ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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第15話 ラフィン・コフィン討伐戦 後編

午前3時になり、討伐隊のプレイヤー全員が集まる。

 

シュミットさんは全員いることを確認すると《回廊結晶》を取り出す。

 

回廊結晶は転移結晶とは異なり、転移ゲートを開いて複数のプレイヤーを移動させることができる。だけど、利便性が高いため、NPCのショップでは販売してない。入手方法はトレジャーボックスか強力なモンスターのドロップしかないため、入手しても安易に使用することは出来ない。今回はそんな余裕もないこともあって、使用されることになった。

 

シュミットさんは回廊結晶を持った右手を高く揚げて「コリドー・オープン」と言った。すると、回廊結晶は砕け散り、代わりに転移ゲートが姿を現す。

 

先に、シュミットさんと《聖竜連合》のメンバー、アスナさん率いる《血盟騎士団》が転移ゲートの中に入っていく。残りのプレイヤーもその後に続く。

 

ゲートを潜った先には洞窟ダンジョンの入り口があった。

 

ここが《ラフィン・コフィン》のアジトがある洞窟ダンジョンの入口か。何だろうか、他のダンジョンの入り口とは違い、地獄への入口にも見える。いつもなら待ち受けているのはモンスターだが、今回はモンスターじゃなくて俺たちと同じプレイヤーだ。ある意味、フロアボス以上に厳しい戦いになるだろう。

 

「よし、いくぞ」

 

《聖竜連合》と《血盟騎士団》を筆頭に俺たち討伐隊は洞窟の中に入っていく。

 

ダンジョンの中はモンスターもいなく、不気味なほど静まり返っていた。この中を50人もの討伐隊は慎重に進んで行く。

 

洞窟の中を30分ほど進み続け、もうすぐ《ラフィン・コフィン》のアジトがあるというところまでやって来た。

 

一番前にいたシュミットさんが立ち止まって振り返る。

 

「もうじき報告のあったラフィン・コフィンのアジトだ。突入の前にもう1度確認しておく。奴らはレッドプレイヤーだ!戦闘になったら俺たちの命を奪うことに何の躊躇もないだろう。だからこっちもためらうな。迷ったら殺られる」

 

討伐隊のメンバー全員がそう思っているだろう。だけど、実際に躊躇わずにやれるかどうかはわからない。

 

この場は相変わらず、殺伐とした空気に包まれている。

 

「だが、人数もレベルも俺たちの方が上だ。案外、戦闘にならないで降伏ということもあり得るかもな」

 

シュミットさんの言葉に、場の空気が和んだ。

 

本当にそうなって欲しいと願った時だった。策敵スキルに何か反応がある。モンスターか?いや、違うこれは……。

 

その時だった。ラフコフのプレイヤーたちが現れ、俺たち討伐隊に襲い掛かってきた。その数は約30。アジトの手前でこんなにラフコフのプレイヤーがいるなんておかしい。見張りがいたとしても多くても3~5人くらいでいいはずだ。

 

考えられる理由は1つしかない。俺たちの作戦の情報が漏れていたんだ。

 

「囲まれたぞ!」

 

「やむを得ん!戦闘開始!!」

 

シュミットさんの言葉と共に討伐隊も各自武器を取り、戦闘を開始する。俺も片手剣を取り、曲刀を持って襲い掛かってきたラフコフのプレイヤーを迎え撃つ。

 

レベルもスキル熟練度も俺の方が上で、徐々にラフコフのプレイヤーを追い詰めていく。隙を見て、相手の曲刀を弾き飛ばして少しダメージを与える。そして捕獲のために用意しておいたレベルが低い麻痺毒付きの投剣用のピックを投げて動きを封じる。本当はこういうことはオレンジプレイヤーがやるようなことで気持ちがいいことじゃないが、今回はそうも言っていられない。

 

「リュウ大丈夫かっ!?」

 

「クラインさんっ!俺は大丈夫です。早く捕まえないと麻痺効果が切れてしまいます!」

 

「よし!オレとリュウがコイツを縄で縛っている間、お前たちはガードしてくれ!」

 

クラインさんたちと協力し、1人のラフコフのプレイヤーを縄で縛って捕まえる。

 

周りを見ると《血盟騎士団》や《聖竜連合》をはじめ討伐隊は、武器を失って無力化したラフコフのプレイヤーたちを何人か捕まえるのに成功している。

 

毒に目くらましといった不意打ちで、討伐隊は混乱に見舞われたものの、体勢を立て直した。これなら1人も死者を出さずに済みそうだ。そう思った時だった。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 

「何だ!?」

 

悲鳴をした方を見ると《聖竜連合》が2人、ポリゴンの結晶となって消えた。そこには1人のラフコフのプレイヤーが武器を持って立っていた。

 

「まさか……」

 

一番恐れていたことが起こった。討伐隊からの犠牲者。

 

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 

別の方でも討伐隊のプレイヤーが2人のラフコフのプレイヤーに殺されたところだ。

 

その2人はあと一撃で死ぬというところまでHPが減っている。討伐隊のプレイヤーは殺すことを恐れているうちに殺されたに違いない。

 

更にその近くに仲間が死に、自分が殺されることに恐怖に包まれて動けないでいる討伐隊のプレイヤーが1人。そのプレイヤーが今にも2人のラフコフのプレイヤーに殺害されようとしていた。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

討伐隊のプレイヤーに武器が振り下ろされる寸前だった。

 

突如2人のラフコフのプレイヤーはポリゴンとなって砕け散って消滅……死んだ。これをやったのはカイトさんだった。

 

「フンッ、やはりこうなったか。まあ、初めからわかっていたが……」

 

カイトさんが呟くと、討伐隊のプレイヤーたちに向かって叫ぶ。

 

「どうだ、これでもお前たちはまだコイツらと話し合いの余地があると思うか?そんな甘い考えを持っていると自分だけじゃない!仲間も殺されるぞ!!」

 

カイトさんの叫びに討伐隊の全員が気付く。

 

ためらったら、こっちが殺されるということを……。

 

「おいおい!随分と威勢がいいなあっ!刀使いさんよぉぉぉぉっ!!死ねぇぇぇぇっ!!」

 

1人のラフコフのプレイヤーが狂ったように後ろからカイトさんに片手斧を振り下ろそうとする。

 

「カイト――――っ!!」

 

ザックさんがカイトさんを殺そうとしていたラフコフのプレイヤーの頭を槍で貫く。そして槍で貫かれたラフコフのプレイヤーはポリゴンとなって砕け散る。

 

「今のは危なかったぞっ!!」

 

「悪い。助かった……」

 

すると、カイトさんとザックさんの目の前にある2人のプレイヤーが現れる。1人は髪の毛と眼を赤にカスタマイズし、髑髏のマスクを着けてエストックを持っているプレイヤー、もう1人は頭陀袋のような黒いマスクで顔を覆ってナイフを持っているプレイヤー。ソイツらは攻略会議の時に要注意人物として話に出てきたラフコフの幹部プレイヤーのザザ、ジョニー・ブラックだ。

 

「まさかお前たちとここでまた会えるとはな。俺たちが一番願っていたことだ」

 

「オレもだぜ~。カイト、ザック。ここであの時の続きができるからな~」

 

「笑っていられるのも今の内だ」

 

「お前たちはここで終わりだ!」

 

「おー、怖い怖い!オレを倒せるのかぁ?」

 

「オレの務めだっ!!」

 

ザックさんはそう言うと、ジョニー・ブラックと戦闘を開始する。そして、カイトさんもザザと戦闘を開始した。その2つの戦いは激しさを増していく一方だ。

 

更にキリさんの目の前には黒いニット帽を深く被って白い布で顔の下半分を隠したプレイヤー、ラフコフの幹部の1人であるソニーが現れる。

 

「お前の相手は俺だ、《黒の剣士》……」

 

「PoHに黙って俺の相手をしていいのか、ソニー」

 

「許可はヘッドから貰った。今回は記録じゃなくてお前を殺す……」

 

ソニーが取り出したのはいつも持っている算盤じゃなくて片手剣。それでキリさんを斬り付けようとする。キリさんは攻撃をかわし、《エリュシデータ》で応戦する。

 

ソニーが武器を持って戦闘をするのは興味が持った……自分の手で殺したいと思ったプレイヤーがいた時だけらしい。そのため、あまり奴の戦闘データはないが、PoHとアビスの2人に次ぐ実力を持っているのが見てわかる。

 

ラフコフの幹部3人を相手しているキリさんたちに今すぐ手を貸しに行きたいが、俺もそれどころじゃない。

 

すでに戦いは拘束だけでなく殺し合いと血みどろの地獄となった。あちこちでプレイヤーの悲鳴とポリゴンが砕け散る音がする。それはラフコフのプレイヤーなのか討伐隊のプレイヤーなのかわからない。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

すると俺に両手剣を持って黒いポンチョで身を隠したラフコフのプレイヤーが襲い掛かってきた。振り下ろしてきた両手剣を片手剣で受け止める。

 

格好や武器から一瞬アビスかと思ったが、違った。アビスとは声も使用する剣も異なっている。恐らくアビスを真似ているのだろう。

 

「リュウ!今助けるぞ!」

 

「俺は大丈夫です!コイツは俺が何とかします!クラインさんたちは他の人たちの援護を!!」

 

「わかった!そのかわり、おめぇ死んだら許さないぞ!」

 

「はい!」

 

アビスを真似た姿をしたラフコフのプレイヤーをクラインさんたちから遠ざけ、戦闘に入る。敵は容赦なく攻撃してくるが、俺はそれを全て片手剣で防ぐ。いくらアビスの姿を真似ても戦闘能力だけは真似ることはできないため、俺の方が有利だ。

 

「アビスさんが言っていた《青龍の剣士》と戦えることがあるなんてなぁっ!」

 

「まさか、お前はアビスに憧れてアイツみたいに黒いポンチョ姿で両手剣をいるのかっ!」

 

「そうだ。ヘッドも十分魅力的だけど、アビスさんは多くのプレイヤーたちを恐怖に包み込んで深い地獄に落としてオレの憧れなんだよ! 」

 

「目を覚ませっ!アイツはこの世界で人の命を軽く見て楽しんでいるような奴なんだぞっ!!」

 

怒りが籠った声で叫び、必死に相手を説得しようとする。

 

俺はまだ殺してないが、討伐隊とラフコフ関係なくプレイヤーが死んでいくのを何人も見た。そのせいで精神がもたない状況となっている。ファーランさんとミラが死んだときみたいに理性がなくなりそうだ。

 

「そんなこと知るか」

 

「この世界で死んだ人は現実でも死ぬんだぞっ!!」

 

「何言っているんだ。ここで死んだ人間が現実でも死ぬなんてハッタリだろ。それに人が苦しむほど楽しいからやっているんだよ」

 

奴はそう言うと笑い始める。

 

完全に(あん)ちゃんに、ファーランさんとミラ、ディアベルさんやフラゴンさんたちといった現実やSAOで死にたくなくても死んだ人たちのことを侮辱している。

 

今もなお、討伐隊とラフコフプレイヤーが何人も死んでいる。

 

俺はすでに怒りを抑えることができなくなっていた。奴に赤い目の巨人と同じように怒りと殺意を抱く。

 

「そうか。ああ、わかったよ……」

 

そう呟き、アビスを真似た姿をしたラフコフのプレイヤーを睨む。

 

「お前たちをまだ説得できると思った俺が馬鹿だった。今ならわかる、お前たちとは殺し合うことでしかわかり合えないってことをなっ!!」

 

怒りを爆発させた俺を見て奴はビクッと凍りついたかのように動けなくなる。

 

「これがアビスさんが見たって言っていた《青龍の剣士》なのか……。おいおい、聞いていた話以上にヤベえぞ……。コイツは本当に……」

 

バキンッ!!

 

言い終える前に奴が持っていた両手剣をシステム外スキルの武器破壊を使って破壊する。破壊された両手剣はポリゴンとなって消滅する。

 

これで相手は武器を失ったにも関わらず、俺は攻撃を止めようとしなかった。

 

武器を失ったラフコフのプレイヤーを怒り任せに何回も剣で斬り裂き、突き刺す。

 

奴は隙を見て隠し持っていたナイフをポンチョの中から取り出し、俺に突き刺そうとする。俺はあっさりと攻撃をかわし、体術スキルによるパンチを顔面に一発叩き込む。

 

「がはっ!!」

 

その衝撃でラフコフのプレイヤーは吹っ飛ばされ、地面に倒れる。

 

吹き飛ばされたラフコフのプレイヤーへ向かって悠然と進む。悪あがきとしてナイフを投げて来るが剣で防ぐ。

 

「ひっ!」

 

ラフコフのプレイヤーは恐怖に包まれ、逃げられないでいる。

 

「待ってくれ!悪かった、許してくれ!まだ死にたくないっ!!」

 

命乞いをしてくるが聞く耳を持たない。コイツらはそうやって来た人たちを殺してきたんだ。今度は自分がその立場になって見ろ。死んで償え!

 

片手剣を両手で強く握りしめ、逃げようとなんとか立ち上がったラフコフのプレイヤーを怒りの声をあげながら何回も斬り裂く。

 

HPはどんどん減っていき、レッドゾーンに突入。ついにはあと一撃で死ぬところまでやってくる。ラフコフのプレイヤーは再び倒れ込む。

 

トドメの一撃にと逆手持ちにした片手剣をラフコフのプレイヤーの腹に突き刺そうとする。

 

「これで終わりだぁ!!」

 

ガンッ!!

 

突き刺さる寸前で、キリさんが《エリュシデータ》で俺の片手剣を弾き飛ばす。

 

弾き飛ばされた剣は地面に転がる。

 

「リュウ、よせ!」

 

「ッ!!」

 

キリさんの声を聞き、我に返る。

 

よく見るとさっきまで俺が戦っていたラフィン・コフィンのプレイヤーはすっかり戦意喪失して俺に怯えていた。そして、キリさんは身体を震えていた。

 

「お前まで人殺しになるな……」

 

キリさんが言ったことがすぐに理解できた。俺は人を殺そうとしていたのか……。そのことにショックを受け、地面に膝を突き倒れ込む。

 

更にその数分後、シュミットさんの戦意喪失したラフィン・コフィンのプレイヤーの投降に成功したという声が聞こえ、作戦が終了した。

 

アスナさんが渡してきたポーションでHPを回復させ、冷静さを取り戻したところでアスナさんから今回の作戦がどうなったのか聞いた。

 

この《ラフィン・コフィン討伐戦》でソニー、ザザの幹部2人を含めた12人が捕まり、黒鉄宮の監獄に送ることに成功。しかし、ラフィン・コフィンから21人、討伐隊から8人の死者を出してしまった。幹部の1人……ジョニー・ブラックが逃亡。そして、ラフコフの死者と牢獄に送られた者、逃亡者の中にリーダーのPoHとサブリーダーのアビスの名前はなく、行方不明という結果となった。

 

不謹慎なことだが、関わりがあるキリさんやアスナさん、カイトさんとザックさん、クラインさん率いる《風林火山》の人たちは全員無事で安心した。

 

「ザック、しっかりしろっ!」

 

カイトさんの声がした方を見るとそこには、カイトさんに肩を貸してもらっているザックさんの姿があった。ザックさんの眼からはハイライトが失っており、1人でまともに歩けない状態となっていた。

 

すると、ザックさんの右手から槍がカランッと音を発てて地面に落ちる。

 

「ザックさん、落としましたよ……」

 

拾ってザックさんに渡そうとする。

 

だけど、ザックさんは怯えるように槍を手で振り払い、その拍子によろけて地面に倒れ込む。

 

「ざ、ザックさん……?」

 

「おい、どうした?」

 

俺とカイトさんが声をかけると、声を震わせて何か言い始めた。

 

「お、オレは……オレは……。ウワアアアアァァァァッ!!」

 

ザックさんは両手を頭に当て絶叫をあげる。ラフコフと殺し合いをしたこの場所にザックさんの絶叫が響き渡る。

 

絶叫をあげるザックさんを見て、この場にいた人たちは言葉を失ってしまう。

 

この血みどろの地獄となった戦いは、ラフコフが消滅した代わりに俺たち……討伐隊に参加したプレイヤーたちに大きな傷跡を残すものとなった。俺たちは仲間を失うだけでなく、レッドプレイヤーだからとはいえ、人の命を奪ってしまったのだから……。




ある意味、3回目のトラウマ回となってしまいました。私が書くアインクラッド編はトラウマになるような話が多いような……。

リュウ君がラフコフの名前の知らないプレイヤーにブチギレたところは、仮面ライダークウガで五代雄介がゴ・ジャラジ・ダという外道な怪人にブチギレたシーンを元としました。流石にジャラジほど外道ではありませんが、リュウ君がブチギレてもおかしくないと思います。本当はクウガのように何十発も殴って剣で滅多切りにするつもりでしたが、ヤバすぎるため少し内容を変更しました。それでも、戦意喪失した敵にトドメを刺す寸前まできたのはちょっとヤバい気がしますが。

再構成前と異なり、ジョニー・ブラックが逃亡。更に後味が悪い感じで終わってしまいましたが、これらは後の話に色々と関わって来る予定です。

次回からは再構成前とは違う展開になります。

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