ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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明日でリメイク版は1周年を迎えます。1日早いですが、最新話の投稿になります。

そして、今回からリメイク版のフェアリィ・ダンス編スタートです。旧版では2ヶ月くらいで完結しましたが、リメイク版ではどのくらいで完結するのか……。

それでは旧版とは違うフェアリィ・ダンス編をどうぞご覧ください。




フェアリィ・ダンス編
第1話 悪夢と再会と消えない罪


「…………。……ウ……。リュウ!!」

 

「うわっ!!」

 

気持ちよく寝ていると1人の少女が耳元で叫び、俺はそれに驚いて起き上がる。

 

「休憩中に寝ちゃうなんて。しょうがないな、リュウは」

 

「お前だってさっき眠りかけていたから人のこと言えないだろ」

 

「だって、こんなに天気がいいんだから眠くなるのは仕方がないじゃん」

 

傍で話をしていたのは、モスグリーンのフード付きマントを羽織ったミラとファーランさんだった。いつも通りの2人。その光景を見ている内に自然と笑みがこぼれる。

 

今いる場所は外国ののどかな田舎のようなところで、辺り一面草原が広がり、アインクラッドの外周にどこまでも広がる空は青く染まっている。どうやら俺は休憩中にここで寝てしまったようだ。こんなに気持ちのいいところだから眠くなるのも仕方がないか。

 

「リュウ、そろそろ出発するぞ」

 

「はい、ちょっと待ってて下さい」

 

立ち上がって2人と同じモスグリーンのフード付きマントを羽織って準備が完了ところで、迷宮区に向けて出発しようとする。

 

「あれ?ファーランさん、ミラ……?」

 

先ほどまで俺の傍にいたファーランさんとミラがいない。2人を探そうと辺りを見渡す。すると、足に何かが当たる。

 

「何だ…………っ!?」

 

何なのかと足元を見た瞬間、まともに立っていられなくなる。何故かというと俺の足元にファーランさんとミラが倒れていたからだ。

 

「ファーランさん!ミラ!」

 

2人の体を揺すって呼びかけても反応は一切ない。それどころか、2人の体は死んでいるかのように……いや、死んでいて冷たかった。

 

「ど、どうして…………っ!?」

 

気が付くと羽織っていたフード付きマントがモスグリーンから青へと変わり、先ほどまで青かった空は赤紫色へと変わっていた。

 

「いったい何が……」

 

後ろの方で何か物音がし、振り返って見ると見覚えがあるレイピアと刀が地面に突き刺さり、槍が地面に転がっていた。そして、そのすぐ傍には俺が知っている3人が倒れていた。

 

「アスナさん、カイトさん、ザックさんっ!!」

 

3人もファーランさんとミラのようにピクリとも動こうとはしなかった。

 

「ぐわあああああっ!!」

 

更に別の方から聞き覚えがある少年の声がする。その方向を見ると黒いロングコートを着た少年がドサッと音を立てて倒れた。

 

「キリさんっ!!」

 

急いで彼の元へと駆け寄る。

 

「キリさん、大丈夫ですか!?」

 

「うっ……りゅ、りゅう……逃げ……ろ……」

 

キリさんはかすれた声で俺にそう言い残すと一切動かなくなる。

 

「な、何で……。皆が……」

 

皆が死んだことにショックを受けてフラついていると、後ろの方から巨大な手がゆっくりと迫ってきた。だが、気が付いたときにはすでに遅く、巨大な手はがっちりと俺を掴んだ。

 

「ぐわっ!!」

 

俺を捕えたのは、肩まで伸びている黒髪と赤い目を持ち、不気味な笑みを浮かべている巨人だった。そして、巨人の右肩には黒いポンチョで身を隠した男がいた。

 

「お、お前は……」

 

この赤い目の巨人と黒いポンチョの男に心当たりがあるが、何故か思い出すことができない。その間にも巨人は俺をゆっくりと口の元へと持っていく。

 

「くそ!離せええええっ!!」

 

必死にもがくが、がっちりと掴まれているせいで身動きが取れない。巨人が俺を口元まで持っていったところで一旦動きが止まり、肩にいた黒いポンチョの男の口が開いた。

 

「お前は誰も救うことも守ることもできない。お前は怪物をも殺す化け物だ。さあ、地獄を楽しみな」

 

男が最後に言った言葉が合図となり、赤い目の巨人の巨大な口が開かれ、その中に入れられそうになる。

 

「うわああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!!」

 

気が付くと、そこは現実世界にある俺の部屋だった。勉強道具に漫画やケータイゲームなど一般的な男子中学生の部屋だ。ベッドの傍の棚に置いてあるスタンドライトの隣にはナーヴギアがある。部屋にある時計には【2025年1月18日(土)午前8時00分】と表示している。

 

夢に出てきた赤い目の巨人と黒いポンチョの男は俺にとっては忘れたくても忘れられない存在だった。赤い目の巨人はファーランさんとミラを殺した。そして、黒いポンチョの男……ラフコフのサブリーダーであるアビスは2人が死んだ全て元凶といえる存在で、俺も奴に殺されかけたことがある。

 

「あれから2ヶ月ちょっと経ったのにどうして今更あんな悪夢を見るんだ……」

 

普段見ることのない悪夢を見たせいですっかり目が覚めてしまい、このまま起きることにした。

 

1月の朝は肌寒く、暖房が効いていない廊下や階段はより一層寒かった。

 

階段を下りて1階にあるリビングに向かうと、俺の母さんの橘 桃花が仕事に行く支度をしていた。

 

「龍哉、おはよう」

 

「おはよう、母さん」

 

「お父さんはついさっき行ったわよ。あんたも早く着替えてご飯食べなさい。今日は経過観察の日でしょ」

 

「わかっているって」

 

「本当はお母さんもついて行ってあげたかったけど、今日は休むわけにはいかなくてね。1人で大丈夫?」

 

「何言っているんだよ。俺だってもう15歳で数か月後には16歳になるんだぞ。1人で病院くらい行けるって」

 

「そうだったわね。朝ご飯だけどサラダは作っておいたから、他のものは自分で用意して食べて。冷蔵庫には卵とかハムが入っているから。じゃあ、もう行くからね」

 

「わかった。いってらっしゃい」

 

何気ない親子の会話をして母さんを見送り、歯を磨いたり顔を洗ったりして完全に目を覚まさせると朝食の準備をする。それらが出来上がるとテレビの電源を付けて朝の情報番組を見ながら、朝食を食べる。

 

「まさか、15歳の冬をこんなに呑気に過ごせることになるとは思わなかったなぁ……」

 

俺は今年で15歳。つまり中3で今は受験生であるはずだ。だけど、俺は中1の秋から2年間2年間SAOに捕われていた。そのため、中1の秋以降にやるはずだった勉強の内容は全くわからず、それまでにやった内容もほとんど覚えていない。今から受験勉強をしても高校受験なんて不可能なことだ。

 

大学受験ならまだしも、高校受験のために浪人しないといけないのかとショックを受けていたところ、救いの手が差し伸べられた。病室を訪れた《総務省SAO事件対策本部》のある役人さんから、中高生のSAO生還者を集めた学校を用意しているということを聞き、俺は春からその学校に通うことになっていた。しかも、入試なしで受け入れてくれ、卒業したら大学卒業の資格もくれるらしい。これには俺はもちろんのこと、父さんと母さんも喜んでいた。

 

それにもしかすると、その学校にはカイトさんやザックさんといったSAOで知り合った俺と同じ年頃の人ともまた会えるかもしれない。そんな期待もあり、高校生活は楽しみにしていた。

 

朝食を食べ終え、病院に行く支度をする。

 

このときまでは今日もいつものように変わりない日になるだろうと思っていた。しかし、今日はこの後、驚きの出来事が起きるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公共交通を使って経過観察のためにいつも来ている病院へとやって来た。検査を受け、担当の先生からも特に問題はないと言われ、一安心する。

 

検査が終わって受付で検査料を払うのに待合室で待っていると、目の前を歩いて過ぎて行った人が自転車の鍵を落としたのが目に止まった。

 

「あの、自転車の鍵、落としましたよ」

 

「あ、すいません。ありがとうございます」

 

「「っ!?」」

 

自転車の鍵を落とした人がこちらの方に振り向いてきた直後、俺とその人は驚きを隠せなかった。

 

その人は黒髪にどちらかというと女顔寄りの俺と同じくらいの少年。明らかに見覚えのある人だ。

 

「き、キリさんっ!?」

 

「りゅ、リュウっ!?」

 

俺が再会したのはあの時、茅場晶彦/ヒースクリフ団長と相討ちになって俺たちをデスゲームから解放してくれた黒の剣士と呼ばれていた少年、キリさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、リュウとここで再会するとは思ってもいなかったな」

 

「それはこっちのセリフですよ。あの場にいた全員があの時に死んでしまったって思ってましたからね。でも、キリさんが無事で本当によかったですよ」

 

俺たちは現在、病院から場所を移し、病院の近くにあるファミレスで昼食を食べながら話をしていた。あの時に死んだと思っていたキリさんが生きていたことが何よりも嬉しかった。

 

「あ、まだ本名を教えてませんでしたね。俺は橘龍哉、15歳です。こっちでもリュウで構いませんので」

 

「俺は桐ヶ谷和人、年齢は今年で16歳だ。こっちでもよろしくな、リュウ」

 

「はい。じゃあ、俺はカズさんって呼びますね」

 

「ああ」

 

キリさん……カズさんと握手を交わす。

 

その後、彼からあることを聞かされた。

 

「アスナさんが目覚めてない?」

 

「ああ。アスナも俺と同様に何故か死なずに済んだんだ。だけど、アスナを含めて300人のプレイヤーが目覚めてない」

 

未だに300人のプレイヤーが目覚めてないことは俺も知っていたことだ。まさか、その中にアスナさんが含まれていたなんて思ってもいなかった。せっかくアスナさんも生きているとわかって安心したところなのに……。

 

「でもあの時、ヒースクリフ団長……茅場晶彦はゲームをクリアしたら全員ログアウトするって約束したはずなのに……」

 

「これだけは俺にもよくわからないんだ。でも、少なくてもあの男は全員をログアウトさせないっていうことはしないと思う」

 

確かにカズさんの言う通り、茅場晶彦はこんな卑怯なマネだけはしないと俺も思う。だったら、いったい今何が起きているんだ。SAO のメインサーバーにバグでも発生してこんな事態になったのか、それとも他に何か原因があって……。色々と考えてみるが、それらしい答えは思い浮かばなかった。

 

「明日、アスナが入院している所沢病院に行くつもりだけリュウも一緒に来るか?」

 

「明日ですか……。すいません、明日はどうしても行かなきゃいけないところがあるのでまたでいいですか?」

 

「そうか。アスナの病院には3日も開けずに行っているから次行くときに誘うよ」

 

「はい」

 

昼食を食べ終えた俺たちはファミレスを後にすることにした。

 

「カズさんはこの後、どうするんですか?」

 

「今日は俺が夕食当番やる日で帰りにスーパーによって行かないといけないんだよ。当番サボると妹がうるさいからな」

 

「妹ってことは仲直りすることができたんですか?」

 

「まあな。アイツとは血は繋がっていないけど、兄妹であることには変わりないってあの世界で過ごしている内に知ることができたんだよ」

 

「そうだったんですか。よかったですね」

 

SAOにいた頃、カズさん/キリさんの家庭の事情を彼から聞いたことがある。カズさんの家族は本当の家族じゃない。カズさんが生まれて間もない時に産みのご両親を亡くして、産みのお母さんの妹さんが引き取ってくれ、彼はそこで本当の家族だと思って育った。しかし、このことを知ってから家族と距離を取るようになったらしい。

 

そんなことがあったが、無事に仲直りできたみたいで俺も一安心した。

 

ふとあることを思い出す。そういえば、彼女も疎遠になっているお兄さんがいて、苗字も桐ヶ谷だったな。いくつかのピースが繋がり、ある1つの答えが頭の中に思い浮かんだ。俺はその答えが本当にあっているのか気になり、カズさんに聞いてみた。

 

「あの、カズさん。もしかして妹さんって()()っていう名前ですか?」

 

「そうだけど……。あれ?俺、リュウに妹の名前なんて教えたかな……?」

 

俺が思っていた通りだったみたいだ。

 

「実は小学校の時に通っていた道場で知り合って仲良くしていた女の子がいたんです。彼女も桐ヶ谷直葉っていう名前で、疎遠になっているお兄さんがいるって聞いたことがあって……。カズさんの話を聞く限り、共通するところがいくつもあるんです……」

 

「なあ、そこの道場の名前と場所って覚えているか?」

 

「はい」

 

小学校の時に通っていた道場の名前と場所を言った途端、カズさんも何か気づいたかのような表情をする。

 

「そういえば、昔スグが通っていた道場で仲良くなった同級生の男子がいるって言っていたな。確か名前にリュウって付いているって……。もしかして、その同級生ってリュウだったのかっ!?」

 

「そ、その感じだとそうみたいです……」

 

このことに俺たちは驚きを隠せなかった。SAOで知り合った人とこうやって接点があったのだから驚くのは当たり前のことだろう。

 

「まさか、スグがリュウと知り合いだったとはな。正直驚いたぜ」

 

「それはこっちのセリフですよ」

 

「だけど、どうしてSAOにいてこのことに気が付かなかったんだろうな」

 

「俺がスグの家に遊びに行った時にいつもスグのお兄さん……カズさんが部屋に閉じこもっていたからだと……。実際に会ったのも1、2回くらいでちょっと挨拶した程度でまともに顔を見たことがありませんでしたし……」

 

「うっ……。否定することができない……」

 

何も言い返せずにいるカズさん。あんな事情があったんだ。そうなっていてもおかしくないだろう。

 

カズさんは気を取り直して俺に話しかけてきた。

 

「なあ、リュウ。スグも今日は家にいるって言っていたからこれから家に来ないか?アイツもリュウが来たら絶対喜ぶと思うぜ。ついでに夕食でもどうだ?」

 

「で、でも……いきなりお邪魔するのも悪いですし……」

 

「まだ材料も買ってないし、今日は俺とスグの2人だけだから1人くらい増えても問題ないからよ」

 

「いや、あの……今日はこの後、予定があって……」

 

「そっか。だったら仕方がないな。まあ、アイツも剣道で全国ベスト8に入ったから県内の有力高校への推薦入学が決まってて時間もあると思うから、また今度誘うよ」

 

「は、はい……」

 

申し訳なさそうにして誘いを断る。カズさんはそんなこと気にせずに、また誘うと言ってくる。この人は本当にいい人だな……。

 

その後、カズさんと別れた俺はまっすぐ家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もない家に帰ってきた俺は自室であることを思い出していた。

 

 

 

 

 

『俺はオレンジプレイヤーになっても、アンタを殺してでも蘇生アイテムを手に入れる!そのためにここにいるっ!!』

 

 

『俺は……俺は現実でもこの世界でも大切な人を失った。手を伸ばしても届かなかった俺の腕……。だから俺は欲しかった!何処までも届く俺の腕、力!!』

 

 

 

 

 

思い出したのは去年の12月24日に起こった出来事だった。

 

当時の俺はファーランさんとミラを生き返らせるために蘇生アイテムを手に入れようとしていて、俺を止めようとキリさんが止めようとやって来た。だけど、俺は蘇生アイテムを手に入れたいと思うばかりにキリさんを殺そうとした。吹雪が吹き荒れる森の中で俺たちは自分のカーソルがオレンジになることを覚悟で剣を交えることに……。その戦いの中で俺が追い求めた蘇生アイテムは2人を生き返らせることができないことを知り、他の人を傷つけようと……殺そうとしていたことに気が付いた。つまり、俺は幻の夢を追い求めて光が一切ない闇の中を彷徨い、戦っていたのだ。

 

その後、俺はキリさんたちの助けもあって攻略組に復帰していつの間にか《青龍の剣士》と言われるまでとなった。一見すると、俺は小さい頃に憧れていた特撮番組のヒーローのように人のために戦っていたと見えるだろう。しかし、実際のところ、俺は大切なものを守れず、挙句の果て自分の目的のためにある人をも殺そうとしたヒーローや英雄のなりそこないだった。

 

そして、現実の世界で俺はスグといつかまた会う約束をしておいて、俺は(あん)ちゃんが死んだことがきっかけで剣道に対する情熱を失って、デスゲームに巻き込まれた。

 

いくらスグでも、落ちぶれて約束を破って、自分のお兄さんを殺そうとした奴なんかと会いたくないだろう。それに、今の俺にはスグと会うこともスグに想いを寄せる資格なんてない。

 

いつの間にか眼からは涙が出て頬を伝い、床に落ちて消えていった。




最初からアインクラッド編みたいにダークな要素となってしまいました。『Wish in the dark』という曲を聴きながら今回の話を書いたのが影響したのかもしれません……。

リュウ君はキリトと再会してアスナを含めて300人のプレイヤーがまだ目覚めていないこと、そしてキリトと直葉が兄妹だということを知りました。しかし、現実世界やSAOでの出来事のせいで直葉との恋愛関係が厄介なことに……。書いた本人が言うのもなんですが、リメイク版は本当にオリキャラ(特にリュウ君)に容赦がないなと思いました。でも、リュウ君と直葉/リーファとの恋愛関係はここからどうなっていくかが見ものですので。

次回も旧版とは色々と異なります。

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