ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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リメイク版のファントムバレット編、ついにスタートです!

今回のサブタイトルはクウガみたいに漢字二文字にしてみました。


ファントム・バレット編
第1話 依頼


2025年11月27日

 

ここは、最終戦争後の荒れ果てた遠い未来の世界を舞台としたVRMMOの《ガンゲイル・オンライン》……通称《GGO》。銃器メインの対人戦闘が盛んであり、ALOとは異なりファンタジー要素がない殺伐としたこの世界では今日も多くのプレイヤーたちによる銃撃戦が行われていた。

 

GGO内にある首都《SBCグロッケン》の裏路地を1人の男がご機嫌な様子で歩いていた。

 

「今日はかなり倒したなぁ~」

 

彼の名はガイ。GGOプレイヤーでも上位に位置するプレイヤーで第二回BoBではベスト16まで残ったほどの実力者だ。しかし騙し討ちを得意とし、平気で人を裏切ったりとよくない噂も多く存在する。そのため、ガイのことを嫌っているプレイヤーは大勢いる。

 

今日も得意な騙し討ちで何人ものプレイヤーを倒したその帰り道であった。

 

突然曲がり角の陰から1人の男が現れた。男は全身を覆う黒いボロボロのフード付きマントで身を隠していた。深く被られているフードや髑髏の様な仮面で、素顔は全く見えない状態だった。

 

「何?俺になんか用?だけど、今日はこれから美味い酒飲みに行くから早くしてくれないか?」

 

ガイがそう言った直後、仮面の男は腰に装備したホルスターから、この世界では何処にでもありそうな自動拳銃を取り出す。じゃきっと音を立ててスライドを引き、1発の弾丸を装填し、銃口をガイの方に向ける。そして、トリガーを引いた途端、裏路地にバンッと発砲音が響き、弾丸は体を突き抜けた。

 

「おいおい、出会っていきなりの不意打ちかよ。やるねぇ~。でも、残念。街中で撃ったところで俺にダメージなんて……うっ……」

 

相手を挑発するかのように笑うガイだったが、急に胸を抑えて苦しみ出した。

 

「お前……な、何者、だ……?」

 

「俺と、この銃の名は死銃(デス・ガン)!この名を恐怖と共に刻め!」

 

仮面の男の言葉を聞いたガイの身体は消滅し、回線切断を知らせる文字が表示される。

 

仮面の男は拳銃をホルスターに戻し、左手でメニューウインドウを操作してログアウトした。

 

直後、誰もいなくなったこの場に、建物の陰からプレイヤーが1人出てきた。黒いニット帽を深く被り白い布で顔の下半分を隠した男だ。彼は、赤と黄色の玉が着いた算盤のようなものを取り出し、赤い玉を1つスライドさせて動かした。

 

「これで3人目か」

 

そう言って黒いニット帽の男に近づいて来たのは、黒いボロ切れ布のようなフード付きのポンチョを身につけた男だ。男の顔はフードを深くかぶっていて口元しか顔が見えていない。

 

「この様子だと随分と順調みたいだな」

 

フードを深く被った男の問いに、黒いニット帽の男はコクリと頷く。

 

「次のターゲットは決まっているのか?」

 

「もちろん……」

 

「そうか。だったらこれからも楽しめそうだな」

 

黒いニット帽の男は赤と黄色の玉が着いた算盤を懐にしまい、仮面の男に続くように手でメニューウインドウを操作してログアウトした。そして、この場に残ったのはフードを深く被った男だけとなった。黒いボロ布から見える口元は笑っていた。

 

「まさか任務でGGOにログインしたら、懐かしい奴らと出会うとはな。しかも、面白そうなことをやってやがる……。()()()への土産話にいいネタとなりそうだ。日本のGGOプレイヤーたちよ。さあ、地獄を楽しみな」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

2025年12月7日

 

「あの、本当にここで間違いないんですか?」

 

「ああ、間違いない」

 

「だったらせめて俺たちが入りやすい店にして欲しかったですよね」

 

「ああ。後で俺たちを呼び出した奴に文句言ってやろうぜ」

 

俺とカズさんが今いるのは、銀座にある上品なクラシックが流れ、高級感あふれる喫茶店。セレブなマダムたちが8割を占め、間違いなく高校生の俺たちにとって場違いなところだ。

 

入り口付近で迎えてくれたウエイターさんに「待ち合わせです」と答え、高級感あふれる喫茶店内を見渡すと、奥にある窓際のテーブルの方から俺たちを呼ぶ大声が聞こえた。

 

「おーい!キリト君、リュウ君、こっちこっち!」

 

声がした方を見ると、太い黒縁眼鏡をかけ、スーツを着た男性が無邪気な笑みを見せながら手を大きく振っている姿が目に入った。当然のこと、店内にいたお客さんたちの視線は、奥にある窓際のテーブルへと集まっている。

 

何処かの物理学者みたいに「最悪だ」と口に出したくなるほどだ。

 

俺とキリさんは気まずい思いをしながら、奥にある窓際のテーブルへと向かい、スーツを着た男性の向かい側にあるイスへと腰を下ろした。すると、ウエイターさんがお冷とお絞りとメニューを差し出してきた。

 

俺たちの目の前に座っているスーツを着た男性は《菊岡誠二郎》。とてもそうは見えないが、彼は総務省の《仮想課》というところに勤めている国家公務員のキャリア組の人だ。

 

菊岡さんと初めて出会ったのは、今から1年前……SAOから帰還してから間もない頃だ。かつてはSAO対策チームのリーダーも務めており、両親の次にやって来たのがこの人だった。

 

「あの菊岡さん。できれば俺たちが入りやすい店にしてほしかったんですけど……。ここって明らかに高そうですし……」

 

「この店は僕のオススメなんだ。あ、それとここは僕が持つから、お金のことを心配しないで何でも好きに頼んでよ」

 

「言われなくてもそのつもりだ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

高圧的に言うカズさんのことを気にしながらも菊岡さんに一言礼を言い、メニューに目を通す。

 

メニューには《シュー・ア・ラ・クレーム》とシュークリームだと思うものがあるが、その値段が1200円だった。これを見た瞬間、 絶対に値段がおかしいと思った。シュークリームなんて、コンビニやスーパーでこの値段の10分の1くらいで買えるくらいだし、ケーキ屋とかでもここまで値段は高くはない。更に下に書いてあるメニューに目を通すが、ほとんどが4ケタの値段のものだった。

 

隣に座っているカズさんも値段の高さに驚いたような反応を見せつつも、何とか平静を装った声でウエイターさんに注文する。

 

「ええと……パルフェ・オ・ショコラ……と、フランボワズのミルフィーユ……に、ヘーゼルナッツ・カフェ」

 

カズさんが頼んだものは合計で3900円だ。改めて思うけど、これは完全に別世界の値段だ。

 

ウエイターさんはカズさんが注文したものをメモすると、俺の方を見てくる。

 

「こ、このシュー・ア・ラ・クレーム……と、エスプレッソでお願いします……」

 

俺はとりあえずこの2つだけ頼む。カズさんのより安く済んだが、これだけでもかなりのものとなった。

 

「かしこまりました」

 

注文を終えるとウエイターさんはそう言い、この場から去っていく。

 

俺はメニューをテーブルの脇に置いて菊岡さんに問いかけた。

 

「それで今回は何の用ですか?SAOとALOの事件のことは菊岡さんも随分と知っているはずだと思いますけど……」

 

俺はこれまでに何度か菊岡さんに、SAOとALOの事件のことを教えて欲しいと呼ばれたことがあった。今回もどうせ今までと同じ理由で呼ばれたんだろうとそう思っていた。

 

「いや、今回は違う用件で君を呼んだんだ。キリト君はもう察しがついていると思うけど……。とりあえず、これを見てくれ」

 

菊岡さんは足元に置いてあるカバンの中からゴソゴソとタブレットを取り出して操り、俺たちに差し出してきた。

 

受け取って見てみる。液晶画面には、見たことのない男性の顔写真とその人のプロフィールが表示されていた。

 

「誰だ?」

 

カズさんがそう聞くと菊岡さんは話し始めた。

 

「彼は茂村保、26歳。先月の14日に、彼が住んでいたアパートの大家が発見した。この時すでに死後5日半の状態だったんだ。部屋は散らかっていたが荒らされた様子はなく、遺体はベッドの横になっていた。そして頭には……」

 

「アミュスフィアか……」

 

カズさんがそう言うと菊岡さんは軽く頷く。

 

「その通り。変死ということで司法解剖が行われ、死因は急性心不全となっている。彼は心臓が弱かったということはなく、原因は不明のままなんだ。死亡してから時間が経ちすぎていたし、犯罪性が薄かったこともあってあまり精密な解剖は行われなかった。ただ、彼はほぼ二日に渡って何も食べてないで、ログインしっぱなしだったらしい」

 

飲まず食わずの状態で2日間ログインしっぱなしというのは珍しくない。仮想世界で食事をすると現実世界でも満腹感が発生する。それが原因で栄養失調になって病院に運ばれたり、最悪の場合死亡するケースはよくあることだ。しかし、今回のは明らかに違う。

 

「彼のアミュスフィアには《ガンゲイル・オンライン》……通称《GGO》というゲームだけがインストールされていたんだ」

 

「ガンゲイル・オンライン……GGO って確か銃火器がメインのゲームですよね」

 

「ああ。日本で唯一《プロ》がいるMMOゲームであるらしいぞ」

 

カズさんと話していると、先ほど俺たちが頼んだものが来てテーブルに並べられる。そして、菊岡さんは話を再開した。

 

「彼はGGOで、10月に行われた最強者決定イベントで優勝したそうだ。キャラクター名は《ゼクシード》」

 

「その人は死んだときもGGOにいたんですか?」

 

「いや、亡くなった時には《MMOストリーム》というネット放送局の番組に、《ゼクシード》の再現アバターで出演中だったようだ。ログで時間がわかっている。ここからは未確認情報なんだけど、ちょうど彼が発作で起こした時刻に、GGOの中で妙なことが有ったってブログに書いてるユーザーがいるんだ」

 

「「妙?」」

カズさんと声を合わせ言う。

 

「GGOにある酒場で問題の時刻ちょうどに、1人のプレイやーがおかしな行動をしたらしい。なんでも、テレビに映っているゼクシード氏の映像に向かって、『裁きを受けろ』、『死ね』と叫んで銃を発射したということだ。それを見ていたプレイヤーの1人が、偶然音声ログを取っていて、それを動画サイトにアップした。ファイルには日本標準時のカウンターも記録されていて、テレビへの銃撃と茂村君が番組出演中に突如消滅したのがほぼ同時刻なんだ」

 

「じゃあ、菊岡さんはまさかそのプレイヤーに撃たれてゼクシードは死んだって言いたいんですか?いくら何でも、そんなことあり得ませんよ」

 

「偶然なんじゃないのか?」

 

俺たちはどうしてもそのことが信じられなくて否定し、各々が頼んだものを口に運ぶ。

 

「実はこれと似たようなことが他に2件あるんだ。被害にあったプレイヤーの名は、《うす塩たらこ》と《ガイ》。2人ともGGOでは名の通ったプレイヤーだった。でも、2人揃って茂村君の時と同様に、住んでいるアパートで亡くなっているのが発見されたんだ」

 

更に2人も死んでいたなんて。これは明らかに偶然ではなさそうだ。

 

「2人はGGOの方だね。うす塩たらこは、スコードロン……ギルドの集会に出ていたところを乱入してきたプレイヤーに撃たれてすぐに落ちたらしい。ガイの方は目撃者はいないけど、ゼクシードとうす塩たらこを撃ったプレイヤーに撃たれた可能性が高い」

 

「あの、ゼクシードたちを撃ったプレイヤーの名前はわかりますか?」

 

「本当の名前かどうかはわからないけど、《シジュウ》……《デス・ガン》と名乗っていたらしい。恐らく、死の銃って書いて死銃(デス・ガン)という意味だろうね」

 

死銃(デス・ガン)。名前からして3人が死んだのはソイツの仕業に違いないと言ってもいい名前だ。でも、一体どうやってゼクシードたちを現実世界で殺害したんだ?

 

考え込んでいる中、カズさんが菊岡さんに問いかけた。

 

「この3人の死因は心不全で、脳に損傷はなかったのか?」

 

「僕もそれが気になって、司法解剖を担当した医師に問い合わせたが、脳に異常は見つからなかったそうだ」

 

ゲーム内で死んで現実世界でも死ぬとなると脳に何かあったことが十分に考えられる。だけど、ナーヴギアと違ってアミュスフィアにはそんな力はない。ALO事件の首謀者の1人、蛮野卓郎も自殺した時にはナーヴギアを改造したマシンを使ってたからな。

 

一瞬、ゲーム内の銃撃でプレイヤー本人の心臓を止めたのではないのかとも思ったが、そんな非現実的なことはまずあり得ない。

 

「それでここからが本当の本題なんだ。君たちにはガンゲイル・オンラインにログインして、この《死銃》なる男と接触してくれないかな?」

 

にっこりと無邪気な笑顔を見せる菊岡さん。カズさんはそんな彼に最大限冷ややかな声をぶつける。

 

「接触ってことは『撃たれて来い』っていうことだろ」

 

「いやあ、まあ」

 

ハハハと笑う菊岡さんに一瞬イラッとするが、なんとか堪える。だが、カズさんは無理だったようだ。

 

「ヤダよ!何かあったらどうするんだよ!リュウ、帰るぞ!」

 

カズさんは立ち上がろうとするが、菊岡さんが彼の袖を掴む。

 

「ちょっと待って!この《死銃》氏はターゲットにかなり厳密なこだわりがあるようで、君たちにしかできないんだ!」

 

声を大きく上げている2人のせいで、店内にいた他の客たちは俺たちの方へと注目する。これはマズイと思った俺は、2人を黙らせて、席に座らせる。そして、話は再開した。

 

「厳密なこだわりっていうのが、強いプレイヤーじゃないとダメだってことなんだ。ゼクシードたちはGGOで名の通ったトッププレイヤーだったから多分……。茅場先生が最強と認めた君たちなら……」

 

「無茶言うな。GGOってのはそんな甘いゲームじゃないんだ。それに、銃に関しては俺たちは専門外なんだぞ」

 

カズさんの言う通りだ。GGOには《ゲームコイン現実還元システム》という、ゲーム内で稼いだお金を現実世界のお金に還元できる仕組みになっている。平均的プレイヤーは月に数百円ほどだが、プロとなると20万から30万ほど稼ぐらしい。そんな人たちが相手となると、ずっと剣で戦ってきた俺たちにとってはかなり荷が重すぎる。

 

「俺もカズさんと同意見です。それに、死銃を探すんでしたら、俺たちに依頼するよりも運営企業を当たってログを解析した方がすぐに見つかるんじゃないんですか?」

 

「そのことなんだけど、GGOを運営している《ザスカー》という企業はアメリカサーバーを置いてるんだ。現実の会社の所在地はおろか、電話番号もメールアドレスも未公開だから無理なんだよ」

 

所在地から電話番号もメールアドレスまで非公開ってかなり怪しい企業だな。だから、俺たちに頼んできたってわけか。

 

「とまあ、そんな理由で、真実のシッポを掴もうと思ったら、ゲーム内で直接の接触を試みるしかないわけなんだよ。もちろん万が一のことを考えて、最大限の安全措置は取る。2人にはこちらが用意する部屋からダイブしてもらって、モニターしているアミュスフィアの出力になんらかの異常があった場合はすぐに切断する。銃撃されろとは言わない、君たちの眼から見た印象で判断してくれればそれでいい。報酬もこれくらい出す。行ってくれるよね?」

 

菊岡さんが提示してきた報酬の値段というのが現実世界で1人30万円。俺とカズさんで合わせて60万円となる。高校生の俺たちにはまず手に入らない大金だ。何だか断れない空気になってきたな。

 

――ああ、最悪だ。今日という日を、俺はきっと後悔する。

 

なんてまたしても何処かの物理学者みたいなことを思ってしまう。

 

まあでも、SAOの時と同様に仮想世界での死が現実でも再現されるというのは見過ごすわけにはいかない。

 

「わかりました。これ以上、人の命を奪われないようにするためにも俺は行きますよ」

 

俺が言葉を聞いたカズさんは、深くため息を吐いてから言った。

 

「リュウが行くっていうなら、俺が行かないわけにはいかないだろ。アンタにまんまと乗せられるのはシャクだけどな……」

 

「ありがとう、2人とも」

 

菊岡さんは俺たちにお礼を言った後、ワイヤレス型のイヤホンを差し出してきた。

 

「今から聞いてもらうのは、 死銃の声なんだ。何か手掛かりになればいいんだけど……」

 

俺たちがそれぞれ片方の耳に入れると、菊岡さんはタブレットを操作する。すると、イヤホンから男の声が聞こえてきた。

 

『これが本当の強さだ!愚か者どもよ、この名を恐怖とともに刻め!俺と、この銃の名は死銃……デス・ガンだ!』

 

これは最初の死銃による襲撃事件の音声ログだ。声だけだが、本当の殺人者のようにも思えるようなものだった。

 

――死銃(デス・ガン)、お前の目的は何なんだ?何のためにこんなことをするんだ。




話の展開などは基本的に旧版のものとあまり変わらず、所々修正しただけとしました。旧版でもでしたが、この章は仮面ライダーネタを多くやっていきたいなと思います。

今回だけでもリュウ君が戦兎みたいに「最悪だ」と言ってましたが、これから先何回も言う羽目になるかと思います(笑)

次回はリメイク版で彼女が初登場します!

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