ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
カイトとザックが率いる《ナイツオブバロン》は現在、最前線の迷宮区ではなく、中層プレイヤーが多く活動しているフィールドへと来ている。
「特に今のところは何もなさそうだな」
「いくらアイツらも俺たち攻略組がいればビビッて逃げちまうんじゃないのか」
「そいつはあり得そうだな。何だってオレたちの方が、レベルは上だからな」
《ナイツオブバロン》のメンバーのリク、ダイチ、ハントの3人はそんなことを話しながら歩いている。そこへ《ナイツオブバロン》のリーダーのカイトが口を挟んでくる。
「油断するな。いくら俺たちの方が、レベルが高いからと言っても麻痺状態にされて集団で来られたらやられる可能性もあるんだぞ」
カイトたち《ナイツオブバロン》がここにやって来ているのは、盗賊や殺人といった犯罪者プレイヤーたちへの警戒のためだ。
犯罪を行うオレンジプレイヤーが本格的に活動を始めたのは今年に入ってからだ。その原因となっているのが殺人ギルド《ラフィン・コフィン》……通称《ラフコフ》の登場である。ここ最近は、ラフコフによるPKが多く行われるようになり、それに伴ってラフコフの下部組織を中心に犯罪行為が増えている。
「アルゴから聞いたが、この前も中層プレイヤーがこの辺りでオレンジギルドに襲われたらしい。幸いにも全員が転移結晶で逃げ出したから死者は出なかったが……。そのオレンジギルドの中には俺たちと同じ年頃の女もいたようだ」
「オレたちと同じ年頃、しかも女でオレンジギルドの一員かよ。これは早く何とかしないとヤバいぞ」
「ああ。《血盟騎士団》や《聖竜連合》も何とかしようとしているが、ラフコフを潰さない限り解決はしないだろう。だけど、ラフコフの奴らは何処を根城にしているかは……」
オレンジ化したプレイヤーは圏内に入ることは出来なく、圏外のどこかを根城にしているのは間違いない。だが、攻略組は未だにラフコフのアジトの場所を掴むことができていない。アジトの場所さえわかれば、夜中にでも大部隊で襲撃してラフコフを無力化することもできるだろう。
「だけど、今日は早く終わらせて帰りたいぜ。この様子だと一雨降りそうだからな」
ザックが見上げた空は灰色の雲に包まれており、いつ雨が降ってきてもおかしくない様子だった。現実世界でも7月となると梅雨の時期の真っ最中のため、アインクラッドも梅雨の時期になっていてもおかしくないだろう。
フィールドを警戒して進んでいた時だった。カイトたちの策敵スキルに反応が出る。
「っ!?」
物陰から1人のプレイヤーが先頭にいるカイトに曲刀を振り下ろしてきた。
カイトはすぐに左腰に装備している鞘から《フレイムセイバー》を抜き取り、曲刀を防ぐ。
カイトを攻撃してきた曲刀を持ったプレイヤーはカーソルがオレンジとなっている。そのプレイヤーが一旦、カイトから離れると6人のプレイヤーが出てくる。全員、カーソルがオレンジである。
「コイツらオレンジギルドかっ!?」
「どうやらそのようだな」
ザック、カイトの順にそう言った直後、ランスを持ったリーダーらしき男が前に出てくる。
「まさかこんなところに攻略組の《ナイツオブバロン》がいるとはな。オレは《ブラックバロン》のリーダー、《シュラ》だ」
「《ブラックバロン》だと?オレンジギルドが俺たちと同じバロンを名乗っていい度胸だな」
カイトが《フレイムセイバー》を持って構えるとザックたちも武器を取り出し、構える。
「いくらお前たちの方が2人多いからって、オレたちが相手だと分が悪いんじゃないのか?」
ザックの言う通り、攻略組である《ナイツオブバロン》がレベルもスキル熟練度も上で、明らかに《ブラックバロン》は不利だ。
「確かに普通に戦ったらオレたちの方が圧倒的に不利だ。だけど、これはどうかな」
シュラが指をパチンと鳴らすと、シュラと一緒に4人のプレイヤーが左に、残りのフードで身を隠した2人のプレイヤーが右へと二手に別れて逃げ出した。
「二手に別れたぞ!」
「逃がすか!俺とザックで5人の方を追う!リクとダイチとハントは残りの2人を追え!」
「わかった!」
「任せておけ!」
「すぐに終わらせて来るからな!」
リクとシンとゴウの3人はカイトとザックにそう言い残し、2人のプレイヤーを追う。カイトとザックも5人のプレイヤーを追いかける。
カイトは追跡スキルを使ってシュラたちを追い、ザックは投剣のピックを取り出し、投剣スキルを発動させてシュラたちを攻撃する。だけど、シュラたちは逃亡に慣れているためか、ザックが投げたピックを軽々とかわし、逃げ続ける。
「妙だな、アイツらどうして転移結晶を使わないんだ?」
「確かに。転移結晶を切らしてしまったとかじゃねえのか?」
「それなら犯罪行為を行う前に転移結晶があるか確認しておくはずだ」
「それもそうだな」
何か違和感を抱きつつもシュラたちを追いかける。
迷宮区の入口あたりでシュラたちは姿を消す。
「どこ行ったんだっ!?」
「すぐ近くにいるのは間違いない!」
カイトは策敵スキルを使用してシュラたちの居場所を確認する。
そして、シュラ以外の《ブラックバロン》のメンバー4人が物陰から一斉に出てきてカイトに武器を振り下ろして来る。
「今度は4人か、面白い」
「カイト大丈夫か!?」
「俺は平気だ!シュラの相手は任せたぞ!」
「おう!」
ザックもすぐにシュラを見つけて戦闘を開始する。ザックの《ナイトオブ・クレセント》とシュラのランスがぶつかり合い、火花を散らす。シュラは《ブラックバロン》のリーダーを務めていることもあって他の4人よりレベルは高いが、それでも攻略組のザックの方が上で、ザックが圧倒している。
その一方でカイトの方も4人相手でも余裕を見せている。
「コイツ、噂通り強い!」
「ただの弱者の集まりが俺を倒せると思うのか?」
カイトは《フレイムセイバー》を使って《ブラックバロン》のメンバーたちの武器を破壊して無力化していく。
ザックもシュラのランスを弾き飛ばし、奴を無力化する。
戦闘が始まり、5分ほどで決着が着き、この場にいる《ブラックバロン》のプレイヤー5人全員が無力化された。4人目の《ブラックバロン》のプレイヤーを縄で縛り、残すはシュラだけとなった。
「もうすぐ《聖竜連合》のプレイヤーたちが来てお前たちを牢獄へ連れて行く。その前に言い残しておくことはないのか?」
カイトがそう呼びかけるが、シュラは俯いていて何も答えない。
「おい、聞いているのか?」
すると、シュラは不気味な笑みを浮かべる。
「何がおかしい?」
「お前たち《ブラックバロン》はもう終わりなんだぞ」
「オレたちに気を取られていいのか?お前たちの仲間は今頃どうなっているかわからないぞ」
「どういう意味だ?答えろ!」
カイトはシュラ胸倉を掴んで強めの声で言う。
「今回のオレたちは盗賊目的じゃなくてお前たち2人をおびき出すためだったんだよ。お前たち2人がいるとラフコフの連中が殺すのが厄介だと言ってたからなぁ。もう役目は終わったからオレはここら辺で引き上げるとしようか……」
シュラは野球ボールくらいの玉を取り出し、地面に投げつける。すると、辺りは白い煙に包まれ、何も見えなくなる。
煙が消えた時にはすでにシュラの姿はなくなっていた。
「アイツ、何処に行きやがったんだっ!?」
「転移結晶で逃げられたかっ!」
「おーい!」
カイトとザックの元に全員が青をベースとした服に銀色の鎧を纏ったプレイヤーたちが駆けつける。攻略組最大のギルド《聖竜連合》のプレイヤーたちだ。
「この縄で縛られている奴らは全員オレンジだが、もしかして盗賊ギルドのプレイヤーか?」
「ああ!ソイツらはアンタ達に任せる!カイト!」
「わかってる!」
「お、おい!」
カイトとザックの2人は《聖竜連合》のプレイヤーたちに捕まえた《ブラックバロン》のプレイヤーたちを任せ、自分たちの仲間がいるところへと急ぐ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アイツらどこ行きやがったんだ?」
フードのプレイヤーたちを追いかけてリクたちがやって来たのは、ゴーストタウンを元にしたフィールドダンジョンだった。建物はボロボロになっており、とても人が住めるようなところではなかった。
「でも、ここら辺にいるのは間違いない。慎重に探そう……ぜ……」
ドサッ……。
突然、ゴウが倒れこむ。
「ゴウ、どうしたんだっ!?」
「あれ?何か体に力が……」
ゴウの鎧のつなぎ目に1本のナイフが突き刺さっており、彼は麻痺状態となっていた。
「ワーン、ダウーン」
倒れているハントの元に頭陀袋を思わせる黒いマスクで顔を覆い、ダガーを持った子供っぽい態度のプレイヤーが黒いポンチョで身を隠した4人のプレイヤーを引き連れて歩いてくる。
そのプレイヤーを見てリクは声をあげる。
「お前はジョニー・ブラック!」
「ジョニー・ブラックってラフコフの幹部の1人の毒ナイフ使いか!でも、何でラフコフの幹部の1人がこんなところにいるんだっ!?」
「今回の俺たちのターゲットはお前たち《ナイツオブバロン》だからだよ。《ブラックバロン》の奴らに協力してもらって、カイトとザックをお前たちから引き離したところをお前たちから殺してやるんだよ」
そう言うとジョニー・ブラックは新たなナイフを取り出し、倒れているハントの背中に何回も突き刺す。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
ハントの悲痛な叫びが響き渡り、HPが減る。ハントは目の前に倒れている両手斧に手を伸ばそうとするが、麻痺状態のため動くことができない。
「ハントっ!!」
「止めろぉぉぉぉっ!!」
リクとダイチの2人はすぐに片手剣と片手棍、盾を持ち、ジョニー・ブラックを攻撃しようとする。
「おっと。今すぐに武器を捨てた方がいいと思うぜ。うっかりコイツを殺してしまうかもしれないぞ。わかったら早く武器を地面に捨てな」
ジョニー・ブラックが持つナイフはゴウの首元に付きつけられている。これを見たリクとダイチは、片手剣と片手棍を地面に捨てる。
「いいねぇ、仲間っていうのは。仲間を助けるためにあっさりと自分たちの武器を捨てるとはなぁ」
頭陀袋を被っているため素顔は見えないが、話し方からジョニー・ブラックはニヤニヤしているというのがわかる。
隙を見て武器を拾ってジョニー・ブラックに攻撃を仕掛け、ゴウを助けようと考えているリクとダイチ。いざ実行しようとしたときだった。
「ぐわっ!!」
「ダイチっ!!」
リクの隣にいたシンが何者かに後ろからエストックで頭を貫かれていた。エストックはすぐに抜き取られるが、リクの頭に再び突き刺され、剣や斧で体を斬り付かれる。攻撃をまともに受けたシンはすぐにHPを失い、ポリゴン片となって消滅する。
ダイチをエストックで刺したのは髑髏みたいなマスクを付けた男……ラフコフの幹部の1人である赤目のザザだった。その後ろにはジョニー・ブラックと同様に黒いポンチョで身を隠したプレイヤー3人がいる。
「おい、ザザ!先に殺すなんてずるいぞ!」
「ジョニー、お前は、この前、俺よりも、多く殺したんだ。今回は、俺に譲ってくれても、いいんじゃないのか?」
「わかったよ。だけど、コイツだけは俺にやらせてくれよな」
「ぐわああああっ!!」
ハントはジョニー・ブラックによって首を深く斬り付けられる。更にジョニー・ブラックの近くにいた黒いポンチョのプレイヤーたちもハントに曲刀を振り下ろす。この攻撃を受けたことでハントのHPは0となり、ハントの体はポリゴン片となって消滅した。
「ハントっ!!お前らよくも2人をっ!!」
この場にただ1人残ったリクは片手剣を拾い、近くにいたザザに斬りかかる。レベルはリクたちの方が上だったため、ザザを追い詰めていく。だが……。
突如、リクは鎧の隙間に何かが突き刺さる感触が伝わり、そのまま倒れてしまう。状態を確認してみると麻痺状態になっていた。
「ザザに気を取られ過ぎだぜ。いくら攻略組でも麻痺状態にすると動けなくなるし、その間に頭とか心臓を攻撃されればすぐにHPを失うだろ。本当は俺が殺したいけど、ザザに譲ってやるよ」
「ああ……」
「「イッツ・ショウ・タイム」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数分経った時だった。ザザとジョニー・ブラック、その仲間たちはすでにこの場から去っていた。雷が落ちる音が鳴り響き、雨が降り始める。
「「リク!」」
倒れているリクの元にカイトとザック、《聖竜連合》のプレイヤーたちが駆けつける。
「しっかりしろ!」
カイトはいつもの冷静さを失い、リクに問いかける。
「ラフコフのジョニー・ブラックとザザにやられた……。ハントとダイチもアイツらに……」
「ジョニー・ブラックとザザだと?ラフコフの幹部の奴らか……」
「アイツら、よくも……」
カイトとザックが悔しがっている中、《聖竜連合》のプレイヤーたちはジョニー・ブラックたちを追いかける。
「カイト、ザック、ゴメンな。一緒にゲームクリアを目指そうって約束したけど、こんなところで死んでしまうなんて……」
「何言っているんだよ、リク!オレたちまだ……」
リクの体が青白い光に包まれる。
「でも、お前たち2人と一緒に……ここまで戦って来れてよかったぜ。それはハントとダイチも同じだ……。カイトとザックは絶対に生き残って……この世界の終わりを見届けろ……よ……」
そう言い残してリクはポリゴン片となって消滅する。雨が降る中、この辺りに残っていたのはリクたちが持っていた武器だけだった。
「嘘だろ……リク、ダイチ、ハント……」
「ぐっ……」
ザック、カイトが悲痛な声を上げていく。2人はリクたちが持っていた武器を拾う。雨に打たれていたため、わかりにくかったが、2人の眼から涙が流れていた。
仮面ライダーレーザー/九条貴利矢が死んだ時のように、カイトとザックを残して他の《ナイツオブバロン》のメンバーが退場するという衝撃的な回となりました。フォーランとミラと異なり、2,3回ほどしか登場してませんが、やはり衝撃的な展開には変わりありません。
再構成版は主要メンバー以外のオリキャラはほとんど死んでいるような……。