ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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無駄話はここまでにして置き、ExtraEdition編第2弾になります。


第5話 海底神殿へ

2025年7月25日

 

ALO内 トゥーレ島

 

ここはシルフ領の南方にある島《トゥーレ島》。アルヴヘイムのワールドマップの南にあるため、この島も現実世界と同様に真夏日となっている。リアルでは日が沈んですっかりと夜となっているが、ALOではまだ昼過ぎといったところだ。

 

俺とカイトさんとザックさんとオトヤは、パラソル付きのガーデンテーブルとイスを出し、イスに腰を下ろしてトロピカルジュースを飲みながらゆっくりしていた。そして、隣ではキリさんとクラインさんが、浜辺にビーチパラソルとビーチチェアを用意し、ビーチチェアの上でくつろいでいた。

 

「お前らよぉ~、オレは今日ほどALO内の時間が現実世界と同期してなくてよかったと思った日はねぇぜ」

 

「現実世界はもう夜ですからね」

 

クラインさんが呟いた台詞に、俺がくつろぎながら答えてトロピカルジュースを一口飲む。

 

今いるビーチは、俺たち以外は誰もおらず、完全にプライベートビーチと化している。

リフレッシュするには最適なところだ。

 

「やっぱ、海はこうじゃなきゃよ!青い空」

 

「白い砂浜」

 

「寄せて返す波」

 

「眩しい太陽」

 

隣の方でクラインさんとキリさんが交互にそんなことを言っていく。俺たち4人はくつろぎながら黙って聞いていた。

 

「そして……」

 

最後にクラインさんはそう言ったところで、キリさんと2人して浅瀬で遊んでいる水着姿の女性陣たちの方を見ようとした時だった。

 

「よぉ、お待たせ」

 

そう言って突然2人の目の前に降り立ったのは、水着姿のエギルさん。水着の美女を拝もうとした途端、いきなり筋肉質の巨漢が現れたのだから、キリさんとクラインさんはフリーズしてしまう。

 

隣でこの光景を見ていた俺たちでさえもインパクトが強すぎるものだと思ってしまうほどのものであった。

 

「おい、どうしたんだよ?」

 

「今は2人をそっとしておいてあげた方がいいですよ…」

 

訳のわかっていないエギルさんに、俺はそう言う。

 

これには、オトヤは苦笑いするしかなく、ザックさんは笑いを必死に堪え、カイトさんはヤレヤレと呆れて何も言わずにジュースを飲んでいた。その間もキリさんとクラインさんはまだフリーズしたままだった。

 

そんな俺たちとはよそに、女性陣たちは楽しそうに遊んでいた。

 

リズさんとシリカ、ピナの背中に乗っているユイちゃんは、水の掛け合いっこをしているみたいだ。

 

「うりゃぁっ!STR型パワー全開!!」

 

リズさんが、鍛え上げたSTRパワーを活かして勢いよく海水をシリカたちにかける。

 

「負けませんよ!ピナ、ウォーターブレス!」

 

シリカが負けじと肩に止まっているピナに指示を出す。ピナはシリカの肩から離れ、海面に顔を近づけて海水を飲んでいく。どんどんピナのお腹が膨れていき、ある程度膨れたところで、リズさんの方を見る。そして……。

 

「はっしゃ――っ!」

 

ピナに乗っているユイちゃんが声を発したのと同時に、ピナの口から水鉄砲のように勢いよく水が噴射される。

 

まともにそれを顔面に喰らったリズさんは、倒れて海に沈んだ。

 

「あれは凄い威力だな」

 

これにはザックさんも驚くしかなかった。

 

「ピナのあの技って戦闘で使うとかなり役に立ちそうだな」

 

「確かに」

 

俺とオトヤは笑ってそんなことを話していた。

 

一方で、俺はリーファの方を見てみると、難しそうな顔をして海面と睨めっこしていた。そして、息を大きく吸い込んで水に顔を付け、10秒間程して水から顔を離した。

 

現実世界で泳げるように特訓したとはいえ、まだ完全に慣れたとは言う感じではなさそうだ。

 

心配になった俺はリーファのところへと向かった。

 

「リーファ、昼間の特訓の効果はありそうか?」

 

「あ、リュウ君。うん、ばっちりだよ。もう怖くないよ。……足が付く深さなら、だけど……」

 

最後辺りは少々不安そうになって言う。

 

これから行く海底ダンジョンは海の底深くにあるから、こんな浅瀬みたいに足が付くようなところではない。

 

「ねえ、海底ダンジョンってどのくらい深いのかな……?」

 

「流石に深海並みではないけど、確か海面から100メートルはあったと思うよ」

 

「ひゃ、ひゃく……」

 

リーファは100という単語を聞いた途端、一気に顔を青ざめてしまう。

 

「あ、大丈夫だよ。海に潜る前にちゃんとアスナさんに魔法をかけてもらえば、水中でも普通に活動はできるし、何かあった時はすぐに俺が君を助けてあげるから。だから安心して」

 

「リュウ君……」

 

俺の言葉を聞いて、リーファの表情は徐々に明るくなっていく。

 

「あたし、頑張るよ。リュウ君があたしを守ってくれるなら心配もいらないしね」

 

「リーファ…」

 

「リュウ君…」

 

見つめ合う俺たちは完全に外部と遮断して自分たちの世界へと入り込んでしまう。そんな時だった。

 

「あれ?何だかわたし、お邪魔だったかな……」

 

この声が耳に入ってきて、俺とリーファはハッ!と我に返った。声がした方を見ると、いつの間にか苦笑いを浮かべたアスナさんが俺たちの近くに来ていて、俺はリーファと共に驚いて声を上げた。

 

「あ、アスナさんっ!?」

 

 

「いつの間に来てたんですかっ!?」

 

「リーファちゃんが何だか不安そうな顔してたから心配して来てみたけど、もう大丈夫みたいだね。邪魔しちゃってゴメンね、ごゆっくり」

 

アスナさんは俺たちに気を使って、急いで離れていくが、返って気まずくなってしまった……。

 

最終的に俺もリーファも一言も話せなくなってしまい、俺はキリさんたちの元に戻り、リーファはアスナさんのところへと行った。

 

そして、キリさんとクラインさんがフリーズ状態から復活したこともあり、男性陣たちでこれから挑むクエストについて話し合うことにした。

 

「おい、キリト。マジなんだろうな?このクエストにクジラが出るっていう話。ユイちゃん、すっげぇ楽しみにしてたぞ?これでクジラじゃなくて、クラゲだったりクリオネだったらシャレになんねぇぞ」

 

「巨大クリオネだったら見てみたいけどなぁ……」

 

キリさんがそんなことを呟く。しかし、今は放っておいて話を進めることにした。

 

「エギル、何か情報はあったか?」

 

「ああ、それがなぁ。こんなワールドマップの端っこにあるクエストだから、知っている奴が少なくてな。……ただ、クエストの最後にどエラいサイズの水棲型モンスターが出てくるのはマジらしい」

 

巨大な水棲型モンスターとなるとクジラだという可能性も十分ある。

 

「情報は少ないが、期待はできそうだな」

 

「そうだな!今日は頑張ろうぜ!」

 

 

いつも通りクールでいるカイトさんに続き、クラインさんはいつもより気合が入った様子でビーチチェアからひょいっと飛び起きて言う。2人は同じサラマンダーだけど、この違いは一体何なんだろうか。

 

「みなさーん、そろそろ出発の時間ですよー!」

 

クラインさんは、大声で浅瀬でビーチバレーをして遊んでいる女性陣達を呼んだ。

 

「はーい!今行きまーす!」

 

アスナさんが返事をして、女性陣たちはこっちに並んで歩いてくる。その光景はとても華やかなもので、クラインさんは鼻の下を伸ばして見ている。クラインさん以外の男性陣は、そんなクラインさんを呆れた目で見ており、カイトさんに至っては『うるさい』と言ってクラインさんにゲンコツをしたそうな感じだった。

 

ある程度来たところで女性陣たちはメニューウインドウを開いて操作。そして、水着姿からいつもの戦闘の時の姿へと変わった。

 

「へ……?」

 

これを見ていたクラインさんは唖然とする。

 

「あの、みなさん……。クエスト中はずっとそのお装備で……?」

 

「あったり前でしょ、戦闘するんだから。アンタもさっさと着替えなさいよー」

 

未練たらしいことを言うクラインさんに、リズさんがズバッとそんなことを言い残していく。

 

この間にもクラインさん以外の男性陣たちも水着からいつもの戦闘時の服へと着替え終える。

 

「水着でクエストに挑むなんて自殺行為なんですから、これが普通ですよ」

 

いつもならクラインさんを慰めてあげる俺だったが、自分の彼女に色目を使ってみていたことに少々腹が立っていたこともあり、今回は冷たく突き放す。

 

これがトドメの一撃となり、クラインさんは膝から崩れ落ち、砂浜に手をつけて涙を流し始めた。

 

そんなクラインさんをほっといて、ミーティングを開始する。

 

「えー、僭越ながら、今回のクエストでは俺がレイドパーティのリーダーを務めさせてもらいます。クエストの途中で目的の大クジラが出現した場合は、俺の指示に従ってください」

 

『はーい』

『ああ』

「うむ」

 

キリさんが今回のレイドパーティのリーダーを務めることになり、俺たちは返事をした。

 

「このお礼はいつか精神的に。それじゃあ、皆頑張ろう!」

 

『おおーっ!』

「きゅる!」

 

最後の掛け声はピナまでも上げて、クラインさんを除いて全員の士気が高まった。そして、未だにショックを受けているクラインさんを置いて目的地へと飛び立った。

 

 

 

 

 

島から離れて沖合に出てところで一旦止まり、キリさんがマップを開いて目的地の座標を確認してみる。しかし、周囲の海には特に何も変わったところは見られない。

 

「お?あそこじゃねえか?」

 

やっと復活してやってきたクラインさんがある方向を指さした。そこには、広大な青い海の中でただ1ヵ所だけ光っているところがあった。

 

「どうやらあそこが当たりみたいですね」

 

俺が言ったことに全員が頷いた。

 

「それじゃあ、《ウォーターブレッシング》の魔法をかけるね」

 

ウンディーネであるアスナさんはそう言って魔法スペルの詠唱を始める。《ウォーターブレッシング》は、息継ぎなしで長時間活動することが可能となる水中補助の魔法だ。

 

全員にバフ効果がかかったところで、俺たちは次々と水中へダイブしていく。

 

後ろの方を振り向いてみるとリーファは不安そうな顔をしていた。それでも何とか勇気を振り絞って水中にダイブする。しかし、まだ水中が苦手だという意識があり、パニックになって溺れかけてしまう。

 

――リーファ!

 

前方にいた俺は急いでUターンしてリーファのところに行こうとしたが、後方にいたアスナさんが彼女の手を引いてくれる。リーファも冷静さを取り戻し、アスナさんに手を引かれながら水中を泳ぎ始める。

 

これを見た俺も一安心し、海底の奥へと進んでいく。

 

海の中はとても綺麗で、神秘的な世界だった。近くを熱帯魚が泳いでいき、温暖な地域ということもあってサンゴ礁があった。

 

数分ほど潜り続けている内に、海底にある立派な神殿があった。その周りにはいくつもの燭台があり、緑色の光を放って神殿の周りを明るく照らしていた。

 

「あそこに誰かいますよ!」

 

シリカが指さした神殿の入り口付近のところに人影の姿が見えた。

 

「おっ、クエストNPCだな」

 

「海の中で困っている人とくりゃぁ、人魚に決まっているだろ。マーメイドのお嬢さ~ん、今助けに行きますよ~!」

 

エギルさんの隣にいたクラインさんは、人魚だと思い込んでハイテンションな状態で一気にNPCの元へと行く。

 

俺たちも後を追っていく。そこには、クラインさんは左手を差し伸べて右ひざを地面についたまま固まっており、彼の目の前には白髪で白い髭を生やした老人がいた。

 

「お嬢さんではなく、お爺さんでしたね」

 

ユイちゃんが冷静にコメント。これには俺たちも苦笑いするしかなかった。

 

クラインさんはまたしてもショックを受けてしまい、オトヤとシリカに慰められている間に俺とキリさんがお爺さんの元へと行く。

 

よく見てみるとお爺さんのカーソルの上に《?》とあり、その下には小さく《Nerakk》と表示されていた。

 

キリさんが話しかけると、彼の前にクエスト受注ウインドウが出現。それには『クエスト《深海の略奪者》を開始しますか?』と書かれている。キリさんは迷わずにOKボタンを押した。すると、お爺さんが話し出した。

 

「おぉ、地上の妖精たちよ。この老いぼれを助けてくれるのかい?」

 

俺たちはお爺さんの話に耳を傾ける。古い友人への土産物をこの神殿を根城にしている盗賊に奪われてしまい、それを俺たちに取り返してほしいらしい。

 

「ちなみに、土産物はこれくらいの大きさの真珠なんじゃ」

 

そう言いながらお爺さんは手で真珠の大きさを表現する。その大きさはサッカーボールやバスケットボールよりも少し大きいものだった。

 

「でかっ!」

 

リズさんは驚きつつも目を輝かせていた。これを見ていたザックさんはリズさんにジト目を向ける。

 

「おい!ネコババして売り飛ばすんじゃねえぞ!」

 

「し、しないわよ……、今回は……」

 

慌てて否定するリズさん。

 

リズさんは前に、クエストで必要なレアアイテムをネコババして売り飛ばそうとしたことがあったが、それをザックさんに見つかって大目玉を食らい、事件は未然に防がれた。お父さんが刑事さんだということもあって、ザックさんにもその血が流れているみたいだ。

 

「頼むぞ妖精達よ。見事真珠を取り戻してくれれば、たっぷりと礼をするでのぉ」

 

ここでお爺さんの話は終わり、クエスト開始の合図が表示される。

 

神殿の中に入る前に、今回のクエストについて確認する。これは探し物クエストで、神殿の中にはモンスターも出現して何度も戦闘になることが考えられる。水中戦闘となるため、前衛は武器の振りが遅くなること、後衛は雷属性の魔法が使えないことに注意しなければならない。

 

神殿の内部へと向かって歩き出すが、リーファはお爺さんを何か警戒するように見ていた。それに気が付いたアスナさんが声をかける。

 

「リーファちゃん、どうかしたの?」

 

「あのお爺ちゃんの名前に見覚えがあった気がして……」

 

どうやら、あのお爺さんの名前に何かがあるらしい。俺もちょっと気になって歩きながら考え込む。《Nerakk》というスペルだったから、ネラックと読むのだろう。しかし、そんな名前に心当たりはなく、きっと気のせいだろうと思い、神殿に向かって歩いていく。

 

 

 

 

 

おまけコーナー

 

「ここがトゥーレ島か。ALOもすっかり夏にシーズンに入っているけど、ここは本当に夏のリゾート地って感じだな」

 

「うん。この辺りは1年中、温暖な気候となっているからね」

 

一足早くALOにダイブした俺とリーファは、シルフ領南方の海にある海底神殿で受けられるクエストに挑戦するため、待ち合わせ場所となっているトゥーレ島へとやってきた。他の皆はもう少ししてからでないと来ないため、リーファと2人で先に水着に着替えて皆が来るのを待つことにした。

 

俺が持ってきた水着は、リアルと同様にトランクス型のものだ。色はインプらしく紺色をチョイスした。ゲームの中だとボタン1つで着替えることができるため、手軽となっている。

 

早速水着に着替えた俺は、木の陰から出て砂浜へと歩いていく。

 

白い砂浜の先にあるのは、空と同じように何処までも広がっている青い海だ。遥か上空にある太陽からの光が反射して光って見えていた。

 

この光景を見ていると、急に後ろから声をかけられた。

 

「リュウ君」

 

声の主はリーファだ。

 

「あ、リーファも着替え終わったんだな」

 

振り返ると、そこにいたのは水着姿のリーファだった。リーファの水着は、縁が緑色となっている白いビキニというシンプルなものだ。スタイルのいいリーファにはとても似合っており、俺はすぐに彼女に見とれてしまった。

 

「リアルだとスクール水着だったけど、これは自分で選んで買ったやつなの。どうかな?」

 

顔を少々赤く染めて恥ずかしそうに聞いてくるリーファ。

 

これはヤバい、可愛すぎるだろ。余計に色気や可愛さが増して、鼓動は一段と早くなる。

 

「え、えっと……可愛いし、凄く似合っているよ……」

 

俺も少々照れて、ぎこちない感じになってしまったが、何とか言うことができた。

 

「よかった……。リュウ君に、そう言ってもらえて……」

 

これにはリーファも余計に照れてしまう。

 

そして、この場には俺たち2人しかいないということもあって、俺もリーファも一言も話せなくなる。この気まずさから、何もすることなく、2人して早くキリさんたちが来てほしいと祈ることしかできなかった。




ExtraEdition編のALOの話は、今回で終わる予定でしたが、思った以上に長くなったため、旧版と同様に前編と後編にしました。

アニメで初めて見た時も思いましたが、この時のエギルの登場シーンは凄く面白いです(笑)。作中でリュウ君も言ってましたが、あれはインパクトが強すぎるものですよ。

クラインは相変わらず、ギャグ要員で今回も色々とやってくれました。レコンも登場させてクラインと一緒にギャグネタを披露する案もありましたけど、リュウ君の苦労が増えるため、ボツとしました。

そして、相変わらずラブラブ状態のリュウ君とリーファ。この2人のイチャイチャはいつでも平常運転です。


急に話が変わりますけど、クローズに続いてグリスまでVシネマ化が決定!しかも、また『Are you ready?』からの「できてるよ」が見られるかもしれませんし、グリスの新しいパワーアップフォームが登場するみたいなので、今から楽しみです。クローズのVシネマは、来週何とか予定を作って見に行けそうなので、DVDの発売日まで何とか待たずに済みそうです。この調子だと、まだまだビルド熱は冷めそうにはなさそうですね。

次回もよろしくお願いします。

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