ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

28 / 106
ついにリメイク版のアインクラッド編も終わりが見えてきました。このまま行けば近い将来、リメイク版のフェアリィ・ダンス編やゲーム版に突入できそうです。


第21話 聖騎士ヒースクリフ

2024年10月19日 第50層・アルゲート

 

エギルさんの店の2階の部屋に入ると、この店の店主のエギルさんと不機嫌そうにしてイスに座っているキリさんがいた。

 

先ほど近くの店で買ってきたものが入っている1つの茶色い紙袋をキリさんに渡す。

 

「キリさん、頼まれたやつ買ってきましたよ」

 

「ありがとな。早くこの状況がなんとかなって欲しいもんだよ」

 

「今朝、新聞見ましたよ。本当に昨日は大変だったみたいですね……。これ食べて少し機嫌直してくださいよ。あ、1つもらいますから」

 

「ああ」

 

紙袋の中に入っているのは、さっきすぐ近くの店から買ってきた10個の肉まん。買ってきたばかりということもあって肉まんはまだ温かい。

 

イスに腰掛けると紙袋の中から1つの肉まんを取り出し、口に運ぶ。向かい側に座るキリさんは肉まんにガツガツと喰らい付き、完全にやけ食い状態となっている。

 

肉まんを食べているとこの店の店主であるエギルさんが入ってきて、空いているイスへと腰掛ける。そして、テーブルの上に置かれている新聞を見る。

 

「軍の大部隊を全滅させた青い悪魔。それを撃破した二刀流使いの50連撃。こりゃずいぶん大きく出たもんだな」

 

新聞に書かれている内容を見てエギルさんは笑いながら言う。

 

「尾ひれがつくにもほどがある。その所為で朝から剣士やら情報屋に押しかけられて寝ぐらにもいられなくなったんだからな」

 

「それはアンタの自業自得なんじゃないの? あたし達だけの秘密だって言ったのをバラしちゃったんだからね。この前だってリュウたちにもバラしちゃったんでしょ」

 

エギルさんの店に仕入の品を取りに来ていたリズさんが小馬鹿にしているかのようにニヤニヤしてキリさんに向かってそう言う。

 

二刀流のことを知っていたのは俺とカイトさん、ザックさんの3人だけかなと思っていたが、リズさんも知っていたみたいだった。リズさんの話によると、キリさんが《ダークリパルサー》を作って貰った際にリズさんの前で二刀流を披露した時に知ったらしい。

 

そして今回ここまで大事になったのは、昨日の第74層のフロアボス《グリームアイズ》と戦ったときに、アスナさんやクラインさん率いる《風林火山》、そして《アインクラッド解放軍》と大勢のプレイヤーの前で披露したのが原因らしい。いつかキリさんの二刀流が絶対に必要になると思っていたが、俺の前で披露してから数日後にこうなるとは思ってもいなかった。二刀流を使わざるを得ない状況だったんだろう。

 

するとドアの向こう側からドタバタと誰かが走ってくる音が聞こえ、勢いよくドアが開けられる。ドアから入ってきたのはアスナさんだった。アスナさんは急いでいたらしく、息を切らしている。

 

「どうしよう、キリト君。大変なことになっちゃた!」

 

 

 

 

 

 

2024年10月20日 第75層・コリニア

 

「まさかこんなことになるなんて正直驚いたよ」

 

「僕もだよ。それにしてもいっぱい人がいるなぁ」

 

「まあ、今日ここで行われるのはかなり凄いことだからな」

 

オトヤとピナを連れたシリカと一緒にやって来たのは2日前に開通された第75層の主街区《コリニア》。古代ローマ風の構造となっている街で、転移門前にはコロシアムがある。すでに攻略組プレイヤーや商人プレイヤー、中層プレイヤーと大勢のプレイヤーが集まっており、コロシアムの周辺は活気に包まれている。コロシアムの入口付近には露店が並んでおり、完全にお祭り状態だ。こんな状態となっているのを見るのはかなり久しぶりな気がする。確か中学に入学した頃に行った花見の時以来だったかな。

 

どうしてこんなことになっているのかというと、今日このコロシアムで行われるのはキリさんとヒースクリフ団長のデュエルが行われるからだ。キリさんの話によると、アスナさんのギルドの一時脱退をかけて2人は戦うことになったらしい。キリさんが勝つとアスナさんのギルドの一時脱退を承諾する。しかし、ヒースクリフ団長が勝つとキリさんが《血盟騎士団》に入るという条件付きである。

 

《血盟騎士団》で副団長を務めているアスナさんの一時脱退は攻略に大きな影響を与えることになる。そして、ユニークスキル持ちのキリさんを加えることで《血盟騎士団》の戦力は更に上がる。こうなってしまっても仕方がないだろう。

 

ちなみに俺とカイトさん、ザックさんも前にヒースクリフ団長に勧誘されたことがある。俺はギルドに所属していないソロプレイヤーだし、カイトさんとザックさんは《ナイツオブバロン》というギルドを結成したが今はコンビとして活動しているから、他のギルドに入る前に俺たちを引き入れたかったんだろう。でも、俺は親しい人たちとパーティーを組んで攻略をする方が好きだから、カイトさんとザックさんはギルドに入らないでしばらくはコンビで活動するつもりだと言って断ったが。

 

露店で飲食するものを買い、コロシアムに入る。今朝、ザックさんから送られてきたチケットを見ながら席を探していると、前の方から俺たちを呼ぶ声がする。

 

「おーい!リュウ、オトヤ、シリカ、こっちだぜ!!」

 

手を振って俺たちを呼んでいるのはザックさんだった。彼の元に行くとカイトさんやリズさん、クラインさんにエギルさんもいた。

 

「俺たちが最後みたいですね」

 

「オレたちも今席に座ったところだから気にしなくていいぞ」

 

ザックさんが笑って答える。そして俺たちはザックさんの隣の席へと座る。

 

「この勝負ってどっちが勝つんでしょうか?」

 

俺の左隣にいるオトヤを挟んで座っているシリカからこんな質問が来た。それに真っ先に答えたのはクラインさんだった。

 

「やっぱキリトだろ。一昨日の第74層のフロアボスを倒したんだからよ」

 

「その前は白い巨人に大ダメージを与えてたからなぁ。ヒースクリフの盾もなんとかできそうな気がするぜ」

 

「あたしもキリトかな。あたしが作った剣でヒースクリフを倒したってことになると知名度もアップして売り上げも向上するでしょ。だからキリトには絶対に勝ってもらわないと!」

 

クラインさんに続いてザックさんとリズさんも答える。3人ともキリさんが勝つと思っているみたいだ。

 

「ところでリュウとカイトもキリトの二刀流は見たんだろ。お前たちはどっちなんだ?」

 

エギルさんに言われてまず先に俺が答えた。

 

「俺もキリさんに勝って欲しいですけど、正直言うとどっちが勝つかわからないですね。キリさんの二刀流も凄かったけど、ヒースクリフ団長のユニークスキルはまだ謎が多いですから……」

 

「なるほどな」

 

「俺はヒースクリフだな」

 

皆がキリさんが勝つとか勝って欲しいという中、カイトさんだけはヒースクリフ団長が勝つと断言した。

 

「何言ってんだよカイト。キリトが勝つ空気になっている中、オメーだけヒースクリフが勝つなんて言ってよ」

 

「クラインの言う通りだぜ。カイトはキリトに勝ってもらいたくないのか?」

 

クラインさんとザックさんにそう言われ、カイトさんは反論する。

 

「俺だってそう思っている。アインクラッド最強のプレイヤーの称号を持っているヒースクリフが負けるところが見たいからな。だが、ヒースクリフが今までどんなに強力なボスを相手にしてもHPバーをイエローまで落としたところを見たことあるか?キリトだって第74層のフロアボス戦の時はHPがなくなる寸前までいったくらいだからな」

 

確かにカイトさんの言う通りだ。ヒースクリフ団長のHPバーがイエローゾーンまで落としたところは見た記憶がない。どんなに強力なモンスターを相手にしてもだ。

 

そんな彼が持つユニークスキルは攻防自在の剣技《神聖剣》。攻撃力も高いが、特に防御力が圧倒的なものだ。あの無敵っぷりはゲームバランスを超えていると言ってもいいだろう。

 

この間にもキリさんとヒースクリフ団長がそれぞれ控室からコロシアムの中央に歩いて出てきた。2人が出てきた途端、コロシアム中は一気に盛り上がった。

 

「頼んだぜ、キリト!ヒースクリフの盾なんてお前の二刀流で真っ二つにしてやれ!オレはお前にかなりのコル賭けているんだからなぁ!!」

 

何か凄く気合が入っているクラインさん。そういえば、露店で飲食物を買いに行った時に、キリさんとヒースクリフ団長のどっちが勝つか賭けで商売している《血盟騎士団》の人がいたな。クラインさんはキリさんにかなりのコルをかけているんだろう。この勝負はある意味キリさんとアスナさんだけでなく、クラインさんの未来にも関わっているな。これでキリさんが負けたらどうなることやら……。

 

こんなことを考えている間にもデュエルのカウントダウンが始まる。勝負の内容は定番の《初撃決着モード》だ。さっきまで歓声に包まれていたコロシアムは一気に静まり返る。キリさんは背中の鞘から2本の片手剣、ヒースクリフ団長は十字の盾の裏から1本の長剣を抜いて構える。

 

カウントダウンが0になり、デュエルが始まった。

 

先に攻撃を仕掛けたのはキリさんだった。2本の剣による攻撃を何回も叩き込む。対してヒースクリフ団長はそれを全て十字の盾で軽々と防ぎ、長剣で反撃してくる。キリさんはそれを2本の剣で防ぎ、続けて来る長剣による攻撃を防ごうとする。

 

しかし、攻撃してきたのは長剣ではなく、十字の盾だった。あの盾にも攻撃判定があるらしい。2本の剣を使うキリさんとは別に1本の剣と盾を使う二刀流と言ってもいいだろう。これがユニークスキル《神聖剣》の力か。

 

2人の戦いは激しさを増していく一方だ。火花が激しく散る。

 

「何か、すでに僕には付いていけないレベルになっているんだけど……」

 

「攻略組同士の戦いってだけでも凄いのに、キリトさんたちが戦いはあたしたちからしたら次元が違うものだよ」

 

「いったいどうなっているのよ。ザック、わかる?」

 

「オレだって2人の戦いに付いていくのがやっとのところだぜ」

 

攻略組ではないオトヤとシリカ、リズさんの3人はすでに置いてけぼりの状態となっている。俺とクラインさん、エギルさんはザックさんと同様に2人の戦いに付いていくのがやっとのところだ。カイトさんはこの中で唯一、完全に付いていけているみたいだ。

 

互角の戦いを繰り広げていた2人だったが、キリさんが少しずつヒースクリフ団長を追い詰めていく。一気に勝負を決めようと白い巨人に大ダメージを与え、第74層のフロアボス《グリーム・アイズ》を倒した二刀流スキルの《スターバースト・ストリーム》を発動させる。

 

いくらヒースクリフ団長でもこの攻撃は防ぎきれないだろう。ついに盾で防ぎきれなくなり、最後の一撃が襲い掛かろうとする。これでこの戦いはキリさんの勝ちだと思った時だった。

 

「っ!?」

 

突如、時間が一瞬だけ止まったような気がする。

 

何が起こったのかと把握しようとしていたところ、ヒースクリフ団長は盾でキリさんの最後の攻撃を防ぐ。そして長剣でキリさんを突いた。

 

このデュエルに勝ったのはヒースクリフ団長だった。

 

周りが歓声に包まれる中、俺はさっきのことが気になって仕方がなかった。あれはいったい何だったんだ。もしかしてあれは《神聖剣》の力の1つなのか。

 

「オレ様のコルがぁぁぁぁっ!!どうしてくれんだよ、キリトぉぉぉぉぉっ!!」

 

考え事をしている中、聞こえてきたのはクラインさんの叫びだった。確かキリさんに賭けていたんだったな。でも、キリさんが負けたことで賭けたコルが全て失ってしまうという結果に。クラインさんはいったいどれだけキリさんに賭けたんだろう。

 

「調子に乗ってかなりの額を賭けたからこうなったのよ」

 

終いにはリズさんからはキツイことを言われる。

 

「まあまあ」

 

「晩飯オレが奢ってやるからよ。だから元気出せってクライン」

 

「その内、他にいいことありますって」

 

「そうですよ、クラインさん」

 

ザックさん、エギルさん、オトヤ、シリカの4人は落ち込んでいるクラインさんを慰める。

 

俺は苦笑いを浮かべてこの状況を黙って見ていた。本当にご愁傷様、クラインさん。

 

ふと隣を見るとカイトさんは黙って何か考え事をしていた。いつものカイトさんならここでクラインさんに「自業自得だ」とかキツイことを言うのに。もしかしてカイトさんも……。

 

「あの、カイトさん」

 

「何だ?」

 

「もしかしてカイトさんもあの時……キリさんの最後の攻撃を防いだ時に何か違和感があったんですか?」

 

「ああ。あの勝負は間違いなくキリトが勝っていた。だが、ヒースクリフはあり得ないほどの速さでキリトの攻撃を防いだ。いくら《神聖剣》の力があるとはいえ、あれは異常過ぎる」

 

そう言いながらカイトさんの視線の先にはヒースクリフ団長の姿がいた。

 

《血盟騎士団》の団長を務めている最強のプレイヤー《ヒースクリフ》。あの人はいったい何者なんだ。そして、あの力はいったい……。この世界にいる全プレイヤーは彼のことは知っている。しかし、彼には謎も多い。

 

《ヒースクリフ》というプレイヤーは何者なのか、キリさんとの戦いの時に見せたあの力は何だったのかを近いうちに知ることになるとは、このときは誰も知らなかった。




グリームアイズ戦はリュウ君たちオリキャラ陣も参戦する予定でしたが、いても原作と異なってリュウ君たちがいたことくらいしか変わりがないため、参戦してないということにしました。そのため、リュウ君たちには前回の白い巨人との戦いでキリトが二刀流を披露させました。

キリトだけでなくリュウ君とカイトもヒースクリフのあの異常な速度に何か違和感を覚えるということに。

次回はキリアス夫婦の結婚に関する話になります。リメイク版では久しぶりの平和な話になるような。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。