ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
2025年7月25日
夏の暑さが本格的となるこの時期。今年の4月から通い始めたSAO生還者の学校も数日前に1学期が終了し、今は夏休みに入った。
夏休みは、何処か遠くに出掛けたり、バーベキューや花火をしたりとやりたいことが沢山ある。学生にとって楽しいことが沢山待っているイベントである。
しかし、夏休みに待っているのは楽しいことだけではない。1学期の終了時には各教科担当の先生からは大量の課題が出され、加えて大学受験に備えて自主勉もする必要もある。それでもSAOで命を懸けて戦っていた時よりはマシな方だと言ってもいいだろう。
こんな感じで夏休みを数日過ごしていたが、俺は今バイクを走らせて学校に向かっている。
バイクの免許は今年の春に通学のために、カズさんと隼人さんと響さんと一緒に自動車学校に通って取得した。冬也はお母さんに「バイクの運転は危ないから」と反対され、免許を取れなかったらしい。
今俺が運転しているバイクは、父さんの知り合いから買ったお古のものである。中古品だが、特撮番組に登場するバイクのベース車にもなったことがあるため、俺は結構気に入っている。
学校は夏休みシーズンに入り、時間も9時半を過ぎていたため、道路は混んでいなく、スムーズに進んでいく。バイクを走らせている内に、俺が通うSAO生還者の学校が見えてきた。
正門から学校敷地内へと入り、駐輪場にバイクを止めた。夏休みだということもあって駐輪場はガラガラ状態で、俺のバイクの他には、見覚えのある一台のバイクしか止まっていなかった。
「あれはザックさんのバイク。皆もう来ているのかな」
ヘルメットを取り、待ち合わせとなっている生徒玄関前へと向かった。
生徒玄関前には数分ほどで着き、そこにはアスナさん、リズさん、ザックさん、オトヤ、シリカの5人がいた。
「あ、リュウ!」
真っ先に俺に気が付いた冬也が声を上げる。
「まさか皆してもう来ていたなんて……。見たところ、あとはキリさんとスグだけですね」
「あの2人ももうすぐしたらやって来るでしょ」
「それまで暑いですから、日陰で待っていましょうよ」
リズさん、シリカがそう言う。
カズさんとスグが来るまで近くにあった日陰で話をしながら待っていた。夏休みの宿題は何処までやったのか、夏休み中にする会話でよく話題になるものだ。そんなことを話している内にカズさんとスグがやってきた。
「あ、キリト君、直葉ちゃん」
明日奈さんがやってきた2人に声をかける。
「ごめんなさい、夏休み中なのにわざわざ集まってもらっちゃって」
スグは申し訳なさそうにして俺たちに謝ってくる。
「全然大丈夫だよ。俺たちだってプールに入りたいって思っていたからさ」
真っ先に俺がフォローを入れ、皆も笑顔で頷いた。
そもそも、どうして俺たちが夏休み中の学校に来たのかというと昨日に遡る。
夏休みの課題を自室でしている最中、突然キリさんから電話がかかってきた。
内容は、皆でシルフ領南方の海にある海底神殿で受けられるクエストに挑戦しないかというものだった。このクエストにはクジラが出てくるらしく、クジラを見てみたいと言ってきたユイちゃんのために挑戦するということに。キリさんもアスナさんも10代で立派な親バカだなと思ったものも、ユイちゃんのためにだったらということで俺たちも一緒に受けることにした。
しかし、そこである問題が発生した。それはスグがリアルでもゲームでも水中が苦手だということだった。
このことは俺も昔、スグ本人から聞いていたから知っていた。なんでも小さいときに家の庭にあった池に落ちて溺れてしまったのがトラウマとなってしまったのが原因らしい。
今回のクエストは海底神殿で受けられるものだから、水中での戦闘は欠かせない。魔法で水中活動ができるものはあるが、ALOの戦闘はプレイヤーの運動能力で依存するところもあるため、ある程度水中に慣れておく必要もある。
そこで、急遽水泳の特訓をすることとなった。だけど、夏休み中のプールは何処に行っても人が多いため、練習するのに適したところではないと思い、学校のプールで練習することとなった。幸いにも今日は利用する人がいなくて、すぐに使用許可を取ることができた。
皆もスグのためになら協力するということで集まってくれた。社会人であるクラインさんとエギルさんは都合があわず、学生組で唯一ここにいないカイトさんは、前から今日は先約があったようで、どうしても来ることはできなかった。だけど、3人ともクエストには参加できるよう時間を調整してくれるとのことだ。
「そういえば、あたしってこの学校の生徒じゃないけど、この学校のプール使わせてもらっちゃって大丈夫なのかな?」
「その辺りの話もちゃんと通しているから安心して」
「リュウは直葉のために率先して先生に連絡もしてくれたからね~」
「ちょっとリズさんっ!」
リズさんがニヤニヤして俺をからかってきて、頬が熱くなるのが伝わる。
まあ、リズさんの言う通りだ。やっぱり彼氏としてこういうのは誰よりも協力しないとな。
そして、女性陣と一旦別れ、俺はカズさんたちと一緒に男子更衣室に向かった。
学校のプールだが、今日はプールの授業ではないということもあって俺たちは学校指定ではない水着を持ってきた。男性用の水着にも色々と種類がなるのだが、色や柄はそれぞれ異なるが全員そろって一番メジャーなトランクス型の水着だった。
「なんか学校のプールで自分用の水着で泳ぐのってなんだか新鮮ですよね」
「ああ、確かにな。オレ、海とかプールには行くってことあまりなかったから、学校用のやつしか持っていなかったけど、一応買っておいて正解だったみたいだな」
俺が言ったことに、答えるように話しかけてきたのはザックさんだった。そこへ着替え終えたカズさんが近づいてきて、俺の方をジロジロと見る。
「どうしたんですか?もしかして俺の水着何か変でした?」
とは言ったものも、俺の水着は短パンと同じぐらいの丈のトランクス型で、青をベースとしたものに柄が入った水着だ。一応買う時に店員さんにも人気があるものだと言われて、特に変だというところはないと思うが……。
「いや、そんなんじゃないよ。ただ、リュウがトランクス型の水着だけでいると、何だか本当にメダルで変身する特撮番組の主人公みたいだなって思ってな」
「何でそうなるんですか……」
いつものネタでボケをかますカズさんを、呆れた目で見る。まあ、確かに昔から学校でプールの授業があった時によくクラスの皆から言われてはいることだけど……。
俺とカズさんのやり取りを見ていた響さんも何故か納得したかのように頷いていた。
「あの、そろそろ行きましょうか……」
冬也が苦笑いしながら俺たちに話しかけてきたところで、いつまでもここで無駄話しているわけにはいかないと思い、更衣室から出てプールサイドへと向かった。
いつもは生徒で賑わっている25mプールも、今日は俺たち以外に誰もおらず、静まり返っていた。完全に貸し切り状態だ。
「よし、1番乗りと行こうか!」
「その前に準備運動ですよ」
「うっ、わかってるって…」
飛び込もうとするカズさんを止め、わかってるって……」
飛び込もうとするカズさんを止め、俺たち男性陣は軽く準備運動をし始めた。その最中、アスナさんとリズさんとシリカもやってきた。
「あれ?待たせちゃった?」
「いや、俺たちもさっきやって来て今は準備体操しているんだよ。さっさと入りたいけど、リュウが『準備体操してからじゃないとダメだ』って言うからさ」
「でも、ちゃんと準備運動してからじゃないと、足つっちゃって危ないよ」
「わかっているって」
「そ、それよりも……わたしの水着姿、おかしくないかな……?」
「い、いや……全然おかしくない。むしろ似合っている……」
いつの間にか自分たちの世界に入ってしまうカズさんとアスナさん。この2人のバカップルぶりは相変わらず健在のようだ。これはクラインさんが見たら絶対に暴走しそうだな。
「おーい、お前ら。完全に自分たちの世界に入ってしまわないうちに戻って来いよ」
ザックさんは2人に元の世界に戻ってくるように呼び掛ける。
そして、もう一方ではリズさんが真剣な表情をし、オトヤに面と向かう。
「オトヤ、アンタ……」
緊迫とした空気となり、オトヤは息を呑む。
「本当に男なのね」
「今更ですかっ!!」
1秒ほど前までのシリアスな雰囲気を一気にぶち壊すリズさんの発言に、オトヤは声を上げた。
こんな感じのやり取りはもう定番になっているな。この前もALOで、リズさんは、《正義のメイド服ナイト》や《正義のセーラー服ナイト》という衣装……簡潔に言えばメイド服とセーラー服を手に入れたから、オトヤに着せて女装させようとしたくらいだったからな。最終的にシリカが止めたことで未遂に終わったが。
「もう、リズさん!あまり冬也君をからかわないでくださいよ!」
「ごめんごめん」
リズさんはシリカに怒られ、苦笑いしながら謝る。
先ほどまで静かだったプールサイドは一気に賑やかになったな。そう思いながら、騒いでいる皆の方を黙って見ていた。
すると、突然後ろの方から声をかけられた。
「リュ、リュウ君……」
声の主はスグだ。
「あっ、スグか。遅かったけど、どうかし……」
振り返った瞬間、俺は言葉が詰まってしまう。
アスナさんたちの水着は自分用の水着だったが、スグの水着は何故かスクール水着だ。
スクール水着姿のせいか、普段より余計に色気が増して見えてしまう。
俺もなんて声をかければいいのか戸惑うが、一言も話さないと気まずいため、とりあえず率直に思ったことを聞いてみる。
「えっと、どうしてスクール水着にしたんだ……?」
「だ、だって、学校のプールで泳ぐって聞いたから……」
「な、なるほど……」
完全にぎこちない会話となってしまう俺たち。
そこへ更にリズさんが追い打ちをかける。
「そんな理由だったの。あたしはてっきり、直葉がスクール水着にしたのは、リュウはスクール水着が好きだったのかなって思っていたんだけどなぁ」
またしてもニヤニヤと俺をからかうリズさん。
「「リズさんっ!!」」
それを聞いた俺とスグは思わず顔を真っ赤にさせて叫んで反論する。
「コラ、リズ。あまり直葉ちゃんとリュウ君をからかっちゃダメでしょ」
俺たちの助け舟として来てくれたアスナさん。もう血盟騎士団の副団長ではないが、その時の威厳はまだ残っていたみたいだ。
「すみません、調子に乗り過ぎました」
リズさんもアスナさんには逆らえられなかったようで降参してすぐに謝った。流石キリさんを尻に敷いているだけのことはあるな。
騒ぎが落ち着いたところで、本来の目的を思い出し、早速練習に入った。
「じゃあ、まずは水に顔をつけることから始めようか」
いきなり水泳の特訓からというわけにはいかず、初めは水に慣れるという初歩のことから始めることにした。
しかし、スグは水に顔を付けることにも少し抵抗している様子だった。
「やっぱり水に顔を付けるのはちょっと怖いなぁ……。リュウ君手握って」
「いいよ」
「絶対に手離さないでね!」
「わかったって!」
ここまで必死になるなんて、相当水中が苦手なんだな。
俺が手を握るとスグは先ほどより安心したかのような表情となり、思い切って顔を水につけた。10秒ほどしたところでスグは水から顔を離したが、苦手だという中でここまでできるのは見事だ。
「よし、次はもう少し長く水に顔をつけれるかやってみようか。無理そうだと思ったら、ちゃんと言って」
「うん」
水に顔をつける時間を少しずつ長くしていく。ある程度慣れてきたところで、顔を水につけることだけじゃなくて、本格的に水に潜る段階へと進んだ。俺とアスナさんが教える役目だったが、他の皆も一緒に水の中に潜ったりと協力してくれた。
休憩を取りながら特訓は続いた。プールの端に掴まってバタ足の練習を行い、今は俺が手を引いてバタ足で泳ぐ段階まで来ていた。スグの運動能力は高く、予想していたよりも早いペースで特訓は進んでいった。他の皆も少し離れたところでゆっくり泳いだり競争していたが、頻繁に俺たちの方へとやって来てスグの応援をしてくれた。
「どうだ、少し水に慣れた?」
「うん、何とか水に顔を付けられるようになったけど、まだ水の中で目を開けられなくて」
「俺も初めはそんな感じだったから大丈夫だよ」
「うん、誰だってそんな感じだったからね。焦らなくていいから、ゆっくり慣れていこう」
俺、アスナさんがそう言うとスグもうなづいた。
それからも練習は続き、コツを掴んだのか動きは最初と比べてスムーズとなり、水の中で目も開けられるようになっていた。ふとプールサイドにある時計を見ると、すでに昼の12時半を過ぎており、ここで昼食を取ることにした。
プールサイドの日陰となっているところにシートを敷き、そこに腰を下ろした。
アスナさんは持ってきたバスケットをシートの上に置き、その蓋を開けた。サンドイッチやベーグルサンドなど洋風な弁当が入っていた。そして、スグも持ってきた弁当箱の蓋を開けてバスケットの隣へと置いた。スグの弁当はおにぎりや卵焼きなどが入った和風な弁当だった。
『いただきまーす!』
そして、俺たちは一斉に2人が作ってきた弁当に手を伸ばす。
どっちの弁当も本当に美味しい。最中、隣に座っていたスグが話しかけてきた。
「リュウ君、美味しい?」
「美味しいよ。スグの料理はいつも美味いな。」
「もう、リュウ君ったら」
俺の言葉を聞いて、スグはすっかりデレデレ状態となって自分の世界に入ってしまう。
「全く、飯の時までイチャ付きやがって。俺の前では少しは自重してくれよ」
そう言って、ちょっと不機嫌そうにして俺とスグを見るカズさん。
「相変わらず、キリトはシスコンなんだから」
「確かにキリトって、シスコンなところがあるよな。妹を彼氏に取られてやきもち焼いているんだろ」
「俺はシスコンじゃない!」
リズさんとザックさんにシスコンと言われて、全力否定するカズさん。なんか、「俺は負けてない!」と全力否定するファッションセンスが物凄くダサいおじさんみたいだな。
「まあまあ」
そんなカズさんをアスナさんが宥め、この光景を見ていたオトヤとシリカは苦笑いを浮かべていた。
昼食を終えて10分ほどゆっくりしてから、特訓を再開することとなった。
午前中にやったことの復習を一通りしてから、次の段階へと進んだ。息継ぎのやり方を教え、それができるようになったら、今度はビート板を使って泳いでみることにした。
俺が手を繋がないで上手くできるか初めは不安がっていたスグだったが、やはり運動能力もいいこともあって、時間が過ぎていくうちにどんどん上達していく。
そしてなんと、ビート板を使って25m泳げるようになっていった。
これには俺だけでなく、皆も驚いていた。
「凄いな。これで25m泳げるようになったな」
「うん。息継ぎもちゃんとできていたよ」
「これなら、ビート板なしでもすぐに泳げるようになりますね」
「やっぱり直葉ちゃんは運動神経いいよね」
俺に続いて、オトヤとシリカとアスナさんの評価を受けて、スグは嬉しそうにする。
「ありがとうございます。でも、ここまでできたのは、リュウ君とアスナさんの教え方が上手くて、皆さんも色々と手伝ってくれたからですよ」
「そう言ってくれると俺も嬉しいよ。そろそろ最終段階に入るけど、まだいけるか?」
「もちろん」
スグは、元々剣道もしていることもあって、疲れた様子を一切見せないでいた。
ビート板を使っての反復練習を行い、水泳特訓もついにクロールの練習まで辿り着いた。
クロールの練習はこれまでで一番難しく、スグもこれには苦戦している感じだった。しかし、スグは諦めることなく、練習を続けていく。
そして、泳ぐ距離をと少しずつ伸ばしていき、とうとう25mに挑戦することとなった。
「いよいよ25mか」
「ねえ、リュウ君。ゴールのところで待っていてくれるかな?絶対に25m泳いでみせるから」
「スグ……」
今までは俺が傍に付いていたけどやっぱり離れるとなると、ちょっと心配だ。でも、これはスグだって同じだ。
悩んでいる中、カズさんが話しかけてきた。
「リュウはゴールでスグを待っていてくれ」
「わたしたちが一緒に傍に付いているから大丈夫だよ」
更にアスナさんが言ってきた。ザックさんたちも『オレたちに任せておけ』と言っているかのように軽く笑みを浮かべてコクリと頷いた。
俺はスグや皆のことを信じて25m地点のところまでいく。
「よ~い、スタート!」
アスナさんの掛け声と共にスグが泳ぎ始める。
カズさんとアスナさんはスグが泳いでいる隣のレーンを歩いてついて行く。ザックさんたちは見守っていた。
5m、10m、15mと止まることなく進んでいき、20mまで来た。そして残りは5mとなり、ついに……。
「やった、25m泳ぎ切った……」
同時に全員から歓声が上がり、俺は泳ぎ切ったスグの頭を優しく撫でであげる。
「スグ、よく頑張ったな」
「これも全部リュウ君たちのおかげだよ。ありがとう、リュウ君」
俺に頭を撫でられて、スグは嬉しそうにしていた。
それから俺たちは更衣室に戻り、着替えて帰る支度をする。
これでスグの泳げない問題はとりあえず解決することができた。あとは、今日の夜に挑む海底神殿でのクエストだ。
旧版とは話の流れはあまり変化がありませんでしたが、リメイク版のExtraEditionプール編はいかがだったでしょうか。リメイク版には旧版にはいなかったザックとオトヤを追加してしましたが、カイトだけは色々あって参加することができなかったことに。何気に最近カイトさんがMORE DEBAN状態になりかけているような……(汗)
今回のキャラの呼び方ですが、アニメ版と同様に直葉以外はキャラネームにしました。SAOでリアルの話をやるときは、本名とキャラネームのどちらを使えばいいのか結構ややこしいですよね。
甘さも微糖コーヒーくらいにし、仮面ライダーネタを少し入れてみました。
の
SAOアニメも整合騎士長ベルクーリが登場。声優さんはエグゼイドやFATEシリーズでお馴染みの諏訪部順一さんでイメージ通りの声した。そして、最新話のアリスが可愛いなと思いました。早くこの作品にも登場させたいです。これは余談ですが、アリシゼーション編に登場するキャラの声優さんがほとんどFATEシリーズに出ているキャラで、その内聖杯戦争が起きそうな気がしました(笑)
ジオウはまさか龍騎にあったOREジャーナルの場所が登場しましたが、まさかあんなことになっていたなんて。龍騎編はどう結末を迎えるのかが楽しみです。
次回もよろしくお願いします。