。同年代か年下あたりの女子を食い入る様に見つめているなど格好悪いったらありゃしない。

 

 『初めまして、向井蓮乃です! 今日はどーぞよろしく!』

 

 そうした格好付けとは無縁なのが蓮乃である。友香の台詞も純粋に挨拶を促す意味で受け取ったらしい。子供達の前まで駆け寄ると、元気一杯に頭を下げて女の子らしい丸文字でご挨拶。ノートを突き出すと同時に満面のドヤ顔も忘れない。

 

 「う、うん」「あの、はじめまして」「あ……いらっしゃい」

 

 対する男子連中の反応は鈍い。半分は無関心を装っている為だが、残り半分は至近距離の美少女に緊張しきっている為だ。

 テレビやファッション雑誌で一面を飾れる女の子が、目の前で大輪の笑みを浮かべているのだから彼らの衝撃も頷けよう。

 

 もっとも蓮乃自身にその自覚は一切ないので、なんでちゃんと挨拶してくれないんだろうと首を傾げている。

 それを生暖かく哀れみに満ちた三白眼が見つめる。正太も男である。事情は判っていた。

 

 「お邪魔します、宇城 正太です。今日はよろしく」

 

 蓮乃に続き、妹分とそう年の変わらない子供達へと正太は丁寧に頭を下げる。子供相手なら舌も滑らかに動く。蓮乃の目の前で失礼な姿は見せられない。

 

 「どーも」

 

 「よろしく」

 

 「はい」

 

 対する子供達の反応はある意味蓮乃相手とよく似ていた。有り体に言うなら無関心である。ただしこちらは格好付けとは無関係に純粋に興味がない。

 冷めた反応に正太の顔が名状し難く歪むが、ひずんだ気持ちを長い息と共に吐き出した。

 蓮乃の後じゃ仕方ないと結論づけ、正太は案内を頼もうと友香の方へと顔を向ける。なので反対側で大いに膨れる蓮乃と、いきなりの不機嫌に狼狽する子供達には気づかなかった。

 

 「先生を呼ぶのでちょっと待ってくだ……あ」

 

 正太の意をいち早く察した友香の台詞が途中で止まった。友香の視線と方向を合わせれば小走りで駆けてくる小柄な人影が目に入る。ただし動きにあわせて揺れる胸は大柄だ。

 彼女が友香が呼ぼうとしていた先生こと職員の”柳 美野里”である。

 

 「あ、柳せんせー」「柳センセ、ヤッホー!」「友香が友達連れてきたよ!」

 

 柳に気づいた子供達は銘々好き勝手に声をかける。子供達をかき分けるように柳が姿を現す。拍子に豊かな胸が柔らかに変形し弾力的に形を取り戻す。

 

 「ほら通して通して! それに他人をジロジロみない!」

 

 真っ赤な正太は視線を泳がせ弾む胸元から必死で意識を反らす。自然にしたいのに不自然にしかできない、未経験故の過剰反応である。童貞臭全開な正太への感情は差し置き、友香が二人を紹介しにかかった。

 

 「柳先生! この子が話していた向井 蓮乃ちゃんね! こっちはそのお兄さんの宇城 正太さん!」

 

 子供子供した厚徳園向けの態度を取る友香に、正太は赤い顔も忘れて目を見張る。正太が今まで見た友香は外向けの大人びた応対を見せていた。だが、今の友香は内向きの幼げな姿を見せている。

 

 --こっちが素なのか?

 

 正太の内心に気づいたのか、友香は謎めいた笑みを浮かべて立てた一本指を唇に当てる。他の面々から見えないように『秘密』のジェスチャーを見せた友香は、直ぐに無邪気な態度で他の子供たちと応対する。

 

 「この子が蓮乃ちゃんね」

 

 「かわいいでしょ?」

 

 自宅である厚徳園での態度が本来に思えるが、今の様子を見るにそれすら演技か。どっちが素顔かと正太は胸中で首を捻らざるを得ない。

 

 『初めまして! 向井 蓮乃です!』

 

 「ええっと、どうも、宇城 正太です」

 

 だが、蓮乃はさほど気にしていない様子で挨拶のノートを掲げた。蓮乃にとってはどっちであろうとも友達の友香ちゃんなのだ。

 蓮乃の平然とした態度に正太も一度思考を断ち切って、柳に急ぎ頭を下げつつ挨拶を切り出した。

 

 「あっと、多分、氷川さんからお話を聞いていると思いますが、うちの蓮乃は……」

 

 どうにも旨く喋れんと内心顔をしかめつつ正太は言葉を絞り出す。言葉を喋れないし聞き取れないという蓮乃の障害については先んじて話して置かなくてはならない。

 

 「はい、蓮乃ちゃんの事はちゃんと聞いていますよ」

 

 「あ、ああ、ならいいです。今日は、その、よろしくお願いします」

 

 優しげに微笑む柳に再び赤くなった正太がキョドる。言葉遣いが伝法口調で訥々のつっかえつっかえだし、聞き取り辛かったり失礼になっていないだろうか。

 コミュ障の気が出始めたのか、余計な心配が頭の中を煮込み出す。この心配で更に言葉がつかえ心配が増幅される悪循環だ。

 

 『これ! お土産です!』

 

 それを叩き折ってくれるのが、良くも悪くもマイペース爆走な蓮乃である。突き出した会話用ノートと共に、抱えていた正太の腕ごと紙袋を持ち上げた。

 正気に返った正太が言葉が足りていない蓮乃に代わって説明に入る。

 

 「これ、厚徳園の方にって俺、いや僕と蓮乃の親が作ったお菓子です。どうぞ、よかったら皆で食べてください」

 

 差し出された紙袋は『ファッションのとりむら』だが、中身は手作りのスコーンである。

 初めて蓮乃が友達の家にお呼ばれされて何やらスイッチが入ったのか、蓮乃の母親である”向井 睦美”が猛然とスコーンを焼きだし、触発されたのか正太の母の”宇城 昭子”も気合い入れてスコーン作りを始めたのだ。

 その結果、正太が大振りの紙袋一杯に積めたスコーンを両手に抱えて山登りをする羽目になったが。

 

 「あら、どうもありがとうございます」

 

 受け取った柳が大きく頭を下げて、紙袋との間で胸が柔らかくひしゃげる。正太の顔色がさらに赤みを増した。

 

 『すごくおいしいよ!』

 

 自信満々に薄い胸を張ってドヤ顔全開の蓮乃が太鼓判を捺す。宇城家に遊びに行った際に、昭子の手作りお菓子は何度も食べているのだ。

 

 『そういうときは「つまらないものですが」というもんだぞ』

 

 『何で? おばちゃんが作ったスコーンは美味しいからつまらなくないと思うよ!』

 

 鼻息荒い蓮乃に思わずいつもの調子で突っ込む正太。しかしお世辞を理解していない蓮乃が疑問を呈した。美味しいものは美味しいのであってつまらないとは言わないのだ。

 

 『まあ、お前の言うとおりだが、そこは社交辞令の定形句として必要なんだよ』

 

 蓮乃の台詞は道理だが、謙譲語という敬語があるように謙遜する姿勢も日本人的人間関係には必要なことである。

 しかしそんな理由では蓮乃は納得してくれない。理屈になっていない理由に蓮乃の頬が膨れ上がる。

 

 『それはおかしい! 美味しいから皆に食べて欲しいもの。美味しくないものをお土産にするのは違うと思う!』

 

 『お前さんの言うことは間違っていない。でもな』

 

 筋道立たぬと自説を曲げない蓮乃に、正太もまた意固地になって反論する。気がつけば初対面の緊張はどこか遠くへ行ってしまった。

 

 「喧嘩はダメですよ。向井さんも宇城くんも落ち着いて落ち着いて」

 

 「はい、すいません」

 

 「なも」

 

 口げんかとも呼べないような意地の張り合いが始まりかけて柳が二人の間に割って入った。流石に常のアホくさいじゃれ合いで第三者にくってかかるほど頭が煮えてはいない。二人とも素直に頭を下げた。

 

 「じゃあそろそろ行こっか!」

 

 「なうっ!」

 

 建物を指さす友香に大きく頷いて蓮乃は歩き出した。一緒が当然と言わんばかりに正太の袖を掴んで引いている。袖が伸びると文句を言いながらも、顔に浮かぶのは甘苦いココア味の笑みだ。

 

 「はいはい、ついてってやるから袖ひっぱんなよ」

 

 「なーもっ!」

 

 「友香ちゃんの話通り、ホントに仲がいいのね。友香ちゃんとも仲良しで嬉しいわ」

 

 「お菓子だって!」「やったぜ」「なんだろな~」

 

 柔らかな微笑みを浮かべ、柔らかな声音で一人ごこちながら、柔らかな胸を揺らして柳は三人の後を追う。お菓子の単語に大喜びの子供達もその後に続いた。

 

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