血盟騎士団本部、特殊部隊勤務室。
「偵察隊が全滅!?」
「ええ、信じがたい話だけど、本当よ」
ハクヤがそう言う。
「次のボスは、かなり気を引き締めないとならないっていう事ですかい?」
「そうよ」
ライコウの質問を肯定するハクヤ。
ボス部屋を見つけた偵察隊の内、十人が、ボス部屋に入って、その中央に立った瞬間、部屋の扉が勢いよく閉じたらしい。
そして、数十分後、中には誰もいなかった。
念のため、黒鉄宮にある石板を見てみた所、全員の名前に横線が入っていたらしい。
「どうして出られなかったんだ・・・?」
ソラが最もな疑問を口にする。
「おそらく、七十四層と同じ、転移無効化エリアなのかもしれないわね」
「入ったら、敵を倒すかこっちが全滅するまで出られねえって事かよ」
「そうだな・・・」
この場にシノンはいない。
ただ、それを自分の口からいうのは気が引ける。そう思ってしまうソラ。
「とにかく、今回は情報は一切無し。出たとこ勝負ね」
「・・・」
「とにかく、今日の会議はこれまで!全員、攻略に備えよ!」
「「了解!」」
そうして、外に出るソラ。
しばらく歩いていると、会議室の前を通りかかった。
扉は、半開きだった。
「俺は・・・怖い・・・」
不意に足を止めるソラ。
キリトの声だ。
「今すぐ逃げよう、アスナ。いつまでも、あの森の家で暮らすんだ」
「・・・」
ソラは、黙ってそれを聞く。
「それが出来たら、どんなに良い事なんだろうね。ねえキリト君?覚えてる?ゲームが始まって直ぐ、沢山の人たちが、一時回線切断したの」
それは、ソラも覚えている。
街の中で、いきなり視界がブラックアウトし、それが何度も一日置きに断続的に続いた。
おそらく、何度も場所を移していったからだろう。
「私たちの体は、きっと病院のベッドの上にあるのかも知れないけど、それがいつまで持つか分からない」
そう、この仮想の体は、
つまりは・・・
「結局・・・タイムリミットは存在するって事なのか・・・?」
「うん・・・私・・キリト君といつまでも一緒にいたい・・・ちゃんとお付き合いして、本当に結婚して、一緒に歳をとっていきたい・・・だから・・・・だから・・・」
アスナの嗚咽が聞こえる。
その続きを、キリトが答える。
「だから今は、戦わなくちゃいけないんだな・・・・」
ソラは、その場から立ち去った。
そうだ。怖いさ。
自分が死ぬのも怖い。シノンが死ぬのも怖い。
だけど、何より恐ろしいのは、シノンが俺が死ぬ事で、絶望して、ついてきてしまうか、一生、未亡人になって、まともな生活を送れなくなる事だ。
だから、死ぬ訳にはいかない。絶対に・・・絶対に・・・
「ほん、とうなの?それ・・・?」
「ああ、次のボスは、これまでの敵とは訳が違う。だから・・・」
「私は、逃げないよ」
「最後まで聞けよ・・・まあ、そう思うのは仕方ないけどさぁ」
「え?違うの?」
シノンがキョトンとする。
「ただ、無茶はしないでくれ、死なないでくれ、それだけだ」
それを聞いたシノンは二三度瞬きをした後、クスリと笑う。
「おいおい・・・」
「あくまで一緒に連れて行くんだ」
「仕方ないだろ・・・だって・・・」
ソラは、一度言葉を切り、そして言う。
「俺は、お前がいたからいままで頑張ってこれた。全部、お前のお陰なんだ。これまでも。そしてこれからも」
一切のよどみ無く、言い放つソラ。
「そっかぁ。なんだか、嬉しいな」
「そうかよ」
どしんと、椅子に座るソラ。
「でも、次の敵は、本当に危険だ」
「うん。解ってる。だって、勝たなきゃ、帰れないもん」
シノンは、ソラの前にしゃがみこみ、手を取る。
「私も、ソラがいたから、今まで耐えてこられた。だから私は、ソラと一緒にあの世界に帰りたい」
ソラの左手に触れ、その中指にはまる指輪に触れる。
「そうだな。シノン」
左手に触れる手を、右手で包み込む。
「俺は必ず、次の層をクリアする。だから、俺と一緒に
その問いに、シノンは・・・・
「当たり前よ、絶対に、一緒に生きて帰るんだから」
次の日。
グランザムの広場。
「結構来てるな」
その場には、かなりの数の攻略組が来ていた。
聖竜連合などの有力ギルドも来ている。レイド四つ分といった所だ。
「よ、ソラ」
「ああ、クラインにエギルじゃないか」
その中には、風林火山のリーダーのクラインに、褐色巨漢のエギルもいた。
「お前らも来たのか」
「おうよ。次の敵は、かなりの難敵っていうからな」
「俺だって、たまには加勢してやらないとな」
「そっか・・・お、キリト」
向こう側から、キリトとアスナが歩いてくる。
「やっぱり来ていたか、ソラ」
「おう。頼りにしてるぜ、『
「その名前で呼ぶなよ、『
と、互いに右腕をぶつけ合わせる。
「頑張ろうね、シノン」
「ええ」
シノンたちも挨拶を終えた直ぐ、あたりの視線が一点に向けられる。
ヒースクリフ率いる血盟騎士団最高戦力だ。
「ソラ」
「あ、ハクヤ」
そのすぐ後ろから、ハクヤとライコウが、ソラたちに向かって歩いてくる。
「今回、よろしく頼むよソラ、キリト、シノン」
「ああ」
「そういう約束だからな」
「む~」
「アスナ?」
アスナが頬を膨らませ、拗ねた様な視線を向ける。
「大丈夫よアスナ。五人だし、貴方も入れるわ」
「本当?」
「ええ、本当よ」
そうして、全ての準備が整った。
ヒースクリフが、回廊結晶を取り出す。
「コリドー、オープン!」
その先は、ボス部屋の前だった。
全てのプレイヤーが、戦闘前の準備を行う。
そして、全てのプレイヤーの準備が終えた時、ついに始まる。
第七十五層、ボス戦が。
「皆のもの、よく来てくれた。これには感謝の意を示そう。さあ、開放の時を」
ソラが、大剣を抜く。
キリトが、漆黒の剣と蒼白の剣を抜く。
アスナが、白銀の細剣を腰から抜く。
シノンが、弓を携える。
クラインが刀を抜く。
エギルが、戦斧を構える。
ライコウが刀の柄を握りしめる。
ハクヤが手を鳴らす。
そして、扉が開け放たれ、プレイヤー全員が一斉に部屋になだれ込む。
『うおおおおおおおお!!!』
全員が部屋の中央に立った瞬間、扉が勢いよく閉じる。
だが、中には何もいない。
「・・・・?」
「何も・・・いな」
「上よッ!!」
シノンが声を上げる。
全員が上を向く。
そこには、骸骨のムカデのとうな形容しがたい生物がそこにいた。
「!?落ちてくる!全員中央から離れろぉぉぉ!!」
ソラが有らん限りの声で叫ぶ。
全員が部屋の隅に向かって走るまで、そこまでかからなかったが、ムカデは次の瞬間、真っ逆さまに落ちてくる。
「く!」
シノンが矢を放つ。
だが、それはかする程度で大きなダメージにはいたらない。
そのままムカデは床に落下。
そして、その両側にある鎌を振り上げる。
その標的は、逃げ遅れている二人のプレイヤー。
そして、骸骨ムカデは右の鎌をその二人に向かって薙ぐ。
それが直撃した二人は、まるでゴムボールの様に中を舞う。
そして、着地の瞬間・・・・
ポリゴンとなり爆散した。
「一・・・」
「・・・撃?」
たった一撃、それだけでハイレベルプレイヤーが消し飛んだ。
この事実は、全体の士気を一気に下げるには十分だった。
そして、そのムカデの名は、『スカルリーパー』。
「う、うわあああぁぁぁ!!」
更に、スカルリーパーは、もう一人、その鎌で薙ぎ払おうとする。
だが、その攻撃は届く事は無かった。
ヒースクリフが危機一髪という所で守ったからだ。
そして、カウンターとして、剣を突き立てる。
「ギシャアアアア!!?」
「ギャアギャア・・・」
「うるさいわよ!!!」
その隙をハクヤとライコウは見逃さない。
抜刀術スキル『雷鳴』
戦闘術スキル『フルショットスタンプ』
足から放たれるラッシュに加え、超高速で放たれるライコウの居合。
だが、それでは止まらない。
キリトたちの方向に向かって走ってくるスカルリーパー。
「くそッ!」
左の鎌が振り下ろされる。
それをキリトが受け止めるが、完全に相殺しきれず、右肩に食い込む。
(お、重すぎる・・・!?)
HPが著しく減少する。だが、アスナが鎌を弾く。
「二人一緒に受ければ、行ける!」
「そうか・・・よし・・・」
そして、スカルリーパーの真正面からキリトとアスナ、ヒースクリフが突っ込む!
「鎌は俺たちが引き受ける!みんなは側面から攻撃してくれ!」
キリトたちが鎌を防ぐ姿を見て、他のプレイヤーたちが、次々に立ち上がる。
「おぅし、やってやろうじゃねぇか・・・・!」
「やってやる・・・」
「承ったわ!」
「行くぞお前らァァァァァァァ!!!!」
『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉおお!!!』
全員がスカルリーパーに突っ込む。
「がああああぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
ソラが鎌を掻い潜り、スカルリーパーの真正面に突っ込む。
「ソラ!?」
その行動に驚くキリト。
だが、次に起こったことでさらなる衝撃を受ける。
「うぅおらああぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁあ!!!」
「な!?」
ソラが狂化を発動させ、ソードスキルで、スカルリーパーを
「俺の攻撃なら、あいつを怯ませられる・・・頼むキリト、アスナ、ヒースクリフ、鎌を頼む」
それを聞いた三人は・・・
「さっきも言ったろ、任せろ!」
「任せなさい!」
「やれやれ、いつも君には驚かされる」
そして、だんだんと反撃が始まる。
「シノのん!撃って!」
離れた所で、シノンは弓を構え、標準を合わせる。
そして、《剛弓》を発動させる。
「狙い撃つ・・・・!!!」
それはスカルリーパーの側頭部に直撃する。
「うおおおおぉぉぉぉおお!!」
「はあああぁぁぁぁぁぁあ!!」
キリトとアスナが鎌を弾き飛ばす。
「うおぉぉぉぉあぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
ソラが懐に潜り込み、『ベルセルク』を叩き込む!
側面では、エギルが戦斧を振り回し、クラインが刀を突き立て、ライコウが刀どころか鞘まで使って攻撃し、ハクヤが拳や足を使って怒涛のラッシュをお見舞いする。
無数にある足の一部が動き、プレイヤーを襲う。
そして、それが直撃したプレイヤーがポリゴンとなり、爆散。
「くそぉ!!」
「うあああ!!」
「ぜやあぁぁ!!」
「どりゃああ!!」
全員が奮闘する。
「うおおおおおおおお!!」
「あああああああああ!!」
「がぁあぁああぁああ!!」
「やああぁぁぁあああ!!」
キリトの双剣がいななく、アスナの細剣が光を迸らせる、ソラの大剣が轟音をまき散らす、シノンの弓が唸る。
この戦いが、まるで、悪夢の様に続いた。
戦いが始まって、いったい、どれくらいたったのか分からない。
ただ、私は、弓を引き絞り、矢が尽きるまで、引き絞り続けた。
やっと、ボスのHPが一本になり、そして、もう赤い所まで来た。
そして、スカルリーパーがこの戦いで、初めてソラの攻撃以外で怯んだ。
「今だ!全員総攻撃!」
ヒースクリフさんが叫ぶ。
あらゆるライトエフェクトが輝く。
何度も色とりどりの輝きが閃き、そして・・・
スカルリーパーは、無数の光の欠片となって、消えた。
終わった・・・・やっと、終わった・・・・
二人とも、生き残った・・・・
「うあ・・・」
体が痛み、一瞬意識が遠のき、倒れかける。だが、それは誰かが支えてくれた事によって、膝はついたものの、倒れる事は無かった。
「お疲れ様・・・・」
「ああ・・・」
その後、背中合わせに座り、息を整える。
本当に、疲れた・・・
全員、完全に消耗している。
「いったい・・・何人死んだんだ・・・?」
誰かが、そう言う・・・確か・・・・
「十六人死んだ・・・」
キリトが答えを述べ、全員の表情が絶望に包まれる。
「マジかよ・・・」
「なんで、こんな事に・・・」
これが、この先も続くのか・・・?これじゃあ、攻略組が百人足らずになってもおかしくねぇじゃねぇかよ・・・
その中を、一人の男が、さぞ平気そうに歩いていた。
ヒースクリフだ。何故だ?奴だってきつかったはずだ。なのに・・・・・
その瞬間、俺の頭の中で、あらゆる可能性が葛藤する。
この現象は、何かの難題に突き出された時に起こるもので、これが発動していると、周囲の時間が遅く感じられ、さらに、一時的に自覚が無いほどに頭が良くなる上に、何故か身体能力まで向上する。これだけは現実でしか起きないが、だが、これで、一つの可能性にありつけた。
化けの皮を剥いでやる。
立ち上がる。
「ソラ?」
シノンがこちらに視線を向ける。
だが、それを無視して走り出す。
ヒースクリフがこちらに気付き、向く。だが、そうしていいのかい?もう一方から来てるんだぜ?
「うおあ!!」
キリトのヴォ―パルストライクが、ヒースクリフの左斜め後ろから決まる・・・
次回、アインクラッド編最終回。
遂に、ヒースクリフの正体が明かされた。
その正体は、一万人をこのゲームに閉じ込めた張本人、茅場晶彦だった。
「私を正体を見破ったキリト君とソラ君には、チャンスを与えてやろう」
そして、行われる最終決戦。
その先に結末とは・・・?
「ソラァァァァァ!!!」
「ありがとう、そしてごめんな。さよなら」
次回、「世界の終焉、心を繋ぐ虹色の光」
次回をお楽しみに!