ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
今回のタイトルはエグゼイド風にしてみました。
それではどうぞ。
「リュウ!」
誰かが俺のことを呼ぶ。それに導かれて目を開けると、目の前に緑色の髪の毛と瞳を持つ中性的な顔立ちをした少年……オトヤがいた。
「オトヤ……」
「よかったぁ。ログアウトした様子もないし、全然目を覚まさないから心配したよ」
「心配かけて悪かったな」
場所は須郷と戦ったところではなく、世界樹の根元にある巨大なゲートの前だった。皆が意識を失っている俺をここまで運んでくれたんだろう。
周りには、オトヤの他に、カイトさん、リズさん、シリカ、クラインさん、エギルさんがいる。カイトさんたちは俺が目を覚ましたことに気が付くと、こっちに駆け寄ってきた。だけど、リーファとザックさんの姿がない。
「あれ?そういえば、リーファとザックさんは……?」
「リーファさんはログアウトしてキリトさんの様子を見に行って、ザックさんはお父さんに連絡するためにログアウトしましたよ。2人ともそろそろ戻ってくるかと思いますよ」
「ザックの親父さんは刑事だからな。このことを話したら、警察も動いてくれるだろう」
シリカとカイトさんが答えてくれた。ていうか、ザックさんのお父さんって刑事さんだったのか。このことに驚いていると、リーファが姿を現す。
「リュウ君、よかった。目が覚めたんだね……。お兄ちゃんのことだけじゃなくてリュウ君のことも心配してたんだよ」
「リーファ…俺は大丈夫だから安心して。それよりも、キリさんの方はどうなんだ?」
「アスナさんをログアウトさせて、すぐにアスナさんが入院している病院に行ったよ」
「現実だともう夜も遅いっていうのに、真っ先にアスナさんに会いに行くなんて。キリさんらしいな……」
俺は苦笑いするしかなかった。
「ホントよね。リアルでもバカップルなんだから」
「全くだぜ。リア充爆発しろ」
「落ち着けよクライン。キリトとアスナだってやっと再会できたんだぜ。今回ぐらいは見逃してやれよ」
呆れつつもニヤニヤするリズさん、アスナさんとの仲睦まじいキリさんを恨めしく思うクラインさん、そんなクラインさんを宥めるエギルさん。
そして、リーファに続いてザックさんも姿を現した。
「あ、ザック!どうだったの?アンタのお父さんと連絡は付いた?」
一番先にザックさんが来たことに気が付いたリズさんが言う。
「ああ。流石に今すぐに動くのは難しいみたいだ。証拠がない以上動けないし、親父もSAO事件関連のことで手がいっぱいらしいからな。だけど、SAO未生還者が目覚めたり、決定的な証拠があったら、別みたいだ」
「すぐに動けないのは痛いけど、この様子だと後は警察に任せればいいみたいね」
「そうですね。アスナさんたちも目覚めていると思いますしね」
このことを聞いたリズさんとシリカは一安心する。リーファたちも同じく安心したかのような様子を見せるが、カイトさんだけは何故か浮かない表情をしていた。俺も何か嫌な予感が拭えなかった。何か重要なことを忘れているような…
すると、カイトさんは何かに気が付いたかのような反応を見せ、口を開いた。
「俺たちは重要なことを忘れていた……」
「重要なことってなんだよ、カイト。オレたちにも教えてくれよ」
呑気にしているクラインとはよそに、カイトさんは怖い表情をする。
「仮想世界でアバターがどんなに傷つけられても、現実世界の人間は傷一つつかないってことだ」
これを聞いた瞬間、この場の空気は一気に凍り付く。
確かに蛮野や須郷を倒した。でも、それは
キリさんから聞いた須郷の性格上、奴はアスナさんが入院している病院で待ち伏せて、キリさんを殺そうとしてもおかしくない。
――このままだとキリさんが危ない!!
最悪な事態を考えてしまった俺は、急いでメニューウインドウを開いてログアウトボタンに触れる。
すると、数秒ほどで意識が現実世界へ戻り、目が覚めると見慣れた天井が目に映りこんだ。
上半身を起こした途端だった。
「くっ!」
腹部辺りに痛みが伝わってくる。ALOでペイン・アブソーバが低い状態で、蛮野/レデュエがハルバードで攻撃したところだ。そこだけでなく、身体中が痛い。あの後、ペイン・アブソーバを0にされて、無茶して戦った影響もあるのだろう。
だが、俺は痛みを堪えてナーヴギアを素早く外し、コートを羽織って家から飛び出した。
家の外は吐いた息が白くなるほどの寒さだ。それによく見ると雪も少し降っている。この様子だとさらに降るだろう。こんな中、自転車を走らせるのは危ないと思ったが、そんな暇はない。
俺は玄関の前に止めていたマウンテンバイクに跨り、アスナさんが入院している所沢総合病院へと向かった。
マウンテンバイクを走らせている内に、雪は予想していた通り、徐々に勢いを増して降り、道路の路肩には薄く雪が降り積もっていた。その中を全速力でマウンテンバイクを走らせる。
だが、曲がり角を曲がろうとした時だった。
「うわっ!」
雪が薄く積もっていることもあり、滑って転倒してしまう。
「うっ……」
転んだ時に地面にぶつけた右腕と右足が痛い。骨は折れていないみたいだが、間違いなく打撲はしているだろう。
「君、大丈夫かっ!?」
偶然、通りがかったスーツ姿の男性が駆け寄ってくる。仕事帰りの人だろう。
「ちょっと滑って転んだだけなので、大丈夫です。それよりも早く急いで行かないといけないところがあるので……」
痛みに耐えて無理やり体を起こし、マウンテンバイクを起こして跨る。そして、再び所沢総合病院を目指し、ペダルを踏んだ。
早く急がないと、カズさんが……。頼む、無事でいてくれ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
雪が降る中、自転車を走らせて、アスナが入院する所沢総合病院に着いた。時刻はすでに夜の10時を過ぎていることもあって、門は固く閉ざされていた。
俺は近くにあった職員用の小さなゲートまで行き、邪魔にならないところに自転車を止め、病院の入り口を目指して走った。もう少しで病院の入り口だというところで、バンの後ろから人影がスッと走り出てくる。
早く気が付いたおかげでぶつからずに済んだが、俺の右腕を何かがかすった。
「っ!?」
直後、何故か右腕に痛みが伝わってくる。そして、雪が積もって白くなった地面には赤い液体が俺の腕から地面にポタポタ落ちていた。
――これって俺の血?ど、どうして……。
傷口を抑えてよろけるが、どうにか踏みとどまって転ばずに済んだ。
一体何が起こったのかとわからない中、暗くてよく見えなかった先ほどの人影はゆっくりと俺の方に近づいてきた。
「遅いよ、キリト君。僕が風邪ひいちゃったらどうするんだよ」
聞き覚えのある声。声がする方を見ると、見覚えがある男がいた。
「お前は、す……須郷っ!?」
明らかに今の須郷の様子はおかしい。よく見ると右目は充血して大きく見開き、俺を睨み付けている。そして、右手には血が付いたサバイバルナイフが握られていた。
「酷いことするよねえ、キリト君、君の仲間たちも……。君たちがゲームの中で僕にあんなことしたせいでまだ痛覚が消えないよ……。まあ、僕にはこの薬があるからいいけど……」
須郷はそう言うと、スーツのポケットからカプセル状の薬らしき物をいくつか取り出し、口に放り込んだ。
「須郷、お前はもう終わりだ。おとなしく法の裁きを受けろ」
「終わり?何が?レクトはもう使えないし、今の蛮野たちは役に立たない状態だけど、僕はアメリカに行くよ。僕を欲しいっていう企業は沢山あるんだよ。研究を完成させれば僕は本物の王、この世界での神になれる」
これを聞いた瞬間、コイツは狂っているとしか言いようがなかった。
「その前に、やることがあってね。とりあえず、君は殺すよ、キリト君」
次の瞬間、須郷は俺にナイフを突き出して襲い掛かってくる。
俺はどうにか避けようとするが、雪のせいで滑って地面に倒れてしまう。直後、蹴りを入れられた。
「おい、立てよ。立ってみろよ!」
須郷は、壊れた人形のように何度も、何度も俺を蹴り、踏みつける。
先ほどサバイバルナイフで切り付けられたところ、蹴りを入れられたところから痛みが伝わってくる。
切り口から血液が流れ出ているところを目にした瞬間、リアルな「死」をイメージしてしまう。そのせいで、恐怖で体が動かない。
「お前たちみたいなクズ共が、僕の……この僕の足を引っ張りやがって……。その罪に対する罰は当然、死だ。死以外ありえない」
そう言って須郷は俺に馬乗りになり、左手で首を絞めてきた。
「ぐっ!」
助けを呼ぼうと声を出そうとしても、思うように声が出ない。奴が首を絞める力は次第に強くなっていき、呼吸も苦しくなる。
須郷は右手を高く掲げ、今すぐにもナイフを突き刺そうとする。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ぐはっ!!」
ナイフが振り下ろされる寸前、須郷は誰かに殴り飛ばされて地面に転がった。
――何が起こったんだ?
「カズさん、大丈夫ですかっ!?」
目の前に見覚えのあるハネッ毛の黒髪をした少年が現れた。
「リュウ!」
現れたのはリュウだった。だが、リュウは転んだのか、服が汚れて右側のおでこ辺りから血が少し出ていた。
「嫌な予感がしたから急いで来てみたら、本当にそうだったみたいですね……。来て正解でしたよ」
「このガキっ!お前も僕の邪魔をしやがってっ!!」
須郷は怒りと狂気に満ちた顔をリュウに向け、なんとか起き上がって目の前に落としたサバイバルナイフを拾おうとする。しかし、その前にリュウがサバイバルナイフを蹴って遠くに滑らせて防ぐ。
そして、リュウはゆっくりと須郷の元へと歩いていく。表情は冷静さを保っているようにも見えるが、怒りに満ちている。
「アンタが須郷伸之か。あっちの世界では一度会ったけど、こっちの世界では初めて会いますね。詳しいことはカズさんから聞いていますよ。見たところ、カズさんが随分とお世話になったようですね……」
「リュウ……。そうか君が、蛮野が話していた橘君か。いや、それとも実験体《モルモット》君って呼んだ方がいいかな?君が苦しんでオーバーロードになりかけり、そのことに恐怖に包まれている時の君は、本当に楽しませてもらったよ……。あの後、君の頭の中を弄りまわして、正真正銘の化け物に出来なかったのは残念だったけどね……。それどころか、僕たちの偉大な研究を台無しにしてくれちゃってさぁ……」
須郷はゲスな笑みを浮かべ、楽しそうに話す。俺はアスナだけでなく、リュウも苦しめようとしている奴には憎悪しか抱けなかった。
「やっぱり、アンタはこっちの世界でも頭がイかれた人みたいですね。クリムさんやアスナさん、大勢の人を苦しめておいて、何が偉大な研究だ。アンタや蛮野がやっているのは、悪魔の研究の間違いじゃないのか?」
怒りが籠った声で須郷に問いかけるリュウ。だが、須郷はゲスな笑みを崩すことなく、自分が正しいという態度を見せる。
「悪魔の研究なんて酷いなぁ。この研究が成功したら、僕はこの世界の神になれるんだよ。ちょっとした犠牲が出たって別に構わな……」
須郷が言い終える前に、リュウは目にも止まらない速さで須郷の顔面に目がけて拳を振った。だが、拳は須郷の右側の頬をかすめ、白いバンのボディにガンッと大きな音を立てて命中。殴ったところは凹み、リュウの拳からは血が流れ出て、地面に落ちて薄く降り積もった雪を赤く染めていた。
俺は言葉を失ってしまい、須郷は顔芸を披露するほどビビッていた。対して、リュウは震えるほどの怒りをぐっと抑えようとしている。
「いい加減これ以上何も話さないでもらえます?……ね?」
そう言い、リュウは今すぐ黙らないと殺すぞという表情をして須郷を見る。今のリュウに完全にビビッてしまった須郷は、白目を向いて気絶。そして、ズボンは溢れ出した何かの液体で濡れてしまう。
どうでもいいことだが、3枚のメダルで変身する主人公が、他人の命を気にしようとしないある科学者にキレて、パンチで近くにあった制御盤のカバーを破壊した時を再現した光景に似ているなと思ってしまった。
リュウは気絶した須郷をほっといて俺の元へ歩いた。
「カズさん、大丈夫ですか?」
そう言って、リュウは右手を俺に差し出してきた。
「なんとか。ありがとな……」
一言お礼を言い、リュウが差し伸ばしてきた右手を掴んで立ち上がった。よく見るとリュウの左手の甲からはまだ血が出ていた。
「俺よりもお前の方は大丈夫なのか……?」
「カズさんが無事だったので、これくらいの怪我はどうってことないですよ」
微笑んで答えるリュウ。だけど、本当はかなりの痛みの筈だ。なのに俺に心配かけないように我慢しているんだろう。
「ところで、あそこに転がっている奴はどうします?」
リュウが顔を向けた方にいたのは気絶して、地面に転がっている須郷だった。ALOでは管理者権限を使って散々苦しめた須郷だったが、リュウにビビッたくらいで気絶するなんて……。とても哀れなものにしか見えない。
「一応アイツのネクタイで両手を縛りあげておけば大丈夫だろう」
「そうですね」
俺たちは倒れている須郷の元に歩いていき、念のために奴の両手を縛りあげることにした。
「うわっ!コイツ、いい年して小便まで漏らしているぞ」
「ALOのラスボスが現実世界だとこんなに弱かったなんて……。まあ、実際にALOでもコイツよりも蛮野の方が強かったですし……」
今の須郷を見ていると本当に不快な気分になってくる。リュウも何処かの研修医のようにチベットスナギツネみたいな表情をし、嫌そうにして須郷を見ていた。
これ以上、この男を見ていたくないとなった俺たちは、急いで須郷のネクタイを引き抜き、体を路面に転がして、両手を後ろに回して縛り上げた。
「あとは警察に任せましょうか。ザックさんたちが警察を呼んでくれたと思いますし」
「ああ」
駐車場を歩き、正面エントランス前のところまできた。今の俺たちは怪我をしたり、雪と砂に汚れていたりとひどい有様だ。
病院の中に入り、受け付けのところまでやってくると、2人の看護師の女性が俺たちに気が付いて驚いた表情をする。
「どうしたんですか!?」
「駐車場でナイフを持った男に襲われました」
「今は白いバンが止まっているところで気絶してて、ナイフも駐車場に転がっています……」
「警備員、至急一階ナースステーションまで来てください」
1人の看護師がナースステーションにある機械を操作し、巡回中の警備員を呼ぶ。すぐに警備員が来て、1人の看護師と一緒にエントランスへと向かった。そして、残った看護師も医者を呼びにこの場から離れていった。
マズいな。すぐにもアスナに会いに行きたいのに、このままだと警察に事情聴取に羽目になりそうだ。
そんなことを考えていると、リュウが周りに誰もいないことを確認し、カウンターに身を乗り出してゲスト用のパスカードを掴み取った。
「ここは俺に任せて、カズさんは早くアスナさんのところに行ってあげて下さい。看護師さんたちには適当に言って誤魔化しておきますので」
「リュウ……」
思えば、俺は多くの人たちに助けてもらった。その中でも一番力となってくれたのはリュウだ。
リュウは、俺がALOに行くとなった時は一緒に付いてきて、ALO内では俺の無茶ぶりに文句を言いながらも最後まで付き合ってくれた。更には、ボロボロになりながらもスグ/リーファ……妹のことも守ってくれた。
助けを求めている人たちに手を伸ばす。そして、自分が悪と同じ存在になろうとしたり、悪と同じ力を持っていたとしても、自分が守りたいもののために戦う。それがリュウの強さだ。
リュウがいなかったら、今の俺はいなかったに違いない。
「リュウ、本当にありがとな。リュウは俺にとってのヒーローだ」
「俺たちをSAOから救った英雄にそう言われると、なんか複雑な気がしますよ。でも、俺がカズさんの力になれてよかったです……」
照れたように小さく笑うリュウ。
そして、俺はアスナが眠っている病室へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1週間後、2025年1月29日
何度も訪れている洋風の作りをした墓地。ここに訪れるのは10日ぶりだ。その中のある墓の前まで足を運ぶと、10日前と同様に、人がよさそうなメガネをかけた。60半ばくらいの外国人の男性が1人いた。
「クリムさん」
「龍哉君。体の方は大丈夫なのか?」
「ええ。ケガも大分治ってきましたし、念のために脳とかの検査も行いましたけど、特に問題はありませんでしたよ」
現在、俺の左手は怪我を負って包帯が巻かれている状態となっている。この怪我は1週間前に、須郷からカズさんを助けに入った時に負ったものだ。幸いにも骨は折れてはいなかったが、利き手の左手が使えなくてこの1週間は不自由な暮らしを送っていた。
あの後、キリさんは無事にアスナさんと再会でき、須郷はあの場で逮捕された。須郷は逮捕された直後は事件を否定し、全てを茅場晶彦とクリムさんに背負わせようとしていた。だが、担当した刑事さんがザックさんのお父さんだったことに加え、クリムさんが得た研究内容のデータや俺たちの証言が決定的な証拠となり、あっさりと自白したらしい。
そして、この事件のもう1人の首謀者である蛮野は、レクトプログレスの社内で死体となって発見された。ある人物から聞いた話によると、蛮野はALOで俺に倒されてログアウトした直後、ナーヴギアを改造したマシンを使って自分の脳を焼き切って自殺したらしい。逮捕されるよりも死んだ方がマシだと思ったのだろう。
幸いだったのは、未帰還者の300人全員に人体実験中の記憶がなく、脳や精神に異常をきしてしまった人はいなかったということだ。ALO内で蛮野が作り上げたメダルによって、色々と異変が起こって怪人となりかけた俺とクリムさんも特に異常はなかった。全員が社会復帰可能だろうとされている。
しかし、SAOに続きALOでも凶悪事件が発生したことにより、VRMMOは回復不可能な打撃を受けた。最終的にレクトプログレスは解散、レクト本社もかなりのダメージを負った。もちろんALOも運営も中止となり、その他に展開されていたVRMMOもこちらも中止は免れ得ないだろうと言われていた。
「龍哉君、君や君の友達には本当に感謝しているよ。だけど、私がもっとしっかりしておけば、こんなことには……。本当に申し訳ない……」
「クリムさん……」
表情が暗くなり、頭を下げるクリムさん。彼はずっと気にしているのだろう。須郷と蛮野に騙されていいように利用され、ALOにダイブして証拠を得てアスナさんたちを助けようとするが失敗に終わって、俺たちを危険な目に合わせてしまったことが……。全て須郷と蛮野の仕業だっていうのに……。
俺はそんなクリムさんを見ていられなくなり、声をかけた。
「頭をあげてください。クリムさんは何も悪くありませんよ。むしろ、俺たちがクリムさんに助けられたんですから」
「え?」
「クリムさんがアスナさんに管理者権限のカードを渡したり、奴らの研究データを手に入れたじゃないですか。そのおかげで、俺たちも世界樹に入れたし、決定的な証拠となって事件だって解決できたんですよ。そんなこと言わないで下さい。ファーランさんとミラさんだって、絶対にそう言いますって」
「龍哉君……」
俺の言葉を聞いてクリムさんの表情が少し明るくなる。
「本当にありがとう。私の息子と孫……ファーランとミラからも聞いたが、2人が出会ったのが君でよかったよ」
「2人から聞いたって…どういうことなんです?」
「捕まっていた時に、ファーランとミラに会って話をしたっていう不思議な夢を見たんだ。でも、私には夢ではなくて本当に2人と会って話をした気がするんだよ」
俺がゲーム内で持っていた《王のメダル》には、ファーランさんとミラの残留意識が宿っていた。実際に俺は2人と会って話をした。クリムさんも夢ではなくて本当に2人と会ったんだな。
「2人が言っていたよ。SAOで君と出会えたのは自分たちにとって得だってね」
ファーランさんとミラはクリムさんにもそんなこと話したのか。なんか恥ずかしいな。でも、2人と出会えたのが得だったのは俺も一緒だ。
「その後、私も2人に色々と言われたものだよ。ずっと自分たちが死んだことや過去にとらわれないでくれ、前を向いて生きろってね。私もいつまでもここで立ち止まっていてはいけないって気づかされたんだ」
「クリムさん」
「龍哉君、君に頼みたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「頼みたいこと?俺にできることなら協力しますよ」
「ありがとう。実はアメリカに渡って、科学者として一からやり直そうと思っているんだ。そこで、私がいない間、たまにここに来て私の家族に会ってくれないかな?」
「わかりました。任せてください」
笑顔でそう答え、クリムさんも安心したかのように笑みを浮かべる。
そして、しばらくここで話をした後、クリムさんは用事があるということで墓地を後にした。
俺だけじゃなくてクリムさんも、やっと未来に向けて進みだすことができたみたいだ。今度こそ本当に俺たちの戦いは終わりを告げたんだな。
「これでゲームクリア、だな……」
ついに下須郷へのお仕置きが完了しました。改めて同じゲームマスターの檀黎斗とは異なって、好きにはなれないなと思いました。
わかった方もいたかと思いますが、下須郷へのお仕置きシーンは、オーズ第10話で映司がドクター真木にキレて近くにあった制御盤のカバーを破壊した時を元にしてみました。本当はリュウ君がクローズマグマに変身して連続パンチを叩き込んでやらせたかったんですよね……。でも、下須郷にはあれで十分かなと思います。
そして、クリムショック以来安否が不明だったクリムさんは無事だということが判明。実はクリムさんはフェアリィ・ダンス編第21話で、レデュエ/蛮野の攻撃からリュウ君を助けようと庇って、最終的にレデュエ/蛮野にトドメを刺されて死ぬという予定でした。しかし、このままではクリムさんが可哀想だということで生存させる展開に変更しました。
その一方で、レデュエ/蛮野には死を与えました。奴の元になったキャラも自業自得の末路をたどったということでしたので。だけど、死に方がある方と似ている気がしますが……。
ついにSAOとALOでの戦いを終えて真のエンディングを迎えることができました。そして、あとはリュウ君とリーファ/直葉の関係だけに。
リメイク版のフェアリィ・ダンス編もほんの僅かとなりました。
次回もよろしくお願いします。