ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
そして、旧版の方は3周年を迎え、この前の投稿で100話目に到達しました。これからもリメイク版、旧版共によろしくお願いします。
学校から帰って来てラフな格好に着替えたあたしは、自室にあるベッドに座ってあることを考えていた。
あたしの兄の桐ヶ谷和人。彼は本当の兄ではなく、亡くなったお母さんのお姉さんの子供……つまり従兄である。このことを知ったのは、2年前……お兄ちゃんがSAOに捕われてからしばらくした頃だった。初めて知った時は、混乱してお母さんに酷いことを言ってしまったりもした。
だけど考えている内に、お兄ちゃんが距離を取るようになったのは、あたしたちとは本当の家族ではないと知ったからだと気が付いた。お兄ちゃんはそのことをずっと思い悩んでいたに違いない。
更に、この状況の中で未だに想いを寄せ続けている初恋の男の子が昔、あたしに言っていたことを思い出した。
『大丈夫。スグたちのことは嫌いになっていないって。時間はかかるかもしれないけど、また昔みたいに仲がいい兄妹に戻れるよ、絶対に。だからお兄さんのことを信じてあげよう』
何ヵ月も考えた結果、『お兄ちゃんとはこれまでと変わらない関係でいたい』と答えが出た。
あたしまでお兄ちゃんを拒絶するようになったらお兄ちゃんの居場所はなくなり、二度と昔みたいに戻ることはできないだろう。それと比べたら、血が繋がっていないことなんて関係ない。あたしはこれからもお兄ちゃんの妹なんだから。
少しでもお兄ちゃんのことを知ろうとあたしは、お兄ちゃんが愛した仮想世界のことを知りたいと思うようになった。そこで、クラスでゲームに詳しい長田慎一君にVRMMOのことを聞き、彼に勧められて始めたのがアルヴヘイム・オンライン……ALOだった。
そして、あたしは《スピードホリック》という二つ名が付けられ、シルフ五傑と言われるほどのプレイヤーにもなるほどALOに夢中になっていった。
特に今はALOに夢中になっていると言ってもいいだろう。早くログインして《彼》に会いたい。どうしてもインプの少年のことがどうしても頭から離れずにいた。
――あたしのバカバカ。いくら顔と名前が彼に似ているからって……。あたしには橘龍哉っていう想いを寄せている人がいるっていうのに……。
このことを考えることが馬鹿らしくなって、アミュスフィアを付けてベッドに横になった。
「リンク・スタート!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やっぱり、いい手がかりはないなぁ……」
リーファとの約束の時間までまだ少し時間があることもあって、自室にあるパソコンでALOのことを調べていた。
世界樹攻略に何か有力な情報はないか探していたが、特にこれといったものはなかった。あったのは昨日リーファがちょっと話していたオーバーロードというものくらいだった。
世界樹攻略に関することを調べるのは保留にしておき、他のことを調べることにした。
一応、昨日ログアウトする前に今の段階でどんな魔法が使えるのか確かめておいたが、使えるのは初級の闇属性魔法2つだけだった。他の魔法を使えるようになるにはまだまだスキル熟練度が足りないみたいだ。あとわかったのはシルフ、ウンディーネ、ケットシー、スプリガン、そして俺が選んだインプは軽量級の種族に分類され、ウォール・ランが使えるということだ。こう思うと本当に真剣に種族選びをしてよかったと思う。
こうしている間にリーファとの約束の時間がやってきた。
ナーヴギアを取り出して被るとベッドに横になる。
「リンク・スタート!」
ALOにダイブして数秒後にキリさんがログインしてきて、更にその数秒後にはリーファがすずらん亭の中に入ってきた。
「2人ともタイミングいいね。ちょうど今、買い物から帰ってきたところだったよ」
「買い物か、俺たちも準備しないとな。これじゃ頼りないし……」
「確かに。この装備で世界樹まで行くわけにはいけませんしね……」
俺とキリさんの今の装備は初期装備のものだ。これで世界樹まで行くのは自殺行為と言ってもいいだろう。
「それなら武器屋行こっか。お金どのくらい持っているの?」
「お金の方なら俺は心配ないから大丈夫だよ」
「俺もだ」
ユイちゃんが言っていたが、俺とキリさんのアバターはSAOのデータを引き継いだものだ。所持金も引き継がれたのか、ゲームを始めたばかりの初心者が持っているのがおかしいくらいの額の所持金があった。
キリさんが自分のポケットを覗き込む。
「おい、行くぞ、ユイ」
するとピクシーサイズのユイちゃんが出てきて、可愛らしく大きなあくびをした。
そして、リーファ行きつけの武器屋で俺とキリさんは装備一式を揃えることとなった。
店内に入り、真っ先に目に止まったのは深い青色のフード付きマントだった。これが一番欲しくて、ここで売っていて本当によかったと思ったほどだ。他には防御に優れた紺や藍色といった暗い青系統と黒をベースとした服を購入することにした。服装は最終的にSAO時代……《青龍の剣士》と呼ばれていたものに近いものとなったが、闇妖精ということもあってSAO時代と比べると全体的に暗い感じとなっている。
武器は、SAO時代に使っていた《ドラゴナイト・レガシー》と同様の片刃状の片手剣の中から、スピード重視でステータスが最も優れたものを見つけ、それを購入した。流石に《ドラゴナイト・レガシー》のように魔剣クラスのステータスではないが、これだけでもあっただけマシだと思うことにした。あとは投剣に使用する短剣をいくつか買っておいた。
「リュウ君はこんな感じの服装になったんだね」
「まあ。全体的に前やっていたゲームのキャラみたいな服装になったんだけどな」
「そうなんだ。でも、あたしは似合っていると思うよ」
「そ、そうかな……」
リーファにそう言われ、少々照れてしまう。
その一方で、キリさんはまだ武器選びをしていた。防具はSAO時代のように黒いコートと俺と同様にすぐに決まったが、武器はそうではないようだ。さっきから何回も店主に剣を渡され振るたびに一振りして「軽い、もっと重いやつ」と繰り返している。
これを何回も繰り返し、やっと理想の剣を見つけたようだ。だけど、俺とリーファはその剣を見て驚いてしまう。
「何なんですか、その剣は!?」
「俺の理想の重い剣を探してたら、この剣しかなかったんだよ」
キリさんが購入したのは、彼の背丈と同じくらいの大きさもある黒い大剣だった。見る限り、キリさん好みの重い剣だというのは間違いない。
「あれってサラマンダーとかノームみたいに大柄でパワーファイターが多い種族が使うような剣だよ」
「いくら重い剣が好きだからってあれはちょっと……」
スピード重視の剣が好みの俺は、絶対にあの剣には見向きもしないだろう。だけど、キリさんは満足しているかのような感じだった。キリさんが「試しにリュウも持ってみろよ」と渡してきたが、両手で持ってなんとか持てるというもので、STR値がそんなに高くない俺にはとても扱えるものではなかった。て言うか、キリさんは俺とあまり体格は変わりないのによくあんな剣を扱えるな。
大剣を返し、キリさんは早速それを背負うが、鞘の先が地面に擦りそうになっている。その姿は剣士の真似をする子供みたいだ。俺は呆れ、リーファは笑いをこらえていた。
その後、リーファに連れて来られたのはスイルベーンにある塔だった。
「何で塔に……?」
キリさんは少し引きつった顔をして尋ねた。この塔は昨日キリさんが激突した塔でもあるから仕方がないか。
「長距離飛行をするときは塔のてっぺんから出発するのよ。高度が稼げるからね。それよりも早く行こ。夜までには森を抜けたいからね」
俺たちはリーファに背中を押され塔の中に入って行く。
塔の一階は円形の広大なロビーになっており、周囲には色々なショップの類が取り囲んでいる。そして、ロビーの中央にはエレベーターがある。
リーファに連れられてエレベーターに乗り込もうとした時だった。
「リーファ!」
後ろの方から誰かがリーファを呼び止める声がする。振り向くとそこにいたのは、2人のシルフのプレイヤーを連れた長身の男性プレイヤーだった。
男性プレイヤーは、男っぽく整った顔立ちで、額に幅広の銀のバンドを巻いている。装備もやや厚めの銀のアーマーに包み、腰には大ぶりのブロードソード。装備品は全体的にステータスが高そうなものだ。
「こんにちは、シグルド」
このシグルドと呼ばれたプレイヤーは、昨日会ったレコンというプレイヤーも言っていたプレイヤーの名前だ。リーファが所属するパーティーのリーダーだろう。
「なあ、リュウ。シグルドって果物や木の実が描かれた錠前を売ったりしてた……」
「違うと思いますよ」
隣でふざけたことを言うキリさんにツッコミを入れる。
パーティーメンバーのリーファを振り回すことになってしまって、彼に一言謝ろうとしたときだった。
「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」
「うん……まあね。貯金もだいぶできたし、しばらくはのんびりしようと思って」
「残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか?」
「そ、それは悪いとは思っているけど、あたしにだって都合が……」
「お前はオレのパーティーの一員として既に名が通っている。何の理由もなく抜けられるとこちらの面子に関わる」
この場の空気は段々感じが悪くなってきた。
「話が違うじゃない!パーティーに参加するのは都合の付く時だけで、いつでも抜けて良いって約束だったでしょ!?シグルドだって承諾したじゃない!」
「条件?オレはそんな条件を飲んだ覚えがない。勝手なことを言うな」
明らかにこのシグルドというプレイヤーの方が間違っている。シグルドは一方的に自分の考えをリーファに押し付けているだけだ。
SAOでもそういうプレイヤーはいた。だが、俺がSAOでよくパーティーを組んでいたリーダーの人たちはシグルドのような人じゃなかった。
クラインさんやエギルさん、フラゴンさんは大人らしい対応をし、カイトさんやケイタさんは俺と年齢が近くても大人に負けないくらいパーティーメンバーを引っ張っていこうといつも頑張っていた。そして、ファーランさんはいつも俺やミラのことを気遣い、戦闘以外でもいつもまとめ役を務めてくれていた。全員に共通して言えることは仲間のことをちゃんと考えているということだ。
我慢できなくなってシグルドに文句の1つでも言おうとしたところ、先にキリさんが一歩前に出て口を開いた。
「仲間はアイテムじゃないぜ」
その言葉を聞き、シグルドはキリさんの方を睨むように見る。
「何だと?」
「他のプレーヤーをあんたの大事な剣や鎧みたいに装備にロックしておくことは出来ないって言ったのさ」
俺もキリさんに続くように一歩前に出て言う。
「キリさんの言う通りだ。俺がお世話になったパーティーリーダーを務めていた人たちは、メンバーのことを第一に考えて、アンタのように自分勝手じゃなかったぞ。俺だったら、アンタみたいに仲間のことを考えられない奴がリーダーを務めるパーティーには入りたくないな」
俺たちの言葉に怒りを露わにしたシグルドは、腰の鞘からブロードソードを抜き取る。
「屑あさりのスプリガンとインプ風情が!貴様らはどうせ領地を追放された《レネゲイド》だろ!!」
逆ギレと言ってもいいシグルドの台詞に、リーファもカッとなって思わず叫び返す。
「失礼なこと言わないで!2人はあたしの新しい仲間よ!」
「仲間だと!?リーファ、お前も領地を捨ててレネゲイドになる気か!?」
「ええ、そうよ。あたしここを出るわ」
「小虫が這い回るくらいは捨て置こうと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎたな!ノコノコと他種族の領地まで侵入してくるということは斬られる覚悟はあるんだよな!」
俺は武器を持たずにシグルドの前に出る。
「そんなに俺とキリさんを斬りたいんだったら俺から斬ってみろよ。だけど、キリさんやリーファに手を出すって言うならその時は容赦しないぞ」
殺気を出してシグルドを睨む。
周囲は緊迫した空気が満ちた。
すると、シグルドの背後にいた仲間の1人が小声で呟いた。
「マズいですよ、シグさん。こんな人目があるとこで武器を持たない相手をキルしたら……」
周囲にはいつの間にか、トラブルの気配に引かれたように野次馬が集まっていた。シグルドは世間体を気にして、歯噛みをしながら暫く俺やキリさんを睨んでいたが、剣を鞘に収めた。
「外ではせいぜい逃げ隠れろよ。リーファ、今オレを裏切れば、近いうちに必ず後悔することになるぞ」
そう言い残すと、シグルドは塔の外へと出て行った。シグルドに付き添っていた2人のシルフのプレイヤーはリーファに何か言いたげそうな表情を見ていたが、シグルドを追って去っていった。
シグルドたちの姿が見えなくなると、リーファは俺たちに近づいてきた。
「ごめんね、妙なことに巻き込んじゃって……」
「いや、俺たちも火に油を注ぐような真似しちゃって……」
「俺なんか威嚇もしてしまったからな……。だけど、領地を捨てることになってよかったの?」
「そのことは大丈夫だから気にしないで。それよりも早く行こう……」
リーファは回答に困ったのか、無言のままエレベーターがある方に向かう。俺とキリさんもその後を無言でついて行く。
エレベーターに乗り、塔の最上階の展望デッキに着く。
そこからの眺めに目を奪われてしまう。俺たちを2年も捕えていた浮遊城とは異なり、妖精の世界は何処までも広大な大地と青空が広がっていた。
「うお……凄い眺めだな……」
「それに空が近い。手が届きそうだ……」
キリさんに続いて、俺もそう呟く。すると、俺たちより一歩後ろにいたリーファが俺の隣に立つ。
「でしょ。この空を見てると、ちっちゃく思えるよね、色んなことが。それに、いいきっかけだったよ。いつかはここを出ていこうと思ってたの。一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったんだけど……」
「そうか。……でも、なんだか、喧嘩別れみたいな形にさせちゃって……」
「本当にゴメン……」
「あの様子じゃ、どっちにしろ穏便には抜けられなかったよ」
何か気まずくなって話題を変えようとリーファにあることを聞く。
「そういえば、シグルドが言っていたレネゲイドっていうのは?」
「レネゲイドは領地を捨てたプレイヤーのこと……つまり《脱領者》って蔑まされるの。でも、何でああやって縛ったり縛られたりしたがるのかな……。せっかく、翅があるのにね……」
後半の方は半ば独り言のようになり、リーファの表情は少し悲しそうに見えた。
「フクザツですね、人間は。人を求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません」
重い空気の中、ユイちゃんがそう言い、キリさんの胸ポケットから出て彼の右肩に止まる。
「求める?」
「わたしなら……」
ユイちゃんは突然キリさんの頬に手を添えてキスをした。
「こうします。とてもシンプルで明確です」
俺とリーファはあっけに取られて目を丸くしてしまう。
「なんていうか、ユイちゃんは随分と大胆だな……」
「た、確かに……。それにしてもすごいAI ね。プライベートピクシーってみんなそうなの?」
「こいつは特にヘンなんだよ。頼むから妙なことを覚えないでくれよ……」
そう言いながら、キリさんは少し照れてユイちゃんの襟首をつまんで胸ポケットへと戻した。
ユイちゃんがやったことは人の世界でそんなことは気安くできることじゃないんだよな。でも、ユイちゃんのそういう純粋なところが少し羨ましく思えてしまう。
「人の心を求める気持ちか……」
そう呟くと、スグの顔を思い浮かべてしまう。だけど、俺には彼女にそのような気持ちを求める資格なんてない。
隣をチラッと見てみるとリーファも何か考え事をしていた。
そして、リーファに教えてもらった展望台の中央に設置されたロケーターストーンという戻り位置をセーブできる石碑を使い、戻り位置をセーブする。いざ出発しようとしたときだった。
「リーファちゃん!」
後ろから聞き覚えがある声がし、振り向くと昨日知り合ったレコンがエレベーターから降りて俺たちの方に向かって走ってきた。
「ひ、ひどいよ、一言声かけてから出発してもいいじゃない」
「ごめーん、忘れてた」
リーファの言葉にレコンはがくりと肩を落とす。それでもめげることはなく、気を取り直した。
「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」
「んー、その場の勢い半分だけどね。あんたはどうするの?」
するとレコンは鞘から短剣を取って上にあげて答える。
「決まってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから」
「なんか痛いセリフだな……」
「キリさん、心の声が出ちゃってますよ……」
「えー、別にいらない」
「ぐはっ」
キリさんとリーファの言葉でレコンはまともにダメージを受け、その衝撃で空の上へと飛んでいってしまう。
「うわ~!ハートブレイク!僕、落ちてる?飛んでる?」
そして、俺たちの元へと落ちてきて、何処かからか『ネバーギーブアーップ!!』と謎の音声までも聞こえる始末だ。
これは明らかにキリさんの言葉が一番の原因だろう。なんか、レコンが凄く可愛そうな気がしてきた。
それでもレコンはなんとか立ち直った。
「ま、まあそういうわけだから当然僕もついてくよ……と言いたいとこだけど、ちょっと気になることがあるんだよね。まだ確証はないんだけど……少し調べたいから、僕はもうしばらくシグルドのパーティーに残るよ」
リーファにそう言い、マジメな様子で俺とキリさんの方を見る。
「キリトさん、リュウ君。彼女、トラブルに飛び込んでくクセがあるんで、気をつけてくださいね」
「あ、ああ。わかった」
「トラブルに飛び込んでくクセがあるのは、キリさんも一緒ですからね。リーファのことは任せておいて」
キリさんに軽くツッコミを入れながら、レコンにそう言い残す。
「それから君に言っておくけど、彼女は僕の……ンギャッ!!」
敵意を剥き出しにして俺に何か言おうとしたところ、リーファがレコンの足を思いっきり踏みつける。
「余計なこと言わなくていいの!しばらく中立域にいると思うから、何かあったらメールでね。じゃあ!」
リーファはそう言い残し、翅を出し飛び立つ。俺とキリさんもリーファの後を追うように翅を出して飛び立った。
「レコンはどうして俺のことをあんなに敵視するのかなぁ……」
「ゴメンね、リュウ君。レコンには後で厳しく言っておくから」
「別にそんなことしなくていいよ。それにこれ以上やるとレコンが可愛そうだから……」
そうしている内にスイルベーンの街がどんどん遠ざかっていく。そして、俺たちは彼方にきらきらと輝く湖面を指差して飛ぶ。
この先に俺がまだ知らない世界が広がっている。ファーランさんとミラと一緒にはじまりの街から出た時のことを思い出させるものだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
白い大理石で造られた冷たい丸テーブルと椅子。側に、同じく純白の豪奢な天蓋つきのベッド。床は真円形で、壁は全て黄金の金属の格子でできている。十字に交差する黄金の格子は垂直に伸び上がり、やがて半球形に閉じている。その上には巨大なリングがあり、その中を太い枝が貫いている。つまり、ここは太い枝に吊るされている鳥籠の中と言ってもいい。
身に纏うのは、胸元に赤いリボンがある白い薄いワンピース1枚。そして背中からは透明の昆虫の翅のようなものが2枚伸びている。
わたしは2ヶ月もの間、この中に囚われている。
ここにわたしを閉じ込めたのは妖精王オベイロン……須郷伸之という男だ。
須郷はここで人の記憶・感情・意識のコントロールをするという非人道的な研究をしており、わたしの昏睡状態を利用してレクトを乗っ取ろうと企んでいる。わたしがここから出られることはなく、自分に服従させるように脳をコントロールできるということもあって、馬鹿正直にわたしに話してくれた。更にはキリト君が生きているということもだ。これはわたしにとって朗報だった。
――キリト君が絶対に助けに来てくれる……。
「君が女王ティターニアか」
ドアがある方から聞き慣れない男の声がする。すぐにドアの方を見ると黄金の格子の向こう側に1人の男がいた。
男は金髪に金色の瞳を持ち、緑色の服と鎧を身に纏っている。そして背中には薄い緑色の蝶の翅みたいなものが生えている。須郷……オベイロンに似た姿をした男だ。
「あなたは誰なの?」
「私は妖精王オベイロンに仕える妖精……パック。今後、お見知りおきを」
このパックという男からも須郷と同じ感じがする。
「妖精王に仕えるあなたがこんなところに何のようなの?あなたも現実では須郷さんの研究に加担している人なんでしょ」
「今日は女王に挨拶をとな。あと、君の言う通り須郷の仲間だ。だけど、安心しろ。須郷とは違って君に手を出す気はない」
「あなたや須郷さんがこうやって大口を叩いていられるのは今の内だと思った方がいいわよ。いずれ、ここには助けが来るからね」
だけど、パックは随分と余裕を見せて不気味な笑みを浮かべる。
「ここに助けが来る?何寝ぼけたことを言っているんだか、君は。ここには誰も来ることなんて出来はしない。あまり期待しない方がいいと思うぞ。では、私はここら辺で失礼しよう」
パックは須郷のように鳥籠の中に入ることもなく、この場から去っていく。
――あのパックという男はいったい何者なの……。でも、わたしはあの男や須郷には絶対に負けないからね、キリト君。
今回も前回と同様に話の流れは原作やアニメとあまり変わらず、直葉の心理面が大幅に変更されている、最後は謎が多い登場人物のパックが登場するという内容になりました。
装備はやっぱりリュウ君はALOでも青系統のフード付きマントを選びました。これはリュウ君には定番なものなので(笑)。
何かハートブレイクなどレコンが完全にギャグ要因になっているような……。これは私のせいですね。
そして前回のコメントで何者なのか気になるといくつも声を頂いたパックがまたしても登場。今回はアスナと対面。本当に何者なんでしょうか。このことに関してはまだお答えすることはできませんので、ご了承ください。
次回もよろしくお願いします。