ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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リメイク版では久しぶりの平和な話です。


第22話 結婚祝いとアスナの想い

キリさんとヒースクリフ団長のデュエルが行われてから数日が経過した。

 

ヒースクリフ団長に負けたキリさんは《血盟騎士団》に入団することに。しかし、入団早々にアスナさんの護衛を務めていたクラディールというプレイヤー絡みで何かトラブルに巻き込まれてしまったらしい。この一件からキリさんとアスナさんは《血盟騎士団》を一時退団することになった。

 

そしてここからが本題である。実はキリさんとアスナさんが結婚したのだ。

 

アスナさんがキリさんに想いを寄せていること、キリさんもアスナさんを意識するようになっていったことは知っていたから2人は将来的にくっ付くだろうなと予測していた。しかし、付き合うことを通り越して結婚したことを知った時は俺や他の皆は驚きを隠せなかった。

 

こんなこともあったが、皆と話し合って2人の結婚パーティーをすることとなった。パーティーに来るのは俺の他にカイトさんとザックさん、クラインさんにエギルさん、リズさんとシリカとオトヤ、アルゴさん、黒猫団の皆だ。ただ、クラインさんがヤケを起こさないかどうかちょっと心配だが……。

 

 

 

 

 

更に数日が経過した。

 

「あとは他の皆は準備OKみたいです。あとは俺たちだけですね」

 

「そうだな。例のものもできているみたいだしな。受け取って早く戻ろうぜ」

 

俺とザックさんがやって来たのは1軒の洋服屋だった。店のドアを開けて中に入ると1人のプレイヤーが迎えてくれた。

 

「いらっしゃい、2人とも。頼まれたものはできているわよ」

 

そう言ってきたのはこの店の店主《アシュレイ》さんだ。彼女はSAOで一番早く《裁縫スキル》を完全習得したカリスマお針子と呼ばれている。

 

俺が今羽織っているフード付きマントは、前にアスナさんの紹介でアシュレイさんに元々愛用していたものをバージョンアップしてもらったものだ。ザックさんやカイトさん……《ナイツオブバロン》が戦闘の時に着ている服もアシュレイさんが作ってもらったものである。何でもギルドを結成した頃にアシュレイさんを助けたのが縁で作ってもらったらしい。

 

だけど、服を作ってもらうには最高級のレア生地素材を持参しないと作ってもらえない。そして料金もそれなりにする。実際に俺やザックさんたちも最高級のレア生地素材を持参し、高い料金を支払って今着ているものを作ってもらった。もちろん今回もだ。料金は皆で出し合ったからよかったが。それでも厳しい条件がありながらもアシュレイさんに頼むのは、彼女が作ったものの性能がかなりいいからだ。

 

「それにしてもアスナがあの《黒の剣士》と結婚とはね。聞いたときは驚いたわよ」

 

「驚いたのは俺たちもですよ。それに女性プレイヤーが少ないSAOでカップルになるだけでも珍しい中、結婚までに至るのは更に珍しいですからね」

 

SAOにおける結婚システムはかなりリスクもある。結婚状態になると互いのステータスをいつでも自由に見ることができ、アイテムストレージが共有化されるという生命線を共有化すると言ってもいいものだ。キリさんとアスナさんのように長い付き合いでお互いのことを信頼しているからこそできることだと言ってもいいだろう。

 

「あなた達2人にはそういう相手はいないの?」

 

「いませんよ。俺はそういうのには縁はありませんから」

 

「…………」

 

俺がキッパリといないことを言う中、ザックさんは黙り込んでいた。すると、アシュレイさんはザックさんを茶化すように話しかける。

 

「あら、ザックは何も言わないってことはそういう相手がいるっていうことでいいのかしら?」

 

「な、何言っているんだよ!オレもいないに決まっているだろ!!」

 

顔を赤くして必死に否定するザックさん。彼のことだからリズさんのことを考えていたに違いない。

 

こんなやり取りも終え、アシュレイさんの店をあとにした。

 

 

 

 

 

「準備はこれで全て完了しましたからあとは今回の主役が来るだけですね」

 

キリさんとアスナさんの結婚パーティーを行うのは黒猫団のギルドホームだ。すでに部屋は飾りつけされていて、テーブルには料理も盛り付けられている。

 

最終確認をしていると玄関のドアがノックされる音がする。サチさんがドアを開けた先にいたのは私服姿のキリさんとアスナさんだった。

 

「2人ともいらっしゃい」

 

「皆集合か。急にどうしたんだよ?」

 

「とりあえず今は向こうの部屋でこれに着替えて下さい」

 

「アスナはこっちよ」

 

俺はキリさんに、リズさんはアスナさんにアシュレイさんに作ってもらった衣装を渡し、それぞれ別の部屋へと連れて行く。

 

キリさんとアスナさんが戻ってくると皆から歓声が上がった。2人に着てもらったのは白いタキシードに白いウエディングドレス……要するに結婚衣装だ。

 

「アスナさーん、綺麗ですよ!」

 

「とても似合っているよ!」

 

シリカやサチさん……女性陣からウエディングドレス姿を絶賛されるアスナさん。一方で……。

 

「キリトが白い衣装……」

 

「中々似合っているゾー」

 

クラインさんやアルゴさん……皆に白いタキシード姿を笑われるキリさん。いつも黒一色の服を着ているから何かしっくりこないなと思い、俺も笑いを堪えていた。

 

「あ、アスナ。とても綺麗だぞ」

 

「そ、そうかな……。キリト君にそう言ってもらえて凄く嬉しいよ」

 

「アスナ……」

 

「キリト君……」

 

「はいそこ、ストーップ!2人の世界に入らなーい!」

 

2人の世界に入ろうとしていたキリさんとアスナさん。そんな2人を引き戻そうとするリズさん。

 

「ええっ!?別にそんなんじゃないよ!」

 

「そうだぞ!」

 

「2人して自覚がないみたいわね……」

 

キリさんとアスナさんは否定するが、リズさんの言う通りだと思う。この2人は完全にバカップルとなっているな。

 

それからザックさんの乾杯の音頭がはじまり、キリさんとアスナさんから一言、初めての共同作業であるケーキ入刀というように結婚パーティーは進んで行った。

 

どっちからプロポーズしたのか、その時のセリフはどういうものだったのかというところは大いに盛り上がった。ちなみにプロポーズしたのはキリさんで、セリフは「結婚しよう」だったらしい。やっぱり告白やプロポーズするのは男からなんだなと思った。

 

そしてこの間に色々な騒ぎがあった。

 

出された料理の中に熱々のスープがあり、猫舌のザックさんはフーフーしながら飲もうとしていた。だけど、必死に冷ましていて中々飲もうとしない。それを見たリズさんは悪巧みしている笑みを浮かべる。

 

「ザック、男なら熱いのなんか気にしないでさっさと飲みなさいよ。それともあたしがフーフーしてあげようか?」

 

「余計なお世話だ!」

 

リズさんはザックさんの猫舌だというところをからかって楽しみ、ザックさんは拗ねてしまう。ケンカしつつも仲がよくてお似合いだ。

 

「あ、オトヤ君。それ、あたしの方が近いから取ってあげるよ」

 

「ありがとう、シリカ」

 

オトヤに料理を取ってあげるシリカ。こちらの2人は仲睦まじい感じとなっている。一見すると女の子同士で仲良くしているように見えるが。

 

この2組のカップルはまだ友達以上恋人未満であるため、まだ付き合っていない。いつ見ても早く付き合えばいいのにと思う。

 

「キリトは結婚して、ザックとオトヤは青春か。まったく羨ましいぜ。年下のアイツらに先越されて独り身はつれーなぁ、エギル」

 

「あ、スマン。オレ、リアルで結婚してるんだ」

 

エギルさんの結婚しているという発言がクラインさんに追い打ちをかけることになった。

 

「どいつもこいつもよー、リア充どもめ……。リア充なんか全員滅びろぉぉぉぉっ!!」

 

ヤケを起こしたクラインさんは刀を取り出して暴れ出す。

 

「クラインさん、落ち着いて下さい!!」

 

「放せリュウ!リア充は1人残らず駆逐してやるっ!!SAOだけでなくリアルでもだぁっ!」

 

「そんなことしたら人類の大半は死にますから!」

 

完全に暴走モードと化したクラインさんを取り押さえる。そんなクラインさんの頭にカイトさんの拳骨が落ちる。

 

「何すんだよ、カイト!!」

 

「見苦しいから止めろ。今日集まったのはキリトとアスナの結婚を祝うためじゃないのか」

 

「うっ……」

 

カイトさんにキツイことを言われ、クラインさんは黙り込む。だが、今度はショックを受けて暗い空気に包まれる。結構アップダウンが激しい人だな。だけど、せっかくキリさんとアスナさんの結婚を祝うためのパーティーだからクラインさんを暗い空気に包みこんだままにしておくわけにはいけないなと思い、彼を励ますことにした。

 

「元気出して下さいよ、クラインさん。俺だって生まれてからまだ1度も彼女はいたことありませんし、クラインさんにもその内いい女の人に出会いますって」

 

「リュウ、お前だけだ。オレのことを慰めて味方してくれるのはよぉ~」

 

そう言って俺に泣き付いてくるクラインさん。

 

「よっしゃぁっ!リュウとカイトは今日からオレと同じく非リア充同盟の仲間だ!」

 

「ちょっと非リア充同盟って何なんですかっ!?」

 

「俺はそんなくだらないものに入るなんて言ってない」

 

「何言っているんだよ。オメーたちだってオレと同じく彼女はいねーだろ!別にいいだろーが!」

 

何か俺とカイトさんの意見を聞かずに、勝手に俺とカイトさんは非リア充同盟の仲間入りにされる。もしも、俺やカイトさんに彼女ができた時は、クラインさんは絶対に「裏切り者」とか言って怒るだろうな。

 

こんな感じで騒ぎは日が暮れるまで続き、結婚パーティーはお開きになった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

結婚パーティーが終わった後、わたしとキリト君は第22層にあるログハウスへと戻ってきた。ここはキリト君と結婚したのを機に住み始めたところである。第22層は森林と水で覆われたフロアであり、フィールドモンスターがでないため、とても居心地がいいといいってもいい。

 

そして今は居間にあるソファーに座って身体を休ませていた。

 

「今日は楽しかったね」

 

「ああ。皆、俺たちのために色々用意してくれて本当に嬉しかった」

 

「ふふ、そうだね。それにソロプレイヤーのキリト君にちゃんと同年代のお友達がいて安心したよ」

 

「何だよ、それ!アスナは俺がリュウたちと仲がいいことは知っているだろ!」

 

ちょっとからかってみるとキリト君は子供みたいに拗ねてしまう。そんな彼を見てクスリと笑ってしまう。

 

「皆、本当にいい奴ばかりで……。ビーターって呼ばれてユニークスキル使いの俺なんかのために……」

 

キリト君は哀愁に満ちた表情をして呟く。

 

そんな彼を見て、前にキリト君がギルド……人を避ける理由を話してくれた時のことを思い出す。

 

キリト君はビーターと呼ばれ、ユニークスキルを持っているため、そのことをあまり良く思っていない人も多い。それが理由でキリト君が人を避けてもおかしくない。

 

だけど、他にも何か理由がある感じがして、キリト君が《血盟騎士団》に入るときにこのことを聞いてみた。するとキリト君はその理由をわたしに話してくれた。

 

実はキリト君とは第1層のフロアボス戦の時からわたしが《血盟騎士団》に入るまでの間にコンビを組んでいた。しかし、わたしが《血盟騎士団》が入ったのを機にコンビを解消し、キリト君はソロプレイヤーとして活動するようになった。

 

それから暫くして、キリト君は自分がビーターだということと本当のレベルを隠して黒猫団に所属していたことがあった。ソロプレイヤーとしていたキリト君には、黒猫団のアットホームな雰囲気がとても魅力的なものに見えたようだ。でもある日、トラップにかかって危うく全滅しそうになったことが起こった。その時はカイト君とザック君たちの《ナイツオブバロン》がいたおかげで誰も死なずに済んだ。それでもキリト君は自分のせいで皆を危険な目に合せたことに負い目を感じ、黒猫団の元を去って無茶なレベリングをするように……。

 

その後はカイト君やザック君たちの助けもあって黒猫団の皆の気持ちを知って和解し、しばらくしてリュウ君やオトヤ君、シリカちゃん、リズとも知り合うことに。皆おかげで無茶なレベリングをしなくなった。でも、キリト君は誰かを失うことが怖くて、人を避けるようになったらしい。

 

このことを知った時は驚きを隠せなかった。でも、わたしはそんなキリト君を守るんだと決意した。

 

『わたしは死なないよ。だって、わたしは君を守る方だもん』

 

そういえば、そんなこと言ってキリト君を抱き締めたんだよね。

 

今回もその時と同様にキリト君を抱き締める。

 

「あ、アスナ……?」

 

「キリト君、わたしがいるから大丈夫だよ」

 

「アスナ、ありがとう……」

 

キリト君もわたしを抱き締めてくる。そしてしばらくの間、わたし達は抱き合っていた。




リメイク版、旧版含めて初めてのキリアスメインとアスナ視点を書きました。相変わらずのバカップルです。

クラインは非リア充を暴走させ、リュウ君とカイトを非リア充同盟の仲間に入れる。しかし、リュウ君とカイトがこれからどうなるの知ったらどうなるのか。

そしてリュウ君はキリアス夫婦のことをバカップルだなと思っていましたが、リュウ君も人のことを言えなくなりますのに(笑)

リメイク版のアインクラッド編も予定では残り2話です。今月中には終えたいなと思っています。

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