ドラゴンクエストⅦ エデンに舞い降りた者たち   作:愛及屋烏

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PIECE 01 標的×異魔神

「かつて、勇者の血族によって滅ぼされた太古の魔神が、この時代に蘇った理由はわしにも判らん。だが、奴はダークパレスの決戦で水の精霊の加護を受けしアルスや英雄メルビン達に敗れた魔王オルゴ・デミーラを喰らい、その肉体を奪った」

 

神様が語りながら手を掲げると、小さな水晶球が出現し、ある風景を映し出す。

映し出されたのは、青緑色の崩れ掛けのモンスター……所謂、第四形態の魔王がスライム状の異魔神に呑み込まれる姿だった。

 

「……これは」

「醜悪じゃろう? ……ゾンビ化するまで追い詰められていたとは言え、あの魔王がこうも容易くとは」

 

そして、魔王との戦いで満身創痍だったアルスのパーティをも取り込み、地上へと侵略を開始したのだと言う。

 

「奴の侵略に対し、多くの国が抵抗を見せたが……如何せん、な」

「でも、奴は強力な魔法攻撃には弱かった筈では? マーディラスが健在であったなら……」

 

アルス達が改変した過去では魔法の国であった『マーディラス』は復活後の現代では音楽の国になっていた。

だが、それでも名残が一切無い、という訳ではない筈だ。

 

「確かにあの国は強かった……アルスの仲間の少女も参戦しておったしな」

 

どうやら、ゲームと同じようにマリベルはフィシュベルに留守番していたようだ。

アルス達の死後、たった一人で戦いを続けたというのは気の強い彼女らしく思える。

 

「しかし、天地雷鳴士と賢者が数名では奴の命を削りきるのは不可能じゃった」

「……という事は異魔神は『闇の衣』は使っていなかったんですね?」

 

『闇の衣』は、ドラゴンクエストⅢに登場する大魔王ゾーマが、かつて使用していたとされる魔法を遮断する術だ。

 

「うむ。攻撃魔法自体は通用しておった……しかし、クレージュ地方が落ちた後は一方的じゃったよ」

「クレージュ? ……そうか、世界樹!」

「世界樹だけでなく、多くの人間の命を喰らった異魔神は天に幻の月を創り、世界樹の働きを促進させ、不死性を高めおった」

 

ロトの紋章の劇中でも、異魔神の不死性は世界樹のエキスから精製された細胞による超回復にあった。

 

「あれ……? 確か、異魔神の目的は自身の聖核と世界樹を融合臨界させる事による世界の消滅だった筈じゃ……?」

「それに関しても不明じゃ。目的が変わったのか、果たせない理由があるのか……兎に角、奴はその身体を拡大させ、直接的な支配を選んだ」

「……世界滅亡、秒読み開始って感じですね」

 

海も大地も呑み込まれ、このままでは空すらも異魔神に包まれそうな勢いだ。

 

「そうじゃ……既にわしが行動を起こして解決する事が出来る段階は過ぎてしまった」

 

そもそも、エデンにある石版を使って過去に行けるのは選ばれた人間であって、神ではない。

時を越える術や設備を作る事は出来ても、当人が時を越えられない、というのは不便である。

まぁ、神さまも世界は人間の手によって救われるべき、というスタンスだからクリア後も隠居していた訳だが。

 

「……でも、異世界から普通の男を呼んでどうにかなるとも思えませんが」

「無論、お主には力を与える……石版と同一……いや、それを超える力を」

「あ、特典……もとい、恩恵というか加護はあるんですね」

 

そう訊ねると、言わば「神の使徒」じゃからなと神さまは苦笑する。

普通の人間でも鍛えれば神に挑めるようになる世界ではあるが、貰える物なら貰っておきたいのが正直な所だ。

 

「――そして、その力を使い異魔神に対抗する為の新たなるエデンの戦士を探し出してくれないか」

「新たなるエデンの戦士?」

「そうじゃ……時を越え、仲間を集め、勇者達の死を防ぎ、共に異魔神に挑んで欲しい」

「……異魔神の復活自体を防ぐ必要は?」

「確かに可能であるなら、それが望ましいが……ダークパレスで倒せれば、そこで終わりじゃろう?」

 

出現のタイミング自体は判っているので、最低でも最終決戦に間に合えば、それで良いという事か。

 

「(あれだな、クロノトリガーのラヴォスに近い扱いな訳だ)」

 

誕生(復活)阻止か、後の時代の何時かでの討伐が目的、というのが類似している。

 

「それで神さま――力、というのは?」

「まず、お主には『ルーラ』のエキスパートになってもらう」

「ル、ルーラですか?」

「そうじゃ! お主にはこの世界や近しい世界に存在する『全てのルーラ』を習得し、わしの世界の住人として転生してもらいたい」

 

ルーラ(瞬間移動呪文)

トベルーラ(飛翔呪文)

リリルーラ(合流呪文)

バシルーラ(追放呪文)

オクルーラ(送還呪文)

 

「そして、最後が『コエルーラ』じゃ」

「他のは大体、知ってますけど……最後のは何ですか? コ、コエルーラ?」

 

山でも越えるのだろうか。

 

「山なら普通のルーラやトベルーラで超えられるじゃろうに……超えるのは時間じゃ!」

「じ、時間!?」

「石版を使った時間跳躍とは違い、コエルーラならば移動する時代を自由に選ぶ事が出来るのじゃよ」

「か、完全な上位互換じゃないですか……そんな便利なのがあるなら、エデンの戦士に教えても良かったんじゃ」

「いいや、それは不可能なのじゃよ。この呪文には制限があるのでな」

「制限?」

 

①コエルーラを使用出来るのは、特異点と呼ばれる時や歴史の流れから外れた存在。

②コエルーラで術者と一緒に時間を移動する事が出来るのは『過去の人間』か術者と同じように『歴史から外れた』存在。

 

「この場合の特異点は本来の歴史の中に存在しない……お主の事じゃ」

「成程……二番の制限はアルスの仲間で言うと……連れて行けるのは……ガボだけ!?」

「そういう事になるかの」

 

神の兵やメルビンもその気になれば連れて行けるかも知れないが、と神さまは付け加えた。

 

「でも、神様関係と下手に接触するのも不味いですよね?」

「確かにの……速い段階で、わしの生存がバレても困るわい」

「ですよねー」

 

そうだ、エデンの過去にいけば戦闘経験の無い頃のアルスやキーファも連れて行けるだろうか。

 

「無理じゃな。そういった干渉からも守られているからこその聖域――エデンなのじゃから」

「むむ……あ、ルーラのエキスパートというならオメガルーラはどうなるんでしょうか? 相手は異魔神ですし」

 

オメガルーラが使えれば、原作と同じように異魔神の精神を宇宙の果てに飛ばしてやれるのだが。

ただ、ルビスの時のように成功すれば良いが、誰かの精神に潜んで小型化して復活、なんて事になると激しく面倒である。

 

「あれは聖なる守りと勇者の血筋の二つが揃って発動する呪文なのでな……流石にお主を勇者の血筋に転生させるのは無理じゃ」

「……この時代のロトの血筋がキーファだとすると、王族だから……確かに無理っぽいですね」

 

そんな事になったら、そもそものストーリーに歪みが生じかねない。

 

「しかし、安心すると良い。それなりの家に産まれるように計らうのでな。(戦闘で)苦労はするまいて、これも言わば特典じゃの」

 

加えて、アルスやキーファと同年代になるように調節する、と神さまは豪語するが微妙に不安である。

 

「そもそも過去の時代に転生させるとか平気なんですか?」

「ふむ……役者が居なくて元々、消えていた配役に強引に捻じ込むような物じゃから、問題なかろうて」

「も、問題だらけにしか聞こえないんですが」

「まぁ、とりあえずは『生まれの保証』と『ルーラセット』が特典としてあるんじゃが、お主からは希望はあるかの?」

 

わしの力を超えるような願いは無理じゃがな、と神さまは七つの球を集めると出現する龍のような事を言う。

 

「記憶力の強化は出来ますか? 『思い出す』『もっと思い出す』みたいな感じで」

 

これはドラクエⅥの主人公が持っている特殊技だが、地味に便利そうなので欲しい所である。

 

「その程度なら、一向に構わんが……もう少し、欲張ってもわしはバチを与えたりはせんぞ?」

「うーん……それなら、この世界のダーマ神殿でなれる職業の技以外でも修行すれば使えるようになりませんか?」

 

ルーラ縛りがあるとは言え、ダイの大冒険に登場する『トベルーラ』が使えるのだから。

 

「それは可能性の拡張じゃな……いいじゃろう。

 適正の問題で習熟速度にムラはあるじゃろうが、正しい知識と修行を積めば、全ての技を習得する事が出来るようにしておこう、

 この二つでいいかの?」

「はい。充分です!」

「後はおまけで『ふくろ』を持たせてやろうかの。

 サービスで色々と入れておいたから、旅に慣れない間は使うと良いぞ」

 

渡された袋を覗くと、メニュー画面が開いて中のアイテムの一覧が表示された。

 

「うわっ!? び、びっくりした……」

 

薬草×10

毒消し草×10

聖水×10

満月草×5

魔法の聖水×5

銅の剣×1

皮の盾×1

皮の帽子×1

皮の鎧×1

 

5000ゴールド

 

「おぉ……地味に助かります」

 

純正勇者を檜の棒と50ゴールドで魔王退治に向かわせる王に比べれば神様みたいである。

 

「いや、実際に神様なんじゃが」

「判ってますよ、小粋なジョークじゃないですか」

「わしが呼んどいてなんじゃが……お主、肝が据わっておるのう」

「頼りになるでしょう?」

 

そう言って笑うと神様はデフォルトの微笑みを更に深くしてくれた。

 

「あるべき未来――いや、より良い未来を創り出してくれ、頼む」

「はい、引き受けました。次に会うのは過去の世界でしょうか……それとも」

 

改変され、平和を取り戻した現在か。

 

「そうである事をわしも願っておるよ……さらばじゃ!」

 

――そして、俺は光に包まれた。

 


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