ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
第56層 聖竜連合本部
2024年8月、俺はこの年は15歳で中3のため、本来は中学校生活最後の夏休みと高校受験で忙しい夏となるはずだった。だけど、今の俺は高校受験どころではない。何故かというと、これからモンスターとは別の相手をするため、自分の命を懸けた戦いが始まるからである。ある意味、高校受験の方がまだマシだったと思うくらいのものだ。
今から行われるのは攻略ではなく《ラフィン・コフィン討伐戦》。
今年の元旦から多くのプレイヤーたちに恐怖を与えた殺人ギルド《ラフィン・コフィン》……通称《ラフコフ》のアジトが8ヶ月もかけてやっと発見することに成功した。聞いた話によるとある2人のプレイヤーが密告してきたらしい。念入りに調べられ、ついに密告してきたプレイヤーたちが話したところが、奴らのアジトだと断定することが出来た。
そして、ラフィン・コフィン討伐の会議が《聖竜連合》の本部で開かれることになった。深夜の1時過ぎとなり、多くのプレイヤーが眠りについている中、ここに攻略組プレイヤーが続々と集まっている。
会議が行われる部屋に向かっていると前にキリさんの姿があった。
「キリさん」
「リュウか。ここにいるってことはお前も参加するってことだな」
「はい。俺、現実世界では
「デスゲームと化したこの世界で死ぬと現実でも本当に死ぬからな。まさか、こんなことになるとは……」
「楽して助かる命がないのは、現実世界も仮想世界も一緒ですからね……」
「だけど、奴らの命を奪おうとは考えるなよ」
「はい……」
いつもならこの辺りでキリさんが冗談を言って場の空気を和ませようとしてくるが、今回ばかりは言わなかった。キリさんでさえ、冗談を言う余裕はないってことだろう。
会議が行われる部屋の入口のところである2人の人物に出くわし、俺たちは驚いてしまう。
「カイトさん、ザックさん……」
「まさかお前たちも……」
「ああ。奴らをここで潰すことができるチャンスだ。殺されたアイツらの無念を晴らすためにもな」
「ラフコフを潰す。これはオレの務めだ……」
カイトさんとザックさんはそう言い残し、会議が行われる部屋へと入る。2人の後ろ姿は哀愁を漂わせており、これ以上2人に何て声をかけていいのかわからず、黙り込んでしまう。
やっぱり、カイトさんとザックさんは殺された仲間の仇を取るために……。
俺もキリさんもカイトさんとザックさん……《ナイツオブバロン》とは親交があった。
俺がカイトさんとザックさんと知り合ったのは第1層フロアボス攻略の時に一緒にパーティーを組んだ時だった。ファーランさんとミラが生きていたときは、攻略中に会うとレイドを組み、俺がソロプレイヤーとなってからはパーティーに入れてくれた。
カイトさんたちがパーティーに入れたのは俺だけでなくキリさんもだ。特にキリさんはカイトさんとザックさんとベータテスター時代からの知り合いで、2人とは俺よりも付き合いが長い。実際に《ビーター》と呼ばれていたキリさんを、カイトさんとザックさんが気遣っていたところを何度も見たことがある。
カイトさんとザックさんのことを気にしながらも俺とキリさんも部屋へと入る。
部屋には50人近くの攻略組プレイヤーたちが集まっていた。
集まったのは《聖竜連合》はもちろんのこと、最強ギルドの《血盟騎士団》に、クラインさんのギルド《風林火山》といった有力な攻略ギルド、そして俺やキリさんのようにギルドに属してない攻略組のプレイヤーたち。ここにいるほとんどの人は見たことがある人たちだ。
最強のプレイヤーと言われている《血盟騎士団》のヒースクリフ団長がいなかったのは残念だった。だが、彼がいなくてもこれだけの攻略組プレイヤーがいるなら大丈夫だろう。
部屋に入って5分ほど待っていると《聖竜連合》のディフェンダー隊のリーダーを務めているシュミットさんが、数名の幹部と共に前に出て来る。今回の作戦の指揮はシュミットさんがやることになったのだろう。
「志願者はこれで全員だな。よし、これより《ラフィン・コフィン討伐戦》の会議を始める。本作戦の指揮を執ることになった《聖竜連合》ディフェンダー隊リーダー、シュミットだ」
シュミットさんの開始の言葉と共に、周りは殺伐とした空気に包まれた。
「まずは《ラフィン・コフィン》のアジトの場所についてだ。この中にはもう知っている者もいるかもしれないが、もう1度説明する」
ラフィン・コフィン……ラフコフのアジトがあるのは、すでに攻略された低層フロアの小洞窟のダンジョン。そこの安全地帯を根城としているらしい。そのダンジョンがあることを知っているプレイヤーがほとんどいないため、仮に偶然発見したとしても口封じとしてラフコフに殺害されていたに違いない。
ここをラフコフのアジトと断定できたのは、密告してきた2人のプレイヤーの存在と、念入りに偵察を行ったからだ。
「次はラフコフの主要メンバーたち、この5人には注意してもらいたい」
聖竜連合の1人の幹部がボードを出すとそこには、5人のプレイヤーの写真が貼られる。ボードに貼られていた5人は全員知っているがある奴らだった。
ラフコフのリーダーの《PoH》。《
サブリーダーの《アビス》。魔剣クラスの両手剣を使用。ラフコフの中で唯一、PoHと対等に話せる人物であり、奴とは元から相棒だったという噂もある。ラフコフの№2であるが、戦闘能力は攻略組のトップクラスに匹敵し、戦闘能力においてはラフコフ№1とも言われている。PoHたちとは異なり、『さあ、地獄を楽しみな』という決め台詞を言う。PoHと共にデスゲームと化したこの世界で『HP全損だけはさせない』という決まりを破った人物だ。
幹部の《ソニー》、《ザザ》、《ジョニー・ブラック》。
幹部の1人のソニーは、黒いニット帽を深く被って白い布で顔の下半分を隠した姿をしているが特徴のプレイヤーだ。戦闘スタイルは盾なしの片手剣で、PoHとアビスに次ぐ実力を持っており、ラフコフの№3とも言われている。自分や他のメンバーが殺したプレイヤーを赤と黄色の玉が付いた算盤のようなものでカウントする悪趣味の持ち主である。
エストック使いのザザ。またの名を《赤目のザザ》。髪の毛と眼を赤にカスタマイズし、髑髏のマスクを着けている。言葉を短く切りながら話す癖がある。凄腕のエストック使いで、殺したプレイヤーからエストックを奪いコレクションしている。
ザザの相棒のジョニー・ブラック。頭陀袋のような黒いマスクで顔を覆い、黒い装備で、子供みたいな態度をした毒ナイフ使い。ザザと組み10人以上のプレイヤーを殺害。PoHとアビスのことを信仰しているらしい。コイツも戦闘能力は高い。
ザザとジョニー・ブラックの説明をシュミットさんがしているとき、カイトさんとザックさんは怒りに満ちた眼をしていた。アスナさんの話によると《ナイツオブバロン》のメンバーは奴らによって殺されたらしい。カイトさんとザックさんは絶対にザザとジョニー・ブラックと戦うに違いない。最悪の場合、奴らを殺すこともあり得る。
そして、俺はサブリーダーのアビスと因縁がある。数週間前に俺はアビスに敗北して殺されそうになった。それにアビスは前に初対面であるはずの俺と何処かで会ったようなことを話していた。奴を捕えることができれば、この真相がわかるかもしれない。
「最後は本作戦について説明する。ラフィン・コフィンのアジトの入口を封鎖し、奴らに逃げ場がないことを思い知らせて降伏させ、投獄させる。アジトに突入する時間は午前3時と……」
「奴らがそう簡単に無血降伏すると思うのか?」
シュミットさんが言っている最中に割って話しかけてきたのはカイトさんだった。ザックさんと共に前に出てきてシュミットさんに問いかける。
「シュミット、お前もラフコフの奴らがその辺のオレンジプレイヤーと違って、殺しを娯楽みたいに楽しんでいるレッドプレイヤーだと知っているだろ」
更に話を続ける。
「攻略組のプレイヤーも殺すような奴らだ。最悪の場合、俺たちの手で奴らを殺すしか道はない……」
確かにカイトさんの言う通り、ラフコフのプレイヤーたちは俺たちの命を躊躇いもなく奪ってくるだろう。カイトさんは奴らを殺すことができるのかとシュミットさんだけでなく、この場にいた全員に聞いた。
今のカイトさんの眼はラフコフのプレイヤーを殺すことを覚悟している。ザックさんは俺たちと同様に前の方を向いているため、顔は見えない。恐らく、ザックさんもカイトさんと同じ眼をしているだろう。
カイトさんの気迫と彼が言ってきたことにシュミットさんだけでなく、この場にいた全員が黙ってしまう。
この沈黙した空気を破ったのはシュミットさんだった。
「カイトの言うとおり、そうなる可能性は高い。もしも自分や仲間が殺されそうになったときは……」
だけど、シュミットさんはその後の続きを言うことが出来なかった。この場にいる全員がわかっているだろう。その時は自分たちの手で殺すしかないことを……。
「以上で《ラフィン・コフィン討伐作戦》会議を終了する。作戦は30分後の午前3時に開始する。それまで装備の確認をしておくように。解散」
重い空気の中、会議は終了した。
会議の終了後、俺は人があまりいない廊下の方に行き、そこにある階段に腰掛ける。
メニューウインドウを開き、《ドラゴナイト・レガシー》をしまい、別の片手剣を装備する。
取り出したのは《ドラゴナイト・レガシー》と同様の片刃状の片手剣。この剣はファーランさんとミラが死ぬ少し前から、クリスマスイベントの時にキリさんと戦ったときまで使っていたものだ。性能は《ドラゴナイト・レガシー》に劣るが、赤い目の巨人を皮切りに、《巨大樹の森》にいる20体以上の中ボスの巨人型モンスターを倒したこともあってそれなりに性能がある。
キリさんを傷付けようとしたことからこの剣は使わないと決めていたが、まさかこういう形でまた使用することになるとは……。
この剣を使って巨人を倒しまくっていたときの俺なら、自分が死ぬことも誰かを殺すことも恐れずにラフコフと戦うことができただろう。だけど、今の俺は違う。自分が死ぬこととも誰かを殺すことも怖い。それでも俺は戦わないといけない。自分が生きるためにも誰も殺させないようにするためにも……。
頬を両手で叩き、覚悟を決めた時だった。
「リュウ、こんなところにいたのか」
「キリさん……」
キリさんは俺のところにやって来て隣に座る。
「リュウは覚悟を決めたのか?」
「はい。でも、まだはっきりとは……。できれば奴らには降伏してもらいたいのですが……」
「そうだな。俺もそう願っているよ……」
それから俺とキリさんは一言も話すことはなく、討伐作戦に挑むことになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
2時間前……
第57層・マーテン
オレが今いるのはマーテンにある《ナイツオブバロン》のギルドホーム。だけど、リク、シン、ゴウの3人がラフコフに殺され、今ここに住んでいるのはオレとカイトしかいない。今は静まり返っていて、あの賑やかだったギルドホームが懐かしく思える。
そこで、オレとカイトは《ラフィン・コフィン討伐戦》の会議が行われる《聖竜連合》の本部に向かうため、各自の部屋で支度をしている。
ワインカラーのシャツの上に赤いアクセントカラーの黒いジャケットといつもの戦闘用の服装に着替え、背中に1本の槍を背負う。だけど、今背負っているのはいつも使っている《ナイトオブ・クレセント》ではなく、バックアップ用の槍だ。
《ナイトオブ・クレセント》は2ヶ月ほど前に出会ったある鍛冶師の少女が作ってくれた最高の槍だ。それを今回の戦いでどうしても使うわけにはいかなかった。今回の戦いで使ったとなれば、彼女を悲しませることになるに違いない。
「人殺しなんか……」
そんなことを考えていると、ドアをノックする音がし、カイトの声がする。
「ザック、入るぞ」
「いいぞ」
承諾すると、ドアが開かれてカイトが部屋に入ってきた。
カイトもワインカラーのシャツの上に赤いアクセントカラーの黒いロングコートといつもの戦闘用の服装に着替え、左腰の鞘には《フレイムセイバー》が収められていた。
「カイト、お前はラフコフの奴らが降伏しなかったら本当に殺すつもりなのか」
「ああ……。奴らとはそのくらいの気持ちを持たないと戦えない。でないと、俺たちが殺されるだけだ」
「いくらアイツらがレッドプレイヤーだと言われていてもオレたちと同じ人間だ。できれば殺したくはない……」
「それは俺も一緒だ。だが、誰かを犠牲にさせないために戦うことができる奴が必要だ。恐らくここで失敗すると、再び討伐作戦をやるにはまた8ヶ月後……もしかするとそれ以上、かかるかもしれない。奴らを潰すには今しかない。そうしないと殺されたアイツらの無念をいつまでも晴らすことはできないからな……」
いつものように冷静にいるカイト。だが、できれば殺し合いになることはあまり望んでないのが伝わってくる。
カイトはオレの1歳年下の幼馴染で付き合いもこの世界にいる誰よりも長い。だからカイトだけを行かせるわけにはいかない。カイトのためにもここで出会って共に戦ってきたあの3人のためにもラフコフはここで潰す。これはオレの務めだ。
だけど、殺しだけは絶対にしない。いくらレッドプレイヤーだと言っても殺したらオレも奴らと一緒だ。
そう言い聞かせ、カイトと共に《聖竜連合》の本部へと向かう。