ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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大変長くお待たせしました。気が付けば、前回の投稿から1カ月以上も経ってしまいました。色々とやることがあっただけでなく、スランプにもなってこんなに遅れてしまいました。

その間、「仮面ライダービルド」やSAOのスピンオフ「オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」を見てました。ビルドは見逃せない状況に。シリアスな中でのホテルおじさんの私服には思わず笑ってしまうほどでした(笑)。オルタナティブの方はキリトとかが登場しなく、新鮮味があって面白かったです。特にフカ次郎が一番好きです。

久しぶりの投稿だというのと、入れたい話を詰め込んだら大分ゴチャゴチャになってしまいました。


それではどうぞ。


番外編1 恋する少女の悩み

『いつでも一緒にいたい、一緒にいるとどきどきわくわくする、そんな感じかな……』

 

前にユイちゃんに、好きとはどういうことなのかと聞かれた時、あたしはこんなことを言った。その直後、脳裏に5年前からずっと想いを寄せている少年の顔が思い浮かび、何故かそれが、出会ったばかりの青いフード付きマントを羽織ったインプの少年と重なって見えてしまった。

 

2人の少年は名前や容姿など似ているところがいくつもあるから、そうなったのではないかと思っていた。でも、後に2人の少年は同一人物だということがわかった。結果として、あたしは二度同じに恋をした。

 

今では、彼に対する想いはより強くなり、余計に彼のことを諦められなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月31日

 

午前11時30分頃。午前中の授業が行われている中、あたしは剣道部の部室から出て校内を歩いていた。3年生は自由登校となり、あたしは高校へ推薦進学が決まっている中、こうして週に2、3回学校に行って剣道部の顧問の先生の指導を受けている。

 

正門に向かって歩いていると、校舎の陰からいきなり出てきて声をかける者がいた。

 

「リーファちゃん!」

 

「うわっ!もう、驚かせないでよ、長田君。それに、学校でそう呼ばないでって言ってるでしょ。前回も言ったはずだよ」

 

現れたのは、ひょろりと痩せた眼鏡の男子生徒だった。彼は同級生の長田伸一君。彼があたしにゲームのことを教えてくれ、ALOではレコンという名のシルフのプレイヤーでもある。

 

余談だが、前にお兄ちゃんがレコンの本名って『城乃内秀保』か『檀黎斗』なのかと聞いてきたこともあった。でも、どうしてこの2つ名前が出てきたんだろう。

 

「ご、ごめん。桐ヶ谷さん」

 

「何か用?もしかして、この前みたいに朝から待っていたの?」

 

長田君はあたしに話があるから、推薦組なのに朝から学校に来て待っていたということがあった。だが、彼は慌ててぶんぶん首を振って否定する。

 

「ち、違うよ!今日は学校に課題を出しに来てて、そしたら偶然桐ヶ谷さんを見かけたんだよ」

 

「推薦組には課題が出ているから、そういうことにしておいてあげるわよ。それで何の用なの?あたし、13時から用事あるから早くしてくれる?」

 

「実は前から桐ヶ谷さんに聞きたかったんだけど、あのインプとはどういう関係なの?」

 

「え……?」

 

「あの青いフード付きマントを羽織ったインプのことだよ」

 

「あ、リュウ君のことね・・・」

 

長田君/レコンは、何故かリュウ君のことを一方的にライバル視というか敵視しているんだよね。前にアルンでどこかのゲーム会社の2代目社長のように暴走し、リュウ君に襲い掛かろうとしたこともあった。その時はあたしのワンパンで黙らせたのだった。

 

下手に誤魔化して面倒なことになるのは嫌だし、ちゃんと話しておこう。

 

「リュウ君は小学校の時に通っていた道場で知り合った友達なの」

 

「そうなの?」

 

「うん。あたしたちと同い年だし、リュウ君もゲームが好きだから長田君ともきっと気が合うと思うよ」

 

「なんか彼とはALOだけじゃなくて、リアルでも随分と仲良くしているんだね……」

 

「ま、まあね…」

 

「も、もしかして、アイツと付き合っているの?」

 

最後の付き合っているという言葉に反応し、あたしの頬が熱くなるのが伝わる。

 

「ち、違うわよ!リュウ君とはそういう関係じゃ……」

 

「じゃあ、アイツの事好きなの?」

 

「え、えっと……」

 

どう答えればいいのかわからず、言葉が詰まってしまう。

 

「その反応ってまさか……。ねえ、どうなの?アイツとはただの友達としか見ていないんだよね!?直葉ちゃん、そうだと言ってよ!ねえねえ!」

 

「うるさい!いい加減にしないと、刻むよ!」

 

「す、すいません……」

 

暴走した長田君を、どこかのネットアイドルのようなことを言って黙らせる。

 

「とにかくリュウ君とは何もないんだから妙な勘繰りしないでよね。じゃね!」

 

そう言って、叱られた子供のようにしょんぼりして立ち尽くす長田君を放っておき、正門を目指して走り出した。

 

 

 

 

 

 

急いで帰ってきたこともあって、普段より早く家に着いた。約束の時間は13時だからまだ時間はある。

 

「ただいま」と言って家に入ると、リビングの方からお兄ちゃんが「お帰り」と言ってリビングの方からやってくる。お兄ちゃんの恰好はまだ朝起きた時のままだった。

 

「お兄ちゃん、まだそんな恰好でいたの?お兄ちゃんも早く準備したがいいよ」

 

「わかっているって。スグこそ、早く支度しろよ」

 

「はーい」

 

あたしは自分の部屋に着替えを取りに行った後、すぐにお風呂場へと向かう。

 

シャワーを浴びている最中、あたしは先ほど長田君にリュウ君との関係を聞かれたことを思い出していた。

 

――あたしはリュウ君が好き。

 

確認するように、胸の奥で呟いた。そして、脳裏にはリュウ君の姿を思い浮かべる。

 

リュウ君は、くせっ毛気味で所々ハネている黒髪で顔立ちは少し女顔よりだが整っており、イケメンだと言ってもいい容姿だ。性格は生真面目で優しくて、助けを求めている人がいたらすぐに助けてくれる。お兄ちゃんや周りの人がよく言っているけど、昔にあったメダルで変身して戦う特撮番組の主人公みたいな感じである。

 

実際にリュウ君は、あたしにとってヒーローみたいな存在で、あたしが危ない時にはいつも助けてくれた。

 

小学生の頃に通っていた道場にいた上級生から、いじめを受けていたある日、リュウ君が上級生とボロボロになるまで大ゲンカをし、あたしへのいじめを止めさせてくれた。

 

そして、ALOでレデュエの部下のナメクジたちに捕まり、奴らの魔の手が迫ろうとした時もだ。

 

『お前たちみたいな奴らは、ここで俺がぶっ潰す!!』

 

『リーファの運命は、俺が変える!』

 

リュウ君は傷付いてボロボロになっても立ち上がり、身を滅ぼすことになるのも構わず、あたしを助けるためにレデュエたちと戦った。

 

自分が傷つくことは気にせず、いつも誰かのために必死に手を伸ばそうとしている彼が少し危なっかしく思うこともある。だけど、あたしはリュウ君のそういうところに引かれた。

 

――でも、ホントに、リュウ君のことを好きになっていいのかな……。

 

リュウ君のことが好きだと思うのと同時に、最近はこんな不安も抱いてしまう。

 

あたしとリュウ君はずっと道場の仲間やただの友達として過ごしてきた。リュウ君も多分そう思っていると思う。

 

これはあたしにとって初恋でもある。でも、初恋は叶わないもの。よくそう言われる。

 

だから、あたしの想いを露わにしても、リュウ君に届くことはないかもしれない。

 

そんなことを思いながらシャワーを浴び終えて、お風呂場を出る。そして、急いで着替えて支度をし、お兄ちゃんと一緒に家を出た。

 

 

 

 

 

あたしとお兄ちゃんは、待ち合わせ場所としているファミレスの前までやってきて、ある人が来るのを待つことにした。着いてから2,3分ほどであたしたちと待ち合わせをしている人がやってきた。

 

「カズさん、スグ、遅れてすいません」

 

「リュウ君」

 

「俺たちも今来たばかりだから大丈夫だ」

 

あたしたちと待ち合わせしていた人はリュウ君だった。実は、前からこの日の午後はリュウ君と一緒にアスナさんのお見舞いに行く約束をしていた。あたしは久しぶりにリュウ君と一緒に出かけるということが嬉しくて楽しみだった。

 

「ところで左手の方は大丈夫なのか?」

 

「はい。利き手の左手が使えないから生活するのにちょっと不自由しているんですけどね。まあでも、今日も午前中に病院に行ってきましたけど、治ってきているって言われたので大丈夫です。」

 

「悪いな、俺のせいでリュウに怪我させちまって……」

 

「謝らないで下さいよ。骨は折れてないんですから……」

 

リュウ君の左手は怪我を負って包帯が巻かれている。

 

リュウ君の怪我はお兄ちゃんが須郷信之に襲われて助けたときに負ったものらしい。この話を聞いた時は、リュウ君らしいなと思った。

 

リュウ君が来たところで、あたしたちはファミレス入って店員さんに案内された席に座る。そして、各自注文したものを頼んで待っていた。

 

「そういえば、リュウ君もお兄ちゃんみたいにSAO帰還者の学校に行くの?」

 

「そのつもりだよ。本来なら今年は受験だったけど、中1の11月までしか勉強してない俺が受けても落ちる可能性が高いからな」

 

「それは俺もだな。最初は1年間予備校に行って勉強しないといけないって思っていたからな」

 

「2年間もデスゲームに囚われてたってなると、普通の生活に戻るってなると大変だからね」

 

「ああ。だから本当にこういうのがあるのがありがたいよ。まあでも、2年間遅れた分の勉強を何とかしないといけないけどな。このままだと大学には行くのは難しそうだよ……」

 

「あのさ、よかったらあたしがリュウ君の家庭教師してあげるよ」

 

「いいのか?でも、そうなるとスグに迷惑がかかるんじゃ……」

 

リュウ君が申し訳なさそうにしており、あたしは微笑んで答える。

 

「全然迷惑じゃないよ。今は自由登校だし、高校も推薦入学で決まっているから大丈夫。それに、これはあたしも何かリュウ君の力になりたいって思っているの」

 

「わかった。じゃあ、お願いしようかな」

 

そう答えてくれたことに、よかったと思う。リュウ君の力になりたいっていうのはもちろんあるけど、実は少しでも多くリュウ君と会いたいっていう気持ちもあったんだよね。

 

話をしている内に頼んだものが来て、それらを食べている途中、お兄ちゃんの携帯が鳴り始める。

 

「アスナからか」

 

どうやらアスナさんからのようだ。

 

「アスナさん、どうかしたの?」

 

「なんか検査が予定より遅く始まって15時くらいまでかかるみたいなんだよ」

 

今は13時30分頃。ここから病院まではバスで行けば30分ちょっとで着く。14時くらいに出て行っても時間はある。

 

「あの……」

 

「リュウ、どうしたんだ?」

 

「時間があるんでしたら、病院に行く前にちょっと寄って行きたいところがあるんですけど、いいですか?」

 

「時間はまだあるし、いいぜ」

 

「あたしも別に構わないよ。リュウ君は何処に行きたいの?」

 

「実は……」

 

 

 

 

 

ファミレスで昼食を食べた後、リュウ君について行って10分ほど。たどり着いたのは、とある墓地だった。そして、その中にある《橘》と彫られた墓石の前で止まる。

 

目の前にある墓石を見た時、あたしとお兄ちゃんは何なのかすぐに察した。

 

「これが、橘龍斗……俺の兄の墓です」

 

「そうか、前に言っていたリュウの兄さんの……」

 

「はい。(あん)ちゃんは昔から病弱で運動もあまりできないこともあってゲームが好きでした。その影響で俺もゲームをやっていたんです。俺がやっていたのは、家庭用のゲームだけですけどね……」

 

リュウ君のお兄さん……橘龍斗さん。小学生の時、リュウ君の家に遊びに行った時に何回も会っていたから、彼のことはあたしもよく知っている。リュウ君とお兄さんは、仲がよかった。その頃のあたしは、お兄ちゃんとは疎遠になっていたこともあって、お兄さんと仲良くしているリュウ君が羨ましいと思ったほどだ。でも、お兄さんは2年ちょっと前に病気で亡くなった。

 

お兄さんの死はリュウ君の心に大きな傷を残すものとなり、それから暫くして彼はデスゲームに巻き込まれた。

 

この最中に、リュウ君が出会ったのがファーランさんとミラちゃんである。前にリュウ君と一緒に2人のお墓に行った時にどんな人たちなのかは聞いていた。

 

ファーランさんは、頼りがいのある人で、リュウ君はいつもお世話になって助かったという。ミラちゃんは子供っぽいところがあって苦労したこともあったが、いつも場の空気を明るくしていたようだ。あとリュウ君曰く、声質があたしとそっくりらしい。

 

でも、2人はデスゲーム開始からちょうど1年後に亡くなったらしい。

 

お兄さん、そしてファーランさんとミラちゃんの死。この2つがリュウ君を精神的に追い詰めることとなり、リュウ君はファーランさんとミラちゃんを生き返らせるために手段を選ばなくなり、お兄ちゃんの命を奪おうとしたことがあるらしかった。

 

あたしが知らないところで、リュウ君はいっぱい辛い思いをして苦しんでいた。

 

このことを知ったのは2週間ほど前。お兄ちゃんから聞かされた時、あたしは驚きを隠せなかった。

 

(あん)ちゃんにも、ファーランさんとミラにも俺の手は届くことはなかった。だから、俺はあの頃どうしても欲しかったんだ…どこまでも誰の手にも届く俺の腕、力が・・。まあでも、必ずしも誰もを助けられるわけじゃない。俺はそれを思い知らされたよ・・」

 

リュウ君は何処か悲しそうにしている。それでも、話は続く。

 

「だけど、何もしないわけにはいかない。手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだって。ただそれだけだよ。まあ、これは自己満足か偽善者みたいなことかもしれないけどな……」

 

「そんなことないよ!」

 

今のリュウ君を見ていられなくなり、あたしは気が付いた時にはリュウ君に声をかけていた。

 

「リュウ君のおかげで助かった人もいる。あたしだってそうだよ。リュウ君には何度も助けられたんだから!」

 

「ああ。俺もだな。リュウが一緒にALOに行ってくれたから、アスナを救い出すことだってできたんだ」

 

「それに前に言ったよね。リュウ君が辛いときはあたしがリュウ君の手を掴むって。だから大丈夫だよ!」

 

「スグ、カズさん……。ありがとう……」

 

暗かったリュウ君の表情が少しずつ明るくなっていく。それを見て、あたしとお兄ちゃんは安心する。

 

「さてと、そろそろ行こうか。早くしないとバスが来ちゃうからな」

 

お兄ちゃんがそう言う。そして、あたしたちは来た道を戻ってバス停があるところへと向かった。

 

 

 

 

 

バス停からバスに乗り、しばらくして病院に着いた。あたしたちは支払機にプリペイドカードを通し、バスから降りる。そして、病院の正面口から入って受け付けまで行き、3人分のパスを受け取ってエレベーターで最上階のフロアまで上る。エレベーターを降り、人気の無い廊下を突き当たりまで歩いて2週間ほど前に訪れた病室の前まで来た。

 

お兄ちゃんがドアをノックすると中から「どうぞ」と返事が返ってきて、あたしたちは病室へと入った。

 

病室の入口付近にある純白のカーテンの向こう側まで歩き、ベッドの前まで行く。そこにはアスナさんが起きて本を読んでいる姿があった。

 

「キリト君、また来てくれたんだ」

 

「当たり前だろ。アスナが心配だからな。体の方は大丈夫?」

 

「うん。今日も検査したけど、順調に回復してきてるって。もう少し入院が必要なんだけどね」

 

「あまり無理はするなよ。アスナに何かあったら俺も困るからな」

 

「キリト君・・」

 

「アスナ・・」

 

お兄ちゃんとアスナさんはあたしとリュウ君がいることを忘れ、2人だけの世界に入ろうとしてしまう。するとリュウ君が2人を元の世界に戻そうと咳払いをする。

 

「あの、俺たちがいることを忘れないでくれませんか?」

 

「わ、悪い……」

 

「ご、ごめんね……」

 

リュウ君に指摘され、元の世界に戻ってきたお兄ちゃんとアスナさん。

 

「ねえ、お兄ちゃんとアスナさんってSAOでもあんな感じだったの?」

 

「少なくてもSAOで結婚した頃はあんな感じだったかな。でも、その前はフィールドボスの攻略でもめたこともあったから、最初からではなかったよ」

 

「そうだったんだ」

 

SAOにはALOと違って結婚システムがあったらしい。あのお兄ちゃんが美人でお嬢様のアスナさんとSAOで結婚したと聞いた時は、正直信じられないって思った。

 

「あ、そういえば、リュウ君とは現実世界で会って話しするのは初めてだったね。もう知っていると思うけど、改めてわたしからちゃんと名乗るね。初めまして、結城明日奈です」

 

「こちらこそ、初めまして、橘龍哉です」

 

「リュウ君もありがとね。でも、わたしを助けるためにALOに来たせいで、リュウ君をあんなことに巻き込んでしまって……」

 

「アスナさんが気にすることじゃないですよ。悪いのは全て蛮野と須郷なんですから。最後にリアルで左手を怪我した程度で済みましたし。それにプレイヤーは助け合いですよね?」

 

「ふふ、そうだね」

 

アスナさんはリュウ君と話を終え、あたしの方を見る。

 

「えっと、直葉ちゃんだよね?」

 

「は、はい」

 

「初めまして、結城明日奈です」

 

「桐ヶ谷直葉です。初めまして明日奈さん」

 

「キリト君から聞いたけど、直葉ちゃんがキリト君たちを世界樹まで案内してくれたんだよね?おかげで私は助かったわ。本当にありがとう」

 

明日奈さんはあたしに頭を下げてお礼をいった。

 

「いえ、お礼なんて……。大変なこともありましたけど、あたしもすっごく楽しかったですから」

 

「そう思ってくれて俺は嬉しいよ」

 

「でも、カズさんはもう少し後先のことを考えてくださいよ。そのせいで俺は色々と巻き込まれて大変だったんですから……」

 

楽しそうにそう言うお兄ちゃんに、リュウ君がジト目を向ける。2人と出会ってから世界樹に行くまで、リュウ君はお兄ちゃん/キリト君に振り回されて、かなり苦労をさせられていたっけ。

 

あたしとアスナさんは苦笑いを浮かべ、2人のことを見ていた。

 

それからしばらくの間、あたしたちは談笑をした。

 

改めて思うが、アスナさんは美人でお嬢様と完璧な女性だ。あたしなんかと全然違う。やっぱりリュウ君も、アスナさんみたいな人がタイプなのかな……。

 

そんな不安なことを考えてしまったこともあったが、あたし達はその後も談笑を楽しんだ。気が付いた時には18時近くになっており、あたしたちは帰ることにした。

 

アスナさんの病室から出てエレベーターで1階まで降り、ロビーまでやってきた時だった。

 

「あ、ゴメン。アスナさんのところに忘れ物しちゃった。2人はここで待ってて」

 

お兄ちゃんとリュウ君にそう言い残し、アスナさんの病室へと戻った。

 

 

 

 

 

「あれ?直葉ちゃんどうかしたの?もしかして、何か忘れものでもした?」

 

本当は忘れ物なんかしてない。ただ、どうしてもアスナさんに聞きたいことがあってここに戻ってきた。

 

「いえ、忘れものじゃないです。ちょっとアスナさんに聞きたいことがあって……。でも、お兄ちゃんやリュウ君がいる前だとどうしても聞けなかったんです……」

 

「そうだったんだ。わたしに聞きたいことって何なの?」

 

「アスナさんは、どうやってお兄ちゃんに想いを伝えて結ばれたのかなって……」

 

あたしが言ったことに思わずアスナさんは固まり、数秒後には恥ずかしそうに俯く。これにはあたしも焦ってしまう。

 

「きゅ、急にこんなこと聞いてゴメンなさい!」

 

「ううん、謝らなくていいよ。少し驚いちゃって……」

 

「いえ、話したくないことでしたら、言わなくても大丈夫ですので……」

 

「別に話したくないことじゃないから……。でも、急にそんなこと聞いてきてどうかしたの?」

 

「じ、実は……」

 

あたしは、アスナさんに5年前からずっと好きな男の子がいて、そのことで悩んでいることを話した。だけど、その人がリュウ君だということは話さないでおいた。

 

「そっか。直葉ちゃん、好きな男の子がいるんだね」

 

「はい……。だから、お兄ちゃんと結婚までしたアスナさんに聞いてみたくて……」

 

「でも、わたしの話がちゃんとアドバイスになれるかなぁ……。最初の頃は、キリト君とは今みたいに仲がよかったわけじゃなかったからね」

 

「そうだったんですか?」

 

「うん。キリト君に中々素直になれなかったし、一時期は会うたびに衝突したこともあったよ」

 

意外な内容だった。今は周りから見れば、バカップルと言ってもいいほど仲がいいお兄ちゃんとアスナさんがそんな感じだったなんて。

 

「だから、わたしは直葉ちゃんみたいに純粋にその男の子のことをずっと想っているのが羨ましいくらいだよ。直葉ちゃんはまだ伝えてないんだよね?」

 

「は、はい……」

 

「それなら、まだチャンスはあるよ。直葉ちゃんの想いが絶対に届かないなんてまだわからないからね。無理に焦らなくてもいいから、言うタイミングが来たら伝えてみるといいよ」

 

「アスナさん」

 

アスナさんの言う通りだ。まだリュウ君に振られたわけじゃない。前にお兄ちゃんには、好きになった人のこと、そんな簡単に諦めちゃダメだって言ったのに、あたし自身が諦めるわけにはいかない。

 

ちょっとずつであるが、自信がでてきた。

 

「ありがとうございます、アスナさん。あたし、頑張ってみます!」

 

「頑張ってね、直葉ちゃん。応援してるから」

 

「はい。あの、このことは他の人……特にお兄ちゃんとリュウ君には黙っておいてもらえます?」

 

「もちろん」

 

そして、あたしは最後にアスナさんにもう一度お礼を言って病室から出て、お兄ちゃんとリュウ君が待っているロビーへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「直葉ちゃんの好きな男の子って何故か心当たりがある気がするんだよね……」

 




今回の話の主人公は、この作品のヒロインでもある直葉でした。

執筆してて最初から最後までじれったいなと思い、なんか甘酸っぱい気持ちになってしました。リュウ君との恋愛事で悩み、アスナからの話を聞いて元気づけられた直葉。2人の恋愛の結末は見逃せない状態となっています。

そして、長田君/レコンはいつものように檀黎斗みたいになりませんでしたが、やっぱり暴走してして直葉から怒られる始末(笑)。

次回も遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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