ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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旧版ではフェアリィ・ダンス編で終わる予定だったため、アニメやマンガ版と同様にカットしたヨツンヘイムの話でしたが、リメイク版ではやらせていただきました。

前回は結構シリアスな雰囲気で終わりましたが、今回は前回のシリアスな雰囲気を壊すほどコミカルなシーンが多くなっています。


第12話 闇と氷の世界《ヨツンヘイム》

目の前に広がっているのは白く凍りついた湖に雪山、凍り付いた砦や城などがある冬のフィールドだ。そして500メートル以上の高さには無数の氷柱が垂れ下がっている天蓋が存在する。極寒の地が広がる地底都市と言ってもいいところだ。

 

俺たちはこのフィールドにある石造りのほこらの中で火を焚いて寒さから身を守っている。俺とリーファは眠いのを我慢し、たき火で身を温めており、その一方でキリさんは壁に背中を預け、あぐらをかいて眠りかかっている。

 

「キリさんはこんな状況でよく寝てられるな……」

 

呆れながら隣で壁に背中を預けて寝ているキリさんを見る。

 

ハッキリ言うと今の俺たちは()()()()()()()()に置かれている。何故かというと今俺たちがいるところがかなりヤバいところだからだ。

 

リーファ曰く、俺たちが今いるのはアルヴヘイムの地下に広がるもう1つのフィールド、邪神と呼ばれている強力なモンスターが徘徊する闇と氷の世界《ヨツンヘイム》というところだ。

 

どうしてこんなところにいるかというと30分ほど前に遡る。

 

俺たちはシルフとケットシーの同盟調印式をサラマンダーから守り、オトヤとシリカと再会した後、皆と別れて再び世界樹を目指してアルン高原を飛び続けていた。

 

流石に世界樹があるアルンには今日中にはとてもたどり着けなく、途中で目に止まった森の中にある小さな村で休むことに。しかし、その村は丸ごと巨大なミミズ型のモンスターが擬態したトラップで、俺たちはソイツに飲み込まれてしまった。巨大なミミズに喰われて死んだと思ったが、途中で放り出されたところがこのヨツンヘイムであった。

 

あのトラップにかかった時のことを思い出し、ゾッとする。

 

あれはある意味、二度とかかりたくないトラップと言ってもいいものだ。俺なんか、あのトラップに登場した巨大なミミズ型のモンスターのことを『蛇の化け物』だと勘違いして悲鳴を上げて腰を抜かしてしまったほどだ。リーファの前であんなカッコ悪いところを見せて……。

 

「まさか、あの村が丸ごとモンスターの擬態だったなんて……。あの時マップを開いて確認しておけば……」

 

「過ぎてしまったことなんだから責めても仕方ないだろ。それよりも死んでスイルベーンからまたやり直しにならなかっただけでもマシだって思った方がいいよ」

 

落ち込むリーファを慰めようとフォローを入れる。それを終えると、金属製のカップを2つ取り出し、中にたき火で温めておいた紅茶を注ぐ。

 

「飲む?少しは気がまぎれるよ」

 

「ありがとう、リュウ君」

 

紅茶が入ったカップの内1つをリーファに差出し、彼女はそれを受け取る。その直後、紅茶の香りに誘われたのか、キリさんが目を覚ます。

 

「あれ?……俺、寝ちゃってた?」

 

「寝てましたよ。俺たちだって眠たいのを我慢しているんですからキリさんも我慢して下さいよ」

 

「悪い悪い。なあ、俺にもそれくれるか?」

 

「これ飲んでまた寝ないで下さいよ」

 

「わかっているって」

 

更にもう1つ金属製のカップを取り出し、紅茶を注ぐとそれをキリさんに渡す。そして、紅茶を飲む俺たちだったが……。

 

「ん……?」

 

「リュウ、どうしたんだ?」

 

「これ味薄かったですけど、大丈夫ですか?」

 

「何言っているんだよ。ちゃんと茶葉から味も色も香りも出ているだろ」

 

「そうだよ。リュウ君、寝ぼけているんじゃないの?」

 

2人はそう言う。

 

もう一度飲んでみるが、やっぱり紅茶の味なんかしない。お湯をそのまま飲んでいるみたいだ。おかしい、茶葉からちゃんと色も香りも出ているのに、どうして味がしないんだ。

 

紅茶を飲み終えたところでキリさんが話を切り出した。

 

「そう言えば、このヨツンヘイムからどうやって脱出するんだ?俺、ここの知識ゼロなんだよな……。ここって俺たちが来たみたいに一方通行ルートじゃなくて、地上と行き来できるルートもあるのか?」

 

「一応あるよ。あたしも実際にここに来るのは初めてだから通ったことはないけど、確か、央都アルンの東西南北に一つずつ大型ダンジョンが配置されてて、そこの最深部にヨツンヘイムに繋がる階段があるのよ」

 

リーファはマップを開いて今いる場所を確認し、4つの階段の中で西か南のやつが最寄だと判明した。

 

「この2つの内のどちらかに行けば地上に出られるんだけど、階段のあるダンジョンには全部、そこを守護する邪神がいるの」

 

「仮にフィールドを徘徊する邪神モンスターに出会わなくても戦闘は避けられることはないってことか。そこにいる邪神モンスターってどのくらい強いんだ?」

 

俺の質問に、リーファは真剣な表情をして答えた。

 

「かなり強いわよ。噂じゃあ、このフィールドが実装されてすぐに挑んだサラマンダーの大部隊が、最初の邪神ですぐに全滅したって聞いたことがあるよ。それにリュウ君が戦ったユージーン将軍も1人で邪神の相手したら10秒持たなかったとか……」

 

リーファの返答に言葉を失ってしまう。

 

あのユージーン将軍でも10秒持たなかったってなると、邪神モンスターはSAOのスカルリーパー並に強い奴だろう。

 

「今じゃあ、ここで狩りをするには、重武装の壁役プレイヤー、高殲滅力の火力プレイヤー、支援・回復役プレイヤーがそれぞれ最低8人はいた方がいいって言われているわ。軽装剣士のあたしたち3人じゃ、瞬殺だよ」

 

「そんな奴と絶対に1回は戦うことになるとは……。しかも、ここは日光も月光もないから空中戦闘に持ち込むのは不可能。一応、インプの俺には暗中飛行があるから少しだけなら飛べるけど、長くても30秒持つかどうかってところなんだよな……」

 

「となると、残されたのは邪神狩りの大規模パーティーに合流させてもらって一緒に地上に戻るしか方法はないね。でも、ここはALOで最高難易度マップとして最近実装されたばかりだから、ここに来ているパーティーはほとんどいないの。出会う確率はほとんどないって言ってもいいかも……」

 

そこでキリさんが自分の膝の上で眠るピクシーサイズのユイちゃんの頭をつつく。

 

「おーいユイ、起きてくれ!」

 

するとユイちゃんは可愛らしく大きなあくびをして起きた。

 

「ふわ……。おはようございます、パパ、リュウさん、リーファさん」

 

「おはよう、ユイ。起きたばかりのところ悪いけど、近くに他のプレイヤーがいないか、検索してくれないか?」

 

「はい、了解です」

 

ユイちゃんはこくっと頷き、目を閉じて近くにプレイヤーがいないか確認する。そして、すぐに目を開けて申し訳なさそうにして答えてくれた。

 

「すみません、わたしがデータを参照できる範囲内に他のプレイヤーの反応はありませんでした」

 

「ううん、ユイちゃんが謝ることないよ。こうなったら、あたしたちだけで地上への階段に到達できるか試してみるから」

 

「やっぱりこうなるのか。まあ、このままここにいても時間が過ぎていくだけだからな。やれるだけやってみるか」

 

「一刻も早く世界樹に行かないとならないからな。ユイ、何か異変があったらすぐに教えてくれ」

 

「了解です、パパ」

 

いざ出発しようとしたときだった。

 

雷鳴でも地鳴りでもない異質な大音響が、近くで響き渡った。これは間違いなく邪神モンスターの咆哮だ。直後、ズシンッと巨大な足音もする。

 

「こ、これって絶対に邪神モンスターだよね……」

 

「ああ、間違いないだろ……」

 

リーファが呟いたことに小声で答える。

 

今の俺たちじゃ、邪神と戦ったら絶対に瞬殺される。邪神が遠ざかったらすぐに逃げなければならない。邪神がここから遠ざかることを祈っていると、別の邪神モンスターの咆哮もわずかに聞こえる。

 

これには真っ先に聴力が優れたシルフのリーファが気が付いた。

 

「ヤバい、邪神モンスターが2体もいる。1体だけでも厄介なのに。どうしよう……」

 

「ちょっと待って下さい。接近中の邪神モンスター2体はお互いを攻撃しあっています!」

 

「えっ?モンスター同士が戦闘になるなんて聞いたことないよ。一体どうなっているの?」

 

「とりあえず、様子を見に行こう」

 

「そうですね。どの道、こんなところだと邪神モンスターの戦闘に巻き込まれてすぐに潰されますからね」

 

万が一、戦闘になった時のためにすぐに戦闘に入れるようにして2体の邪神モンスターが戦っている場所へと向かった。2体の邪神モンスターは、数歩進んだだけですぐに視界に入った。

 

1体は縦に3つに連なった巨大な顔の横から4本の腕を生やした巨人というフォルムをし、4本の手にはそれぞれ巨剣が握られている。SAOにいた赤い目の巨人や白い巨人などの巨人型モンスターは人間を巨大化し、歯が爬虫類の生物みたいになっている姿だったが、ALOの巨人はモンスターそのものだと言ってもいい姿をしている。

 

もう1体は全体的に白くて巨人型の邪神モンスターより一回り小さく、象のような頭とクラゲみたいな胴体が合わさった姿をしている。一言でいうとキメラ型モンスターだ。

 

2体の邪神モンスターによる戦闘は、圧倒的に象クラゲの邪神の方が劣勢であった。巨人型の邪神の巨剣が象クラゲの邪神の胴体に叩き込まれ、どす黒い体液……象クラゲの血液が飛び散る。

 

「まるで怪獣映画を見ているみたいだ……」

 

「ここにいたらヤバそうだぜ……」

 

俺とキリさんはそう呟き、象クラゲの邪神から目が離せないでいた。その間にも象クラゲの邪神はどんどん弱っていく。隣にいたリーファは辛そうな表情をし、呟いた。

 

「ねえ、リュウ君、キリト君。苛められてる方を助けてあげて!」

 

「でも、助けるってどうやって……」

 

「仮に助けようとあの邪神たちの戦闘に割って入ったところで、戦いに巻き込まれて俺たちがやられるだけだぞ」

 

「ALOに来てからずっと思っていたことですけど、楽して助かる命がないのはALOでも一緒のようですね……」

 

呟くように一言。そして、何かいい策はないか象クラゲの邪神を見ながら考えているとあることに気が付く。

 

「そういえば、あの苛められている方の邪神って胴体がクラゲみたいですよね」

 

「ああ……」

 

「クラゲって海とか水の中で生きている生物だから水があるところだったらなんとかなるんじゃ……」

 

「そうか!ユイ、近くに川とか湖はないかっ!?」

 

俺の言ったことにキリさんは気が付いたようで、ユイちゃんに指示を出す。すると、ユイちゃんは北に200m行ったところに氷結した湖があると教えてくれた。

 

「でも、どうやってそこまであの邪神たちを引き付ければ……」

 

「方法は1つだけある!リュウ、投剣用の短剣はあるよな。俺に1本くれ!」

 

「あっ、はい!って……まさかっ!!」

 

「せいっ!」

 

投剣用の短剣を取り出した直後、キリさんはすぐにそれを奪い取るかのように掴み、巨人型の邪神の顔に向かって投げた。

 

「あぁぁぁっ!!」

 

キリさんが何をやろうとしていたことに気が付いて止めようとしたときにはすでに遅く、巨人型の邪神の顔に俺が渡した投剣用の短剣が命中。巨人型の邪神のHPをほんの少しだけ削り取った。

 

そして、巨人型の邪神は怒りの雄叫びを上げ、ターゲットを象クラゲの邪神から俺たちへと変える。

 

俺とリーファは青ざめ、一目散に逃げだした。

 

「うわああああああああっ!!」

 

「きゃああああああああっ!!」

 

俺とリーファが悲鳴を上げながら逃げ、一足遅れたキリさんがすぐに追いついた。更にその後ろを巨人型の邪神が追いかけてくる。

 

「2人がすぐに逃げてくれて助かったぜ」

 

「何呑気に言っているんですかっ!!」

 

「なんてことしてくれたのよっ!!」

 

追いついて呑気に話しかけてきたキリさんに、俺とリーファは罵声をあびせる。その間にも巨人型の邪神がどんどん追いついてくる。

 

「ヤバい!追いつかれるっ!!」

 

「こうなったら俺1人で邪神を引き付けるから、リュウとリーファはユイを連れて離脱しろっ!!」

 

「1人で大丈夫なんですかっ!?」

 

「ああっ!それともう1本、投剣用の短剣をくれっ!!」

 

「わかりましたっ!!」

 

もう1本の投剣用の短剣をキリさんに投げ渡し、ユイちゃんが俺の方に飛んできてマントのフード部分に入る。そして、俺は翅を広げてリーファの手を掴み、猛スピードで巨人型の邪神の前から離脱。キリさんはもう1度、巨人型の邪神の顔に目がけて投剣用の短剣を投げつけた。

 

予定通り、巨人型の邪神はキリさんだけを追いかけていった。

 

「キリト君、大丈夫かな……」

 

「パパなら絶対に大丈夫ですよ」

 

「キリさんに限ってあんなことでやられることはないと思……」

 

「うわぁぁぁぁっ!!助けてぇぇぇぇっ!!」

 

リーファに向かってそう言いかけているとキリさんの悲鳴が響き渡る。悲鳴がした方を見ると巨人型の邪神に追いつかれそうになる中、必死に走って逃げているキリさんの姿があった。

 

「やっぱり駄目じゃないっ!!」

 

「パパっ!!」

 

「全くあの人は世話が焼けるんだからっ!!」

 

リーファを下ろして彼女にユイちゃんを預け、再び翅を広げてキリさんの救出のために飛び立った。そして、あと数秒のところで追いつかれそうになったキリさんを救出。巨人型の邪神は急に止まることもできなく、ばきばきっと音を立てて雪の下にあった氷を踏み抜き、湖に落ちた。

 

しかし、巨人型の邪神は顔を半分出してこっちに近寄ってくる。そこにやって来たのは先ほど巨人型の邪神に散々苛められていた象クラゲの邪神だった。

 

象クラゲの邪神は20本近くある肢を巨人型の邪神に巻き付け、水中へと引きずり込んで強力な電撃を浴びせる。巨人型の邪神のHPがものすごい勢いで削られていく。やがて、巨人型の邪神の断末魔が聞こえなくなっていき、奴はポリゴン片へとなって消滅した。

 

「リュウ君、キリト君!」

 

「2人ともご無事ですか!?」

 

巨人型の邪神が消滅したと同時にリーファがユイちゃんを肩に乗せて駆け寄ってきた。

 

「まあ、なんとかな……。本当にインプを選んでよかったって思うよ……」

 

「本当にお疲れ様、リュウ君……」

 

この時点で体力を使い果たした俺は雪の上に倒れ込んで、リーファは苦笑いを浮かべて俺をゆっくり起こそうとする。

 

「どうやら作戦は成功したみたいだな。いやぁ、マジで危なかったぁ……」

 

「アンタ、いつか本当に死にますよっ!?」

 

まるで絶叫マシーンに乗ったかのようにコメントするキリさん。そして、俺は呑気でいる彼にこの場に響き渡るくらいの声でツッコミを入れた。




ここ最近カッコいいシーンが多かったリュウ君でしたが、今回はコミカルな感じが多いリュウ君となってしまいました。トラップに登場した巨大ミミズ型モンスターを『蛇の化け物』だと勘違いする、キリトに散々振り回されるなど……。本当にドンマイです。ですが、紅茶を飲んだ辺りで前回に引き続き、リュウ君の身に異変が……。

今回のキリトは進撃の巨人に登場するハンジみたいに暴走してしまいました。そして、リュウ君はハンジのツッコミ役であるモブリットさんみたいに(笑)

リュウ君たちが助けた邪神はどうなるのでしょうか(棒読み)

次回もよろしくお願いします。

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