ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
オレがやって来たのは、とても人が住めるような状態ではない建物が立ち並んでいるゴーストタウンを元にしたフィールドダンジョンだった。ここでリクとダイチとハントはジョニー・ブラックたちに殺された。オレやカイトにとって忘れられないところだ。
日はすっかり沈み、ゴーストタウンということもあって不気味さがいつも以上に増している。
ゴーストタウンの広場に足を進めると、ジョニー・ブラックとシュラ、そしてリズがいた。
「リズ!」
「ザック!」
リズは縄で縛られていて身動きが取れない状況だ。
「リズを離せっ!」
「まあまあ、そんなに焦るなって。お前を殺したら返してやるよ」
随分と余裕を見せて笑っているジョニー・ブラック。オレはコイツのこういう態度がもの凄く嫌いだ。コイツはこうやって罪のないプレイヤーを何人も殺してきたからな。
ジョニー・ブラックの隣にいるシュラも奴ほどじゃないが、余裕を見せている。
「ジョニー・ブラック、シュラ。ラフコフはもうない、お前たちも諦めて牢獄に送られるんだな」
「何言っているんだよ。ヘッドとアビスさんがいない中、オレが頑張らないといけないだろ。ラフコフの傘下ギルドの中でも相当の実力者のシュラと一緒にラフコフを再建するんだよ」
「ソニーさんやザザさんがいない中、オレがジョニーさんとラフコフを再建したとなれば、幹部に出世間違いないぜ」
やっぱり残党組はラフコフの再建を企んでいたか。それがわかった瞬間、オレは笑みを浮かべる。
「お前たちが新たなラフコフを作るだと?笑わせるな」
「だったらよ~、ザック。ここでオレたちと決着を付けようぜ」
「まあ、いくらお前でも2対1じゃ不利だと思うが」
「お前たちを倒してリズを助ける!」
ジョニー・ブラックは毒付きのナイフ、シュラはランスを取り出す。オレも背中から1本の槍を取り出す。いつも愛用している槍の《ナイトオブ・クレセント》は今ここにはない。だが、コイツらと決着を付けるにはこれで十分だ。
オレが武器を取った直後、ジョニー・ブラックとシュラがナイフやランスを使って攻撃してくる。
槍の矛先でシュラのランスを受け止め、刃が付いていない先端の方でジョニー・ブラックの腹に付きを放つ。槍で薙ぎ払うとしたが、シュラがランスで受け止め、その隙にジョニー・ブラックがナイフで斬り付けようとしてくる。すぐに回避し、反撃にジョニー・ブラックのナイフを持っている方の腕を槍の柄部分で殴る。
「いや~。やっぱり強なぁ、ザック~」
「攻略組の槍使いは伊達じゃないな」
攻略組よりレベルが低いとはいえ、プレイヤースキルが高いコイツら2人が同時に相手になるとちょっと厄介だな。特にジョニー・ブラックのナイフには毒が塗ってある。あれだけは絶対に喰らうわけにはいかない。
シュラはランスによる攻撃を繰り出してくる。突き攻撃だけじゃなくて両手剣のように振るい、打撃攻撃も与えてくる。重装騎兵が使う武器であるため、威力は高い。攻撃を見切り、回避したり槍で受け止めたりする。そして、薙ぎ払って一撃を与える。
「ぐわぁっ!」
攻撃をまともに受けたシュラは地面に転がる。
ジョニー・ブラックはもう1本ナイフを出し、1本のナイフを投げてきた。槍で投げてきたナイフを弾き飛ばす。すると、奴はウォール・ランで近くにあった1階建ての建物の壁を上る。オレもウォール・ランを使って壁を上り、屋根に着地。そのまま、屋根の上で戦闘を開始するオレたち。次第に激しさが増す中、ナイフを手から弾き落とし、奴の左肩を付く。
「うおっ!?」
攻撃をまともに喰らったジョニー・ブラックは屋根から落下し、地面に転がる。オレもジョニー・ブラックを追うように屋根から飛び降り、地面に着地する。
多少手こずったとはいえ、これで2人まとめて追い詰めることができた。だけど、ジョニー・ブラックとシュラは余裕な顔をしている。
「随分と余裕そうだな。今のお前たちは不利な状況のはずだぞ」
「おいおい。不利なのはオレたちじゃなくてお前の方なんじゃないのか、ザック。お楽しみはここからだぞ」
「っ!?」
ジョニー・ブラックがそう言った直後、槍を持ったプレイヤーと短剣を持ったプレイヤーが2人ずつ現れる。4人全員カーソルがオレンジだ。
「卑怯者め」
「誰がオレたちだけだと言った?」
「勝利のみが強さの証だ」
ジョニー・ブラックが新たなナイフを取り出した直後、槍と短剣を持ったオレンジプレイヤーたちは、ジョニー・ブラックやシュラと共にオレに襲い掛かってきた。いくらレベルが低いとはいえ、6人分の攻撃を全て防ぐのは無理だ。しかも、短剣持ちの方はジョニー・ブラックのナイフと同様に刃には毒らしいものが塗ってある。ジョニー・ブラックたち毒ナイフ持ちの3人の攻撃を最優先に防ぐが、そのかわりにシュラや2人の槍使いの攻撃を受ける。
「ぐっ!」
少しずつであるがHPが減っていく。
「しまった!」
わずかな隙を付かれて、シュラに槍を弾き飛ばされ、更にはジョニー・ブラックの毒ナイフによる攻撃を受けてしまう。すると、麻痺状態になって身体が動けなくなって地面に転がる。
「ダメだ、身体が……」
念のために麻痺毒の対策をしてきたが、駄目だったか。
麻痺で動けなくなって倒れているオレのところにジョニー・ブラックとシュラがゆっくり歩み寄って来る。そして、抵抗できないオレを何度も蹴り、踏みつけてくる。
「ぐはっ!」
「いいザマだなぁっ!!ザックさんよぉっ!!」
「あの時、お前にこう言ったじゃんか。『お前もオレと同じ人殺しになったな』ってなぁ。覚えているか?殺された仲間の仇を取るため、ラフコフを壊滅させるために戦ったみたいだが、お前は人殺しなんだよ。つまり、オレたちの仲間ってことだ」
無様に転がっているオレをあざ笑っているシュラに、オレのことを自分たちと同じ人殺しだと楽しそうに言うジョニー・ブラック。コイツらの言う通りだ。そのせいで、言い返す言葉がなかった。
「ザックは人殺しなんかじゃないっ!!」
そう叫んだのはリズだ。
「ザックはアンタたちみたいな悪人からカイトや他のプレイヤーたちを守るために戦ったのよっ!ザックがどういう気持ちで戦ったのか、アンタたちには一生わからないことだわっ!!」
「おい、人質のくせにいい度胸しているな」
「女相手は随分と久しぶりだから楽しみだぜ~」
シュラはランスを、ジョニー・ブラックは毒ナイフを持ち、リズに近づこうとする。
徐々に麻痺の効果もなくなってきて、右手だけはなんとか動かせるようになった。右手でリズの近づこうとするシュラの右足を掴む。
「リズに近づくなぁ!!」
「やっぱりお前から殺した方がよさそうだな。お前が死ぬ瞬間をあの女に見せてやるよ」
シュラはオレの手を蹴り払い、オレにランスを突き刺そうと構える。
「師匠!!」
聞き覚えがある少年の叫びが響き渡る。やって来たのは背中に《クローバースタッフ》という緑をベースとした錫杖を背負い、オレの愛用している槍《ナイトオブ・クレセント》を持ったオトヤだった。
「オトヤ!」
麻痺状態が回復する。
オレはシュラが突き刺そうとしてきたランスを右手でがっちりと掴んで攻撃を防ぎ、蹴りを入れる。
蹴りをまともに喰らったシュラはジョニー・ブラックを巻き添えにし、よろける。その隙に身体を起こす。
「これをっ!」
オトヤはオレに《ナイトオブ・クレセント》を投げ渡してきて、それをキャッチする。やっぱりこの槍が一番だな。手にしっくりくる。
そして、ジョニー・ブラックとシュラの方を見て叫ぶ。
「確かにオレはラフコフのプレイヤーの命を奪った。だが、オレはもう迷わない。迷ってるうちに誰かが死ぬのなら……戦うことが罪なら、オレが背負ってやる!!」
オレが犯した罪は一生消えることはない。だから自分の罪から目をそらさず、受けいれるしかない。これが、オレが殺したプレイヤーへの償いだ。
ジョニー・ブラックとシュラがオレに毒ナイフとランスを持って襲い掛かってくる。オレはそれを《ナイトオブ・クレセント》を使って全て防ぎ、一撃ずつ攻撃を与える。
「何だ、槍を換えたらいきなり強くなりやがったぞっ!」
「ジョニーさん、そんなことあるわけないッスよ。あんなその辺にありそうな槍にそんな力ないですよっ!」
「この槍はリズが魂を込めて作ってくれた槍だ。その辺にある槍とは違うんだよ!!」
「何が魂がこもった槍だ!お前ら、女とそこにいるガキを人質にしろっ!」
ジョニー・ブラックは後から出てきた4人に指示を出す。マズイ、ここでオトヤとリズを人質に取られたら……。
「ぐわっ!」
突如、1人のオレンジプレイヤーが攻撃を受けてふっ飛ばされる。リズの傍には《血盟騎士団》特有の紅白衣装に身を纏ってレイピアを持った少女……アスナがいた。
「リズ、もう大丈夫だよ」
「アスナ!来てくれたの!」
「来たのはわたしだけじゃないよ」
アスナが視線を向けた方を見るとすでに3人のオレンジプレイヤーが倒されている光景が目に入った。
「まったく、オトヤが連絡をくれなかったらどうなっていたのか……」
「まあ、落ち着けよ。ザックたちは無事だったんだからさ」
「プレイヤーは助け合いですよね、ザックさん」
声の主はオトヤを保護し、武器を持っている3人の少年……カイトとキリトとリュウだった。
「カイト!それにキリトとリュウも!」
「ジョニー・ブラック、シュラ。お前たちはここまでだ。直に30人の援軍も来る。ザザやソニー、捕まった奴らと一緒にゲームがクリアされるまで牢獄での暮らしを楽しむんだな」
仲間を殺した張本人がいる中、カイトは怒りをこらえ、殺気に溢れた眼でジョニー・ブラックとシュラを見る。
すると、ジョニー・ブラックとシュラは逆上して、オレに襲い掛かってきた。そこにオレは槍スキル《ディメンション・スタンピード》を放つ。6連撃の突き攻撃が3連撃ずつジョニー・ブラックとシュラにヒット。奴らの手からは武器が離れ、地面に転がる。そして、まともに攻撃を受けたジョニー・ブラックとシュラは地面に倒れる。もちろん、HPはちゃんと残っていて死んでいない。
ジョニー・ブラックとシュラを倒した直後、《血盟騎士団》をはじめ、30人の攻略組プレイヤーがやって来た。ジョニー・ブラックとシュラ、奴らの仲間4人は全員まとめて黒鉄宮に送られた。
「リズ、大丈夫か?」
「当たり前でしょ。あたしはちゃんとザックが来るって信じていたんだから。助けに来てくれてありがとね」
いつものように笑顔でいるリズを見て一安心し、笑みがこぼれた。
事態を全て収拾した後、リズから呼び出され、数時間前にリズと会ったところへとやって来た。あの時はまだ日が出ていて明るかったが、今はすっかり夜になり、街は所々にある街灯で明るく照らされていた。そこにはすでにリズが来て待っていてくれていた。
「悪いな、遅くなってよ」
「あたしもさっき来たところだから。まあ、ここで約束をすっぽかしてたら一発メイスで殴ってやっていたけどね」
「おい、それはないだろ……」
「冗談に決まっているでしょ」
くだらないやり取りをし、オレたちは笑い合う。
「ところでオレに何の用だ?」
「実はザックに話しておきたいことがあって。本当はもっと早くに言っておけばよかったんだけどね。あたしをザックの専属スミスにしてほしいの」
「それってどういうことなんだ?」
「攻略が終わったら、あたしの店に来て装備のメンテをさせて。毎日、これからずっと……」
気のせいか、リズの頬が少し赤く染まっているようにも見える。
ま、まさかな……。
今日の出来事を通し、オレは間違いなくリズに惹かれた。これはハッキリとわかる。だけど、リズはオレのことをどう思っているかはわからない。一瞬、リズもオレのことが……ということで頬が少し赤く染まっているんじゃないのかと思ったが、オレが彼女に好意を寄せているための勘違いかもしれない。
「ザック……あたし……」
その時だった。
「うおっ!」
「キャッ!」
後ろの方から聞き覚えのある2人の声が聞こえた後、何やら騒がしくなる。振り返って見るとキリトとアスナが転んで倒れていて、ヤレヤレという表情をして2人を見ているリュウがいた。
「アスナ!?」
「キリト、リュウ!?」
オレとリズは3人がいたことに驚いてしまう。しかもオレに限ってはあんなこと考えていたからなおさらだ。
「アスナ、何やっているんだよ。早くどいてくれよ」
「ごめん、だって聞こえにくかったから……」
「あの、こういうこと止めておいた方が……」
キリトとアスナが起き上がった直後、リズはご立腹の様子で3人に近づく。しかも右手にはメイスを持っている。
「アンタたち、こんなところで何やっているのよ……」
当然、3人は冷や汗をかいて目が泳いでおり、明らかに慌てているというのが見てわかる。
「えっと、わたしたちはさっき偶然会って、この辺りを歩いていたらリズとザック君がいたからどうかしたのかなって……」
「俺たちは決してこっそり覗いて様子でも見ようぜって来たわけじゃないぜ!」
「キリさん、何言っているんですかっ!俺は止めた方がいいって言ってたんですけど……」
「リュウ、お前だけ罪逃れしようとしてないかっ!?」
「それはちょっとずるいと思うよ」
「だって事実じゃないですかっ!キリさんとアスナさんに無理やり誘ってきて……」
言い合う3人とはよそに、リズはゆっくりと3人に近づいていく。
「理由なんてどうでもいいわよっ!待ちなさーい!!」
「ヤベ、逃げろっ!」
「ごめーん、リズっ!」
「何で俺までっ!」
リズはメイスを持って逃げた3人を走って追いかける。キリトとアスナはともかく、リュウがちょっと可愛そうなような気がする。4人はそのまま、鬼ごっこをはじめ、オレはそれを見て笑っていた。
「やれやれ、アイツらはしょうがないな……」
「でも、皆さん楽しそうにしていますよ」
そう言って新たにやって来たのはカイトとオトヤだった。
「カイト、それにオトヤも……」
「この様子だともう大丈夫そうだな」
「ああ。ゴメンな、カイト、オトヤ。お前たち2人には特に迷惑かけてしまって。だけど、オレはもう大丈夫だ。いつまでもこのままでいと、死んだアイツら……リクとダイチとハントに怒られるからな。アイツらのためにも絶対にゲームをクリアして現実に帰らないとな」
そしてカイトの方を見る。
「だからカイト、またオレと一緒に戦ってくれるか?」
「当たり前だ。お前とは何年の付き合いだと思うんだ」
珍しくカイトは笑みを浮かべ、片手で拳を作って差し出してきた。オレも片手で拳を作ってカイトの拳にコツンとぶつける。
「オトヤもこれからもよろしく頼むな」
「はい。流石にカイトさんのように一緒に戦うのは無理ですけど、僕ができることをやります。師匠の弟子ですから」
オレとカイトはオトヤとも拳をぶつけ合う。その一方で、後ろの方ではリズや皆の騒いでいる声がする。リズたちがいる方を見てオレたちは笑った。
ブラックバロンやシュラという単語から気づいていた人もいるかもしれませんが、この話は鎧武外伝2のナックル編をモデルにしました。本当はジョニー・ブラックだけにする予定でしたが、奴1人だとピンチになる前にザックが倒してしまいそうなので、シュラも登場させました。
でも、「オレはもう迷わない。迷ってるうちに誰かが死ぬのなら……戦うことが罪なら、オレが背負ってやる!!」というところは仮面ライダーファイズのたっくんこと乾巧の名言です。これはリズの相手をたっくんみたいにツンデレキャラにする予定だったという裏設定があるからです。ザックが猫舌なのはそのためです。
ザックとリズの関係はリメイクでも友達以上恋人未満の関係となってしまいました。オトヤとシリカのカップルの方もですが、この2組が恋人になる日はいつになるのか(笑)
本当はここで原作1巻に突入したいのですが、主人公のリュウ君の活躍が薄くなるのを防ぐため、次回から数話リュウ君編になります。リメイク版のアインクラッド編も終わりに少しずつ近づいてきました。今後もよろしくお願いします。