ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
2023年12月27日
あのクリスマスイベントの出来事から4日が経ったこの日、俺は最前線から7層離れた迷宮区にいた。そこで、ある人たちと共に行動をしていた。
「サチさん、スイッチです!」
「うん!」
俺の言葉に反応したサチさんが前に出て槍のソードスキルを発動させる。攻撃を受けたモンスターはポリゴン片となって消滅する。それと共に他の皆も喜び、声をあげる。
今俺と一緒にいるのは、《月夜の黒猫団》というメンバーが5人しかいない小規模ギルドの人たちである。実はキリトさんも一時的にこのギルドに所属していたらしい。
昨日の夜、キリトさんから『気晴らしに《月夜の黒猫団》っていうギルドと一緒に活動してみたらどうだ?』と連絡が来て今日は彼らと一緒に行動することとなった。
黒猫団は中層ギルドの中でも上位に位置するくらいのレベルを持ち、5人という少人数にも関わらず、全員で巧みに連携して10体近くのモンスターたちを倒すことができた。
それから数時間狩りを続け、時刻はもうすぐで16時になろうとしていた。コルも十分に稼ぐことができた。
「今日はリュウがいてくれて助かったよ」
「やっぱり攻略組のプレイヤーは違うな」
「いつもよりも多く経験値もコルも稼ぐことができたからな」
そう言ってきたのは、メイス使いのテツオさん、槍使いのササマルさん、短剣使いのダッカーさんだった。
「経験値もコルも十分稼げたし、ストレージも溜まってきたから、そろそろ街に戻ろうか」
黒猫団のリーダーで棍使いのケイタさんが皆にそう伝えて、迷宮区の出口を目指すことにした。
「助けてくれぇぇぇぇ!!」
迷宮区の出口を目指そうとしたとき、迷宮区の奥の方からプレイヤーの悲鳴が聞こえる。
「何っ!?今のってプレイヤーの悲鳴っ!?」
「とりあえず行ってみよう!」
俺たちは急いで洞窟の奥に走っているとモンスターの集団に囲まれ、危ない状況となっているプレイヤーがいた。
「あれはヤバいぞ!僕とリュウとテツオがモンスターを引き付ける!ダッカーとササマルは僕たちのサポートに回ってくれ!サチはプレイヤーを頼む!」
ケイタさんの指示に俺たちは頷き、行動を開始する。
まずは、俺とケイタさん、テツオさんがモンスターを攻撃して襲われているプレイヤーから遠ざける。この中で一番レベルが高い俺が一番多くモンスターを引き付ける。更にダッカーさんとササマルさんもすぐに戦闘に入り、ケイタさんとテツオさんの支援を行う。サチさんは襲われていたプレイヤーを救出する。
「リュウ!1人で大丈夫か!?」
「俺なら大丈夫です!」
ケイタさんが1人で多くのモンスターを相手している俺を心配してくるが、大丈夫だと告げて戦闘を続ける。
モンスターの攻撃を片手剣で防いだり、鍛え上げた軽業スキルを活用し、バク宙して回避する。
数回ほどモンスターを斬り付け、ダメージを与えると片手剣水平四連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》を発動させる。四連撃の攻撃が周りにいたモンスターたちに与え、一気にポリゴン片へと姿を変えた。
ケイタさん達の方もちょうど倒したところのようだ。
「大丈夫ですか?」
サチさんは助けたプレイヤーに回復アイテムを使用する。
「ありがとう、助かったよ。早くコルや経験値を稼ぐために、今日はいつもより上の層に来たらこんなことになってしまって……」
「早くコルや経験値を稼ぎたいっていう気持ちはわかりますけど、無理して上の層で狩りをするのは危ないと思いますよ」
「今回は僕たちがいたからよかったものも、今度またこういうことが起こったときに誰も近くにいなかったら大変なことになるから、自分のレベルにあったところでやった方がいいよ」
「そうだな、あんた達の言う通りだ。次からは気を付けるよ」
サチさんとケイトさんの言葉を聞き、助けられたプレイヤーは納得した表情となる。
その後、助けたプレイヤーと一緒に主街区まで戻ることとなった。転移門の前まで来ると助けたプレイヤーは、俺たちに頭を下げて下の層に戻っていった。
俺たちも今回手に入れたアイテムを売るために、アイテムの売買をやってくれるある人がいる最前線の街にある一軒の酒場へと向かう。
酒場に付くと早速アイテムの売買をやってくれるある人を見つける。
「エギルさん」
「よお、リュウか。今日は黒猫団も一緒か」
俺が話しかけたのは、スキンヘッドに体格がよく身長が190cmほどもあるアフリカ系アメリカ人のプレイヤー、エギルさんだった。
エギルさんとは第1層フロアボスの時に知り合い、アイテムの売買関連のことでよくお世話になっていた。エギルさんは攻略組のプレイヤーだが、商人用のスキルも上げていて、近いうちに商人プレイヤーに転向しようと考えているらしい。それでも攻略組として活動もしてくれるようなので、凄く有難い。
「リュウも前みたいに戻ってくれてオレも安心したぜ」
「まあ、まだ完全にっていうわけではありませんけど……。でも、いつまでもファーランさんとミラが死んだことを引きずっているわけにはいきませんし……」
「そうか。何かあったらオレのことも頼ってくれ。って言っても相談に乗るか、アイテムの売買や一緒にパーティーを組んでやることくらいしかできねえけどな……」
「それでも凄く有難いですよ。パーティーで助っ人が欲しいときはいつでも言って下さい」
「おうよ」
そんなことを話してアイテムを売り、いくつかの回復アイテムとコルをもらい、酒場を後にした。
そして、俺も黒猫団の皆と一緒に彼らのギルドホームへと向かった。
黒猫団のギルドホームに着くと、サチさんは皆にお茶を入れてくれ、俺たちはお茶を飲みながら一息つく。
黒猫団の皆を見て、どうしても気になることがあった。
キリトさんは、カイトさんやザックさん、アルゴさん、エギルさん、クラインさんのことは色々と話してくれたけど、何故か《月夜の黒猫団》のことだけは詳しく教えてくれなかった。実際に黒猫団のことを知ったのは昨日送られてきたメッセージだった。
そんなことを考えていると、クリスマスイベントの時に、キリトさんが『本当のレベルを偽って5人の中層ギルドと親しくなって、そのギルドに所属していたことがある』と言っていたことを思い出す。
そのギルドが《月夜の黒猫団》だという可能性は十分にある。だとしたら、このことは聞かないようにしておこうと思ったときだった。突如、ケイタさんがあることを言ってきた。
「そういえば、まだリュウには僕たちとキリトのことは話してなかったね」
「でも……」
「いいんだ。リュウにはどっちみち話す予定だったからさ」
ケイトさんにそう言われて、断ることができなかった。本当はあまり聞かない方がいいことかもしれないが、俺に話しておきたいことなんだろうと思い、黙って聞くことにした。
その話の内容は、クリスマスイベントの時にキリトさんが話していたことだった。
キリトさんはベーターでソロの攻略組プレイヤーだっていうことを隠し、自分の本当のレベルを偽ってこのギルドに所属していたこと。だけどある日、いつもより上の迷宮区に行った時にトラップにかかって危険な目に合い、このことに負い目を感じたキリトさんはギルドを抜けて、1人で生きようと無茶なレベル上げばかりするようになったことを……。
改めて聞いたが、この話を聞いて胸が痛くなった。
キリトさんが俺を助けてくれたのは、自分がそうなっていたかもしれなく、俺を自分と重ねてしまい、助けたかったからなんだ……。
それからサチさんが夕食を作ってくれて俺もご馳走になった。久しぶりにこうやって他の人とご飯を食べたため、凄く美味しいと感じることができた。
明日は朝早くからキリトさんと最前線の迷宮区に行くため、夕食を食べ終えると最前線の街にある宿屋に戻ることにした。
黒猫団のギルドホームを出た時には午後の6時近くを周っていて、空は夕日でオレンジに染まっていた。
この層の転移門があるところに向かっているとサチさんが追いかけてくる。
「サチさん、どうかしたんですか?」
「実はリュウに渡すものがあってね」
サチさんはメニューウインドウを操作し始める。すると俺に1つのアイテムが送られてくる。
何だろうかと思い、アイテムウインドウを開いてみると《蒼穹のマント》という見慣れないアイテム名があった。それをオブジェクト化してみると青いフード付きマントが現れ、両手で受け止める。
「このフード付きマントって……」
「この前、皆で狩りをしていたときに偶然手に入れたレアアイテムなの。布系の防具の中でも特に防御力や耐久性が高くていいやつだよ」
調べてみるとサチさんの言う通り、この青いフード付きマントは今羽織っているフード付きマントや持っている布系の防具と比べて防御力や耐久性がかなり高い。これは滅多に手に入らないレアアイテムと言ってもいいものだ。
「いいんですか?こんなレアアイテムをただで貰って……」
そんなに性能がいいレアアイテムをくれて焦ってしまう。
すると、サチさんは真剣な眼差しをして俺を見てきた。
「これはリュウが使うべきだよ。私たちが持っていても宝の持ち腐れみたいなものだからね。それにリュウには、キリトに何かあったときは助けて欲しいの。私たちは一緒に最前線で戦うことができないから……」
「サチさん……」
そうだよな。今度は俺がキリトさんを助けてあげないとな。
「わかりました。俺に任せて下さい。あと、このマントありがとうございます。ケイタさん達にもそう伝えて下さい」
サチさんに一礼してからこの場を後にする。
帰り道、最前線の街にある宿屋ではなく、8ヶ月ほど前にファーランさんとミラと一緒に夜空を見たところまでやってきていた。
あの時と違ってまだ夕方のため、星空ではなく、夕日に染まったオレンジ色の空が広がっていた。
俺はポケットから3人の絆の証である《王のメダル》を取り出し、見る。
「ファーランさん、ミラ……。2人が死んで落ち込んでいた俺に手を差し伸べてくれた人が沢山いるんだ。その人たちのためにも……今度は俺が誰かの手を掴むためにもまた最前線で戦わないといけないよな……」
俺はメニューウインドウを開く。装備フィギュアを操作し、サチさんから貰った《蒼穹のマント》を羽織る。
それから夕日が完全に沈むまで黙って空を眺めていた。目からは何故か涙が流れ出てしまう。
2023年12月28日
朝日が昇ろうとしている中、俺は第49層の迷宮区入り口付近にいる。ここで
ファーランさんとミラが死んでから攻略はしてないから、攻略をするのは久しぶりだ。
この選択を選んだけど、その結果はどうなるのかは誰にもわからない。それでも俺は前に進む。どんな運命が待ち受けていようが……。
こんなことを考えながら数分間待っていると、彼が来た。
「リュウ、待たせてしまって悪かったな」
「俺も数分前に来たばかりなので」
彼は、背中に片手剣を背負い、黒いロングコートなどで黒一色の装備をした俺より1,2歳年上か同い年くらいの人だ。
「よし、早速行こうか」
「はい、
迷宮区に入ろうとしたときにふと振り返り、アインクラッドの外に何処までも広がる空を見る。朝日が昇り、夜が明けようとしていた空が青空になろうとしていた。その空を数羽の白い鳥が飛んでいるのが見えた。
あの鳥たちは俺たちと違って自由にこの浮遊城の外に行くことができるんだな……。俺もこの浮遊城から解放されるときが来るのかな。
「リュウ、どうかしたのか?」
「いえ、何でもないです」
キリさんが迷宮区に入り、俺もその後に続くように迷宮区へと入る。
それからしばらくして、誰が付けたのかわからないが、青いフード付きマントを羽織った姿から俺は《青龍の剣士》と呼ばれるようになる。
アインクラッド編は外伝を入れてまだ3分の2程残っています。ここからまだ登場していない原作に登場するキャラが色々登場することになります。
再構成前でもリュウ君がずっと愛用している青系統のフード付きマントはこうして手に入れました。以降はずっとリュウ君には青系統のフード付きマントが欠かせなくなります。
プロローグからずっと登場していたファーランとミラが死んでしまい、リュウ君が闇落ちするなどダークな要素が多かったのですが、次回からしばらくの間は以前と比べるとダークな要素は少なくなる予定です。
実は当初の予定ではリュウ君と出会うのはファーランだけで、ミラは登場しないという設定でした。しかし、アインクラッド編はヒロイン不在ということで、アインクラッド編第1部のヒロインとしてミラを登場させました。ちなみに、ミラのイメージボイスは本家に登場し、この作品のヒロインでのあのキャラと同じ声優さんと言うことにしてます。反ってそれがリュウ君を余計に追い詰めてしまうという結果になりましたが。そして、ヒロインが不在という事態に……。ここはアスナやシリカ、リズ、アルゴなどを代役にするしかありませんよね……(それでもリュウ君とはくっ付きませんが)
この話までのエンディング曲としてセカオワの『ANTI-HERO』をイメージしてくれれば……。ちなみにリュウ君のイメージキャラソンは『烈風の証 Wind and blaze』という曲になります。オーズのタトバコンボの曲とかがいいかなと思いましたが、今のリュウ君にはこれがいいかなと……。
次回は番外編の予定となります。