ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

47 / 106
前回の貴利矢ショックではなくクリムショックの話からとうが遅くなってしまって大変申し訳ございません。これからは今回のように投稿スピードが落ちると思ると思います。

それでは今年最後の投稿になります。


第15話 病院での会話

「俺の方が先に着いたみたいだな……」

 

俺がやって来たのは埼玉県所沢市の郊外にある総合病院。ここはアスナさんが未だに目覚めず、入院している病院でもある。初めてここに来たがとても大きな病院だ。

 

今日ここを訪れることになったのは、今朝カズさんから来た1本の電話がきっかけだった。ALOは今日の午後3時までメンテナンスでログインできないため、その間の時間を利用して一緒にアスナさんのお見舞いに行かないかというものだった。今日は特に予定もなく、前にカズさんに誘われた時は予定があって行けなかったこともあり、俺もアスナさんのお見舞いに行くことにした。

 

数分ほど病院のゲート前で、カズさんが来るのを待っていると後ろの方から声をかけられた。

 

「リュウ、待たせて悪かったな」

 

「あ、カズさ……」

 

振り向いてカズさんの隣にいる1人の少女がいることに気が付いた途端、驚きを隠せなかった。

 

ベージュの帽子をかぶり、赤いマフラーを巻き、マフラーと同じ色のコートを着た黒髪のポブカットに勝ち気な瞳をしているも可愛らしい小柄な少女。3年前に会って以来、1度も会ったことがなかったがすぐに誰なのかわかった。

 

「スグでいいんだよな……?」

 

「うん。3年ぶりだね、リュウ君」

 

スグは笑顔でそう言ってくる。どうしてスグがここにいるのかわからず、戸惑ってしまう。

 

「あの、カズさん……。どうしてスグが……」

 

「実はあの後、スグにリュウと病院に行くって言ったら『一緒に行きたい』って言ってきてな。スグの奴、リュウに会いたがっていたからさ」

 

「お兄ちゃん、余計なことは言わなくていいのっ!あたしはただ、アスナさんがどういう人なのか気になっていたから来たんだよっ!」

 

「イデっ!」

 

スグは頬を赤く染めて慌てだし、カズさんの腹に肘を入れる。そして腹を両手で押さえるカズさんを放置し、軽く咳払いして話を切り替えてきた。

 

「それにしてもリュウ君がお兄ちゃんと知り合いだったなんて思わなかったよ」

 

「それはこっちのセリフだよ。スグにゲーム好きなお兄さんがいるとは聞いていたけど、まさかカズさんだったなんて……。カズさんからも妹がいるとは聞いた時もスグだなんて思ってもいなかったよ」

 

「こんな偶然ってあるんだね……」

 

「ああ。これはもう神様のイタズラなんじゃないのかって思うくらいだからな」

 

改めて本当に世間って狭いなと思う。

 

そして、ゲートを通過して病院の中へと足を踏み入れる。

 

ここの病院は本当に凄い。中もホテル並みに立派だ。カズさんの話によるとアスナさんは現実では令嬢らしいからこんなに立派な病院に入院しててもおかしくないだろう。

 

受け付けまで行くと3人分のパスを発行してもらい、エレベーターで最上階まで上る。エレベーターを降り、1つの病室まで歩いた。ドアの横にあるネームプレートには『結城 明日奈』と書かれていた。

 

「結城……明日奈さん……。アスナさんって本名をキャラネームにしてたんですね」

 

「ああ。俺の知る限り本名だったのはアスナだけだ。まあ、アスナ本人がゲームは全くの素人だって言ってたからな」

 

会話を交わしながらカズさんがパスをかざすとドアが開いた。

 

病室の入口付近にある純白のカーテンの向こう側まで歩き、ベッドの前まで行く。ベッドの上にはナーヴギアを頭にかぶっているアスナさんがベッドの上で眠りについていた。

 

「スグは初めてだから紹介するよ。彼女がアスナ。血盟騎士団副団長、《閃光》のアスナだ。剣のスピードと正確さでは俺も最後までかなわなかった。アスナ、今日はリュウと妹の直葉も来てくれたんだぜ」

 

「お久しぶりです、アスナさん。いや、こっちで会うのは初めてだから、初めましてですね」

 

「初めまして、アスナさん」

 

俺とスグが呼びかけるが、眠るアスナさんからは一切返事がない。わかっていたことだが、今のアスナさんを見ていると辛くなってきた。でも、俺よりもアスナさんのことを想っているカズさんの方が辛いに違いない。

 

カズさんはベッドの横にあるイスに腰を下ろし、ベッドの上で眠りについているアスナさんの左手を両手で包み込む。今のカズさんの目は長い月日をかけて運命の相手を捜し求める旅人のような目だった。

 

カズさんを見ていると、一刻も早くアスナさんを助け出し、現実世界でもカズさんと会わせてやりたいという気持ちが込み上がってきた。そして、邪魔しちゃ悪いと思い、病室を出てエレベーター前にあるベンチに腰かけた。

 

「リュウ君、隣いいかな?」

 

ベンチに腰かけ、2分もしない内にスグもやって来る。俺が「いいよ」と答えるとスグは隣に腰掛けた。

 

「なんかお兄ちゃんを見てたら、あたしも何か居づらくなっちゃってね。お兄ちゃんだってアスナさんと2人きりで居たいと思うしね」

 

「そうだな」

 

スグと話していると、彼女が俺の方をジロジロ見ていることに気が付く。

 

「どうかした?」

 

「リュウ君、見ないうちに一段とカッコよくなったね。まあ、リュウ君は昔からイケメンだったからね」

 

「そ、そんなわけ……」

 

今までそう言うのは気にしてこなかったこともあって、スグにそう言われ、照れて目を逸らしてしまう。それにイケメンだったら俺なんかよりカイトさんとかザックさんの方が……。でも、スグからそんなこと言われてちょっと嬉しかったりもする。

 

このことから話を逸らそうと話を切り替えることにした。

 

「そういえば、スグってあの感じだとカズさんと仲直り出来たんだな」

 

「うん。お兄ちゃん、目覚めてから昔みたいにあたしに優しくしてくれるようになってね。この前もまた剣道やってみようかなって言ってたんだよ」

 

「そのことを知ることができて一安心したよ」

 

俺にこのことを話してくれていた時のスグは辛そうにしてたから、本当にカズさんと仲直りできてよかったと思う。だけど、スグは少し表情を曇らせていた。

 

「スグ、何かあったの?」

 

「ちょっとお兄ちゃんとのことであることがあってね……」

 

「あることって……?」

 

「実はお兄ちゃんとは本当は兄妹じゃなくて従兄妹だったの」

 

スグが話したことに俺は驚きを隠せなかった。だけどそれは、カズさんとスグは実は従兄妹だったということでなく、スグがこのことを知っていたからだ。カズさんもスグはまだ実は従兄妹だということに気が付いていないって感じだったからな。

 

俺はSAOにいた頃にカズさんからこのことを聞いて知っていた。その時はカズさんの妹がスグだとは知らなかったが……。

 

「まさかスグも知っていたとは……」

 

「えっ?もしかしてリュウ君も知ってたの……?」

 

「ああ。SAOにいた頃にカズさんから聞いたんだ……。その時はまだカズさんの妹がスグだって知らなかったけどな……」

 

「そうだったんだ。お兄ちゃん、リュウ君にそのこと話したんだね……。ちょっと驚いたなぁ……。あたしはお兄ちゃんがSAOに囚われているときにお母さんから聞いたの。その時は本当に混乱してお母さんに酷いことを言っちゃって……。お兄ちゃんもこのことを知ってあたしと距離をとってしまったんだと思う……」

 

スグとカズさんがそうなってしまっても無理もないことだ。自分が本当の兄妹だと思っていた人がそうではなかったのだからな。仮に俺と(あん)ちゃんだったらスグとカズさんと同じになっていただろう。

 

「カズさんはスグがこのことを知っているのはわかっているのか?」

 

「お兄ちゃんはまだわかっていないみたい……。でも、中々話す勇気がなくて……」

 

スグはさらに表情を曇らせる。

 

「大丈夫だよ……」

 

俺はどうしてもそんなスグを見ていられなくなり、気が付いたら彼女に話しかけていた。

 

「スグだったら絶対にできるよ。だってスグはカズさんと仲直りできたんだろ。それに、こういうのは焦る必要もないと思うから、スグが話す決心が付いたら話してみたらどうかな?」

 

「リュウ君……」

 

するとスグの表情は徐々に明るくなっていく。

 

「ありがとう、リュウ君。あたし、頑張ってみるね……」

 

「ああ……」

 

スグが元気になってよかったと思うと共に、俺の胸の奥を鋭い痛みが深く貫いた。そして、俺は今もスグへの想いを捨てられずにいたことを自覚した。

 

すると俺たちのもとにカズさんが歩み寄ってきた。

 

「お前たち、こんなところにいたのか」

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「俺、この後もちょっと用事があって帰らなきゃいけなくてな」

 

「そうだったんだ。コートとかアスナさんの病室に置いているから今すぐ取ってくるよ。リュウ君も一緒に行こう」

 

スグと一緒にアスナさんの病室に自分のものを取りに行く。その後、カズさんのところに戻ってくると3人でエレベーターに乗って1階まで降り、受け付けでパスを返却した。

 

カズさんが受け付けのところで手続きをしている間、スグが話しかけてきた。

 

「ねえ、リュウ君。よかったらあたしとも連絡先交換しない?」

 

「え、どうして?」

 

「だって、お兄ちゃんとは連絡先交換したから、あたしともしたっていいでしょ」

 

「スグがそこまで言うんだったら、構わないけど……」

 

「やった。ちょっと待ってね」

 

スグに言い寄られて断ることもできず、スグと連絡先を交換することになった。この作業を終えた時にはカズさんが戻ってきて、病院のゲートを出たところで2人と別れて家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ってきた俺は自分の部屋でナーヴギアを手に取り、黙ってそれを見ていた。

 

そして、また去年の12月24日に起こった出来事を思い出す。

 

 

『俺はオレンジプレイヤーになっても、アンタを殺してでも蘇生アイテムを手に入れる!そのためにここにいるっ!!』

 

 

『俺は……俺は現実でもこの世界でも大切な人を失った。手を伸ばしても届かなかった俺の腕……。だから俺は欲しかった!何処までも届く俺の腕、力!!』

 

 

スグはこの3年間の間に俺に起こった出来事は知らない。スグから見たら今の俺は昔の俺とは変わりないように見えていた。だからスグは昔と変わらず俺と接してくれたんだろう。

 

だけど、俺に何が起こったのか知ったらどう思うのか……。

 

俺は、(あん)ちゃんが死んだことがきっかけで剣道に対する情熱を失ってしまい、デスゲームと化したSAOで自分の目的のためにスグのお兄さん……カズさん/キリさんを殺そうとした。

 

絶対に俺がこんな奴だと知ったら絶対に会いたくないだろう。それどころか、嫌われるに違いない。

 

――俺はスグが好き。

 

確認するように胸の奥で呟いた。でも、俺にはその気持ちを抱く資格なんてない。それに、スグには俺なんかよりも絶対にいい相手と出会えるだろう。

 

自分自身にそう言い聞かせ、ナーヴギアを被ってベッドに横たわる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたのは、昨日ログアウトするために休んだ宿屋だった。周りを見るが、キリさんとリーファはまだ来てないようだ。

 

体を起こしてベッドの端に腰掛けた。橘龍哉からリュウガに変わったが、心の奥に突き刺さる切ない痛みだけは消えていなかった。

 

橘龍哉は何処にでもいる普通の少年。対するリュウガはSAOでは《青龍の剣士》と呼ばれるほどまで強さを持ったプレイヤーだ。しかし、英雄でもなく大切なものを守れるような強さはない。それどころか想いを寄せている相手の家族を殺そうとしたことがある。

 

俯いてそんなことを考えていると左腕に何か違和感があることに気が付く。何なのかと左腕をふと見た時だった。

 

「っ!?」

 

突如、左腕が一瞬だけ怪人のようなものへと変化する。

 

「何なんだ、今のは……?」

 

俺の身に起こったことに恐怖に包まれるも落ち着きを取り戻し、恐る恐る右手で左手に触れてみる。またさっきのことが起こるのではないのかと思ったが、何事もなく一安心する。

 

すると、涼やかな効果音とともに、傍らに新たな人影が出現した。

 

「どうしたの、リュウ君?」

 

現れたのはリーファだった。

 

「り、リーファ……」

 

「青ざめた顔してるけど、もしかして具合でも悪いの?」

 

「いや、何でもないよ……」

 

左腕がまた怪人のようなものになってしまうのではないかと怖くなって、左腕を羽織っていた青いフード付きマントでそっと隠す。

 

「本当に大丈夫?落ちるならキリト君にはあたしから言っておくから、あまり無理しない方がいいよ」

 

「本当に大丈夫だから……」

 

何とか笑みを見せて答える。

 

すると新たに人影が現れた。次にやってきたのはキリさんだった。

 

「あれ?俺が一番乗りかと思ったら一番最後だったか」

 

「あ、キリさん。俺たちも今来たところですよ」

 

「そうか。3人そろってログインしたことだし、早速行こうか。ユイ、いるか?」

 

キリさんの声に答えたかのようにピクシー姿のユイちゃんが姿を現した。

 

「ふわぁ~~~……。……おはようございます、パパ、リュウさん、リーファさん」

 

右手で目を擦りながら可愛らしく大きなあくびしているユイちゃんを見て、改めて本当にAIなのかと思った。ほとんど人間と変わりないと言ってもいいだろう。リーファはユイちゃんがあくびをする光景を不思議そうに見ていた。

 

そして宿屋から出たときはちょうど朝日が完全に昇りきった頃だった。

 

広い通りに出ると大勢のプレイヤーで賑わっていた。

 

行き交うプレイヤーたちを眺めると新鮮な驚きがあった。大柄な体格が特徴のノームに、楽器を携えたプーカ、武器を作るのに使う素材を籠に入れて運んでいるレプラコーンと初めて見る種族もいた。

 

「流石、ALOの中心だ。初めて見る種族もいるな」

 

「ここには大陸全部の妖精種族が集まっているみたいです」

 

呟いたことにユイちゃんが解説してくれる。

 

プレイヤーたちは連れ立って楽しそうに談笑しながら歩いている。ここにいるプレイヤーたちは種族関係なく、ゲームを楽しんでいるようだ。

 

ふと近くある街に置かれた石のベンチの方を見てみると、サラマンダーの少女とウンディーネの青年が座って仲睦まじく談笑していた。あの人達は種族は異なるが恋人同士なのだろう。

 

キリさんは近くあった店の方に足を運び、一時的にリーファと2人きりになる。リーファを見て、ここならインプとシルフでも普通のカップルに見えるのかと考えてしまう。リーファがこちらに気が付くと声をかけてきた。

 

「リュウ君、どうしたの?」

 

「な、何でもないっ!」

 

こんなことを考えている時にリーファに話しかけられ、慌ててしまう。俺は何てことを考えているんだよ。でも、何故かリーファと一緒にいるときは胸の奥の痛みを忘れることができている気がする。どうしてなのか、その理由を考えてみたが、わかることはなかった。

 

自分の気持ちと葛藤している内にキリさんが戻ってきて、先に進んでいると信じられない眺めが目に入った。

 

アルンの中央にはいくつもの巨大な木の根があり、それらは絡まって1本の巨大な木の幹を作り上げて雲さえも貫くほど上空高くへと伸びている。

 

「あれが世界樹……。遠くから見たときも凄かったが、近くで見るとより一層凄いな……」

 

「ああ。スケールがまるで違う。リアルでもここまで大きい樹や建造物はないと思うぜ」

 

俺とキリさんは圧倒的な大きさを誇る世界樹を見て畏怖に打たれたような声で言った。

 

「あの樹の上にも街があって妖精王オベイロンと、光の妖精アルフが住んでいるの。王に最初に謁見できた種族はアルフに転生できる……って言われてるわ」

 

世界樹があんなに空高くまで伸びているんだ。リーファが言っている通り、樹の上に街があってもおかしくないだろう。

 

ロケット式に飛んで樹の上を目指したプレイヤーたちのことを聞いてみたが、今は雲のところで障壁ができて外からの侵入は不可能になったらしい。

 

とりあえず、俺たちは世界樹の根元まで行ってみることにした。数分歩くとアルンの中央市街に続くゲートが見えてきた。

 

ゲートをくぐろうとした時だった。突然、キリさんの胸ポケットからユイちゃんが飛び出てきて真剣な顔で上空を見上げる。

 

「おい、ユイ。どうしたんだ?」

 

「ママ……ママがいます」

 

するとキリさんは顔を強張らせた。

 

「本当か!?」

 

「間違いありません!このキャラクターID は、ママのものです。座標はまっすぐこの上空です」

 

それを聞いたキリさんはクリアグレーの翅を出し、一気に上空へと飛び立った。彼はすさまじい勢いで急上昇していく。

 

「ちょ……ちょっと、キリト君!!」

 

「とにかく俺たちも行くぞ!!」

 

俺とリーファも翅を出現させて、上空へと飛んでいく。

 

ユイちゃんの言う通り、本当にこの世界にアスナさんがいるっていうのか。だけど、リーファの話によると世界樹の上には街があることになっている。このゲームの裏には一体何があるっていうんだ…?

 




今回の話は原作と内容はあまり変わりませんが、直葉/リーファの心理面に大幅に変更されています。この作品では直葉/リーファはリュウ君に想いを寄せているので原作やアニメのように辛いことになってない状況です。

一方のリュウ君は原作の直葉/リーファのような立場に。そしてゲーム内では更にヤバイことが身に起こっている事態に。リュウ君に起きている異変に見覚えがある方もいらっしゃるでしょう。最近はリュウ君が心配だというコメントをいくつも来ています……(汗)。果たしてリュウ君はどうなるのか。

それでは今年も残すところあと僅か。来年もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。