ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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この作品にもやっと評価を付けてくれた方がいます。本当にありがとうございます!これからも頑張っていきたいと思います!

ヨツンヘイム編後半になります。


第13話 トンキーと邪神狩りと聖剣

象クラゲの邪神との見事な連携(?)で巨人型の邪神を倒した俺たちだったが……。

 

「……で、これからどうするんだ?」

 

リーファに向かってキリさんが問いかける。

 

しかし、あの象クラゲの邪神を助けてと言ったリーファは、ここから先のことを考えていなかったようで返答に困っていた。

 

いくら俺たちが助けたつもりでも象クラゲの邪神からすれば俺たちはターゲットにしか見えないだろう。ここは逃げた方がいいのではないのかと思った時だった。

 

象クラゲの邪神は自身の長い鼻をまっすぐ俺たちに伸ばしてきた。思わず身を引こうとしたところ、ユイちゃんが俺たちに向かって言った。

 

「大丈夫です、パパ。この子、怒ってません」

 

怒っていないのはわかった。だけど、何をする気なんだと思っていると、伸ばしてきた長い鼻を俺たちに巻きついてきて勢い良く持ち上げる。そして、象クラゲの邪神は長い鼻を操って俺たちを自身の背中に乗せると、満足しているかのように鳴いて何事もないかのように移動を開始した。

 

「この邪神は俺たちを何処へ連れて行くんだ……?」

 

この場にいた全員が思っていたことを俺が代表して口にする。これに答えたのはリーファだった。

 

「この子、なんかヨツンヘイムの中央の方に向かっているみたいの。あれ見て」

 

リーファが指差した先には、ヨツンヘイムの天蓋から巨大な逆円錐形の氷で作られた構造物が垂れ下がっている。更に氷の構造物には何かが複雑に絡まっている。

 

「何なんだ、あれは……」

 

「えらくデカい氷柱だっているのはわかるけど、それに絡まっているウネウネはわからないな……」

 

「あたしもスクリーンショットでしか見たことないんだけどね……。あれは世界樹の根っこなの。アルヴヘイムの地面を貫いた根っこが、ヨツンヘイムの天井から垂れ下がってるんだよ」

 

「へえ~。俺たちの最終目的地は世界樹だから、その下に来られてラッキーじゃないか。ここからあの木の根っこを登って地上に出るルートはないのか?」

 

「あたしは聞いたことないね。それらしいルートは見当たらないし、第一あの根っこも途中までしかなくて、そこまででも200メートルはあるよ。いくらインプでもあそこまでは不可能だよ」

 

「まあ、確かに。インプの俺からも言うけど、いくら暗中飛行があってもあそこまで飛んで行くは厳しそうだな。途中で制限時間が来て地面に落下して死ぬのがオチだろう」

 

この中で唯一インプである俺がそうコメントし、話を切り替えることにした。

 

「そう言えば、この邪神に何か名前でもあるのか?まあ、わからないから俺は象クラゲの邪神って呼んでいるだけどさ」

 

「何か名前はあるとは思うんだけど、邪神モンスターって言われているくらいだからほとんどのプレイヤーは知らないと思うよ。でも、邪神モンスターってなると他の邪神モンスターと一緒になってしまうから、この子に名前付けてあげようよ」

 

「いいなそれ。名前がないと色々と不便だし」

 

「じゃあ、決まりだな」

 

リーファの提案に俺たちは賛同し、この象クラゲの邪神の名前を考え始めた。何かいい名前はないか考えているとある名前が思い付いたが、絶対に違うとしか思えなかった。

 

「リュウ、何か思い付いたのか?」

 

「一応、アンクって浮かんだんですけど、明らかに違いますよね……」

 

「確かにな。それにアンクだと悪い環境で育ったせいで汚い日本語しかしゃべれなくて、世間も知らない引きこもり気味の外国の青年みたいになりそうだな。終いにはリュウのことを『エージィィィィっ!!』って怒鳴ると思うぜ」

 

「何でそこまで細かい設定があるんですか……」

 

ふざけたことを言うキリさんに呆れながらもツッコミを入れる。それ以前にこの邪神は外国の青年ではないし、喋れないだろ……。

 

「じゃあ、そう言うキリさんは何か思い付いたんですか?」

 

「俺はすでに考えているぞ。この邪神は白っぽいからオーソドックスにシロはどうだ?」

 

自信満々で言うキリさん。しかし、俺とリーファの反応は微妙なものだった。

 

「それはあまりにも安易な名付けだと思うんですけど……」

 

「黒一色のキリト君にだけは付けられたくない名前だと思うよ」

 

「中々いいと思うんだけどなぁ……」

 

俺とリーファにそう指摘され、キリさんは少々落ち込む。

 

「となると、あとはリーファだけか。リーファは何か思い付いた?」

 

「うん。なんか頭の中にふとトンキーって思い浮かんだんだけど、あまり縁起のいい名前じゃないんだよね」

 

トンキーという名前に聞き覚えがある。

 

「トンキーって絵本に出てきた象の名前だったような。確かにその象は死んでしまうっていうのはあったけど、なんかしっくりくるな」

 

「うん。あたしもそんな気がしてね……」

 

「リュウとリーファもあの本知っていたのか。言われてみればそうだな」

 

「じゃあ決まりだね。おーい邪神君、君は今からトンキーだからねー」

 

「トンキーさん、はじめまして!よろしくお願いしますね!」

 

リーファに続いてキリさんの肩に座るユイちゃんが声をかける。すると、象クラゲの邪神……トンキーは偶然かも知れないが、頭の両耳らしきものが嬉しそうに動いたのが見えた。

 

 

 

 

 

トンキーは俺たちを乗せて世界樹が垂れ下がっている方へと進んで行く。

 

その間に何回も邪神モンスターと遭遇し、戦闘になるのではないかとヒヤヒヤした。しかし、どの邪神モンスターも俺たちに襲い掛かってこようとはせず、そのままスルーしていくのだった。

 

考えられるとすれば、遭遇した邪神モンスター全てがトンキーと同じような姿をしているということくらいだ。もしかすると、邪神の間でトンキーの種族とあの巨人型の邪神の種族は敵対関係になっているという設定があるのかもしれない。

 

リーファにもこのことを話してみると、あり得ると答えてくれた。話によるとヨツンヘイムのフィールドが実装されたのは1ヶ月くらい前で、最高難度のフィールドでもあるため、ここにはまだ謎が多いようだ。

 

こうしている間にも時間は過ぎていき、時刻はすでに午前3時を回っている。ここまで遅くまで活動するのはSAOにいた時以来だ。今は現実世界だということもあってあまり夜更かしはできなく、規則正しく生活するように心がけている。

 

すると急にトンキーが歩くのを止めた。

 

「何だ?」

 

立ち上がってトンキーの頭近くまで移動し、前方を見ると尋常ではない規模の大きさを誇る穴があった。インプの暗視能力でさえも底が見えないほど、かなり深いようだ。

 

「リュウ、暗中飛行で途中まででもいいから確認してきてくれないか?」

 

「絶対に嫌ですよ!」

 

おつかいを頼む感覚で言ってくるキリさんのお願いを断固拒否する。ユイちゃんも真剣な口ぶりで答えた。

 

「わたしがアクセスできるマップデータには、底部構造は定義されていません」

 

「うへぇ、つまり底なしってことか」

 

「だから嫌だって言ったじゃないですか……。アンタ、何考えているんですか……」

 

「まあまあ」

 

あまりにも危険なことを頼もうとしたキリさんにジト目を向ける。そんな俺をリーファが宥めてくる。そして、トンキーの背中の天辺に戻ろうとした時、トンキーの体が動き出した。

 

この穴に放り込む気なんじゃないかと思ったがそれはなかった。トンキーは長い鼻と20本はある肢を内側に丸め込み、巨体を降ろしていく。

 

何かあったのかと思い、俺たちはトンキーの背中から降りてトントンと軽く叩いてみた。

 

「トンキー、どうしたんだ?」

 

「寝ているのか?俺だって眠いのを我慢しているんだぞ」

 

俺とキリさんが呼びかけてみるが反応はない。もう一度トントン叩いてみると、あることに気が付く。

 

「あれ?気のせいか、トンキーが石みたいに硬くなっているような……」

 

「ホントだ。さっきはクッションみたいに柔らかい感じだったのに……」

 

「なんか今のトンキー、象クラゲよりもデカいおまんじゅうみたいになってないか」

 

俺、リーファ、キリさんの順に言う。色々と確かめてみるが、トンキーにはちゃんと呼吸音があり、巨人型の邪神との戦いで負ったダメージも今は完全に回復している。やっぱり寝ているとしか考えられないな。

 

「ねえ、トンキーが起きるまで待とうよ」

 

「ああ。この間に巨人型の邪神に襲われたらヤバいからな」

 

とりあえず、トンキーが起きるまで待つことにした。周囲に邪神モンスターがいないか見回していると、背後でキリさんが叫んだ。

 

「おい、リュウ、リーファ。上見てみろよ、凄いぞ」

 

キリさんに言われるがまま俺とリーファは上を見上げると、そこには世界樹の根が巻き付いている巨大な逆円錐型のツララがあった。遠くからだとあまり気が付かなかったけど、今は真上にあることもあってかなりの大きさだ。それによく見てみると巨大な逆円錐型のツララは通路や部屋があり、氷でできた迷宮となっている。

 

「凄いなこれは……」

 

「うん。あれが全部一つのダンジョンだとしたら、間違いなくALO最大規模のダンジョンだよ」

 

俺に続くようにリーファがそう言う。だけど、あれがダンジョンだとしたら、あそこまでどうやって行けばいいんだ。改めて思うが、インプでもあそこまで行くのはまず不可能だしな。

 

そんなことを考えているとキリさんの肩に乗っていたユイちゃんが鋭い声を発した。

 

「パパっ!東からプレイヤーが接近中です!1人……いえ、その後ろに23人います!」

 

24人となるとリーファが言っていた邪神狩りの大規模パーティーに違いない。もしかすると、事情を話せば仲間に入れてもらって階段ダンジョンから出られるかもしれない。不幸中の幸いだと思ったが、俺の期待は大きく裏切られることになる。

 

10メートルほど先に先頭にいたプレイヤーが水の膜を破るように姿を現す。プレイヤーは水色の髪をしたウンディーネの男性プレイヤーだ。種族選びの時にウンディーネも候補の1つだったら間違いない。

 

更に後ろにいた23人の姿を現す。全員が水色や青い髪をしている。つまり、この邪神狩りパーティーは全員がウンディーネということになる。異種族の混合パーティーだったらなんとかなったかもしれないが、インプ、スプリガン、シルフの俺たち3人なら話は別だ。こうなったら、ウンディーネはサラマンダーみたいにヤバい奴らじゃないことを祈るしかない。

 

すると、先頭にいたウンディーネのリーダーが俺たちに近づいてきた。

 

「アンタたち、その邪神、狩るのか?狩るなら早く攻撃してくれ。狩らないなら離れてくれないか。我々の範囲攻撃に巻き込んでしまう」

 

すると、隣にいたリーファがトンキーをかばうように立ち、ウンディーネのリーダーに低い声で言った。

 

「マナー違反を承知でお願いするわ。この邪神は、あたしたちに譲って」

 

「下級の狩場ならともかく、ヨツンヘイムで『この場所は私の』とか『そのモンスターは私の』なんて理屈が通らないことくらい、ここに来られるほどベテランならわかっているだろう」

 

「お願いします。この邪神は俺たちの仲間……友達なんです。邪神は他にもこの辺にいますし、この邪神だけは見逃してくれませんか?」

 

「俺からもお願いする。頼む」

 

リーファに続くように、俺とキリさんもウンディーネのリーダーを説得しようとする。

 

「おいおい、アンタたち、本当にプレイヤーだよな? NPCじゃないよな?俺たちも大きめの邪神にレイドを壊滅させられそうになったりと大変な思いをして、ここまで来たんだよ。だから狩れそうな獲物はきっちり狩っておきたい。ということで、10秒数える間にそこから離れてくれ。時間が来たら、もうアンタたちは見えないことにするからな。メイジ隊、支援魔法(バフ)開始」

 

しかし、ウンディーネのプレイヤーは俺たちの説得を聞こうとはせず、ついにパーティーに指示を出した。

 

「……下がろ、リュウ君、キリト君」

 

「ああ……」

 

「わかった……」

 

俺とキリさんは低い声で応じ、この場から離れようと歩き出した。ふとリーファの方を見たら辛そうな表情をして、トンキーの方を見ていた。俺はどうしても辛そうにしているリーファを見ていられなくなった。

 

リーファに『誰かが助けを求めて手を伸ばした時、俺たちはその手を必ず繋いでみせるよ』とカッコいいこと言っておいて、今彼女のために何もできないでいた俺自身が許せなかった。

 

俺は隣にいたキリさんに呟くように話しかけた。

 

「キリさん……俺……」

 

「言わなくていいぞ。リュウが今考えていることは大体わかる」

 

最後まで言い終える前に話を中断させるキリさん。どうやら彼は俺が今どう思っているのか察してくれたみたいだった。

 

「お前から言い出すなんて珍しいな」

 

「そうですね……。無茶ぶりなことを言い出すのはいつもキリさんの方からなのに……」

 

俺とキリさんは愛剣を鞘から抜き取る。そして、ウンディーネの部隊に向かって駆け出し、近くにいたメイジにクロスして斬撃を叩き込んだ。攻撃を受けたメイジは消滅し、水色のリメインライトへと姿を変えた。

 

「何のつもりだっ!?」

 

「俺たちはただ守りたいもののために戦おうとしているだけですよ」

 

「それに、このゲームはPK推奨だからお前たちを倒したって何の問題もないだろ」

 

「くそ!メイジ隊、邪神より先にコイツらの相手だ!」

 

メイジ隊のウンディーネたちはすぐにトンキーに放とうとしていた魔法の詠唱を中断し、俺たちに別の攻撃魔法を放とうとする。だが、詠唱を終えるより先に俺とキリさんは先ほどと同様に1人のメイジを倒す。

 

そこへ1人の剣士型のウンディーネが俺に剣を振り下ろそうとする。だが、そこに割って入って来たリーファが長刀で剣を受け止めたおかげで、俺に剣が振り下ろされることはなかった。

 

「全く、キリト君はともかくリュウ君まで何やっているのよ。キリト君の悪い癖がうつったんじゃないの?」

 

「多分な」

 

「よく無駄話している余裕があるなっ!くたばれぇぇぇぇっっ!」

 

トンキーの近くにいた3人のウンディーネの剣士が一斉に俺に襲い掛かって来る。

 

「そう簡単にやられてたまるかっ!」

 

すると、俺の言葉に答えてくれたかのように左手に持つ剣の刃に青がかった白い光りが纏う。この感覚は間違いない、あの技だ。

 

――《ライトニング・スラッシュ》!

 

電撃が走るかのような速さで3人の剣士にそれぞれ1連撃ずつの斬撃を与える。

 

3人の剣士は強力な斬撃を受けて吹き飛ばされるが、メイジよりも防御力のある防具を装備しているということもあってHPを完全に削り取ることはできなかった。

 

トドメを刺そうと剣を構えるが、その剣士たちのHPが回復する。まだ生き残っているメイジたちによる回復魔法だ。しまった、ウンディーネは回復魔法に優れていたことを忘れていた。

 

「ぐっ!」

 

不意に俺の右肩を1本の矢が貫く。矢が飛んできた方を見てみるとウンディーネのリーダーが弓矢を俺に向けている。

 

更に高圧水流の攻撃魔法が飛んできて、その衝撃で雪が降り積もった地面に転がる。近くにいたリーファも矢が足に突き刺さって怯んでいる隙に剣士の攻撃を受けて倒れ、キリさんも氷竜巻に飲み込まれて打ち倒された。

 

いくら俺たちでも20人以上のハイレベルプレイヤーをたった3人で相手するのは厳しい。ここまでかと思った時だった。トンキーのものだと思われる高らかな鳴き声が響き渡った。

 

まさかトンキーがやられてしまったのではないかと急いでトンキーの方に顔を向ける。目にしたには丸まっているトンキーの体にいくつものヒビが入っている光景だった。ヒビは見る見るうちに大きくなっていく。そして、『くわぁぁん』というトンキーの甲高い鳴き声と共にヒビから眩い白い光りが放たれ、ウンディーネたちを包み込んだ。途端、ウンディーネたちの支援魔法による効果、詠唱途中だった攻撃魔法が消滅した。

 

「あれは範囲解呪能力(フィールド・ディスペル)っ!?」

 

「フィールド・ディスペル?」

 

「一部の高レベルのボスモンスターが持つ特殊能力だよ!援魔法や詠唱途中の魔法などをキャンセルさせることができるの!」

 

トンキーが放った光が一部の高レベルのボスモンスターが持つ特殊能力だと知った瞬間、この場にいた全員が一瞬凍りついた。

 

すると、丸まっていたトンキーが光りに包まれる。ヒビが入っていたトンキーの体は殻となって割れ、その中から巨大な光の塊が出てきくる。そして、真っ白い輝きを帯びた四対八枚の羽が開かれ、トンキーが姿を現す。

 

「ト、トンキー……?」

 

四対八枚の羽を生やしたトンキーを見て呟く。

 

全員が戦慄する中、トンキーは甲高い鳴き声を上げてから自身の羽を使って地上から10メートルほどのところまで飛び上がった。そして、トンキーの羽が青い光りに包まれる。

 

「ヤバっ!リュウ、リーファ、伏せろっ!!」

 

キリさんが叫びながら俺とリーファの背中を押して雪の上に伏せた。

直後、トンキーの全ての肢から雷撃が次々と地上へと降り注ぎ、ウンディーネのパーティーに襲い掛かる。激しい雷撃により何人かのウンディーネが消滅し、水色のリメインライトへと姿を変える。

 

「くそっ!撤退、撤退!!」

 

ウンディーネのリーダーの叫びが響き渡り、ウンディーネのパーティーは走り去っていく。トンキーはウンディーネのパーティーを追おうとはせず、勝利の声を響かせるのだった。

 

「……で、これからどうするんだ?」

 

巨人型の邪神を倒したときと同様に呟くキリさん。

 

すると、トンキーはあの時と同様に自身の長い鼻を伸ばしてきて俺たちに巻きつかせ、自身の背中に乗せる。俺たちが乗ったことを確認すると、トンキーは羽ばたいて上空へと上昇していく。そんな中、先に口を開いたのはリーファだった。

 

「とにかく、トンキーが無事でよかったよ」

 

「ホントよかったです!生きていればいいことあります!」

 

「だといいな……」

 

「ハハッ。まさか進化して飛べるようになるとは思ってもいませんでしたよ」

 

更にユイちゃん、キリさん、俺の順に言う。

 

トンキーの背中から見るヨツンヘイムの光景は凄いものだった。インプ以外は一切飛行ができないと言われているところでこの高さからヨツンヘイムを見られるとは思ってもいなかった。仮にインプのプレイヤーが飛んでもこの高さから景色を見るのは不可能だろう。

 

そして、逆円錐型の氷の塊に世界樹の根っこが絡まっているところの近くを通り過ぎていく。それを見ているとツララの先っぽに黄金に輝くものが見えた。

 

「ツララの先っぽに何かないか?」

 

「ホント?ちょっと待って」

 

リーファは俺が指さした方を見ると魔法のスペルワードを詠唱する。詠唱を終えるとリーファの掌の先に水の結晶が現れる。

 

「この魔法って?」

 

遠見氷晶(アイススコープ)だよ。水の結晶を見ることで望遠鏡のように遠くまで見ることが出来るの」

 

リーファが遠見氷晶(アイススコープ)を使って氷柱の先っぽの方を見た直後、驚愕した表情となる。

 

「どうしたんだ?」

 

「あそこにあったの、せ……《聖剣エクスキャリバー》だよ。前にALOの公式サイトで写真だけ見たことがあるの。ユージーン将軍の《魔剣グラム》を超える最強の剣」

 

「「さ、最強の剣……」」

 

最強の剣という単語に俺とキリさんは一気に食らいつき、リーファから遠見氷晶(アイススコープ)を借りて氷柱の先っぽを見る。そこには黄金に輝くロングソードが台座に突き刺さっていた。

 

「《聖剣ジュワユーズ》と1,2位を争う最強の剣がまさかこんなところにあるなんて思ってもいなかったよ」

 

エクスキャリバーはこの氷でできたダンジョンを突破すれば手に入れられるだろう。途中、トンキーはダンジョンへの入口だと思われるバルコニーの近くを通って行く。十分飛び移ることは可能だが、今はヨツンヘイムからの脱出とアスナさんの救出が先のため、諦めることにした。

 

でも、やはり片手剣使いとしてちょっとショックだった。隣にいるキリさんはゲーマーの魂に火がついていたらしく、非常に残念そうにしていた。

 

「キリさん、全て終わったらまた来ましょうよ。その時は、カイトさんたちも誘って」

 

「ああ。流石に3人だけじゃ厳しそうだしな」

 

「最強の剣があるダンジョンだからね」

 

会話を交わしている間にトンキーはバルコニーの前を通り過ぎていき、天蓋に階段が付いているところへとたどり着いた。そして、階段がある方へと飛び移り、トンキーの方を振り向く。

 

「……また来るからね、トンキー。それまで元気でね。また他の邪神にいじめられちゃダメだよ」

 

リーファが話しかけてトンキーの鼻の先端を手でぎゅっと握りしめ、手を離す。

 

「トンキーがいたから俺たちは無事に出られたんだ。本当にありがとう」

 

「本当に世話になったよ。元気でな」

 

「またいっぱいお話ししましょうね、トンキーさん」

 

俺とキリさん、ユイちゃんもリーファと同じようにトンキーに話しかけてトンキーの鼻の先端を握る。

 

そしてユイちゃんがトンキーの鼻から手を離した直後、トンキーは嬉しそうな鳴き声を上げてヨツンヘイムの彼方へと飛んで行った。トンキーを見送る中、トンキーとはまた会えるという気がするのだった。

 

「さあ、行こ!多分、この上はもうアルンだよ!」

 

「よし、最後のひとっ走りと行くか。リュウ、リーファ、上に戻ってもエクスキャリバーのことは内緒にしておこうぜ」

 

「あーもう!今の発言でさっきまでの感動が台無しになったよ」

 

「キリさん、空気読んでくださいよ」

 

キリさんに呆れながらも俺たちは地上へ続く階段を上って行く。

 

 

 

 

 

それから10分以上もかけて階段を登り切り、ドアを開けるとそこは光に包まれた大規模の積層都市だった。街の中を9つの種族が行き交っていた。そして、夜空にくっきりと映る巨大な影があった。

 

「あれは世界樹…………」

 

「ってことはここが央都《アルン》で間違いないですね」

 

「うん。ここがアルヴヘイムの中心、この世界最大の都市だよ」

 

キリさん、俺、リーファの順に口にする。更にキリさんの胸ポケットからユイちゃんが出てきて、輝くような笑みを浮かべた。

 

「わあ……! わたし、こんなにたくさんの人がいる場所、初めてです!」

 

ユイちゃんからすればこれほど大規模の街は初めてだろう。まあ、SAOの中で最大の規模を誇る第1層のはじまりの街以上だからな。

 

街の風景に見とれているとパイプオルガンのような重厚なサウンドが大音量で響き渡り、機械的な女性の声が空から降り注ぐ。

 

『本日、1月22日午前4時から午後3時まで定期メンテナンスのためサーバーがクローズされます。プレイヤーの皆さんは10分前までにログアウトをお願いします。繰り返します……』

 

「今日はここまでみたいだね。一応宿屋でログアウトしよ」

 

「だけど、激安のところじゃないといけないな……」

 

やっぱりキリさんはサクヤさんたちに全財産を渡してしまったのか。俺とリーファはやれやれと呆れてしまう。

 

「激安のところならキリト君1人にしてよ。あたしたちはちゃんとしたところにするからさ。リュウ君、ユイちゃん、行こ」

 

リーファはキリさんにそう言い放つと、俺の背中を押してこの場から離れそうとする。

 

「リュウ、ユイ、助けてくれ……」

 

キリさんは俺とユイちゃんに助けを求めるように顔を向ける。しかし、俺を無理やりスプリガン=インプ同盟の大使にさせ、サクヤさんとアリシャさんに誘惑されて困っていた時にはニヤニヤしてからかい、ヨツンヘイムでは凄くヒヤヒヤさせるなど、散々俺を苦労させたことに少し腹が立っていた。そのため、ちょっと仕返ししてやろうとした。

 

「散々俺を振り回したバツです。1人で激安のところに泊まるか野宿でもして頭でも冷やして下さい」

 

「パパ頑張って下さい」

 

ユイちゃんは笑顔でキリさんにそう言い残し、リーファの肩に乗る。

 

「ちょっと待ってぇぇぇぇっ!!」

 

すると、キリさんは勢いよく俺たちの目の前まで走って来て土下座までしてきた。

 

「リュウさん、リーファさん。俺にお金を貸してください。それか一緒に激安のところに付いて来て下さい。本当にお願いします」

 

まさかここまでやってくるとは……。たまにこの人がSAOをクリアした英雄なのかと疑ってしまうときがある。なんかキリさんが段々可愛そうになってきたな。

 

「わかりましたから!こんなところで土下座なんか止めて下さいよ」

 

「ユイちゃん、パパのためにも近くに安い宿屋ある?」

 

「あっちに激安のがあるみたいです!」

 

ユイちゃんが笑顔でそう言うが、やっぱり激安となると少々不安だな。

 

結局俺たちが停まることになった宿屋は一部屋にいくつものベッドが置いてあるというところになってしまった。俺とリーファはキリさんだけをここにして自分たちは本当に他のところにしようかと一瞬思った。

 

そして午前4時近くだということもあり、俺たちはベッドに横になるとすぐに寝落ちするのだった。




トンキーという名前は原作ではキリトが思い付いたのですが、この作品ではリーファにしました。

そして、リュウ君が思い付いた名前とその直後にキリトが話していた内容は見覚えがある方もいらっしゃったのではないかと思います。リュウ君のモデルになったキャラがあの方ですので、一度これはやりたいなと思ってやらせていただきました(笑)

ちなみにキリトがシロと名前を付けようとしたところはホロウリアリゼーションの動画を見た時に思い付きました。

そしてヨツンヘイムから脱出してついにアルンへ。

次回からはシリアスな感じが強くなると思います。

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