ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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今回はアインクラッド編第8話に続いて、リュウ君の過去編第2回目となります。


第19話 絶望の中の光

『リュウ君……』

 

白い巨人が俺にゆっくりと迫ってくる中、頭の中に聞こえてきた覚えのある少女の声。一瞬ミラかなと思ったが、ミラは俺のことは『リュウ』と呼び捨てにするから違う。無理もない、ミラの声質は彼女と似ているからな。実際にミラの声を聞いて何度も彼女と似ているなと思ったほどだ。

 

ふと思い出したのは剣道をやり始め、彼女と出会った記憶だった。

 

 

 

 

 

5年前……

 

5年前と言えば、当時の俺は小学4年生だった。この学年から学校の部活動に参加することができ、俺も何かの部活に入ろうかと考えていた。しかし、どの部活に入ろうか中々決めることができずに悩んでいた。その時に仲のよかったある1人の友達が話しかけてくるのだった。

 

「剣道?この学校に剣道部なんてあったか?」

 

「違う違う、道場の方なんだよ。俺、去年から道場に通っていただろ」

 

その友達の家に遊びに行った時に竹刀と剣道の防具をチラッと見たことを思い出す。

 

「そういえば言っていたな。それがどうかしたのか?」

 

「実は俺が通っているところの道場、今年は入門者が少なくてさ。リュウはまだ部活何に入るか決めてないだろ。1ヶ月無料体験のコースもあるから候補としてどうかなってな。リュウ、運動神経もいいしさ」

 

「わかった。親に相談してみてみるけど、望みは低いと思った方がいいよ」

 

1ヶ月の無料体験があるとはいえ、防具など色々なことにお金がかかると聞いたことがあるため、両親にはダメだと言われるに違いないと思っていた。でも、俺の予想に反して、2人とも1ヶ月やって続けたいと思ったらやってもいいとOKしてくれた。

 

今まで運動は遊びや学校の体育の授業で色々スポーツはやったことはあるけど、剣道は一度もやったことがない。それでも昔から体を動かすことが好きだった俺は、剣道はどういうものなのか興味はある。竹刀だけど、剣を使うなんて初めてだ。そして1ヶ月の間、道場に通うことになった。まさかこうして友達に誘われて剣道をやることになるとは思ってもいなかった。

 

最初は竹刀の持ち方や防具の付け方といった基礎から入った。スポーツだけじゃなく勉強や、あらゆるものを始めるには基礎から入るのが決まりだからこういうのは当たり前のことだろう。

 

剣道は左利きの方が有利だと先生が言っていて、左利きだった俺は竹刀の持ち方や振り方は回数をこなしている内にコツを掴むことができた。しかし、防具の付け方や足の運び方を覚えるのには時間がかかった。防具の付けるのに時間がかかったり、足の運び方を何度も間違えて悔しい思いをした。それでも俺はもっと上手くなりたい、強くなりたいと剣道に熱中していった。

 

そして、1ヶ月の無料体験が終える頃にはこのまま剣道を続けたいと思うようになり、このまま道場に通うことになった。同時に両親が剣道の道具を買ってくれた。体験中は道場のものを借りていたため、初めて自分の道具を持ったときは嬉しかった。

 

 

 

 

 

それから半年ほどが経過。11月となり、少しずつ気温は低くなっていき、冬に入ろうとしている。初めは毎回の稽古で行う試合練習で負けてばかりだったが、この頃には勝てるようになり、半年前と比べて力は付いたと思う。しかし、俺と同級生のある人にはまだ一度も勝てないでいる。

 

今日もその相手にコテンパンにやられ、友達とそのことを話しながら帰っていた。

 

「今日も桐ヶ谷さんには勝てなかったなぁ」

 

「仕方ないだろ。桐ヶ谷さん、俺たち4年生だけじゃなくて上級生も含めて強いんだぞ。俺だって勝った記憶がないくらいだからな。勝つなんてかなり骨が折れるぞ」

 

「それでも俺はいつか桐ヶ谷さんに勝ちたいと思っているよ」

 

俺がまだ一度も勝つことができていない同級生の《桐ヶ谷直葉》さん。彼女は女子でありながら俺たちの学年ではもちろんのこと、上級生の男子にも勝つほど強い。今日も彼女にはコテンパンにやられたところだ。

 

それでも桐ヶ谷さんは剣道の経験者の先輩として剣道歴が浅い俺に色々とアドバイスをくれ、そのおかげで剣道も少しずつ上達していっている。

 

そんな彼女だからこそ、俺は堂々と勝負して彼女に勝つことを目標としている。

 

「毎回、桐ヶ谷さんに挑戦するだけあるな。でも今日だって一方的にやられていたけどな」

 

「ほっといてくれよ……」

 

試合練習の時には毎回1回は必ず桐ヶ谷さんと戦っている。もちろん毎回やられてしまうが。このままいけば、桐ヶ谷さんに負けた回数の記録がどんどん更新していくだろう。いつになったら彼女に勝つことができるのか。

 

そんなことを話して帰っている途中、ふとあることを思い出す。

 

「ヤバい、道場に水筒忘れた」

 

今いる場所から道場までは往復で10分くらいかかる。引き返して戻ることはできる距離だ。

 

「ゴメン、取りに戻るから先に帰ってて」

 

友達に言い残し、道場へと戻ることにした。

 

道場に戻ると水筒は忘れていった場所にちゃんとあった。

 

「よかった。水筒も無事にあったことだし、早く帰ろうか」

 

道場を出て来た道を戻ろうとしたときだった。

 

「今日も随分と勝ちまくって調子に乗っていたな」

 

「別に調子になんて乗っていません……」

 

何処からか聞き覚えがある声がする。何かあったのかと思い、声がした方へと向かう。そこに向かうと剣道の道具を持った3人の上級生の男子と黒髪を眉の上と肩のラインでカットした少女が1人いた。全員知っているというか、俺と同じ道場に通っている人たちだ。

 

しかし、上級生の男子たちが少女を囲んでいて何か様子がおかしい。

 

「いつも今年から入った橘って奴と練習試合しているよな。自分が強いってことをアピールしているのか?」

 

そう言ったのは俺より1つ学年が上の草加さんで、言われているのは俺が未だに勝てないでいる少女……桐ヶ谷さんだった。

 

草加さんは剣道の腕はいいが、自己中心的でネチネチと嫌味を言うような悪い性格をしている。そのため、正直言うとこの人は苦手な人だ。

 

この前も彼と練習試合をした時にこんなことがあった。この試合で俺は負けてしまったが、まぐれで1本取ることができた。その時、彼には「これは剣道始めて日の浅いお前のためにした俺からのちょっとしたサービスだよ。だから、感謝しろよ」と言われた。これには少し腹が立ったが、相手の方が強いのは事実だし、俺は彼に比べると剣道歴が浅いからそう言われても仕方がない。

 

だが、そんな彼も桐ヶ谷さんには勝てないでいた。

 

今の様子からして草加さんたちは桐ヶ谷さんをいじめているようにも見える。あんな性格の人だから、道場の先生の眼の届かないところでそんなことしてもおかしくないと思った。

 

「お前がやっていることは初心者イジメって言って最低なことなんだよ。橘だってお前に迷惑しているってこと、わかるか?」

 

草加さんはそう言い放ち、その取り巻きはニヤニヤと桐ヶ谷さんを見下すように笑っていた。

 

この人は何を言っているんだ。俺は全然迷惑してないし、試合練習はいつも俺から頼んでやってもらっていることだ。

 

「それは本人に聞いて確かめるので」

 

対して桐ヶ谷さんは強がってそう言い残し、この場から離れようとする。しかし、草加さんは桐ヶ谷さんの腕を掴み、引き止める。

 

「痛いっ!放して!」

 

「お前のそういうところがムカつくんだよ!年下で女のくせに生意気なところがよっ!」

 

流石に腹が立って、草加さんたちを睨むようにして見る。すると、取り巻きの1人が俺に気が付いて声をあげる。

 

「何見てんだよ橘、何か用か?」

 

普段の俺ならこういうことがあったら引き下がるに違いないが、今回はそうじゃなかった。

 

「いくらなんでもこれは酷いんじゃないんですか?」

 

「何だ、ヒーロー気取りか。メダルで変身して敵と戦う主人公に似ているからってよ」

 

どうしてあんなヒーロー気取りみたいなことを言ったのか俺にもよくわからなかった。

 

「確かにその主人公に似ているってよく言われますけど、そんなつもりはないです。ただ、あなたたちに言いたいことがあるだけです。桐ヶ谷さんがいつも俺と練習試合しているのは、俺から頼んでやってもらっているだけで、桐ヶ谷さんはそんなつもりでやっているわけじゃありませんよ。勝手に俺が迷惑しているとか決めつけないで下さい」

 

更に言い続ける。

 

「あと、そんなみっともないことは止めろって言いたいんです。男が複数がかりで年下の女の子1人をイジメて恥ずかしくないんですか?俺だったら桐ヶ谷さんに負けてもアンタ達と違って、絶対にそんなことしたくありませんけどね」

 

俺の言葉に草加さんたちは顔を真っ赤にして怒りを露わにする。

 

「なんだとテメェっ!!そんな男よりも強い女なんて庇いやがって!ソイツはお前のことだって男のくせに弱い奴だって見下しているんだぜ!!」

 

「違う!あたしはそんなこと思って……」

 

「うっせーな!お前は黙ってろよ、男女!!俺たちよりも強いし、髪も短いから本当は女じゃなくて男なんじゃないのかっ!!」

 

草加さんは桐ヶ谷さんに罵声をあびせ、取り巻きたちは笑っている。これには今まで強がっていた桐ヶ谷さんも泣き出してしまう。

 

桐ヶ谷さんが涙を流している姿を見て、頭に血が上った俺は左手で拳を作って草加さん……いや、草加の顔をぶん殴った。

 

「ぐはっ!」

 

俺のパンチをまともに喰らった草加は地面に倒れる。

 

「桐ヶ谷さんに謝れ!!」

 

「コイツ……。やっちまえっ!!」

 

そこからは上級生たちと取っ組み合いのケンカになった。相手は上級生で俺よりも体も大きく、人数も複数いたため、俺は何度も殴られ、蹴られた。それでも俺は抵抗してパンチや蹴りを入れ、リーダー格の草加に馬乗りになって顔を何度も殴りつける。

 

桐ヶ谷さんは怖がって慌てふためいてしまい、止めることも誰かを呼ぶこともできないでいた。

 

「お前たち、何やっているんだ!今すぐ止めなさい!!」

 

ケンカは騒ぎを聞きつけた道場の先生が割って入ってくるまで続いた。すでにこのときには草加の取り巻きたちは口を切る、少し赤く腫れる程度の怪我だったが、俺と草加は顔と身体中を何か所も怪我をしている。

 

当然、これくらいの事態にもなったということで俺たちは保護者を呼ばれることになった。今までケンカとなっても(あん)ちゃんと軽く口喧嘩する程度で、今回のように殴り合いのケンカなんかしたことのない俺に両親は困惑していた。

 

道場の先生が保護者たちに状況を説明する。俺の両親はもちろんのこと、相手の親たちもモンスターペアレントではなく、本人たちが謝ってこの問題は解決しようということになった。

 

しかし、俺は相手の親たちには謝ったが、本人たちには一切謝らなかった。

 

「俺は絶対にこの人たちには謝らない」

 

「龍哉、どうしてなんだ。先生の話を聞く限り、お前から殴ったらしいじゃないか。謝らないのはおかしいと思うぞ」

 

「そうよ。何か理由でもあるの?」

 

幼い頃から悪いことをしたら謝るものだと教えてきた両親はちゃんと謝るべきだと言ってきたが、俺は反抗する。

 

「別に…ただ、この人たちがムカつくからだよ。殴った理由も頭に来たからだよ」

 

俺は、桐ヶ谷さんがこの人たちにいじめられていたから、助けようとしてやったということは一切話さなかった。ここでそんなこと話しても言い訳にしか思わなかったからだ。それに頭に来て殴ったのは事実だし、これ以上、桐ヶ谷さんを巻き込みたくなかった。

 

俺の様子に両親は更に困惑したようだった。そんな中、道場に誰かが入ってきた。振り返るとそこにいたのは、学校の制服を着た俺の3つ年上の兄の《橘 龍斗(たちばな りゅうと)》……(あん)ちゃんだった。

 

(あん)ちゃん……?」

 

更に少し遅れて(あん)ちゃんと同じ学校の制服を着たの男子中学生が入ってきた。この人は確か、前に家に来た(あん)ちゃんの友達だ。

 

「龍哉、お前がケンカしたのってただムカついたからじゃないだろ。隠しても無駄だぞ。(あん)ちゃんの友達がケンカしているところを目撃したからな」

 

「っ!?」

 

そのことに驚いていると(あん)ちゃんの友達が話し始める。

 

「実は俺の家、君たちがケンカしていたところの目の前にあるんだ。何か小学生ぐらいの子たちが騒いでいる声がして部屋の窓から外を見たら、君が女の子がイジメられているところを助けて、そのままケンカになったところを見たんだよ。道場の先生が来て治まったから大丈夫かなと思ったけど、やっぱり気になって君のお兄さんに連絡したら、この事態になっていることに気が付いて急いで来たんだ」

 

「えっと……君、もう少しその時のことを詳しく話してくれるかな?」

 

道場の先生にそう言われると(あん)ちゃんの友達はさっきの出来事を詳しく話した。この話を聞いた相手の親たちは呆れ、すぐに自分たちの子供に叱りつけ、家族そろって俺と両親、桐ヶ谷さんに謝ってきた。相手が謝ってきたため、俺も謝った。後日、改めて桐ヶ谷さんの家族にも謝りに行ったらしい。そして、その上級生たちは道場を辞めることになった。

 

このような事情があったとはいえ、相手にケガをさせてしまったのはよくないと両親に多少怒られたが。

 

あの後、初めて道場に行くと桐ヶ谷さんが話しかけてきた。

 

「橘君、この前は助けてくれてありがとう」

 

「別にいいよ。何か俺がいつも桐ヶ谷さんに挑むせいで変な誤解させてしまったみたいだし」

 

「そんなこと気にしてないよ。あの時、橘君が助けてくれて本当に嬉しかったんだよ」

 

前より表情が少し明るくなった桐ヶ谷さんを見て一安心する。

 

すると、桐ヶ谷さんは何か言いたそうにする。

 

「ねえ、橘君。あたしのことは桐ヶ谷さんじゃなくてスグって呼んでもいいよ」

 

女子を渾名で呼ぶなんて今までなかったため戸惑っしまう。でも、何か断りにくいしなぁ……。

 

「わかった、そう呼ばせてもらうよ。だったら…スグも俺のこともリュウでいいよ」

 

「リュウって呼び捨てにするのは何か呼びにくいからリュウ君でいいかな?」

 

今まで同年代の女の子には橘君や龍哉君と呼ばれてきたため、リュウ君と呼ぶのは彼女が初めてだ。

 

「う、うん。それでもいいよ」

 

こうして俺たちはお互いのことをスグ、リュウ君と呼び合うことになった。

 

それから桐ヶ谷さん……スグとは関わることが今まで以上に多くなり、彼女の家にある道場に行って一緒に練習もするようになった。このことで友達にはよくからかわれたりもした。スグとはただの友達で付き合っているわけでもないのにどうしてこんなことになるんだか。

 

この日は4年生の2学期の終業式で学校は午前中だけだったということで、午後からスグが家に遊びに来てくれた。オセロなどをして遊んでいると(あん)ちゃんが学校から帰ってきた。

 

「あ、直葉ちゃん来てくれたんだな」

 

「お邪魔しています」

 

「そうだ。オススメのゲームがあるんだ、直葉ちゃんも一緒にどうだ?」

 

「え、えっと……」

 

(あん)ちゃん。スグはあまりゲームが好きじゃないから、他の友達みたいにオススメのゲームを押し付けるなって前にも言っただろ。それに今日はこれから病院に行く日じゃないの?」

 

「わかっているって。直葉ちゃん、ゴメンな」

 

(あん)ちゃんはそう言うと部屋に行き、病院に行く支度をするとまた家を出る。

 

「ゴメンね。ゲーム嫌いなのに(あん)ちゃんがゲーム勧めてきて……」

 

「謝らなくていいよ。いつも断ってばっかりでリュウ君のお兄さんには本当に悪いことしちゃっているみたいだから……。いつも思っていたけど、リュウ君のお兄さんってゲーム好きなんだね」

 

「うん。(あん)ちゃんは昔から身体が弱いからよく家の中で遊んでいていたんだ。それでかなりのゲーマーになって……。俺にもよくゲームを勧めてきて、俺も周りの友達がやるようなゲームはやっているけどね」

 

「でも、そうやってお兄さんと仲がいいリュウ君が羨ましいかな。あたしにもお兄ちゃんがいるけど、今はそうじゃないんだ……」

 

スグには1つ上のお兄さんがいる。実際に俺もスグの家に行った時に一度だけ会ったことがある。しかし、彼は俺に軽くペコっと頭を下げただけでまともに顔を見たことも話したこともない。正直言うとスグのお兄さんの顔はあまり覚えていない。スグ自身もお兄さんのことはあまり話そうとはしていなかったため、俺もあまり聞かないでおいていたが。

 

「なあ、今はそうじゃないってことは、昔は違ったってこと?」

 

「うん。昔は仲が良かったんだ。よく一緒に遊んだりもしてね。お兄ちゃんも昔はあたしと一緒に剣道をやっていたんだよ。でも、1年くらい前から急にあたしやお母さんたちともあまり話さなくなってね。その頃に剣道も辞めちゃって、今ではネットゲームに夢中になっているの」

 

きっと、その頃に何かあってそんなことになったんだろう。

 

「お兄ちゃん、本当にどうしたんだろう……。もしかしてお兄ちゃん、あたしたちのこと嫌いになっちゃったのかな……」

 

「大丈夫。スグのお兄さんはスグたちのことは嫌いになっていないって。時間はかかるかもしれないけど、また昔みたいに仲がいい兄妹に戻れるよ、絶対に。だからお兄さんのことを信じてあげよう」

 

「……うん、そうだよね。ありがとう、リュウ君」

 

悲しそうな表情から明るい表情になったスグを見て、一安心する。俺にできるのはこれくらいしかない。あとはスグがお兄さんと仲直りできることを祈るしかないな。

 

 

 

 

 

初めの内はスグのことは仲がいい友達だと思っていた。でも、実はそうじゃないと気が付いたのは小学5年生の時、道場の近くの神社でお祭りに行った時だった。

 

当初はそれぞれ別の友達同士で行く予定だったが、家の都合や体調を崩したとかで友達が行けなくなり、急遽、俺はスグと2人きりで行くことになった。

 

「残念だったね、皆急に来れなくなって……」

 

「家の都合や体調を崩したとかだったら仕方がないよ。今日は俺たちだけでも楽しもう」

 

「うん、そうだね」

 

人ごみの中をスグと一緒に進む。そんな中、俺の後ろにいたスグが人波に流されそうになる。

 

 

「わわっ、待ってリュウ君」

 

俺はこれはマズイとスグの左手をギュッと掴む。

 

「こうすればはぐれなくて済むよ」

 

「あ、ありがとうリュウ君」

 

それからしばらくの間、はぐれないようにスグと手を繋いで人ごみの中を進んでいた。手を繋いでいるおかげではぐれないでいる。

 

「お二人さん、若いのにお熱いな」

 

俺たちに話しかけてきたのはヨーヨー釣りの屋台を営んでいるおじさんだった。

 

「手なんか繋いでデート中か?」

 

()()()という単語に俺とスグは顔を赤くしてしまう。

 

確かに俺たちがしているのはデートに見えてもおかしくない。でも、俺はスグと付き合っているわけじゃ……。そう考え、スグと手を繋いでいるのを見ると心臓がドキドキし始める。そしてスグと目が合うと俺たちは目をそらしてしまう。

 

「どうだ、ヨーヨー釣りでもやっていかないか?1人100円だけど、今なら2人で100円にまけてやるよ」

 

「どうする?やっていく?」

 

「う、うん。まけてくれるっていうからやろうよ……」

 

「じゃあ、お願いします」

 

「はいよ」

 

1人50円ずつ払ってヨーヨー釣りをすることになった。俺もスグもなんとか1個は取ることができ、この場を後にした。

 

お祭りの間、あのヨーヨー釣りの屋台を営んでいるおじさんが言ったことがどうしても頭から離れられなかった。今までこんなことでドキドキしたことはない。もしかしてこれが初恋なのかな……。

 

 

 

 

 

更に月日は流れ、俺は小学6年生になった。来年から俺は中学生になり、俺が行く中学には剣道部がある。そのため、ここの道場は小学校の卒業と共に辞めることにした。スグが行く中学にも剣道部があって、彼女も俺と同様に道場を辞めるらしい。

 

「リュウ君は中学でも剣道を続けることにしたんだね」

 

「うん。だから学校が別でも大会とかでスグと会えるかもしれないよ」

 

「そうだね。頑張ってね、リュウ君」

 

「ああ。スグも頑張って。いつかまた会おう」

 

こうして俺の小学生時代の剣道は終わり、それ以降彼女とは会うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤバい、これは完全に走馬灯だな。

 

いつかまた会う約束をしておいて、俺は(あん)ちゃんが死んだショックで剣道に対する情熱を失って、このデスゲームに巻き込まれた。そして、ファーランさんとミラと出会い、2人と共に行動するようになった。でも、2人は死んで俺は2人を生き返らそうと必死になってキリさんの命を奪おうとした。

 

俺は落ちぶれて初恋相手の約束を破って、仲間も助けられなかったあげく人の命を奪おうとしたんだ。これは当然の報いなのだろう。

 

白い巨人が俺を攻撃しようとする。俺は覚悟を決め、目を閉じようとする。その時だった。

 

突如、白い巨人は攻撃を喰らって軽くよろける。それでもHPはあまり減っていないが…。

 

「何だ……?」

 

すると俺の目の前に3人のプレイヤーが降り立つ。土煙が舞っているせいで姿はよくわからない。

 

「手ごたえがあったはずなのに全然オレたちの攻撃が効いてねえぞ」

 

「見た目通り硬いってことか……」

 

「全体的に白いから白い巨人でもいいけど、硬いってなると鎧の巨人って言ってもいいな」

 

3人のプレイヤーの話し声がする。3人とも聞き覚えがある声だ。

 

「今は名前なんてどうでもいい。それに最初の白い巨人は、黒一色のお前にだけは言われたくないだろ」

 

「おい。『黒一色のお前』って、今俺のことディスっただろ?」

 

「まあまあ、落ち着けよ2人とも」

 

1人がくだらないことを言って、1人が辛口のコメントをし、1人が他の2人を宥めていた。

 

土煙が晴れると3人のプレイヤーの姿がハッキリ見える。黒髪に黒いロングコートに黒いズボンと全身が黒一色の装備に身を纏ったどちらかというと女顔寄りの顔をした少年、明るめの茶髪に赤いアクセントカラーの黒いロングコートを着た大人びた明るい茶髪の少年、赤いアクセントカラーの黒いジャケットを着た背が高めの黒髪の少年だ。

 

「キリさん、カイトさん、ザックさん……」




やっとリメイク版で、この作品のヒロインである直葉/リーファを出すことができました。

旧版とは異なり、リメイク版ではリュウ君は直葉/リーファとは小学生の頃から知り合いだということになっています。

あの直葉をいじめていた上級生のリーダー格の名前は草加雅人から取った名前です。そんな奴らもブチギレたリュウ君によって制裁されましたが。私の作品ではヒロインに手を出すとオリキャラが怖いというのは定番となってますので。ちなみに一番怖いのはリュウ君です。

そして直葉/リーファとの恋愛事情は今後の話で明らかになります。

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