ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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第13話 《深淵の殺戮者》

攻略を終え、夕日が沈む中、最前線の主街区に戻っている。

 

俺は基本ソロプレイヤーとして攻略を続けているが、今日は1人ではない。街への帰還中、隣にいた頭にバンダナを巻いて野武士みたいな男性……刀使いのクラインさんが話しかけてきた。

 

「やっぱリュウが一緒にいるだけでもいつもと違うなぁ」

 

「そんなことありませんよ。クラインさんたちだって6人で攻略を続けてて凄いですよ」

 

今日、一緒に攻略をしてくれたのはクラインさん率いる《風林火山》。クラインさんたちとは今年の1月頃にキリさんが紹介してくれたことで知り合い、以降は度々こうしてソロの俺とパーティーを組んでくれている。メンバー全員がとてもいい人たちである。

 

「それにしてもよぉ、ここ最近あまり迷宮区の攻略が進んでねえよな」

 

「これもオレンジプレイヤーたちによる犯罪被害が増えているからですよ……」

 

クラインさんの言う通り、ここ最近は迷宮区の攻略があまり進められていない。この原因となっているのが、オレンジプレイヤーたちによる犯罪行為である。

 

攻略組もこのまま放っておくわけにはいかないと、一昨日から中層プレイヤーが多く活動している層を中心に攻略組プレイヤーを送り、警備を強化している。

 

今日は《聖竜連合》といくつかの小規模の攻略ギルドが担当していると聞いた。確かその中には、カイトさんとザックさんが率いる《ナイツオブバロン》もいたはずだ。仮に何か起こってもカイトさんとザックさんたちなら絶対に大丈夫だろう。むしろ、オレンジプレイヤーたちを捕えることだってできるかもしれない。

 

そんなことを考えている間にも最前線の主街区へと到着する。

 

ちょうど夕食時ということもあり、近くの酒場でクラインさんたちと一緒に夕食を取ることにした。

 

「じゃあ、お疲れ様です」

 

「おう。また一緒に攻略に行こうぜ!」

 

「もちろんですよ」

 

夕食を食べ終わった俺は、装備とアイテムの確認をすると迷宮区に向かう道を通り、主街区から出る。

 

向かうのは迷宮区ではなく、その途中にある森だ。そこは攻略組のレベリング上げに中々いいところで、多くの攻略組プレイヤーが利用している。この時間なら比較的空いているため、いつもより楽にモンスターを狩ることができるだろう。

 

時刻は夜の7時を過ぎていて、日はすっかり沈んでいた。迷宮区に潜っていた間に一雨降ってその雨雲がまだ残って空を覆っており、月も星も見えない状態だ。そのせいで、辺りはいつもより深い暗闇に包まれている。

 

夜の森の中に入ろうとしたときだった。

 

「何だお前っ!?ぐわぁぁぁぁ!!」

 

「止めてくれぇぇぇ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

森の中から複数のプレイヤーの悲鳴がする。

 

「な、何だっ!?プレイヤーがモンスターに襲われているのか!?でも、何か様子がおかしい……」

 

何か嫌な予感がし、急いで悲鳴が聞こえた方へと走る。

 

声が聞こえた方へとやってくると、辺りにあるのは木ばかりでプレイヤーどころかモンスターも1対もいない。そして、この暗さと静けさがより一層不気味さを増している。

 

策敵スキルを使ってみると近くに1人のプレイヤー1人の反応があった。

 

「あっちか!」

 

暗い森の中を進み、反応があったところにやって来ると1人のプレイヤーがいた。だけど、俺はそのプレイヤーを見た瞬間、すぐに近くの木の陰に隠れた。

 

プレイヤーは黒いポンチョで身を隠しており、右手には赤黒い刃の両手剣が握られていた。カーソルはグリーンではなくオレンジとなっている。そして、黒いポンチョのプレイヤーの近くには剣や槍が転がっていた。

 

あの黒いポンチョ、そして握られている赤黒い刃の両手剣には見覚えがある。まさかアイツは……。

 

急いでキリさんに応援を要請するようにとメッセージを送る。

 

「どうやら獲物が1人増えたようだな。隠れてないで出てきたらどうだ?」

 

黒いポンチョのプレイヤーは俺に聞こえるくらいの音量で言ってきた。それを聞いた直後、背筋がゾッとする。

 

左手で右腰にさしている鞘から《ドラゴナイト・レガシー》を抜き取り、奴に姿を見せる。

 

「直接会うのは初めてだな。殺人ギルド《ラフィン・コフィン》のサブリーダー《アビス》!!」

 

《ラフィン・コフィン》のサブリーダーの《アビス》。凄腕の両手剣使いで、攻略組のトップクラスに匹敵するほどの強さを持つプレイヤー。まさかこんなところで会えるとは思ってもいなかった。

 

「お前と出会えて光栄だ、《青龍の剣士》。お前には1度直接会って話をしてみたいなって思ってたんだよ」

 

「それは俺もだ。もう少しで援軍も来る。お前を監獄に送ることができるからな」

 

「フッ……」

 

「何がおかしいんだ!」

 

「俺を倒すだと?面白い、お前の力を見させてもらおうか」

 

アビスは俺に剣先を向けてくる。どうやら戦闘は避けられないようだ。俺も《ドラゴナイト・レガシー》を持ち、構える。

 

「今日は3人の予定だったが、4人目の相手も悪くないな。()()()()()()()()()()

 

他のラフコフのメンバーが『イッツ・ショウ・タイム』と言う中、アビスは別の決め台詞を言い、両手剣を持って襲い掛かってくる。

 

《ドラゴナイト・レガシー》でアビスの両手剣の攻撃を受け止める。

 

「やっぱり《青龍の剣士》と言われていることだけあって実力は中々のものだな。だけど、俺の敵ではない」

 

バックジャンプしてアビスから一旦距離を取ると片手剣スキル上段突進技《ソニックリープ》を発動。

 

すると、アビスも両手剣スキル上段突進技《アバランシュ》を発動させ、《ソニックリープ》によるダメージを抑える。更に両手剣スキル単発上段斬り《カスケード》を発動させ、単発の上段斬りで攻撃を与える。

 

攻撃をまともに受けてよろけてしまう。

 

「がはっ!!」

 

「休んでいる暇はないぜ!」

 

アビスがこちらに向かってくる中、俺は《ドラゴナイト・レガシー》を逆手に持ち替える。攻撃をかわし、お返しにとアビスを一撃斬り付ける。そして奴に蹴りを入れ、《ドラゴナイト・レガシー》を逆手から順手に持ち直す。

 

休むことなく俺は片手剣スキル3連撃《シャープネイル》を、アビスは両手剣スキル2連撃《カタラクト》を発動させる。ソードスキルを発動させた剣がぶつかる。

 

「ぐっ!!」

 

やっぱり片手剣より両手剣の方がパワーはあるな。その分スピードは片手剣の方が勝るが、アビスの両手剣による剣戟は片手剣並に早い。攻略組でもここまでのプレイヤーは見たことないぞ。

 

お互い武器を振っては回避して空振ったり、武器が激しくぶつかり合うと火花を散らす。

 

さっきからこの繰り返しで、俺は攻撃をまともに何回も喰らって体力を消耗している。一方で、アビスはフードから涼しい顔をして余裕を見せている。

 

――コイツ、まだ余裕なのか……。

 

「何だ、この程度か?もっと本気を出してもいいんだぜ。俺は知っているんだぞ。お前の本気はこんなものじゃないってことをな」

 

「お前こそ、あの男と一緒に殺人ギルドを作らなくても攻略組として戦っていけるくらいの実力だ。《血盟騎士団》の団長《ヒースクリフ》と並んで最強のプレイヤーとしてゲームクリアに貢献できたかもしれないんだぞ。どうしてその力をこんな酷いことに利用するんだっ!?」

 

「俺の力はどう使おうが、俺の勝手だろ」

 

「ふざけやがって!!」

 

片手剣スキル4連撃の《ホリゾンタル・スクエア》を発動させ、渾身の斬撃をアビスに喰らわせる。

 

「そうだ、その意気だ。今のお前は()()()ほどじゃないが怒りに満ちている。その方が、殺しがいがあって面白い」

 

深く被っていたフードの中から口元だけだが、アビスが笑っているのが見えた。そして、容赦なく両手剣で斬り付けて来る。その剣戟は先ほどより速く、パワーがある。《ドラゴナイト・レガシー》で防ぐが、一方的に押されてしまう。

 

――今までのはまだ完全に力を出していなかったっていうのか?

 

なんとか振り払い、片手剣スキル8連撃《ハウリング・オクターブ》を発動させ、反撃する。これはかなり効いたようだ。

 

だが、アビスはまだ平然と立っていた。

 

「そろそろ決めるか……」

 

アビスが持っている両手剣の刃に黒いオーラみたいなものが纏う。

 

「何なんだ、あれは……」

 

あれは両手剣スキルか。いや、あんなスキルは両手剣スキルには存在しない。

 

その直後、アビスは黒いオーラを纏った両手剣で俺に、今まで見たことのない連撃の嵐をあびせる。

 

「ぐわあああっ!!」

 

あまりの衝撃でふっ飛ばされてしまい、後ろにある木へと激突して地面に倒れる。《ドラゴナイト・レガシー》は弾き飛ばされ、離れたところの地面に突き刺さる。

 

「ぐっ……」

 

なんとか身体を起こして動こうとする。その時、はっきりとは見えなかったが、アビスの顔を見た瞬間、身体が動けなくなってしまう。アビスはまるで奴は殺しを楽しんでいるという眼をしていて、赤い目の巨人に捕まって食われそうになったときと同じくらいの恐怖に包まれたからだ。

 

「さてと、予定より1人多いがこれで4人目か……」

 

アビスが両手剣を持ってゆっくり近づいて来る。

 

その時、1人の男の声がする。

 

「アビス、撤退だ」

 

森の奥からアビスと同じ黒いポンチョに身を隠した男と、黒いニット帽を深く被って白い布で顔の下半分を隠した男がやって来るのが見える。この2人にはアビスと同様に見覚えがある。

 

この2人はラフコフのリーダーの《PoH》、幹部の1人《ソニー》だ。奴らもここにいたのか。

 

「《PoH》に《ソニー》か。どうして撤退なんかしないといけないんだよ?」

 

「ソイツが呼んだ援軍がすぐそこまで来ている。とりあえず、今回のターゲットは仕留めたんなら、早くここからいなくなった方がいいだろ」

 

「ちぇ、わかった。ソニー、今回のターゲット3人は殺したぞ。カウントしておいてくれ」

 

ソニーは頷くと赤と黄色の玉が付いた算盤のようなものを取り出す。そして、地面に転がっていた殺害したプレイヤーたちの武器を見てアビスが殺したことを確認すると、算盤に付いてある赤い玉を3つ動かす。

 

「命拾いしたな、《青龍の剣士》。また何処かで会おうぜ」

 

アビスはそう言い残すとPoHとソニーと共に暗い森の奥へと消えていった。

 

あとを追おうにも恐怖のあまり動くことができなかった。

 

アビスたちと入れ替わるように白と赤をベースの装備をしたプレイヤーたちがやって来るのが見えた。あの服装、先頭にはアスナさんがいるから《血盟騎士団》に違いない。その後ろには、黒いロングコートを着たプレイヤー……キリさんもいた。

 

「リュウ、大丈夫か!?」

 

「今は体力を回復させないと」

 

「キリさん、アスナさん……」

 

キリさんとアスナさんが俺の元に駆け寄り、アスナさんは俺に回復アイテムを使い、体力を回復してくれた。

 

「あいつら森の中に逃げて行ったぞ」

 

「副団長、奴らを追いますか?」

 

「いえ、暗闇の森の中で探すのは危険過ぎるわ。それに転移結晶ですでにここからいなくなった可能性も……。あなた達は本部に戻って報告を!」

 

「ハッ!」

 

アスナさんの指示に従い、血盟騎士団のプレイヤーたちは本部へと急いだ。

 

「とりあえず、今はここから移動するぞ」

 

「リュウ君、街に着いたら詳しいことを教えてくれる?」

 

俺はキリさんに肩を貸してもらい、なんとか立ち上がる。そして、2人に連れられ、主街区へ進んだ。

 

 

 

 

 

主街区に着くと、裏通りにある小さな酒場へ入った。店内の中にはNPCの店主しかいなく、プレイヤーは1人も居なかった。

 

店内の奥にある4人用の丸テーブルがあるところに座り、キリさんとアスナさんに援軍が来るまでに起こったことを一通り説明する。

 

この話を聞いて2人は驚きの表情を見せた。

 

「オレンジギルドやラフコフによる犯罪行為はここ最近、中層エリアでよく行われているという話は聞いていたけど、まさかこんな最前線まで活動を広げていたなんて……」

 

「それでリュウ。アビスと戦ったときに奴が妙な技を使っていたって言っていたが、どういうものなんだ?」

 

「アビスは両手剣使いですが、アイツが使ったのは明らかに両手剣スキルとは違うものでした。両手剣スキルであんなものは見たことも聞いたこともありませんし、あれを喰らった直後、何故かまともに身体を動かすことができなくて……」

 

「未知のスキルか。ただでさえ、アビスはラフコフのサブリーダーでありながら実力はラフコフ№1とも言われているのに、これは早く何とかしないとヤバいぞ」

 

「そうね。強敵のアビスに未知のスキルとなると対策が必要になるね……」

 

突如、アスナさんの元にメッセージが届いたことを告げる音が響いた。

 

「あ、ちょっとゴメンね。うちの団員からだわ。何かあったのかしら」

 

アスナさんはすぐに今届いたメッセージを開いて確認する。だが、メッセージを見た直後、アスナさんの顔色が変わる。

 

「どうしたんだ、アスナ。顔色悪いぞ」

 

「そんな《ナイツオブバロン》が……」

 

「《ナイツオブバロン》ってカイトさんとザックさんのギルドですよね。どうかしたんですか?」

 

「カイト君とザック君以外のメンバーがラフコフに殺されたって……」

 

「「っ!?」」

 

アスナさんが言ったことに俺とキリさんは衝撃を受けた。

 

「カイトとザックがいる《ナイツオブバロン》が……。あいつらは大丈夫なのかっ!?」

 

「2人は無事よ。今《聖竜連合》から応援を要請されて向かった団員たちが保護して、今は《血盟騎士団》の本部にいるみたい。でも、まともに話せる状態じゃ……」

 

「そうか……」

 

「犯人は誰なんですか?」

 

「2人の話によるとラフコフの幹部の《赤目のザザ》と《ジョニー・ブラック》が主犯で、直接PKはしてないけど《ブラックバロン》というオレンジギルドが協力してたって……。ザザとジョニー・ブラックたちラフコフ、《ブラックバロン》のリーダー《シュラ》は逃亡したみたい……」

 

これはもう犯罪ギルドたちから攻略組への宣戦布告と言ってもいいくらいのものだ。

 

「この様子だと、ラフコフの奴らが更に攻略組プレイヤーを殺害してもおかしくないな……」

 

「そうね。これから今回の攻略組への襲撃事件のことで《聖竜連合》や他の攻略ギルドと会議することになったから、そろそろ行かないと。2人ともゴメンね」

 

「ギルド関連のことなら仕方ないだろ」

 

「アスナさんも気を付けてください」

 

「うん。それじゃあ……」

 

アスナさんが先に店から出て少ししてから俺とキリさんも店を後にした。

 

転移門まで来るとキリさんとも別れ、ホームがある第59層のダナクへと転移する。

 

自宅に戻ると部屋の明かりもつけず、イスに座ってあることを考える。

 

今日初めてアビスと直接対面したが、何故かアイツとは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()気がした。

 

3ヶ月ほど前にキリさんがアスナさんと一緒に関わった圏内事件を解決する中、ラフコフの幹部プレイヤーたちと遭遇して、その中にはアビスもいたと言っていた。その事件には俺はあまり関わっていなかったし、援軍として他の攻略組プレイヤーたちと一緒に駆け付けた時にはすでに奴らは逃げていたため、アビスとは直接対面してない。

 

他にもラフコフやオレンジプレイヤー関連のことでアビスと直接対面ことがあるか思い出してみるが、心当たりはなかった。

 

それにアビスは会ったことのない俺のことを見透かしていたかのように見えた。

 

これらはもしかすると俺の考えすぎていることかもしれない。元々アビスは何者なのかわからない奴だ。眠くなるまでこのことを考えていたが、結局わからないままだった。

 

 

 

 

 

それからラフコフによるPKはなくなることはなく、ただ被害が増える一方だった。

 

被害にあったのは中層プレイヤーから攻略組プレイヤーと幅広く、ついには《血盟騎士団》や《聖竜連合》といった規模の大きい攻略ギルドからも数名犠牲者を出してしまった。

 

これ以上、被害を出すわけにはいかないと攻略組は、一時的に攻略よりラフコフを壊滅させることをメインとした。念入りにラフコフに関する情報を集めた結果、ラフコフのアジトを発見することに成功。そして2024年の8月に《ラフコフ討伐戦》が決行されることになった。


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