ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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リメイク版では2019年になって初めの投稿になります。ゲーム版の方も投稿しましたので、そちらの方もよろしくお願いします。



番外編3 遭難中の出来事

行く先に広がる光景は、相変わらず霜で覆われた薄暗い洞窟だ。先がずっと見えず、外から差す光は見えない。そして、洞窟の中はとても涼しい……いや、むしろ寒いと言ってもいいほどだ。吐いた息が白くなっていることがそれを証明している。

 

「もう7月に入ったっていうのに、この洞窟は真冬並みに寒いわね」

 

「ああ。念のために防寒具を持ってきてて正解だったな」

 

右斜め後ろにいるリズと軽口をたたきながら、洞窟の中を進んでいた。

 

オレたちがどうしてこんなところにいるのかというと数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

「素材集めを手伝って欲しい?」

 

「ええ。どうしても必要な素材が沢山あってね。1人じゃ大変だから手伝ってほしいの」

 

そう言ってきたのは、《リズベット武具店》の店主のリズだった。

 

リズベット武具店は、元々は鍛冶師のリズがSAOで第48層のリンダースで経営していた店だ。ALOでもリズは鍛冶師を続けており、数カ月前にイグドラジル・シティの大通りにオープンすることができた。

 

店は、SAOで2年間鍛えられた鍛冶スキルのおかげもあって大繁盛。日々リズの元には武器作成の依頼や来客が来ており、忙しい日々を送っていた。

 

「まあ、素材集めの手伝いくらい構わないぜ」

 

「ありがとうザック。本当に助かるわ」

 

「いつもお前には槍手入れで世話になっているから気にするな。ところで、どんな素材が必要なんだ?」

 

すると、リズはメニューウィンドウを操作して、アイテムの画像が乗ってある画像をいくつか見せてきた。

 

「とりあえず、今回集めておきたいのはコレらだね。全部が氷雪地帯に生息するモンスターからドロップするヤツよ」

 

「氷雪地帯か」

 

氷雪地帯はアルヴヘイム最北のノーム領付近にある。7月に入り、現実世界と同様に夏の時期に入ろうとしているアルヴヘイムだが、この辺りの地域だけは特殊な気候で1年を通して真冬日と変わらない状態となっている。冬の時期には気温がマイナス10~20度まで下がることがザラにあるという。

 

この辺りの地域には行ったことがなく、オレにとって未知の領域だ。ALOの公式サイトなどで、詳細を見てから一度は行ってみたいなと思っていたし、今の時期的にも行くのに一番ベストな時期だからちょうどいい。

 

オレたちは早速、準備をして氷雪地帯に向かった。

 

氷雪地帯で順調に素材を集め続けているオレたちだったが、素材集めに夢中になりすぎて落とし穴のトラップにかかってしまった。気が付いた時にはすでに遅く、オレたちは奈落の底へと落ちていった。

 

気が付いて目を覚ますと、オレたちはこの洞窟にいた。

 

名前は《フロスト・ケーブ》。氷雪地帯の地下に広がる洞窟ダンジョンで、内部は天然の迷路のようになっており、洞窟の全長も何キロにも及ぶ。マップデータがあっても抜け出すのは容易ではないと言われているほどで、難易度も高い方に位置するダンジョンだろう。

 

現にオレたちはすでに3時間もこの中を彷徨っており、氷製のスケルトンやゴーレムたちと20回以上も戦闘を繰り広げながら、出口を目指して洞窟の中を進んでいた。

 

「ザック。アンタよくこんな薄暗い洞窟の中をスイスイと歩いて行けるわよね」

 

「オレが選んだインプは暗視能力に優れているからな。明かりが一切ない洞窟でもランタンとかなくても平気なんだよ」

 

「洞窟やダンジョンの探索には便利ね」

 

「まあな」

 

こんなことを話しながら進んでいる内に、他と比べて広い空間となっているところへと出た。索敵スキルを使用してみても付近にモンスターの気配はない。どうやら洞窟ダンジョン内にある安全地帯のようだ。これはちょうどいいと思い、ここで一旦休憩することにした。

 

回復ポーションで体力を回復させ、メニューウィンドウを操作してマップを開く。すると、《フロスト・ケーブ》のマップが表示され、今オレたちがいると思われるところには赤い点が付いていた。

 

「ザック、どう?」

 

「やっと出口まであと4割まで来たってところだな」

 

「うへぇ…。結構歩いたと思ったのにまだ4割も残っているなんて。この洞窟長すぎでしょ」

 

「確かにな。こういう時、転移結晶があれば便利なんだけどな」

 

「そうよね。ALOにも早く導入してほしいわよ」

 

なんてオレたちはあまり緊張感のない会話を交わし、笑い合う。

 

オレはアイテムストレージを操作し、アウトドア用のランタンと小さな手鍋、コーヒーが入っているボトル、2つの金属製のカップを取り出した。

 

「キリトもだったけど、アンタもいつもこんな物持ち歩いているの?」

 

「オレは偶にだよ。いつも持ち歩いているのはカイトの方だ。アイツ、長持ちする黒パンや野戦食だけじゃ飽きるからってよ、SAOで迷宮区の攻略で何時間も籠ることになった時は絶対と言っていいほど持ってきてたからな」

 

「なんだかカイトらしいわね」

 

「ああ」

 

ランタンに火をともし、その上に手鍋を置く。そして、手鍋にボトルに入っているコーヒーを注ぐ。

 

数分間火にかけていると、湯気が立ってコーヒーのいい香りが漂ってきた。十分温まったところで、手鍋を手に取ってコーヒーを2つのカップに注いだ。

 

「街で買ったコーヒーだけど飲むか?温まるぞ」

 

「ありがと」

 

1つのカップをリズに手渡し、もう1つのカップを手に取る。数回フーフーしてからコーヒーを一口飲む。だが……。

 

「熱っ!ヤベ、ちょっと熱くしすぎたな」

 

これを見ていたリズは笑いをこらえてオレの方を見ていた。

 

「何がおかしいんだよ」

 

「アンタって相変わらず猫舌なのね。そんなに熱いなら、あたしがフーフーしてあげようか?」

 

「うるせぇ!余計なお世話だ!」

 

明らかにオレが猫舌だということをからかって楽しんでいるリズにムッときて、ちょっと強めに反論する。

 

「第一お前の場合、熱々のコーヒーを飲ませてくるのがオチだろうが!」

 

「誰がそんなことするってのよ!」

 

「お前だよ!この前だって、おでんコントみたいに熱々のピザとか無理やり食べさせてきただろ!」

 

「ザックがフーフーばっかりして中々食べなかったから、あたしが食べさせてあげただけでしょ!」

 

リズもオレに負けじと強めに反論し、オレたちの言い争いはどんどんヒートアップしていく。

 

「アンタの猫舌を直すために、今度あたしのオススメのホットコーヒーを奢ってあげるわ!滅茶苦茶熱いやつ!」

 

「勝手にしろ!オレはアイスコーヒーを飲む!絶対にな!」

 

こんな感じで、オレとリズの言い争いはよくあることだ。

 

リズがよくオレを猫舌などとからかってきて、オレもつい強めに反発していつも大概こうなってしまう。このやり取りは、キリトやアスナ、クラスメイト達からは、よく夫婦漫才だとか夫婦喧嘩とか言われている。もちろんオレとリズは「夫婦じゃない」といつも全力で否定している。しかも見事に息ぴったりでだ。

 

他人から一見すると、俺とリズは仲が悪いように見えるかもしれないが、リズはオレにとって一番心を許せる存在であると言ってもいい。

 

オレはラフコフ討伐戦の時にラフコフのプレイヤーを殺めてしまった時のことを思いだした。

 

あの時のオレは、自分も人殺しになり、戦うことすらも恐れるようになってしまい、戦うことが困難となってしまうほど心に大きな傷を負っていた。オレが抱いていた負の感情は、長年の付き合いであるカイトにも話せなかったが、何故かリズには話すことができた。

 

リズは黙ってオレの話を聞き、『ザックは人殺しじゃない』とか言ってくれ、オレを立ち直させてくれるきっかけを作ってくれた。

 

それからだ。リズのことを意識するようになったのは。

 

喧嘩するほど仲がいいという言葉があるが、オレとリズにも当てはまる言葉なのかもしれない。

 

そんなことを考え、リズに謝ることにした。

 

「悪い。ちょっと言い過ぎた」

 

「あたしこそ、ゴメン……」

 

最後には2人して謝る。これもいつものオチだ。

 

まだ洞窟から抜け出していないのにも関わらず、この場に座ってしばらく談笑していた。

 

「そういえば、ザックって前にリュウと一緒にインプの領主さんから、インプの精鋭部隊に入らないかって誘われてなかった?」

 

「ああ、そんなことあったな」

 

6月の初め頃の話になる。オレとリュウはインプ限定の武闘大会に参加し、2人ともベスト4に入るという好成績を修めた。その際に、インプの領主さんから、インプの精鋭部隊に入らないかと誘いを受けたのだった。

 

「でも、オレもリュウも誘いは断ったよ」

 

すると、リズは驚いて声を上げた。

 

「そうだったのっ!?せっかく領主様からのスカウトを断るなんて、アンタたちも随分ともったいないことしたわね」

 

「まあな。オレもリュウもインプの精鋭部隊に入ることに元々興味はなかったからな。それに、精鋭部隊に入ると任務とかで忙しくて、インプ領にいることが多くなるみたいだからな。そうなるとみんなとの時間がどうしても減っちまう。リュウなんか「すいません…俺は恋人や仲間との時間を大事にしたいんです」ってすぐに断ってたよ」

 

「だったら仕方がないわね」

 

「仮にクラインだったら、絶対に誘いの話は断らないと思うぜ」

 

「それは言えるわね。インプの領主さんは結構美人だから」

 

インプの領主……ジャンヌさん。

 

この名前を聞くと、真っ先に思い浮かぶのはフランスの英雄……ジャンヌ・ダルクだろう。彼女はジャンヌ・ダルクの大ファンらしく、この名前にしたという。実際に彼女が愛用する槍も旗みたいなものだ。

 

ジャンヌさんは現在の他の種族の領主と比べて領主歴は短い方だ。だが、彼女が領主に就任してから同じ女性の領主であるサクヤさんやアリシャさんとは友人関係となり、インプがシルフとケットシーと友好的になったなどと、領主としての腕前は他の領主と比べても引けを取らないと言ってもいい。また、ALO屈指の槍使いと言われているほどの実力者で、デュエル大会では常に上位に入賞しているほどだ。こんな人だからこそ、インプの領主に選ばれたのだろう。

 

「ザックはインプの領主さんにはデレデレはしなかったの?」

 

「誰がするか!クラインと一緒にするな!」

 

リズはニヤニヤと再びオレをからかってくる。そして、オレはすっかり拗ねてしまい、リズから背けてコーヒーを一口飲む。

 

 

 

 

 

それから10分後。休憩を終え、再び出口を目指して窟の中を歩き始めた。モンスターと遭遇すれば戦闘になり、分かれ道があった時はマップを開いてどの道を行けばいいのか調べて進んでいた。

 

途中、先ほど休憩したところみたいに広い空間となっているところへと出たが、今度はそこに入ると同時に通路が閉ざされて10体近くの氷製のスケルトンやゴーレムが出現した。

 

「モンスタートラップだ!行くぞ、リズ!」

 

「もちろんよ!」

 

オレたちは武器を手に取り、戦闘に入った。オレの槍は複数のスケルトンたちを薙ぎ払い、リズのメイスはゴーレムの硬い身体を打ち砕く。モンスターたちは倒しても次々と現れるが、オレたちも負けじと倒していく。スケルトンとゴーレムを全て倒したと思ったら、今度は大型の氷製の鎧騎士が1体出現した。

 

「こんな奴までいるなんて、あたし聞いてないわよ!」

 

何処かの私立探偵事務所の所長みたいなことを言うリズ。

 

「コイツを倒せばトラップが解除されるはずだ!もうひと踏ん張りだぞ!」

 

この間にも氷製の鎧騎士は雄叫びを上げ、氷でできた剣を振り下ろしてきた。オレたちは左右に別れて跳んで回避し、オレはすかさず槍で薙ぎ払って攻撃。続くようにリズがメイスで叩んだ。

 

氷製の鎧騎士もこのまま負けるわけにはいかないと言わんばかりに剣を振るう。オレは前に出て槍を使って敵の攻撃を一撃一撃防いでいく。その隙にリズが回り込み、メイスのソードスキルを使って重い一撃を喰らわせる。すると、氷製の鎧騎士のHPはオレが攻撃した時よりも減り、奴は怯んで動けなくなる。

 

「クリティカルヒットしたみたいだな!ナイスだ、リズ!」

 

「あたしだって鍛冶師だけじゃなくてマスターメイサーでもあるんだからね!」

 

「このまま一気に決めるか!」

 

「そうね!」

 

オレたちは倒れている氷製の鎧騎士に向かい、トドメにと槍とメイスのソードスキルを使って攻撃。

 

この攻撃で氷製の鎧騎士の残っていたHPが全て削り取られ、奴はポリゴン片へと変えて拡散した。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、やっと洞窟から出られたぜ」

 

「長かったわね〜。本当に出られるのか少し心配してたから、安心したわ」

 

氷製の鎧騎士を倒してから2時間後。オレたちはやっと洞窟の外へと出ることができた。5時間も洞窟の中にいたせいか、久しぶりに外に日の光を浴びたような気分だった。

 

隣では、リズがご機嫌な様子でメニューウィンドウを開いて見ていた。

 

「まさか当初予定していた素材だけじゃなくて、他の素材も手に入れることができるなんて。これなら、いい武器が沢山作れるそうだわ」

 

「それはよかったな」

 

トラップにかかって何時間も洞窟を彷徨うことになって大変な思いをしたが、久しぶりにリズと2人で冒険できたし、何よりもリズが喜んでいたからまあいいか。

 

「疲れたし、帰ろうか」

 

「そうね。でも、その前に近くの街に寄って何か食べて行かない?」

 

「いいなそれ。素材集め手伝ってやったんだから、リズが奢ってくれるよな?」

 

「はいはい、わかったわよ」

 

最後にオレたちは笑い合い、ここから一番近い街を目指して飛び立った。




番外編3話ということで、今回はザックとリズが主役回となりました。色々と異なりますが、話の内容は「心の温度」のものをちょっと元にしてしました。

ザックは名前からして鎧武のザックを元にしてますが、猫舌なところなどファイズのたっくんを元にしているところもあるので、この辺りのところは猫舌たっくんをイメージしてしました(笑)。一応たっくんとは異なってザックは好青年ですが、恋愛面に関してはちょっと不器用なところがあり、リズとはちょっとケンカップルみたいな感じに。オトヤとシリカのカップルと同様に、2人の関係もれからどうなるのか見守ってて下さい。

2人の話の中に出てきたインプの領主のジャンヌさん。ほとんどというか完全にFateシリーズに登場するジャンヌですが、この作品ではジャンヌ・ダルクに憧れているただの女子大生という設定です。原作ではインプの領主や組織等は一切不明なので、この作品独自の設定となっております。


SAOアニメは毎度目が離せない状態で、毎週土曜日の24時が待ち遠しいです。カーディナルの声優さんが丹下桜さんのため、カーディナルの声を聞くたびに何処かのローマの皇帝様を思い浮かべてしまっている始末です(笑)。

ジオウの方も次回は城戸真司役の須賀貴匡さんが登場。しかもスピンオフの1つにも登場するみたいなのでこちらも待ち遠しいです。クローズのⅤシネマが期間限定で上映が開始しましたが、諸事情で劇場で見ることが厳しい状況。これはDⅤDの発売を待つことになるかもしれないです(涙)


次回もよろしくお願いします。

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