現代 グランエスタード
「ヒスイ! そろそろ夕食にするから遊ぶのは止めて、帰っておいで!」
「はーい」
家の中から自分を呼ぶ『爺ちゃん』の声に応じて、緑がかった黒髪の少年――ヒスイは剣を振る手を止めた。
まだ五歳になったばかりの彼の修行は、他の人が見ると遊びに見えるらしいのが、少しばかり切ない。
「(まぁ、爺ちゃんは博学だけど、戦闘に関しては素人だし……)」
まさか、幼いヒスイが既にダーマ神殿で戦士に転職済みである等とは予想すら出来まい。
――ヒスイは戦士としての腕前が上がった。戦士が板についてきたようだ。
「(それにしても、自主練習でも時間はかかるが熟練度は上がるんだな)」
この世界に転生してから、五年。
彼は未だにモンスターとの戦闘を経験していない。
ダーマ神殿に転職しに行く時もモンスターとは遭遇しないように工夫した。
まず、比較的安全な『ダーマ神殿が占領される前』の時代を狙って、コエルーラ(MP消費1)で時間移動。
神様に貰った聖水を使いながらトベルーラで、地上を徘徊するモンスター達を華麗にスルー。
ダーマ神殿に到着→フォズ大神官マジカワイイの流れである。
そもそも転生者として、原作知識を持っているヒスイは、行った事が無い場所でも知識として『識っている』から、通常のルーラで目的地に直接移動する事も容易なのだが、ある程度の緊張感が欲しかったので、それはしなかった。
「フォズ大神官……可愛かったなぁ……ガボだけでなく、プレイヤーの多くがほれるのもわかる」
自分がゲームをプレイしていた時も魔王によって、現代が封印され転職するのが過去のダーマ神殿になった時は地味に嬉しかった。
「しかし……おれのすじょうが一発でろけんするとは」
ガボを転職させるくらいだから、別に子供でも問題ないよね?と平然とダーマ神殿に向かったのだが、フォズ大神官に会う前に他の神官に子供だから、と止められてしまったのだ。
いや、当然といえば当然なんだが。
そして、そのまま追い返されそうになった(というか子供が一人旅してる時点で、少しは考慮してくれても)ヒスイを助けてくれたのが件のフォズ大神官だった。
幼少期から眼が悪い彼女は、その代わりに普通の人間には見えない物――オーラや人の本質を見抜く力があるらしい(心眼?)。
『その少年から――大いなる存在の加護を感じます……優しく……時には鋭い……これは、風?』
等という意味深な台詞と共に神殿の利用と転職が許可されました。
その言葉に驚愕したヒスイは自分の事情――神様転生については隠したまま『自分が推測している、この世界での立ち位置』に関して話した。
――左手に刻まれた紋章を見せながら。
そう、ヒスイは風の精霊の加護を受けた紋章を持つ者として、この世界に転生した。
漫画版におけるグレンと同じ、アルスの紋章仲間としてのポジションだった訳だ。
(重大な役目を背負った者同士として、ちゃっかりフォズ大神官と友誼を結んだ)
「(水がアルスとシャークアイ、炎はグレン。
大地の紋章はライラやジャン……一応はアイラもいるから、確かに風の紋章持ちだけ不在なんだよな)」
まぁ、左手に奇妙なアザがあるだけなので、それだけで自分が紋章持ちと考えるには少しばかり、根拠が薄い。
だがヒスイには、自分が風の精霊の加護を受けている存在だと確信する証拠があった。
「まだレベル5で、しかも僧侶でもないのにバギ系のしゅうとくがやたらと早いし……」
既に真空呪文は「バギマ」まで習得済み。
特技では「かまいたち」や「みかわしきゃく」が使える。
スピードに関係する呪文だからか「ピオラ」まで使用可能だ。
最初はドラクエⅤの主人公に近い成長をする体なのかとも思ったが、どうも紙装甲の速度・呪文特化型らしい。
「それに明らかにおれ――リファ族だもんなぁ」
リファ族とは、ドラゴンクエストⅦの世界で風の精霊の加護を受けた有翼の種族。
彼らは聖風の谷で暮らし、風の精霊を奉りながら、穏やかに暮らしている。
ヒスイの背中には、まだ小さいながらも、そんなリファ族の特徴である翼が生えている。
他のドラクエを考えると天空人の可能性もない訳ではないが……。
「おれに天空の花むこになれ、とはさすがに神さまも考えてないだろうから……かくていで良いだろ」
ちなみに「天使が天界から降ってきたのかと思ったわい」とは赤子だったヒスイを拾った「爺ちゃん」の談。
アニエスの胎内からマーレの胎内へと時間を超えて移動したアルスと違って、ヒスイの場合は産まれた後にエデン(グランエスタード)に送り込まれたようだ。
――これ、考えようによっては風の精霊による誘拐拉致事件じゃないか?
「あのコギャルせいれいめ……おれの親が泣いたら、どうしてくれるんだ」
そのままだったら、風の紋章を持っているヒスイを狙って、聖風の谷が本来の封印の経緯とは別に襲撃される危険もあったので、助かるとは言えば助かるのだが。
……コギャルが両親に事情の説明をしている事を祈る事しかない。
現状確認としてはそんな所で、今大事なのは強く成長する為の健康的な生活である。
と、言う訳で。
「ただいま、じいちゃん! お腹すいた!」
「ほほ。おかえり……さぁ、手を洗ったら食事にしよう」
家に戻ったヒスイを暖かく迎えるのは通称「ガケっぷちのじいさん」と呼ばれるヒスイの育ての親である老人だ。
その通称からも判るようにグランエスタードの城下町の片隅から地下道を通って行くことのできる崖っぷちに居を構えている。
住んで居る場所からもわかるように変わり者らしく町の人からの評判は悪い。(ホンダラに比べれば天地の差があるが)
エデンにある遺跡や石版に関して、キーファやアルスを除いて最も真実に近付いた人物であり、あと一歩の所でエデンの戦士になれなかった人でもある。
「(キーファの祖父である前王に石版を取り上げられて、やさぐれてたのかな……?)」
「どうしたんじゃ、ヒスイ? わしの顔をじっと見たりして」
「ううん。なんでもない!」
ヒスイはその辺の事情を知っているので、育ての親としての親愛以上に知識人として敬意を持って彼に接している。
そんな理解者、というかヒスイという新しい家族を得た所為か、今では「偏屈ジジイ」と呼ばれていたとは思えない程の穏やかさである。
(文献の間にエロ本の類が隠してある事をヒスイは男――もとい、武士の情けで見逃している)
むしろ、背中の翼を隠す為、町に行く時は常に外套を身に着けているヒスイの方が怪しいぐらいなのだ。
「――それでは、いただくとしようかの」
「いただきまーす!」
今日も今日とて、世界でただ一つの楽園では、平和な日々が続いている。
原作――アルスとキーファの冒険が始まるまで、あと10年。
―――――――
ヒスイ
性別:男
肩書き:風の紋章を持つ者
LV:5
職業:戦士 ☆☆☆☆☆
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装備
E銅の剣
E皮の鎧
E皮の盾
E皮の帽子
E皮の外套
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ステータス(標準時)
力 12
素早さ 18
身の守り 7
賢さ 17
かっこよさ 9
最大HP 32
最大MP 21
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呪文 ルーラ、トベルーラ、バシルーラ、リリルーラ、オクルーラ、コエルーラ
バギ、バギマ、ピオラ、ホイミ、キアリー
特技 疾風突き、峰打ち、諸刃斬り、鎌鼬、身躱し脚、気合溜め
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※この世界でのフォズの視力は小説版のように盲目という訳ではないが、それなりに悪い設定。
※アルスの紋章の場所は作品によって異なるが、このSSでは紋章の出現箇所は水→右手、炎→額、風→左手、大地→胸。腕ではなく手なのは某竜の騎士の紋章の影響。
※現時点では五歳なので、思考は別としても、口に出すと妙に幼い。