One more sweet sweets 作:Kohya S.
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先が見えないように一部、記号のみの行をはさんでいます。見づらいようでしたら申し訳ありません。
公園の中央にはちょっとした広場があった。一角には木がうっそうとしげり、ベンチなども置かれていた。
あなたたちはそこに座った。すこし離れてビジネスマンらしいスーツ姿の男性がたばこを吸っていたが近くにはだれもいない。
木陰に入るとそれまでの熱気が嘘のように涼しく、あなたは一息ついた。ことりは足を
あなたはことりにうながすような視線を送る。
「実は……。あっ、あの、大したことじゃないんですけど……」
思い悩むように地面を見つめることり。彼女のようすからはとてもそうは思えなかったが、とりあえず続きを待つ。
「進学をどうしようか、悩んでいて……」
進学というと、また留学を検討しているのだろうか。あなたの問いに、ことりはこくりとうなずいた。
やはりそういうことか。あなたもそうではないかとうすうす考えていた。去年はすんでのところで思いとどまったそうだが――場合によってはいまごろ彼女は渡仏していたかもしれないのだった。
ことりが留学してしまう。それを考えるとあなたの胸がずきりと痛んだ。こうしてふたたび彼女に出会い、彼女の存在を意識し始めたのに、もう一度別れることになる。
海外勤務の希望は出しているものの、実現の望みは薄いだろう。
思い切ってここで彼女に告げようか。留学してほしくないと。ただそれは彼女に告白するのにひとしい。それにもし彼女が受け入れてくれたら――彼女の夢を縛ってしまうのかもしれない。
あなたは口にするべきか (Part Bへ)、否か (Part Cへ)しばらく悩んだ。
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あなたは立ち上がった。ことりがびっくりしたような目で追う。あなたは自分に正直に、留学はやめてほしいと告げた。
「えっ。前は……去年は、すすめてくださったのに……」
あなたは答えに
「それって……どういうことですか」
ことりは
あなたは大きく深呼吸をした。君と離れたくない。ことりを見つめて思い切ってそういった。
「そんな……」
ことりは衝撃に襲われたように目を見開いた。
ことりはしばらくなにもいわなかった。彼女が自分のことをどう思っているのか、それだけが気になった。
あなたは続けた。君には迷惑かもしれない。しかし自分の正直な気持ちなのだ。
その言葉に彼女はふるふると首をふった。
「迷惑なんて……。あの、すごく嬉しいです……」
頬を赤く染めて目を落とす彼女の姿に、あなたの心に安堵の思いと、温かいものがこみ上げてきた。
あなたはベンチに――さきほどよりもすこし、ことりの近くに――ゆっくりと座る。
ことりは静かに話し始めた。
「……実は、進学は日本の大学を考えていて……。留学するとしても、二年後かなって思っていました」
あなたはすこし後悔する。先にするという選択肢があるなら、いま無理に止めなくてもよかったかもしれない。ただ結局のところ、いつか彼女と別れることに違いはなく――やはりそれは耐えられそうになかった。
「でも、そういうことなら……。進学先をどうするかから、考えたいと思います」
ことりは、はにかむように笑った。
あなたは去年、ことりの告白にこたえられなかったことをあやまる。あのときはことりと付きあっていくことに、あらゆる意味で自信がなかったのだ。
ただ、いまなら君とともに歩める、一緒にいたいと思う――そうあなたは告げた。
「ううん、いいんです。私も……私も、あのとき、ちょっと軽率でした。自分のことしか……あなたのことをなにも考えてなくて……。でも、あれから一年たって……あなたのことが、やっぱり……」
ことりは左手で目をぬぐった。木漏れ日を受けて、涙が一粒、きらりと輝いた。
ことりはベンチであなたのほうに体を斜めに向ける。
「あの、これからも、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた。こちらこそ、とあなたも神妙にうなずいた。
「えっと、とりあえず、今度とびっきりおいしいスイーツを、作ってきますね♪」
ことりが恥ずかしそうに微笑んだ。
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あなたと付きあい始めたことで、進路についてのことりの悩みはむしろ深くなったようだった。あなたはなんども彼女の相談に乗った。
たとえ留学したとしても君への思いはかわらないとあなたは伝えたが、ことりは当面は留学しないことを前提に進学先を選んだ。
留学をやめたことについて、ことりは自分の決断だといつも話したが、あなたはそれを聞くたびにちくりと胸の痛みを覚えた。
あなたの影響かはわからないが、ことりの関心は服飾だけでなく製菓にも本格的に広がり――最終的に彼女は四年制大学で栄養学を学びつつ、しばらくのあいだ服飾は趣味として続ける道を選んだ。語学を学びつつ、卒業後はあらためて国内外から服飾か製菓の専門学校を検討するらしい。
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翌年の春、四月初頭。
その日、ことりと穂乃果、
あなたはふたりにさんざんに冷やかされ赤面することしきりだった。
ようやくパーティはお開きになり、あなたはことりとふたり、御茶ノ水駅の近くを歩いていた。
「ごめんなさい、ふたりともすごく盛り上がっちゃって……」
それは仕方ないことだろう。自分のようなおじさん――三人から見れば――がことりの彼女だというのだから。
「でも、ふたりとも、気に入ってくれたみたい。さすが、私の見こんだ人ですね」
ことりはくすくすと笑った。
あなたはつとめてさりげなく話す。実はケーキがふたりぶん、買ってある。あなたが最近、見つけた洋菓子店のもので――よかったらうちに来てデザートを食べていかないか、と。
「えっ、あの、その……それって……」
薄暗い街灯の明かりのなか、ことりが耳まで赤くなるのが見える気がした。
あなたはなにもいわずに待った。心臓が早鐘のように打っている。
「えーと、そ、そうですね。ケーキ、食べたいし……。お邪魔、しようかな」
あなたは内心で安堵の吐息をもらした。
あえて彼女のほうを見ずに左手を差し出す。ことりがぎゅっと握り返してきた。彼女の手はいつものように柔らかく、そして暖かかった。
あなたはふと空を見上げる。 (Part Zへ)
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あなたは内心を押し殺し、本当に学びたいことなら留学するのがよいのではないか、と話した。
「でも、そうするとお友達とも別れることになるし、それに……」
ことりはあなたのほうをちらっと見てから、目を落とした。
長い沈黙が流れた。
もしかしたらことりも自分と離れたくない、そう思ってくれているのかもしれない。いや、その可能性は高いだろう。しかし――ことりを思えばこそ、それは口にできなかった。あなたは気力をなんとかふるい起こし、ぜひ才能を生かしてほしいと話す。
「……ありがとうございます。実は……留学するとしても、進学先としては、日本の大学を考えてるんです」
去年の話から、それにさきほどの口ぶりからフランスを考えているものと、あなたは思っていた。
「ごめんなさい、早とちりさせちゃって……。でも、留学したほうがいいのか、すこし不安だったんです」
ことりはちらりとあなたのほうを見てから、目をふせた。
「うん、そうですよね。私、やっぱり……」
ことりはそうささやいた。
留学を決意したのであろうことりに、あなたの胸はふたたび痛んだ。
ことりはやがて顔を上げた。相談はそれだけだろうか。
「あの、進学するとしても……いろいろ難しくて……」
ほかにもあるらしい。あなたは日本の大学にする理由を聞く。
「いますぐ留学しても、語学力が追い付かないと思うんです。それに、高卒だけだと入れない学校も多いらしくて……」
たしかに、以前調べたところでは、フランスの高等教育機関は日本の大学に在学していることを証明しないと入学できないこともあるらしい。
「だから、まずは日本で勉強しながら、語学力をつけようかなって思ってます」
あなたはよい考えだと話した。
「それで、交換留学をしてる大学を考えたんですけど、それだと留学先が限られるんです。だとすると……留学とは切り離して、日本での進学先は考えておいたほうがいいのかな、とも思って」
あなたは難しい話になったと思う。自分は普通に大学を卒業しただけなのだが――。後者の場合、留学はどうするのかたずねる。
「一、二年、休学をして、留学するか……卒業後に留学することになると思います」
ことりがしっかり考えていることにあなたは感心した。
あなたは素直になることにする。ここで知ったふりをして口先だけでアドバイスをしても決して彼女のためにならないだろう。
自分にはそこまではわからない。進学先を決めるまでにはまだ時間があると思う、じっくり考えたらどうだろうか。
それを聞いてことりは微笑んだ。
「ありがとうございます。そうですよね」
あなたはたいしたことがいえず、申し訳なくなる。
「いえ、私こそ、すみません、急にこんなことを話しちゃったりして……。私、だれかに聞いてほしかっただけなのかもしれませんね」
ことりはかすかに頬を染めて目をそらした。あなたはそんなことりをたまらなく愛しく思う。
ことりはささやくように続けた。
「でも、本当に、私のことを考えてくれて……。嬉しいです」
ふせられた
あなたの心はふたたび彼女に自分の思いを伝えるべきか (Part Dへ)、否か (Part Eへ)で揺れた。
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あなたはもう一度、素直になることに決めた。
あなたは立ち上がった。ことりの斜め前に立って話す。
君さえよかったら一緒に考えさせてもらえないだろうか。君の力になりたいのだ。
「えっ、それって、どういうことですか……」
ことりは驚いたようにあなたを見つめた。気のせいではないだろう、彼女の顔も上気しているように見える。あなたはまっすぐに、ことりの目を見つめて続けた。
君が好きだ、付きあってほしい、と。
「え、そんな……」
自分ではだめだろうか。
「そ、そんなことないです。……あの、すごく、嬉しいです」
ことりは頬を――今度は明らかに――赤く染めた。
「すみません、私、さっきあなたを試すようなことを、いってしまって……」
もしかして、と思う。
「はい」あなたを見つめることり。「私、あなたが留学を引き留めてくれるのか、それが気になって。もし引き留めてくれたら、私……きっと留学をやめていたと思います」
あなたは言葉につまる。
「そうなったらいいなって、ずっと思ってました」
あなたは後悔する。やはり止めるべきだったろうか――。
「でも、でも……! あなたは私のことを考えて、留学をすすめてくれた……。そうですよね」
あなたはうなずく。ことりの目に涙があふれていた。
「だから、私……もし断られるとしても……あなたにもう一度、告白しようって決めたんです。それが……それが、こんなかたちで、裏切られるなんて……」
ことりがばっと立ち上がった。あなたの胸に飛び込んでくる。いきなりのことであなたはたたらを踏むが、なんとか踏みとどまった。
ことりの両腕があなたの背中に回された。
「私、すごく幸せです」
ことりがあなたの胸のなかでつぶやいた。あなたもことりに左腕を回し、右手でことりの頭をゆっくりとなでた。柔らかな感触が全身に伝わってきた。
どのくらいそうしていただろうか。ことりが我に返ったかのように顔を起こし、腕をといた。あなたもことりから離れる。
「すすすすす、すみません、い、いきなり」
ことりは大きく頭を下げた。彼女の顔は耳の先まで真っ赤に染まっていた。きっと自分も同じだろう、とあなたは思う。
一緒に考えていこうというあなたに、ことりは小さな声でこたえた。
「はい」
公園から駅への帰り道、あなたは海外勤務の希望を出していることを話した。望みは薄いものの、留学先によっては一緒に行けるかもしれない。
「そうなったら、嬉しいですね」
ことりが微笑み、あなたも笑顔を返した。
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三年後。奇跡的に希望が通りこの春からあなたは海外勤務となっていた。
残念ながらあなたの任地はパリではなくロンドンだった。支店がパリにもあればいいのに、と思う。ただそうなればあなたはフランス語を覚えなければならなかったが――。
ある日の夜、あなたは部屋の掃除をしていた。市中心部のやや南、メトロのピムリコ駅から近いアパート。会社が借りてくれたものだ。
机に置いてあったスマートフォンから着信音が鳴った。あなたが期待した通り、ことりからの電話だった。
あなたは受話ボタンをタップする。
『こんばんは。いま、大丈夫ですか?』
弾んだ声にあなたは
ことりからの電話は明日の確認だった。
ことりもパリの美術学校に留学が決まり、新学期よりもすこし早め、同じくこの春から渡仏していた。
明日は初めて、彼女がパリからロンドンに来ることになっている。ユーロスターを使えばパリからはわずか一時間強だ。
『それじゃ、おやすみなさい』
用件が終わり彼女は電話を切った。あなたは掃除を再開した。
明日はロンドン市内で観光がてらスイーツめぐりをして、レストランで食事をして――ことりがこの部屋に泊まることになっていた。
あなたはいつのまにかμ'sの曲を調子はずれに口ずさんでいた。
あなたはふと窓から空を見上げる。 (Part Zへ)
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昨年、彼女の申し出を断っておいて、いまさら自分にそんな資格があるのか。あなたはどうしても自分の思いを彼女に話すことができなかった。
しばらくふたりとも黙り込む。
「あの、去年のこと、覚えていますか……」
ことりがぽつりぽつりと話し始めた。あなたは自分の内心が見透かされた気がしてどきりとする。
「あのときあなたは、私をしばってしまう、っていいました。おかげで、私、それから……多少は成長したと思うんです」
あなたはうなずいた。たしかにことりは大きくなったと思う。
「でも、あなたに会って……私の想いはかわってなかった。そう気づきました」
ことりは勢いよくあなたのほうに向きなおった。
「あなたは……あなたは、どうなんですか?」
目尻に一粒、光るものがあった。
ことりの言葉はあなたの胸に突き刺さった。
ことりがこれからさらに大きく羽ばたいていくとき、彼女の足かせに自分がなってしまわないだろうか。それが不安だった。
ただ、この一年、彼女のことは心を離れなかった。彼女がどういう道を行くにせよ、それを応援できる、そんな気もした。
ことりの告白に応えていいのだろうか (Part Fへ)。やはり断るべきだろうか (Part Gへ)。あなたは
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ことりを縛ってしまう。そんなことはもう考える必要はないのだろう。彼女はそんな小さな器ではなくて――むしろ、自分にできるのは彼女を全力でささえていくことだけなのかもしれない。
ことりをまっすぐに見つめ、あなたはうなずいた。
「えっ、あの、もしかして……」
ことりは目を見開いて両手を口に当てた。
自分も君のことを想っている、と伝える。
「……ありがとうございます。私、すごく、嬉しいです」
あなたは去年のことをあやまる。あのときはことりと付きあっていくことに、あらゆる意味で自信がなかったのだ。
ただ、いまなら君とともに歩める、君をささえたいと思う――そうあなたは告げた。
「ううん、いいんです。私も……私も、あのとき、ちょっと浮かれていたんだと思います。素敵な男性に会えて……。でも、やっぱり、私、間違ってなかった……」
よかったらこれからも君の相談に乗りたい。君の夢を実現する手助けがしたい。
ことりは目をぬぐってから、体をあなたのほうに斜めに向ける。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
そういってぺこりと頭を下げた。
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ことりは翌年、国内の服飾系の大学へ進学した。専門と語学の勉強のかたわら、かつてのμ'sの仲間のために衣装をデザインしたり、コンテストに応募したりと活躍を続けた。
ただ留学はとりあえず見送り、卒業後にあらためて考えることにしたらしい。理由についてことりはなにもいわなかったが、ふとしたはずみに冗談めかしてあなたに話したことがあった。
「私がいないとだめなのかなって」
そういうことりはいつになく大人びて見えた。
あなたたちはときおり喧嘩をしたりしながらも、ごく普通の付きあいを続けた。ただデートにスイーツめぐりは欠かせなかった。
ことりが二期生に進級する前の春休み。ある日の夜、あなたは自宅で製菓材料と格闘していた。
あなたはここしばらく、ことりからスイーツづくりを学んでいた。だいぶ腕は上がったはずだ。ピストレがけはまだまだ下手だが――。明日のデートには成果を持参することになっていた。
ゆっくりとふたりの関係は進展している、と思う。
あなたはふと窓から空を見上げる。 (Part Zへ)
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一年たったとはいえ、あなたの想いはかわらなかった。ことりを好きだという想いと、彼女を縛りたくない、という想いと。
あなたはことりから目をそらして、話す。やはり君の想いにはこたえられない、と。
「そう、ですか……。そんな気がしていました」
寂しそうな声にあなたは視線を戻す。ことりは目をぬぐった。
「私、嬉しいんです。あなたがそんなにも、私のことを考えてくれて……。でも、でも……」
ことりは大きく首をふった。
「あなたが私にこたえてくれたなら……そのほうが、ずっとずっと、嬉しかった……」
ことりはもう一度、顔をふせた。ぽつりぽつりと涙が地面を濡らす。あなたの胸はずきりと痛んだ。
あなたはなにもいえず――ことりを見守るしかなかった。
「あの、すみませんでした。私、またあなたにご迷惑をかけて……」
ことりはようやく顔を上げて微笑んだ。目が真っ赤だった。
あなたはぎこちなくうなずいた。
「帰り、ましょうか」
ゆっくりとことりは立ち上がった。あなたもしたがう。
ふたりで駅まで歩いていく。ことりは視線をあわせなかった。そんな資格があるのか――そう思いながらもあなたは彼女の手を握った。彼女は一瞬、顔に驚きを浮かべ、あなたの手を握り返してきた。その手は意外なほど冷たかった。
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その日、彼女からは相談に乗ってくれた礼をのべた丁寧なメールが届いた。あなたはあいまいな謝罪のメールを返した。
あなたはそれ以降、ことりと会うことなかった。
三年後、春。
以前の希望が通りあなたは海外の支店へと赴任していた。ニューヨーク支店を提示されたときには驚いたのだが、どうせ国内にいてもなにもやることはない、と受け入れたのだった。
マンハッタン、ミッドタウン・ウエスト。
仕事を終えたあなたはいまの住まいであるアパートメントへと歩いていた。会社が借りてくれた長期滞在者向けのもので、賃貸物件が見つかるまでのつなぎだった。右手には近所のデリで買った、夕食とデザートが入った茶色の紙袋を下げている。
ことりはあれから大学に進学し、さらにこの春からはフランスへ留学しているらしい。あなたはネットで彼女の活躍をときどきチェックしていた。彼女はかつてのμ'sの仲間のためにステージ衣装をデザインしたり、デザインのコンペで入賞したりと、在学中ながら注目を集めているらしかった。
やはり自分の行動は正解だったのだ。あなたはそう思った。
ニューヨークの春は東京よりもずっと寒い。信号待ちのあいだ、ふとあなたは空を見上げた。 (Part Zへ)
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空は街の光でほの明るいが、中天にスピカが青く輝いているのが見えた。そういえば、星のなかではスピカが一番好きだと、いつかことりが話したことがあった。あなたはことりと出会えた幸運に感謝した。
最期までお読みいただきありがとうございました。ご感想等お待ちしております。