ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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第7話 休憩中の会話

2025年1月21日 中立域・古森

 

世界樹を目指して森を抜けようとしている途中、《イビルグランサー》という羽の生えた単眼の大トカゲのモンスターたちと遭遇して戦闘となった。

 

リーファ曰く、シルフ領の初級ダンジョンではボス級の戦闘力を持っているらしい。だが、SAOのスキル熟練度を引き継ぎ、2年間最前線で戦っていた俺とキリさんからすれば、カース系の魔法を使えるという点を除けばそれほど強敵ではなかった。

 

俺は飛行能力を利用して回避しながら隙を見て急所を捉える。その一方で、キリさんは防御や回避をしないで大剣を振り回してなぎ倒していく。取り逃がした1体もリーファが放った風魔法で倒された。

 

「おつかれー」

 

「2人ともナイスファイトだったぜ」

 

寄ってきた2人に声をかけようと後ろを振り向く。

 

「お疲れ様、()()()()()()()()()

 

「「んっ?」」

 

「あっ……な、何でもないっ!リーファ、キリさんっ!お疲れ様っ!」

 

ついうっかりリーファとキリさんのことをミラとファーランさんと呼んでしまい、慌てて2人の名前を呼び直す。2人は不思議そうにして俺を見ていた。

 

俺たちは武器をしまって移動を再開した。その後はモンスターに出会うこともなく、古森を抜けて山岳地帯へ入る。ちょうど滞空時間に限界が来て翅を休ませようと地面に着地した。

 

流石に長時間飛行をしていたこともあって、翅の根元辺りが疲れたな。

 

両腕を上げて大きく伸びをする。リーファとキリさんも俺と同じようなことをしていた。

 

「ふふ、疲れた?」

 

「翅の根元辺りが疲れたけど、まだ大丈夫」

 

「俺もまだまだいける」

 

「お、頑張るわね。だけど、空の旅はしばらくお預けよ」

 

リーファは草原の先にそびえ立つ頂上に雪が降り積もっている山脈を指差す。

 

「見えるでしょ、あの山。飛行限界高度よりも高いから、山を越えるには長い洞窟を抜けないといけないの。シルフ領からアルンへ向かう一番の難所らしいわ。あたしもここからは初めてなのよ」

 

「飛んだ方が早いけど、飛行限界高度よりも高いなら仕方ないか」

 

「一応、途中に中立の鉱山都市があって、そこで休めるらしいけど。リュウ君とキリト君はまだログインできる?」

 

メニューウインドウを開いて時間を確認するとリアルだと今は夜の7時だった。普段ならこの時間は夕食の時間だ。だけど数日の間、家には俺しかないから問題ない。

 

「俺は今日はまだ大丈夫かな」

 

「俺も当分平気だ」

 

「それならもうちょっと頑張ろう。ここで一回ローテアウトしよっか」

 

「「ローテアウト?」」

 

初めて聞く単語に俺とキリさんは首をかしげた。

 

「ああ。ローテアウトっていうのは交代でログアウト休憩することだよ。中立地帯だと即落ちできないから、代わりばんこにログアウトして、残った人が空っぽのプレイヤーを守るのよ」

 

「なるほど、そういうことか。なら先にリュウとリーファからでいいぜ」

 

「じゃあ、先に失礼します」

 

「よろしくね」

 

俺とリーファはそう言い残すと、ログアウトボタンを押す。すると意識が現実世界へ戻り、景色も妖精の世界から自室の天井へと変わっていた。

 

ナーヴギアを外し、1階にある風呂場に行ってシャワーを浴びる。シャワーを浴びた後、すぐに台所に向かって予めコンビニで買っておいた弁当を冷蔵庫から取り出し、電子レンジで温めて食べる。

 

夕食を食べながら、あることを考えていた。

 

こうやってキリさんとリーファ、ユイちゃんとモンスターを倒しながら、自分たちが知らない場所を目指していると、ファーランさんとミラと過ごしたときのことを思い出す。あの時も今と同様に自分たちが知らない場所を目指し、見たこともないモンスターたちと戦っていた。だけど、ALOはSAOと違ってHPが0になってもデスペナルティが発生してセーブポイントまで戻るだけで、実際に死ぬこともない。そういう点では全く違う。

 

ALOにはアスナさんを助けるために来たが、それでもキリさんやユイちゃん、リーファとの旅は楽しいと言ってもいい。特にリーファには、SAOで知り合ったミラやアスナさん、リズさんにシリカ、アルゴさん、サチさんと言った女性プレイヤーとは違う感情を抱いている感じがする。リーファに対してスグと同じ感情みたいなものが……。

 

――何考えているんだよ、俺は……。別にリーファのことを好きになったわけじゃ……。それに俺は……。

 

心の中で葛藤している中、ふとリビングにある時計に目が止まる。時計の針は7時15分を指していた。

 

「ヤベッ!早くしないとっ!」

 

急いで弁当を食べ、麦茶を1杯飲んで自分の部屋へと戻った。そして、ナーヴギアを被って再びALOへとログインする。

 

俺がログインして1分も経たないうちにリーファも戻って来た。

 

「2人とも戻って来たな」

 

キリさんは何か赤いストロー状のものを口に咥えていた。

 

「それって何なんですか?」

 

「雑貨屋で買い込んだんだけど、スイルベーン特産だってNPC が言ってたぜ」

 

「あたし知らないわよ、そんなの」

 

「そうか。何本か買ってあるからリュウとリーファにもやるよ」

 

キリさんは新たに赤いストロー状のものを2本取り出し、俺とリーファにひょいっと投げ渡してきた。どんなものなのかと思って咥えてみた。

 

「っ!?」

 

赤いストロー状のものは激辛で急いで口の中から取り出し、投げ捨てた。隣を見てみるとリーファも俺と同じことをしていた。あまりの辛さに俺とリーファは咳き込んでしまう。

 

そういえば、キリさんは大の辛党だったということをすっかり忘れてた。彼好みの辛さはどちらかというと甘党の俺にはキツイものだった。

 

「ハハハハ。じゃあ、今度は俺が落ちる番だな。護衛よろしく」

 

キリさんは俺たちの反応を楽しむとウインドウを出し、ログアウトする。

 

残された俺とリーファはNPCの店で買った水が入ったボトルを取り出し、それを飲んで口の中に残った辛さを無くす。

 

「全くキリさんも酷いもんだよ。人にあんなもの食べさせるなんて」

 

「本当だよ。舌がやけどするかと思うくらいの辛さだったよ」

 

リーファと共に先ほどのことに腹を立ててキリさんへの文句を言っていた。

 

「キリト君って前からあんな感じなの?」

 

「前はそうではなかったけど、ALOに来てから酷くなったよ」

 

SAOでは俺の蛇嫌いを直すために無理矢理矯正されたことくらいだったが、ALOに来てからキリさんに振り回されて色々と苦労させられている。これから先もこんなことが続くとなると先が思いやられる。

 

「なんかキリト君って無茶苦茶だよね……」

 

「確かにそれは言えるな。でも、いざという時はとても頼りになる人なんだ。俺もそれで何回もキリさんには助けられたからさ」

 

「リュウ君はキリト君のこと、頼りにしているんだよね。リュウ君がそうだったらあたしもちょっとキリト君のこと、頼りにしてみようかな」

 

「問題は大ありだけど、頼りにできる人だからな」

 

そんなことを話していると、リーファはあることを聞いてきた。

 

「そういえば、さっきリュウ君が言っていたミラとファーランって誰なの?」

 

「前やっていたゲームでの仲間だよ。こうやってリーファやキリさんと一緒に冒険していると2人のことを思い出しちゃって……」

 

「なるほどね。そのファーランさんとミラちゃんって言う人はどうしたの?」

 

リーファの問いに言葉が詰まった。

 

そして、脳裏にはファーランさんとミラが死んだときのことが蘇る。赤い目の巨人に喰われて2人の武器の残骸が目の前に落ちてきたあの瞬間を……。

 

「……ウ君……リュウ君!」

 

「っ!?」

 

「どうしたの?難しい顔なんかして。もしかして何か聞いちゃいけないことでも聞いちゃったかな……」

 

心配そうにして俺を見るリーファ。

 

「あ、ああ。2人は、進学とか就職とかで引退したんだ……。その後にキリさんと知り合って行動するようになって……。ただそれだけだから……」

 

「そうだったんだ。それならいいけど……」

 

このことから話題を逸らすためにリーファにはあんなデタラメなことを言った。本当のことを言ったら俺がSAO生還者だということを知られることになる。最悪の場合、仲間を助けられずに死なせてしまった奴だと思われてしまう可能性だって……。

 

そんなことを考えている中、キリさんの胸ポケットからもぞもぞと動いてユイちゃんが出てくる。

 

「う~、眠いのを我慢してたのですが、どうやら寝てしまってたみたいですね……」

 

眠たそうにしているユイちゃん。随分と静かだなと思っていたが、寝ていたんだな。

 

「えっ!?ユイちゃんってご主人様がいなくても動けるのっ!?」

 

リーファは、キリさんがログアウトしている最中でも動けるユイちゃんを見て驚いていた。無理もないか、ユイちゃんは高性能のAIだからな。俺だってキリさんからユイちゃんのことを聞かされるまで驚きの連続だったしな。

 

「そりゃそうですよ。わたしはわたしですから。それと、ご主人様じゃなくて、パパです」

 

「そういえば、ユイちゃんはどうしてキリト君のことをパパって呼ぶの?もしかして、その……彼がそういう設定したの?」

 

ユイちゃんの正体を知らないリーファがそう聞いてきてもおかしくない。でも、これはSAOに関係することになる。なんとか誤魔化そうと考えているとユイちゃんが話し始める。

 

「パパは、わたしを助けてくれたんです。『俺の子供だ』って、そう言ってくれたんです。だからパパです」

 

「そ、そう……」

 

やはりどうにも事情が飲み込めない反応をする。俺は深くユイちゃんのことを追求されないようにとユイちゃんに話しかける。

 

「ユイちゃんはキリさん……パパのことが好きなんだな」

 

ユイちゃんの正体を知ってから、キリさんとユイちゃんのやり取りを見ていて分ったことだが、キリさんはユイちゃんのことを本当の娘のように可愛がって、ユイちゃんもキリさんのことを本当の父親のように慕っている。血は繋がっていないけど、俺には本当の親子のようにも見えた。

 

「リュウさん、リーファさん。好きって、どういうことなんでしょう?」

 

「ええええっ!?」

 

まさかこんなことを聞いてくるなんて思ってもいなかった。困った俺はリーファの方を見る。

 

「リーファ、どうしよう……」

 

「あたしだって急にこんなこと聞かれて困るよ!」

 

俺もリーファもこれには苦戦して中々答えが出てこない。だけど、このままだとユイちゃんが可愛そうな気がし、頭をフル回転させて答えを考える。

 

「家族として好きなのか、友達や仲間として好きなのか、異性として好きなのか、人を好きになるって言っても色々とあるからなぁ。でも、ユイちゃんはパパと一緒にいる時が楽しいとか思っているだろ。俺的にはそれが好きって言ってもいいかな……」

 

「なるほど。リーファさんはどうなんですか?」

 

何か道徳の授業みたいになってきたな

 

「えっと……あたしは、その……いつでも一緒にいたい、一緒にいるとどきどきわくわくする、そんな感じかな……」

 

俺に続くようにリーファも答える。

 

「人を好きっていうのはわたしが思っていた以上に複雑ですね……」

 

「そういうものだよ!」

 

「そうそう!」

 

俺とリーファは必死になってそう言う。

 

人を好きになるということはあった。家族としても友達や仲間としても、そして異性としてもだ。最後の奴は失恋で終わってしまったが。まあ、俺には彼女のことを好きになる資格なんてないから仕方ないか。

 

それにしてもリーファは『いつでも一緒にいたい、一緒にいるとどきどきわくわくする』か……。

 

何か考え込んでいるリーファを見た瞬間、昔から想いを寄せ続けている彼女と重なって見える。いつの間にか身を引いた彼女に似た雰囲気をしたリーファに、同じ想いを抱いているような気がしてしまう。頬には熱が伝わる。

 

すると、リーファも俺の視線を感じて俺と目が合うと頬を赤く染める。

 

「どうしたんですか、リュウさん、リーファさん?」

 

「「なななんでもないっ!」」

 

「何がなんでもないんだ?」

 

「「わっ!!」」

 

いきなりキリさんが戻ってきて頭を上げ、俺とリーファは飛び上がって驚く。

 

先ほどからリーファとはテレパシーでもあるかのように見事にシンクロしていた。

 

「ただいま、何かあったのか?」

 

「おかえりなさい、パパ。今、リュウさんとリーファさんとお話をしてました。人を好……」

 

「な、何でもないんだったら!!」

 

「大したことじゃないんでっ!!」

 

「そ、そうか……」

 

慌てて言葉を遮ろうとする俺とリーファの気迫に、流石にキリさんもビビッてしまい、これ以上聞こうとはしなかった。

 

「キリさん随分早かったですね……」

 

「ああ、家族が夕食作り置きしておいてくれてたからな」

 

「そうですか」

 

「それより、さっさと出発しましょう。遅くなる前に鉱山都市までたどり着けないと、ログアウトに苦労するから。洞窟の入り口までもう少しだよ」

 

リーファが立ち上がって翅を出現させ、飛行体勢に入る。俺とキリさんも立ち上がって翅を出現させる。

 

「っ!?」

 

今まで飛んできた森の方からか誰かの視線が感じ、剣を取った。

 

「ど、どうかしたの?」

 

「今、誰かに見られてた気が……」

 

「リュウもか。ユイ、近くにプレイヤーはいるか?」

 

「いいえ、反応はありません」

 

ユイちゃんがいないってなるといないっていうことなのか。念のために策敵スキルで確認してみるが、プレイヤーどころかモンスターもいない。

 

「ひょっとしたら、《トレーサー》が付いているのかも……」

 

「《トレーサー》って?」

 

聞いたことがない単語でリーファに聞いてみた。

 

「追跡魔法よ。大概ちっちゃい使い魔の姿で術者に対象の位置を教えるの。トレーサーを見つけられれば解除することは可能だけど、術者の魔法スキルが高いと対象との間に取れる距離も増えるから、このフィールドだと見つけられるのはほとんど不可能ね。気のせいってこともあるから気にしなくてもいいと思うよ」

 

「そうか」

 

とりあえず剣を鞘にしまう。だけど、さっきのは気のせいじゃないような感じがする。リーファの言う通り、何もなければいいんだけど。

 

「リュウ君、どうしたの?」

 

「早く行こうぜ。置いていくぞ」

 

「あ、待って下さい!」

 

2人が翅を広げて飛び立っていき、俺も気にすることを止めて急いで翅を広げて2人を追いかけていく。そして、俺たちは洞窟の入り口を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、リュウたちが飛びだった後を1匹の赤い目をしたコウモリが見つからないように追いかけている。そして、森の中で赤をベースとした装備を身に纏っている15人程のプレイヤーが身を潜めていた。

 

「上からの話の通り、あの金髪のシルフはもちろんだが、青いフード付きマントを羽織ったインプと大剣を背負ったスプリガンがかなり厄介そうだな」

 

「さっきの戦闘を見ても思ったけど、あのインプのスピードとスプリガンのパワーは凄かったぜ」

 

「何を言っているんだ、お前たちは。我々は、あのインプとスプリガンへの対策は十分立てているだろ」

 

「そうでしたね、リーダー」

 

「奴らは洞窟の中で仕留めるぞ。洞窟の中だとシルフとスプリガンは飛ぶことができないからな」




今回の話を書いていて、じれったいなとか早くくっ付けと思った私がいました。書いている本人なのに。

リーファ/直葉は前回と前々回でどちらのリュウ君に意識している描写がありましたが、今回はリュウ君もリーファを意識するように……。リーファ/直葉の方はあまり問題ありませんが、リュウ君は原作やアニメのリーファ/直葉みたいになってしまいそうで心配です。リュウ君とリーファ/直葉が結ばれるまでの道のりは旧版よりも難易度が上がってますが、頑張って2人が結ばれるようにしたいです。

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