ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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今回も再構成前の話を少し改良しただけなので、早く執筆を終えることができました。話もリュウ君が加わったこと以外、基本再構成前とはほとんど変わりありません。

※アンケートはまだ行っていますので、ご協力お願いします。


番外編4 花畑とオレンジプレイヤーと2人の剣士

2024年2月24日  第47層・フローリア

 

第35層から転移門を通り、たどり着いたのは辺り一面に花が咲いているところだった。円形の広場を、細い通路が十字に貫き、それ以外の場所は煉瓦に囲まれた花壇になっており、花々が咲き誇っている。

 

「すごい、夢の国見たい」

 

「この層はフラワーガーデンと呼ばれていてフロア全体に花が咲いてるんだ」

 

「時間があったら、北の端にある《巨大花の森》にも行けるんだけどな」

 

「そうなんですか。そこにはもう少しレベルが上がった時に行ってみたいと思います」

 

キリトさんとリュウの説明を聞くとすぐにシリカは花壇の前でしゃがみ、花に顔を近づけ、そっと香りを吸い込む。表情も明るく、この層が気に入ったようだ。

 

周りを見渡してみると、そこにいた人はほとんどが男女の2人連れだった。手を繋いだり、腕を組んで談笑しているなど、どうやらここはカップルのデートスポットのようだ。

 

いつか僕もシリカと2人きりで来られたらなと考えてしまう。でも、シリカは僕のことを異性として見ているのかわからない。実際のところ、女の子とよく間違えられる僕には高望みだと言ってもいいだろう。

 

こんなことを考えているとリュウが話しかけてきた。

 

「オトヤ、どうかしたのか?」

 

「あ、ちょっと考え事してただけだよ。もしかして出発する?」

 

「あ、ああ……」

 

「じゃあ、シリカを呼んでくるね」

 

リュウにそう言い残し、シリカの元へと行く。

 

「シリカ」

 

「な、何っ!?」

 

僕が名前を読んだ途端、シリカは顔を赤くしながら慌てて反応した。

 

「リュウとキリトさんがそろそろ行こうって。あれ、顔赤いけどどうかしたの?」

 

「な、何でもないよ!それよりも早く行こう!」

 

僕と顔を合わせず急いでキリトさんとリュウがいるところへ行こうとするシリカ。もしかして僕が考えていたことがシリカに……。まさか、こんなことはないか。そんなことを考えて少し不安になってしまう。

 

――あのカップルの人達みたいに、オトヤ君と2人きりでここに来たいなって思っていたら、本人に話しかけらるなんて……。このこと、オトヤ君にバレてないかな……?

 

街の南門まで来るとキリトさんとリュウは足を止めた。

 

「いよいよ冒険開始なわけだけど、2人にこれを渡しておくよ」

 

キリトさんが僕とシリカに渡してきたのは水色のクリスタル。これは確か転移結晶だ。

 

「2人のレベルと俺たちが渡したその装備なら、ここのモンスターは倒せない敵じゃない。だが、フィールドでは何が起こるか分からない。俺たちが逃げろと言ったら、転移結晶で何処かの街へ転移するんだ」

 

「俺たちのことは心配しなくてもいいからさ」

 

キリトさんとリュウは真剣な表情をしてきたため、僕とシリカは承諾して転移結晶を受け取り、ポーチに入れる。

 

そして思い出の丘に向かうこととなった。

 

途中、何回か戦闘になったが、キリトさんとリュウが前衛を引き受けてくれて僕とシリカのレベル上げに協力してくれた。いつもよりレベルが高いモンスターを倒したことで、いつもより早くレベルも1つ上がった。

 

それにしてもいいアイテムをくれて、こんなにも強いキリトさんとリュウはいったい何者なんだろう。もしかして攻略組の人かな。でも、攻略組の人がこんなところにいるわけないか。

 

「着いたぞ。ここが思い出の丘だ」

 

ついに目的地である思い出の丘に到着した。

 

「ここに使い魔を生き返らせることができる花が……」

 

「ああ、花は真ん中の辺りにある岩のてっぺんに咲くんだ」

 

「花が咲くのはあの白く輝く大きな岩だよ」

 

リュウが指さした花畑の中央には白く輝く大きな岩がある。

 

さっそくシリカはそこへと走り出す。シリカが岩に近づくとそのてっぺんに一輪の純白の花が咲いた。

 

「これでピナが生き返るんですね」

 

「ああ、ピナの心に花の中に溜まってる雫を振りかければいい。でも、この辺は強いモンスターが多いから街に戻ってから生き返らせよう。ピナだってきっとその方がいいだろ」

 

「はい!」

 

嬉しそうにするシリカ。これでまたピナを生き返らせることができて一安心した。

 

帰り道ではほとんどモンスターと出くわすことはなく、このままでいくとあと一時間歩くだけで、街へ到着する。

 

小川にかかる橋のところまで来るとキリトさんは僕とシリカの肩に手をかけ、僕たちを止めた。

 

「そこで待ち伏せてる奴、出てこいよ」

 

キリトさんがそう言うと、木の陰から出てきたのはロザリアさんだった。

 

「ロ、ロザリアさん!?」

 

「あたしのハイリングを見破るなんて、中々高い索敵スキルね、剣士さん。その様子だと首尾よく《プネウマの花》をGETできたみたいね、おめでと。じゃ、さっそく花を渡してちょうだい」

 

この人は何を言っているんだ。ロザリアさんが言ったことをイマイチ理解していない僕とシリカをよそに、キリトさんはリュウと共に僕たちの前へ立ち、口を開いた。

 

「そうは行かないな、おばさん。いや、オレンジギルド《タイタンズハイド》のリーダーのロザリアさん言ったほうがいいかな」

 

「オレンジギルド!?でも、ロザリアさんは僕たちと同じグリーンじゃ……」

 

リュウは僕たちの方を見て説明し始めた。

 

「オレンジギルドと言っても全員がオレンジカーソルじゃない場合が多いんだ。グリーンのメンバーが獲物を見つけ、オレンジのメンバーが待ち伏せているポイントまで誘導する。オレンジプレイヤーは警戒されるし、圏内には入れないからな。昨日、俺達の会話を聞いていたのもあの人の仲間だ」

 

「じゃあ、この二週間、一緒のパーティーにいたのは……」

 

「そうよ、戦力を確認して冒険でお金が溜まるのを待ってたの。本当なら今日ヤッちゃう予定だったんだけど。一番楽しみな獲物のあんたが抜けて残念だったけど、レアアイテムを取りに行くっていうじゃない。でも、そこまでわかっててその子に付き合うなんてあんた達ってバカ?それとも()()()2()()の前でカッコつけようとしたの?」

 

「アンタ、オトヤのことを男だと知っていてもわざと女だと言うってことは、キリさんの言う通り本当に性格が悪いおばさんみたいだな。昨日はうっかり言ってしまっただけだったけど、今日は俺もハッキリとアンタのことを()()()()って呼ばせてもらうぞ」

 

リュウは落ち着いているようにも見えているが、明らかに怒っているというのが伝わってきた。話し方もキリトさんや僕たちと話す時と様子が違う。

 

リュウにまではっきりとおばさんと呼ばれ、ロザリアさんはムッとした表情になる。

 

「あと、俺たちはあんたを探してたんだよ。アンタ、10日前に38層で《シルバーフラグス》って言うギルド襲ったな。リーダー以外の4人が殺された」

「あぁ、あの貧乏な連中ね」

 

ロザリアさんはキリトさんの言葉に頷く。

 

「リーダーだった男はな、朝から晩まで最前線の転移門広場で泣きながら仇討ちをしてくれる人を探してた。でも、彼はあんたらを殺すんじゃなく、牢獄に入れてくれと言ったんだ。あんたに奴の気持ちがわかるか?」

 

面倒そうにロザリアさんは答えた。

 

「わかんないわよ、マジになっちゃってバカみたい。ここで人を殺したところで本当にその人が死ぬ証拠なんてないし」

 

「お前、人の命をなんだと思っているんだ!!」

 

ロザリアさんの言葉に、リュウは怒りを露わにして叫び、左手で右腰の鞘から剣を抜き取る。今すぐにもロザリアさんをその剣で斬ろうとしていた。そんなリュウをキリトさんが右腕を掴んで止めた。

 

「止めろリュウ。気持ちはわかるが、あのおばさんの挑発に乗るな。依頼人に頭にきて殺したなんて報告するわけにはいかないだろ」

 

「はい……」

 

「自分たちがどんな状況なのかわからないで止めちゃったの?」

 

ロザリアさんが指をパチンと鳴らすと、7人ほどのプレイヤーがロザリアさんの近くにある木の陰から出てくる。更に後ろからも3人のプレイヤーがやってきた。その中の1人を除いた全員のカーソルがオレンジだ。つまり、このプレイヤーたちがオレンジギルド《タイタンズハイド》ってことか。

 

完全に僕たちは挟み撃ちにされた。

 

「キリトさん、リュウ、この数じゃ僕たちが圧倒的に不利ですよ、脱出しないと!」

 

「大丈夫。俺とリュウのどっちかが逃げろって言うまでは、転移結晶を用意してそこで見てればいい。リュウは後ろの3人を頼む。くれぐれも殺すなよ」

 

「はい……。オトヤ、シリカのことは任せるぞ」

 

2人は僕にたちにそう言い残す。キリトさんは背中の鞘から片手剣を抜き取り、前に歩いていく。リュウも後ろにいる3人のオレンジプレイヤーがいるところへと行く。

 

「「キリトさん!リュウ(さん)!」」

 

シリカと同時に彼の名前を呼ぶとタイタンズハイドのメンバーの1人が驚く。

 

「キリト、リュウ?黒づくめの服に盾なしの片手剣、それに青いフード付きマントに盾なしでサウスポーの片手剣、まさか《黒の剣士》と《青龍の剣士》!?ロザリアさん、あの黒づくめはソロで前線に挑んでいるビーターの攻略組みだ!それに、青いフード付きマントの方は今勢いがあるソロの攻略組みだって言われている!」

 

攻略組、それはザックさんとカイトさんと同じく最前線で戦っているプレイヤーのことだ。2人が攻略組だったことに僕とシリカは驚いてしまう。

 

「攻略組がこんなところにいるわけがないじゃない!!ホラとっとと始末して身ぐるみはいちゃいな!!」

 

ロザリアさんがそう指示を出すと、オレンジプレイヤーたちはキリトさんとリュウを攻撃する。リュウは回避したり、剣で防御しているが、キリトさんはただ攻撃を受けているだけだ。

 

「いやあああ!!やめて!やめてよ!!き、キリトさんが……し、死んじゃう!!」

 

シリカは両手で顔を覆いながら絶叫した。

 

「キリトさん!!」

 

苦しむシリカを見かねて《クローバースタッフ》を抜き取り、助けようとする。だが、僕の目には信じられないものが映った。

 

「HPが減ってない……」

 

キリトさんのHPは減少しても数秒経つと満タンの状態に回復していた。

 

「ど、どういう事!?」

 

さっきまで両手で顔を隠し、キリトさんが攻撃されるのを見ていなかったシリカもその光景を見て驚きを見せる。

 

更に後ろの方を見るとリュウは余裕を見せていて、3人のオレンジプレイヤーたちは息が荒く、疲労している様子だった。

 

「あんたら何やってんだ!!さっさと殺しな!!」

 

「ロザリアさん、コイツをいくら攻撃してもHPが減らないんですよ!!」

 

「青いフード付きマントの方は避けられたり、防御されてまだ一撃も……」

 

《タイタンズハイド》のメンバーたちは焦り、苛立っている。そして、疲労が溜まり、動きを止めた。

 

「あの赤い目の巨人と比べたらずっと楽な方だな」

 

「10秒あたり400ってところか。それがあんたら7人が俺に与えるダメージ量だ。 俺のレベルは78、HPは14500。戦闘時回復《バトルヒーリング》スキルによる自動回復が10秒で600ポイントある。いくらやっても無駄だ」

 

「そ、そんなのありかよ」

 

「ありなんだよ。たかが数字が増えるだけで、そこまで無茶な差が付く。それがレベル制MMOの理不尽さというものなんだ」

 

そして、キリトさんは転移結晶より色が濃い結晶を取り出した。

 

「これは俺の依頼人が全財産を果たして買った回廊結晶だ。監獄エリアの出口に設定してある。全員これで牢屋に飛んでもらう」

 

「こんな凄いものがあったなんてね。でも、今ここにあたしを含めて11人しかいないなんて思わないことだね」

 

《タイタンズハイド》のメンバーたちが諦めて戦意を喪失する中、余裕を見せるロザリアさん。すると、更にもう1人のオレンジプレイヤーが出てきてシリカに剣を振り下ろそうとする。

 

「きゃあっ!」

 

「シリカぁぁぁぁ!!」

 

その瞬間、僕はシリカの前に出て昨日リュウから貰った《クローバースタッフ》で攻撃を受け止める。

 

「オトヤ君!」

 

「コイツ!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

ソードスキルを発動させ、攻撃。すると、敵の剣は折れてその折れた刃はロザリアさんの足元に刺さる。

 

「ヒィッ!」

 

自分の足に刃が刺さりそうになったことでロザリアさんは驚いて声をあげる。その拍子に手から槍が落ちる。

 

「これ以上シリカを悲しませる奴は僕が許さないぞ!!」

 

怒りがこもった声で叫んだ。

 

武器を失ったオレンジプレイヤーに《クローバースタッフ》を向けてゆっくり近づく。そのオレンジプレイヤーは戦意喪失する。

 

「武器破壊か、ナイスファイトだオトヤ!」

 

僕に向かってそう言うと、キリトさんは槍を拾おうとしているロザリアさんの首元に剣を突きつける。

 

「グリーンのあたしを傷つければオレンジに……」

 

「言っておくが俺はソロだ。1日2日、オレンジになるくらい問題ない」

 

キリトさんは回廊結晶を使い、リュウと一緒に《タイタンズハイド》のメンバーを次々監獄エリアへと送る。

 

最後にロザリアさんを送ろうとした時、リュウが彼女に話しかけた。

 

「監獄に送る前に1つだけ言っておく。オトヤは芯があって強い奴だ。次、わざと俺の友達のことを女だと馬鹿にしてみろ。その時はお前を絶対に許さないと思え」

 

リュウの言葉に恐怖に包まれたロザリアさんは、大人しくゲートを潜った。これで《タイタンズハイド》のメンバー全員は、キリトさんが持っていた回廊結晶で監獄エリアへと飛ばされた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ピナ!」

 

街の宿屋まで戻ってきて、シリカは蘇生アイテムを使ってピナを生き返らせた。

 

ピナは無事に生き返り、シリカは嬉しさのあまり涙が溢れながらもピナを抱き締める。ピナも嬉しそうにしてシリカに抱かれている。

 

「キリトさん、リュウさん、ありがとうございます!」

 

「別にいいよ。2人を囮にするようなことにしちゃったからな」

 

「最後の方なんて危険な目に合わせてしまったし……」

 

「キリトさんとリュウさんはピナを生き返らせてくれた人だからそんなこと気にしてませんよ」

 

「ところで、キリトさんとリュウはやっぱり前線に……」

 

「ああ、五日も前線から離れちゃったからな。すぐに戻らないと」

 

「攻略組って凄いですね。僕と違ってあんなに強かったですし……」

 

今回、ピナを生き返らせることができたのはキリトさんとリュウがいたからだ。だけど、僕は何もできなかった。そう考えているとリュウが声をかけてきた。

 

「オトヤだって、シリカがオレンジプレイヤーに襲われそうになったときには、危険を顧みずシリカを助けようとしただろ。俺が大切なものを守ることができなかったことを、オトヤはやることができたんだ。そんなことないって」

 

「あの時のオトヤは男らしくてカッコよかったぜ」

 

「オトヤ君があの時あたしを助けてくれたから、花を奪われずにピナを生き返らせることができたんだよ。あたしを守ってくれてありがとう、オトヤ君」

 

3人が言ったことが嬉しくて、嬉しさのあまり涙が出てしまう。シリカたちが慰めてきたけど、しばらく涙は止まることはなかった。

 

この日、僕は想いを寄せているシリカを守れ、リュウとは友達になることができた。リュウとキリトさん、師匠やカイトさんにはまだ及ばないけど僕もデスゲームが開始してから少しは強くなったかな……。


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