ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
途中から念のために処刑用BGMとして「乱舞Escalation」という曲をご用意して下さい。他に処刑用BGMとして「POWER to TEARER」や「Real Game」(Rayflower)も候補がありましたが、「POWER to TEARER」はアリシゼーション編、「Real Game」はフェアリィ・ダンス編以降(キャリバー編など)やロストソング編(ゲーム版)のALOでの戦闘の方がいいかなと……。
※一度、私の操作ミスで削除してしまいました。
アルヴヘイム 中立域 蝶の谷
最高速度で蝶の谷で飛び続けていると、ユイちゃんがキリさんの胸ポケットから顔を出して叫んだ。
「プレイヤー反応です。前方に大集団68人。おそらくこれがサラマンダーの強襲部隊です。さらに向こうに14人、シルフ及びケットシーの会議出席者だと思われます。双方が接触するまであと50秒です」
遠く彼方の方を見ると、大量の赤い影があった。あの赤いのがサラマンダーだとすれば間に合わなかったっていうことだ。
「間に合わなかったね。リュウ君、キリト君、ありがとう。君たちは世界樹に行って。短い間だったけど、楽しかった」
笑顔でそう言ってくるリーファ。
俺としてはリーファやシルフとケットシーのプレイヤーたちを見捨てるのが嫌だった。リーファにあんなこと言った以上、彼女たちを助けたい。でも、どうやってあの状況を打開すればいいんだ……。
悩んでいるとキリさんが話しかけてきた。
「リュウ、ちょっと耳を貸してくれ」
俺はキリさんに言われるまま、耳を貸す。
キリさんはある作戦を俺に話す。その作戦の内容を聞いて驚いて声をあげてしまう。
「本気でその作戦でやるんですかっ!?」
「バカ!声でけえよ!これしか手はないんだよ!」
苦渋の決断をし、キリさんが立てた作戦に賛同する。
「リーファはシルフとケットシーの方をなんとかしてくれ!」
キリさんはリーファにそう言い残すと地面目指して急角度のダイブしていった。
「ちょっと!何よそれ!リュウ君、どういうことなのっ!?」
「今言えるのはとんでもないことだよ!文句は後でキリさんに言ってくれ!」
俺もリーファにそう言い残し、キリさんの後を追うようにダイブに入る。
一方でシルフとケットシー達もサラマンダーたちの集団に気が付き、戦闘態勢に入ろうとしていた。だけど、明らかに圧倒的に不利だ。今すぐにもサラマンダーたちが攻撃をしようとしたときだった。
対峙する両者の間の台地にキリさんはミサイルのように突っ込み、地面に着地した。土煙が晴れた時には俺もキリさんの隣に並び立つ。
「双方、剣を引け!!」
キリさんが叫ぶとサラマンダーたちは攻撃を止める。これも恐らく一時的だ。
俺より一足遅くやってきたリーファは、ダークグリーンの長髪をした和風の長衣に身を纏っている女性の元へ降り立った。
他のシルフのプレイヤーと恰好が違うからあの女性がシルフの領主さんだろう。
その隣には、とうもろこし色に輝くウェーブヘアに小麦色の肌、そしてケットシー特有の猫耳と猫の尻尾を持つ小柄の女性がいる。彼女はワンピースの水着に似た戦闘スーツを纏っており、シルフの領主さんと同様に他のケットシーとは恰好が違うからケットシーの領主さんに間違いない。
リーファはシルフの領主さんに事情を説明してくれている。大分苦労しているようだが、俺の方が苦労することになるからなんとか頑張ってくれ。
「指揮官に話がある!」
キリさんが叫ぶと、赤い鎧に身を纏って背中に両手剣を背負った大柄で厳つい感じのサラマンダーが出てくる。雰囲気からしてあのサラマンダーが指揮官に違いない。
「スプリガンとインプがこんなところで何をしている。どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやる」
「俺の名はキリト。隣にいるのはリュウガ。俺たちはスプリガン=インプ同盟の大使だ。この場を襲うということは、我々4種族との全面戦争をサラマンダーは望むと解釈していいんだな?」
「スプリガンとインプが同盟だと?」
スプリガン=インプ同盟ということにシルフとケットシー、サラマンダーの両者は絶句する。この中で1番絶句してしまったのは間違いなく俺だ。
キリさんが俺に教えた作戦とは、『スプリガン=インプ同盟ということにして、俺たちはその同盟大使』という内容だった。正直言うとこの作戦には俺は反対だった。それでも、もうこれしか手がないということで渋々とその作戦に協力することにした。
しかも、話を合わせてくれとかキリさんも滅茶苦茶なことをお願いしてきて困ったものだ。下手したらすでに俺たちは殺されたかもしれないっていうのに……。本当に大丈夫なんだろうかと不安でいっぱいだった。
「護衛の1人もいない貴様らがその大使だと言うのか?インプの方は精鋭部隊が付き添っていてもおかしくないと思うがな」
いきなりヤバい状況になってしまった。キリさんに至っては頑張れよという眼をしている。後でこの人に文句でも言ってやろうと決心した。
「それはお前たちには教える義務はない。シルフほどじゃないが、インプもサラマンダーとは仲が良くないからな。最近は複数のサラマンダーのプレイヤーに襲われたインプのプレイヤーもいると聞いている。そんな奴らに内密で対策を立てていてもおかしくないだろ」
「確かにサラマンダーはシルフと同様に領地が隣り合っているインプとも不仲の方だ。我々サラマンダーを徹底的に倒すために同じく我々と敵対しているシルフだけでなく、ケットシーとスプリガンと手を組んでもおかしくない。いくらサラマンダーでも4種族となると絶対に勝ち目がないからな」
いくらサラマンダーでもこれで迂闊に手は出せないだろう。ちなみに複数のサラマンダーのプレイヤーに襲われたインプのプレイヤーとは俺のことだ。まさか、あの時のことがこんな形で役立つとは思ってもいなかった。
「たった2人しかいなく、大した装備も持っていないお前らが大使というのをにわかに信じるわけにはいかないな。だが、オレも鬼じゃない。お前らのどちらか1人がオレと戦い30秒避けきったら大使として信じてやろう」
サラマンダーの指揮官は暗い赤の刃を持つ両手剣を背中にある鞘から抜き取る。
「ずいぶん気前がいいね」
そう言いサラマンダーの指揮官の元へ行こうとするキリさんを止める。
「キリさん、ここは俺が行きます」
「リュウ、どうしてなんだ?」
「これ以上、サラマンダーの好き勝手な行動を見過ごすわけにはいかないんですよ。それに、俺たち3人相手だけに十数人で襲いかかったり、自分たちの強化のためにシルフとケットシーの領主を狙おうとする奴らのことだから何か企んでいてもおかしくないです。キリさんはもしもの時のためにスタンバイしていて下さい」
「そうか、頼んだぜ。あと絶対勝ってこいよ」
「はい!」
キリさんは笑みを浮かべ、俺に譲ってくれた。本当ならキリさんが戦ったほうがいいかもしれない。だけど、俺はアスナさんを助けると共に、キリさんを手助けするためにALOまで来て覚悟はできている。この戦い負けるわけにはいかない。
翅を出し、サラマンダーの指揮官の元へと飛んでいく。
「インプ、貴様が相手をしてくれるのか」
「はい。サラマンダーの指揮官さん、あんたの名前は?」
「オレはサラマンダーの将軍《ユージーン》だ。貴様はリュウガだったな。貴様がどれほどの力を持っているのか見せてもらおうか」
「俺を倒させないようじゃ、スプリガンの彼は倒せませんよ」
そう言い、左手で右腰の鞘から片手剣を抜き取る。
そして、お互いに睨み合い、戦闘態勢に入る。いつ戦闘が開始してもおかしくない状況だ。雲に隠れていた日差しがユージーン将軍の両手剣に当たり、反射した時だった。
ユージーン将軍が振り下ろした両手剣が俺に襲い掛かって来た。すぐにそれを見切り、持っている片手剣で受け止めようとするが……。
「何っ!?」
ユージーン将軍の両手剣が俺の片手剣をすり抜ける。そして、俺のところで再び実体化する。
慌てて後ろに回避し、ダメージを軽減することができた。軽く斬られる程度で済んだ。下手したらあれで大ダメージを受けていたところだ。
「何なんだ、その剣はっ!?」
「オレの剣を見切った褒美に教えてやる。この剣はサーバーに1つしか存在しない
「そんなのアリかよ……」
反撃に剣による連続攻撃をするが、ユージーン将軍は魔剣グラムで的確に受け止めて弾き返していく。
またユージーン将軍が振り下ろしてきた《魔剣グラム》を受け止めようとしてみる。しかし、先ほどと同じように俺の片手剣をすり抜けた直後、実体化して俺に襲い掛かる。
「ぐはぁぁっ!!」
今度はまともに攻撃を受けて一気に7割くらいまでHPが減ってしまう。でも、そろそろ30秒経つ頃だ。これで本来の目的は果たされる。
「あの熱くなっているところ悪いんですけど、もう30秒経っているんじゃないんですか?」
「悪いな、気が変わった。やっぱりお前の首を斬り落としてやりたくなった」
「やっぱりサラマンダーは信用できない奴らだな……」
剣を強く握りしめ、ユージーン将軍に攻撃を仕掛ける。
だけど、この状況はかなりマズイ。ユージーン将軍は強い。加えてあの魔剣グラムっていう両手剣の攻撃を防ぐ手段がない以上、倒すのはかなり骨が折れそうだ。ソードスキルがあるならまだしもALOには存在しない。キリさんやカイトさんならソードスキルなしでも何とかできそうだが、俺は一体どうすれば……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あの厳ついおっさんはいったい何者なんだよ……。プレイヤーだけじゃなくて剣も強すぎだろ」
キリトがそれを口に出すと、シルフの領主《サクヤ》とケットシーの領主《アリシャ・ルー》が説明する。
「あの男はユージーン将軍。サラマンダー領主《モーティマー》の弟……リアルでも兄弟らしいがな。知の兄に対して武の弟、純粋な戦闘力ではユージーンのほうが上だと言われている。サラマンダー最強の戦士だから、ALOで最強のプレイヤーだと言ってもいいだろう」
「ユージーン将軍が使っているのは魔剣グラム。《エセリアルシフト》っていう、剣や盾で受けようとしても非実体化してもすり抜けるエクストラ効果があるんだヨ」
「ALO最強のプレイヤーに厄介な効果付きの剣か。とんでもないジョーカーを引いてしまったみたいだな、リュウの奴は……」
流石のキリトも2人の領主の説明を聞き、険しい顔をする。
リュウはSAOで《青龍の剣士》という二つ名が付けられ、攻略組として最前線で戦っていたプレイヤーだ。だが、今はユージーンにかなり押されていて苦戦している。なんとか自身の機動力を活かして回避して攻撃を少しずつ与えているが、剣で防ぐことができなく、その度に攻撃を喰らっている。
この戦いを見てサクヤとアリシャをはじめ、シルフとケットシーのプレイヤーからは不安な声が上がってくる。
「厳しいな。彼もプレイヤーの技術は高いが、相手の方が一枚上手というのとそれ以上に武器の性能が違いすぎる」
「サクヤ、魔剣グラムに対抗する方法は何かないのっ!?」
「魔剣グラムに対抗できるのは、同じ
「そんな……」
リーファまでも不安になって来て胸の前で両手を強くぎった。そして、リーファの視線の先には、ダメージをかなり受けているリュウとまだあまりダメージを受けてなくて余裕な表情をしているユージーンがいる。
ユージーンの攻撃をリュウがランダム飛行で危なっかしく回避していく。リュウの体力も限界へと近づいていっているのが見てもわかるほどとなっている。
リュウはついにユージーンの攻撃を避けきれず、まともに攻撃を受けてしまう。
「ぐわああああっ!!」
まともに攻撃を受けたリュウは木の葉のように叩き落されて、爆音とともに岩壁に激突する。そして巻き起こった土煙がリュウの姿を目視できなくなるほど覆い尽くす。
土煙が晴れ、全員がその場所へと目を向ける。だが、リュウの姿はなかった。
「あのインプ死んだのか?」
「だったらリメインライトが残るだろ。それがないってことはアイツ逃げたんじゃ……」
ケットシーの1人が呟いた途端、キリトが叫んだ。
「そんなことあるか!リュウは仲間を見捨てるくらいなら自分を犠牲にするような奴だ!それにアイツはこんなところで簡単にやられない!俺はリュウを信じるっ!!」
キリトの言葉にリーファは思い出した。
真面目で後先のことをちゃんと考えるリュウと何処か子供っぽいところがあるキリト。一見すると凸凹コンビと言ってもいい2人だが、本当は連携して戦うなど互いのことを信じ合っていることを。
そして、まだ出会って少ししか経ってないがこれまでのリュウのことを。
『誰かが助けを求めて手を伸ばした時、俺たちはその手を必ず繋いでみせるよ。だってプレイヤーは助け合いでしょ』
――そうだ。キリト君の言う通り、リュウ君が仲間を見捨てることも簡単にやられたりしない。あたしもリュウ君を信じるんだ。
今度はリュウを信じようと胸の前で両手を強くぎるリーファ。
すると、リーファの隣にいたキリトが上空を見た途端、笑みを浮かべてその方向を指さす。
「ほら見ろ。俺の言った通りリュウはまだ死んでも逃げてもいないってな」
「え……?」
リーファもキリトが指さした方を見ると、青いフード付きマントを羽織った少年の姿を捉える。
「リュウ君っ!!」
青いフード付きマントを羽織った少年……リュウを見た瞬間、リーファの両目に涙が滲んだ。
そして、リュウはユージーンに目がけて一直線に急降下してくる。
「シルフとケットシーの運命は、俺が変える!!」
「まだ威勢が残っているみたいだな。すぐに叩き潰してやるっ!!」
ユージーンもロケットのように急上昇してリュウに接近し、リュウに魔剣グラムに振り下ろそうとする。
「危ないっ!!」
リーファが叫んだ直後、リュウが左手に持つ片手剣の刃に水色に輝く光が纏う。
――《クリスタル・ブレイク》!!
リュウは目にも止まらない速度で、龍が鍵爪でクリスタルを粉々に破壊するかのような4連撃の斬撃をユージーンが攻撃してくる前に叩き込む。
「何っ!?」
これにはユージーンも顔色を変えた。
リュウが使った技にリーファたちALOプレイヤーとキリトは驚きを隠せないでいた。あのような技はALOでは見たことのない。元SAOプレイヤーであるキリトには心当たりがあるものだった。
――あれは片手剣のソードスキルか?いや、ALOにソードスキルはないし、SAOでも
更にもう1度リュウは自身が持つ片手剣の刃に水色に輝く光を纏わせ、ユージーンに叩き込もうとする。しかし、ユージーンもこのままやられるわけにはいかないぞと魔法スペルは詠唱して薄い炎の盾を半球状に出現させ、リュウの攻撃を防ぐ。リュウの攻撃を受けた半球状の薄い炎の盾は大きな爆発を巻き起こし、消滅。
リュウはこの隙も見逃さず、ユージーンに片手剣を振り下ろし、ユージーンも魔剣グラムでそれを受け止める。この衝撃で2人は後ろへと吹き飛ばされる。
今の2人の戦いは、まるで青い龍と赤いワイバーンによる激闘のように激しいものとなっている。
「落ちろ、小僧ぉぉぉぉっ!!」
先に体勢を立て直したユージーンがリュウに向かって一直線で飛んでいき、魔剣グラムを振り下ろそうとする。
だが、リュウはギリギリのところで攻撃をかわす。そして左手に持つ片手剣の刃に青色に輝く光が纏う。
「《ドラゴニック・ノヴァ》!!」
刃に青い光りを纏った片手剣による11連撃の斬撃がユージーンに叩き込まれる。
10体の蒼い龍が牙を剥いて凄まじい速度で駆け抜けていくように、次々と斬撃を繰り出していく。そして、最後に11体目の蒼い龍が鍵爪を振り下ろすように全力の上段斬りを決め、新星のようなライトエフェクトが炸裂する。
リュウが放った11連撃は7割近くも残っていたユージーンのHPを猛スピードで奪い取っていく。そして、最後の一撃がユージーンの右肩から左腰にかけて斬り裂く。
「ぐおおおおおおおっ!!」
斬り裂かれたユージーンは断末魔を上げ、巨大な爆炎に包まれる。爆炎が消え、中から赤いリメインライトが姿を現す。
「ふぅ……。首を斬り落とされたのは俺じゃなくてアンタのほうだったな、ユージーン将軍……」
リュウが呟くようにそう言った直後、辺りは沈黙した空気に包まれる。
最初に沈黙を破ったのはサクヤだった。
「見事、見事!!」
「すごーい!ナイスファイトだヨ!」
アリシャがそれに続き、すぐに背後の12人も加わった。更には敵だったサラマンダーからも拍手や大きな歓声が上がった。
「リュウ、よくやったぞ!!」
キリトからも歓声があがり、その表情は笑顔で溢れていた。
リーファはキリトから彼の視線の先へと顔を向ける。そこには体力かなり消耗して息を切らしつつも翅で宙に浮いている青いフード付きマントを羽織った少年がいた。その少年を見た直後、リーファは安堵した笑みを浮かべる。
前半のところは書いていてリュウ君が可愛そうになってきました。多分、ALOに来てからリュウ君に一番ストレスが溜まったことだと言ってもいいでしょう(笑)
途中からキリトに代わってリュウ君がユージーン将軍と戦うことに。この展開は旧版と同じですが、戦闘シーンは大きく異なるものになりました。
リュウ君が使ったソードスキルみたいな未知なる技。ユージーン将軍を倒した必殺技がユウキの「マザーズ・ロザリオ」と同じ11連撃。ただでさえ、謎を多く残しているフェアリィ・ダンス編なのにまた1つ謎を残してしまいました。
リュウ君は映司をモデルにしてますが、最近では「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!!」とか「○○の運命は、俺が変える!!」など永夢の決め台詞を結構言っているような気がします。それどころか、エグゼイドのネタを結構やっている気が……。エグゼイドロスの影響かもしれません。
次回もよろしくお願いします。