ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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どうもグレイブブレイドです。アリシゼーション編の後編が放送が始まり、早く本作もアリシゼーション編をやりたいなという気持ちの影響か、ここ最近創作意欲が普段より高くなっているような気がしました。

昨日のアニメを見て、改めてあのジジイにはムカつきました。マグマナックルやブリザードナックルで殴るより、死ぬ可能性はありますけどゴリラモンドのパンチを一発喰らわせてやってもいいかなと思いました。

あとディエンドライバーにもワイヤーの射出機能があるとコメントを頂き、そっちの方がいいなと思い、リュウ君のサブウェポンをスパイダーからディエンドライバーに変更しました。ちなみに本作のディエンドライバーはスカルマグナムと同様に実弾銃になっています。そしてカードの読み取り機能は一切ございません。

それでは今回の話になります。


第7話 予選開始

200キロ以上の速度でバイクを飛ばしてきたおかげで、5分足らずで総督府に辿り着いた。

 

バイクを停め、20段ほどある階段を駆け上がっていくと、目の前に途轍もなく巨大な金属のタワーが立っていた。前後に長い流線型のフォルムに所々からアンテナのような円盤や、レーダーのようなドームが突き出している

 

「これが総督府、通称《ブリッジ》だ。ブリッジと言っても橋じゃなくて艦橋の方の意味だな。グロッケンは元々巨大な宇宙船で、ここがちょうど司令部だったからそう呼ばれているらしい」

 

「ここって宇宙船を再利用して作られた街だったんですね」

 

「まあな。無駄話はその辺にしてエントリーを済ませるぞ」

 

俺たちはタワーへと入っていく。

 

内部は、かなり広い円形のホールだった。未来的なディティールの施された円柱が十字の列を作って遥か高い天井まで続いている。更には、周囲の壁には大画面のパネルモニタがぐるりと設置され、色々なイベントの告知や実在企業のCMが映し出されている。

 

そこの右奥の一角へと行くと、壁際にはコンビニにあるATMのような形をした機械がいくつも並んでいた。どうやらこれでで大会のエントリーをするらしい。

 

よくあるタッチパネル式端末で、キャラネームなどを入力していく。その中に【以下のフォームには、現実世界におけるプレイヤー本人の氏名や住所等を入力してください。空欄や虚偽データでもイベントへの参加は可能ですが、上位入賞プライズを受け取ることはできません】というものがあった。

 

上位入賞プライズはどういうものなのか気になるが、GGOには死銃(デス・ガン)の調査のために来て、遊びに来たんじゃない。それに、奴がどうやってプレイヤーを現実世界でも殺害できるか明らかになってないため、リアル情報を晒すのはかなり危険だ。隣でエントリーしているカイトさんにも聞いてみたら、「今回は止めておく」と言ってきたため、俺も入力しないでおいた。改めてカイトさんには、危険なことに巻き込んでしまって申し訳ないなと思った。

 

エントリーが終わると、エントリーの受付完了の文章と予選トーナメント一回戦の時間が表示される。予選開始まであと35分だ。

 

すると、先にエントリーを終えていたカイトさんが声をかけてきた。

 

「終わったか?」

 

「たった今終えたところですよ」

 

「そうか。ところでリュウは予選ブロックは何処になったんだ?」

 

「Eブロックの13番です。カイトさんは?」

 

「俺はFブロックの37番だ。お前と戦うことになるのは本戦のバトルロイヤルだな。絶対に勝ち残ってこいよ」

 

「もちろんです」

 

予選の準備のため、俺たちは総督府の1階ホール奥にあるエレベーターで地下20階へと下りた。

 

地下20階に到着して扉が開く。そこは1階ホールと同じくらい広い半球形のドームだった。照明はあまりなく、床や柱や壁は全て黒光りする鋼板か赤茶けた金網とSF映画で出て来そうな場所だ。ドームの壁際は無骨なデザインのテーブルが並び、天頂部にある巨大なホロパネルには【BoB3 Preliminary】と残り30分という文字が表示されている。

 

そして、ここには銃火器を武装した屈強なプレイヤーたちが何十人もいて、殺伐とした雰囲気が漂っていた。

 

「予選が始まるまでに戦闘服に着替えて置くぞ」

 

「あ、はい」

 

カイトさんに連れられ、ドームの奥にある控室へと向かう。部屋の中は、近未来風のイスとテーブルがあるだけの狭い部屋だった。

 

イスに座ると、カイトさんは軽く息を吐き、呟くように言った。

 

「あそこにいた奴らの大半はお調子者だったな」

 

「お調子者って、あの厳つい人たちがですかっ!?」

 

「ああ。試合の30分前から自分の武器を見せびらかすなんて、手の内をバラす様なもんだろ」

 

「た、確かに……」

 

「だから武器は自分の試合が始まる直前に装備した方がいいぞ」

 

「わかりました……」

 

俺はショップで入手した戦闘服に着替え、武器のイクサカリバーとディエンドライバーは装備しないでおいた。

 

ちなみにカイトさんの戦闘服は、SAOやALOとあまり変わりなく、ワインカラーのシャツに赤いアクセントカラーの黒のロングコートというものだ。

 

カイトさんは着替え終えると何か思いだし、俺に向かって言った。

 

「言い忘れていたが、予選が始まる前に、一緒に参加する知り合いと打ち合わせする予定なんだ。お前はこの大会に参加するのは初めてだし、一緒にどうだ?」

 

「でも、その知り合いの人の方がなんて言うか……」

 

「俺の方から話はつけておくし、アイツなら大丈夫だと言ってくると思うから心配するな」

 

「カイトさんがそう言うなら……」

 

――そういえば、カイトさんのGGOでの知り合いってどんな人なんだろう。やっぱりGGOの中だから厳つい人なのかな。

 

こんなことを思いながら、控室から出る。

 

カイトさんは薄暗いドームの中を歩き回って知り合いを探し、俺はその後を付いていく。2,3分ほど歩き回り、カイトさんは知り合いを見つけたようで、その人の元へと向かう。

 

「おい、《シノン》」

 

カイトさんが《シノン》と呼んで声をかけたのは、俺が想像していた厳つい男性プレイヤーではなく、女性プレイヤーだった。デザートカラーのミリタリージャケットに白いマフラーを巻いた格好をした、ペールブルーのショートヘアーの大人っぽい雰囲気をした少女だった。

 

あまり女っ気がないカイトさんだったため、知り合いが女性だということに少々驚いてしまった。

 

「あ、カイト。探したのよ」

 

「悪い。このゲームを始めた知り合いに会ってレクチャーしてたから、ついさっき来てな」

 

「そうだったの。それよりも今ある男に付きまとわれているの、助けて」

 

シノンさんと言う人はどうやらストーカーらしき男に追われているようで、カイトさんに助けを求める。

 

確かにGGOはALO以上に女性プレイヤーが少ないから、こんなことがあってもおかしくないだろう。

 

ALOでも女性プレイヤーにストーカー行為をする男性プレイヤーはいるし、リーファをナンパしようとした奴もいたくらいだ。その時は俺が助けに入っていたが、リーファが何処かのネットアイドルみたいに「刻むよ」と言って脅して撃退することもあったけどな。

 

「お前に付きまとっている男ってどんな奴だ?」

 

「黒髪ロングの女の子みたいな姿をしたネカマよ。その姿を利用して私に近づいてきて……」

 

――あれ?何故かシノンさんに付きまとっている男に心当たりがあるような……。

 

嫌な予感しかしないなと思っている中、付きまとっている男が現れたのか、シノンさんはカイトさんの後ろに逃げ込み、その男を睨み付ける。

 

その男を見た瞬間、俺の嫌な予感は見事に的中し、言葉を失ってしまう。何故なら、シノンさんに付きまとっているという男がキリさんだったからだ。どういうわけか、彼の左側の頬には真っ赤な手形が付いている。

 

――この人、一体何をやらかしたんだ……。

 

このままだと俺までシノンさんに変な誤解をされるかもしれないと思い、慌ててフードを深く被って他人のフリをする。

 

GGOのキリさんの姿を知らないカイトさんは、威圧を出して彼に近づく。

 

「お前か、シノンに付きまとっているネカマっていうのは」

 

「ち、違うってっ!これは誤解だ……って、あれ?か、カイトっ!?あと、そこにいるのってリュウかっ!?」

 

キリさんはALOや現実世界とあまり変わらないカイトさんだけでなく、俺にまで気が付き、そのまま俺に近づいてきた。

 

「え、えっと……人違いじゃないですか……?」

 

「その声と青いフード付きマントからして100%リュウだろっ!お前からも何か言って、カイトとその娘に誤解を晴らしてくれ!このままだと、ALOでアスナに『今日があなたの命日よ』って火星を滅ぼした地球外生命体みたいなことを言われるかもしれない!頼むっ!!」

 

挙句の果てに俺に泣きついてきた。

 

「わかりましたから!その姿で俺に泣き付くのは止めてくれませんか!」

 

「リュウ…まさかとは思うが、そいつ…キリトなのか?」

 

「はい…キリさんです…」

 

それから1つのボックス席へと移動し、カイトさんとシノンさんにキリさんの誤解と解かせようとする。席に座る時に、シノンさんが「コイツの隣か前に座るのは嫌」と言ってきたため、シノンさんの隣にカイトさんが、俺が前に座ることになった。あまりよくない雰囲気でのスタートだったと言ってもいいだろう。話し続けること10分ほどで、何とかキリさんの誤解を解かせることができた。

 

「キリト、お前本当にネカマに目覚めたんじゃないんだよな?」

 

「違う!俺はネカマに目覚めてない!」

 

カイトさんはキリさんをネカマ趣味があることを疑っているかのような目で見て、疑われた彼はファッションセンスが壊滅的なおじさんみたいに全力否定する。シノンさんに至っては、相変わらず黙ってキリさんのことをジト目で見ていた。

 

「まあいい。この2人は俺の知り合いだ。この女に見える奴が、お前に何をやったかはわからないが今回は許してやってくれ」

 

「カイトがそこまで言うなら……。でも勘違いしないで、あなたを完全に許したわけじゃない」

 

「は、はい……」

 

完全にとは言えないが事態は何とか丸く収まったみたいだ。

 

すると、シノンさんは俺の方を向いてきた。

 

「ところであなたの名前は何ていうの?私はシノン」

 

「俺はリュウガです。リュウって呼んでください。カイトさんとかもそう呼んでますので」

 

「なら、カイトに倣って私もあなたのことをリュウって呼ばせてもらうわ。よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

名乗り出し、シノンさんと握手をする。

 

「俺はキリト。よろしく頼むよ」

 

「フンっ」

 

キリさんも名乗り出してシノンさんに手を伸ばすが、俺の時とは違ってそっぽを向く。キリさん、完全にシノンさんに嫌われているな。本当に何をやらかしたんだろうか。

 

「時間もあまりないから最低限のことだけ説明しておく」

 

BoBに参加するのが初めての俺とキリさんのために、カイトさんが説明し始める。

 

「カウントがゼロになったら、ここにいるエントリー者は全員、どこかにいる予選一回戦の相手と2人しかいない1キロ四方の正方形のバトルフィールドに自動転送される。フィールドの地形、天候、時間はランダムだ。最低500メートル離れた場所からスタートして、勝つとここに、負けると1階ホールに転送される。負けても武装のランダムドロップは無しだからデスペナの心配はない。そして、各ブロックの決勝に進出すると、勝敗関係なく2人とも明日の本大会に出られる。一応これで終わるが、他に聞きたいことはあるか?」

 

俺とキリさんはないと答え、カイトさんによる説明はここで終わった。すると、カイトさんと入れ替わるようにシノンさんが話す。

 

「カイトとは予選ブロックの決勝戦で当たるけど、あなた達とは明日の本大会で戦うことになるから決勝まで勝ち上がってきなさい。3人と戦うことになった時に教えてあげるわ。敗北を告げる弾丸の味を……。そして、今度こそ強い奴らを全員殺してやる」

 

最後は物騒なことを言ってきて、俺の背筋を氷のような戦慄が駆け上がった。キリさんも俺と同じことを感じ取ったのかゾッとしたような反応を見せる。そんな俺たちとは別に、カイトさんは何か言いたそうにし、ちらりとシノンさんの方を見ただけだった。

 

そんな中、銀灰色の長髪を垂らした背の高い男性プレイヤーが近づいてきた。

 

「2人とも遅かったね。遅刻するんじゃないかと心配してたよ」

 

「こんにちは、シュピーゲル。ちょっと予想外の用事で時間取られちゃって」

 

「俺もそんなところだ。シュピーゲルはどうしたここに来たんだ?大会には出ないはずだろ」

 

「迷惑かもと思ったんだけど、シノンとカイトの応援に来たんだ。ここなら試合も大画面で中継されるしさ」

 

カイトさんとシノンさんが親しそうに話しているから、2人のフレンドかギルドメンバーのようだ。シュピーゲルさんはカイトさんの隣へと腰を下ろした。

 

「ところで、この人たちは?」

 

「コイツらは俺の知り合いだ」

 

「初めましてリュウガっていいます。呼び方はリュウでいいですので」

 

「どーも、キリトです」

 

俺とキリさんは自分の名前を名乗るが、キリさんはからかおうとして妙な演技をする。

 

「あっ、どうも初めてまして。えっと、お二人は()()()()なんですか?」

 

「「ぶほっ!」」

 

シュピーゲルさんはキリさんのことを女だと勘違いするどころか、俺たちのことを恋人だと勘違いしてしまう。当然、俺とキリさんは噴き出してしまう。

 

「恋人じゃないです!この人は()です!」

 

「ええええっ!?」

 

キリさんが男だと知ったシュピーゲルさんは驚いて声を上げる。

 

まさか今日の内に2回もキリさんとカップルに間違えられるなんて……。

 

「最悪だ……」

 

ショックのあまり、何処かの天才物理学者みたいなことを口に出してしまう。

 

これを聞いたシュピーゲルさんは俺に頭を下げて謝ってきた。

 

「勘違いしてすみませんでした」

 

「シュピーゲルさんが謝る必要なんてないですよ。俺の隣にいる女の人みたいな姿をした人が全部悪いことですし」

 

そう言って、何処かの研修医のようにチベットスナギツネみたいな表情をし、隣に座るキリさんの方を見る。このやり取りを見ていたカイトさんとシノンさんも冷めた目でキリさんのことを見ていた。

 

「シノン。コイツと会った時もこんな感じだったのか?」

 

「こんな感じに女の子の演技が堂に入っていたわよ。やっぱり、女装趣味があるんじゃない?それとも男の子の方が好きだったとか?」

 

「キリさん、まさか本当に……」

 

シノンさんが最後に言ったことをちょっと本気にして受け止めてしまい、キリさんから体をずらして離れる。

 

「りゅ、リュウ!これは単なるイタズラ心でやったことであって、それ以外の意図は一切ないから!信じてくれ、頼む!!」

 

「どうだか……」

 

いつもならキリさんのフォローをするところだが、今回ばかりは頭にきて冷めた態度を取る。

 

俺に冷たい態度を取られたキリさんはショックを受け、どんよりとした空気を漂わせてイスの上で体育座りをする。

 

「「自業自得(だな)(ね)」」

 

これから大会が始まるということもあり、この辺りでキリさんを許すことにした。彼を慰め終えた時だった。

 

突然、ドーム内に控えめのボリュームで流れていたBGMがフェードアウトし、代わりに荒々しい音楽が響き渡った。続けて女性のアナウンスが流れる。

 

『大変長らくお待たせしました。ただ今より、第三回バレッド・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始致します。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りします』

 

すると、ドーム内に盛大な拍手と歓声が沸き起こる。

 

「キリトのせいでいきなりになったが、絶対に本大会で4人全員会うぞ!」

 

「はい!」

「ああ!」

「ええ!」

 

カウントダウンがゼロとなり、俺の体を青い光の柱が包み込み、転送された。

 

 

 

 

 

 

転送された先は、暗闇に浮かぶ1枚の六角形パネルの上だった。

 

目の前にはホロウインドウがあり、【Ryuga VSシザース】と、その下に【準備時間:残り58秒 フィールド:廃工場】と表示があった。

 

ここはフィールドに転送されるまでの準備場所となっているのだろう。

 

俺はメニューウインドウを操作し、メインアームにイクサカリバー、サブにディエンドライバーを装備する。

 

残り時間が0になると再び、体を青い光の柱が包み込み、転送された。

 

 

 

 

 

 

転送された先は、特撮番組でよく見る戦場となる廃工場だった。もちろん、ここにはヒーローも怪人もいない。いるのは俺とシザースという相手だけだ。だけど、奴の姿は何処にもいない。

 

ガンモードのイクサカリバーとディエンドライバーを持ち、警戒態勢に入ってシザースを探す。

 

外を探しても中々見つけられず、廃工場内に入ると、いくつもの赤いライン《弾道予測線》が俺の方に伸びていた。

 

「ヤバい!」

 

すぐに近くにあったさび付いた重機の陰に隠れる。直後、銃撃音がこの場に響き渡る。

 

「危なかった。あとちょっと遅れていたらアウトだったな」

 

一瞬だけだったが、2階からサブマシンガンを持った迷彩柄のジャケットに身を纏った男の姿を捉えることができた。恐らくソイツがシザースだろう。

 

俺は僅かな隙を見て、イクサカリバーとディエンドライバーで応戦する。しかし、シザースも物陰に隠れて俺が放った銃弾から逃れる。

 

「やっぱりプレイヤー相手だと一筋縄ではいかないか」

 

シザースはお返しにと再びサブマシンガンで俺を狙ってきて、俺も再び重機の陰へと隠れる。

 

反撃しようにも反撃する手段がない。銃の腕では間違いなく俺の方が下回っているし、ハンドガン2丁でサブマシンガンに正面から挑むなんて自殺行為と言ってもいい。それに、接近しようにも奴のところに辿り着くまでの間に障害物は全くないから、下手に出たところで蜂の巣にされるだけだ。

 

何かいい手段はないかと考えている中、大会前にやったトレーニングでガーディアンたちの銃撃で、今みたいに中々反撃できずに物陰に隠れていたことを思い出す。

 

あの時だってワイヤー機能を活用して乗り越えることができたんだ。今回だってできるはずだ。

 

それに、カイトさんからこんなアドバイスを貰った。

 

『アサルトライフルやサブマシンガンを使う奴には簡単に近づくことはできない。だけど、相手も撃ち続けていると必ず弾切れを起こす。その時が最大のチャンスだ。その瞬間を絶対に見逃すなよ。』

 

トレーニングのことを思い出しながら、限られた僅かの時間の中で反撃のイメージをする。

 

「よし。勝利の法則は決まった!」

 

一回深呼吸をし、意を決して重機の陰から飛び出す。

 

シザースはここで一気に決めると言わんばかりに、俺にサブマシンガンを向ける。それから俺に目掛けて十数本の細く赤いライン……バレットラインが伸びる。

 

俺はシザースがトリガーを引くより先に、ディエンドライバーからワイヤーを射出し、2階の壁にアンカーを撃ち込む。ワイヤーが高速で巻き取られ、俺の体は一気に2階部分へと引き寄せられる。直後、俺が先ほどまでいたところに十数発の銃弾が地面に着弾する。

 

「嘘だろっ!?ワイヤーアクションだと!?」

 

シザースはこのゲームであまり見たことがないこの戦闘スタイルに戸惑いながらも、再びサブマシンガンで俺を撃ってきた。対して俺もワイヤー機能を活用して先ほどと同じく回避を行いつつ、イクサカリバーの銃撃で反撃する。

 

撃ち合いは何度も続き、廃工場内には銃撃音が響き渡る。そしてついにシザースが持つサブマシンガンが弾切れを起こした。

 

「クソっ!」

 

シザースが慌てて新しいマガジンに取り替えようと腰に手を伸ばそうとする。

 

俺はこのチャンスを逃さないと、シザースがいる方にある壁にアンカーを撃ち込み、ワイヤーを巻き取って高速で接近。イクサカリバーをガンモードからセイバーモードへと変え、この勢いを利用してすれ違いざまに奴の首を切りつける。

 

この攻撃が決定打となり、シザースの体はポリゴン片となって消滅した。

 

イクサカリバーをガンモードに戻し、ディエンドライバーのワイヤーを巻き取って腰のホルスターへと収める。すると、『Congratulations!! Ryuga Wins!』と表示され、その数秒後に再び転送されて待機エリアへと戻った。

 

 

 

 

 

待機エリアに戻り、皆はまだ戻ってきてないかと捜し歩いていると、ドームの端の方にキリさんとカイトさんがいた。

 

試合はどうだったのかと聞こうと2人に駆け寄った時、キリさんは体を小刻みに震えさせ、カイトさんが「しっかりしろ」と呼びかけていた。

 

「キリさん、カイトさん?」

 

声をかけるとカイトさんだけ俺の方に振り向き、キリさんは震えたままだった。

 

「リュウか……」

 

「キリさん、何かあったんですか?」

 

まともに答えることができないキリさんに代わってカイトさんが答える。

 

「俺もさっき戻って来て詳しくはわからないが、キリトが死銃(デス・ガン)とその仲間らしい奴と接触したらしい……」

 

「《死銃》に!?」

 

死銃(デス・ガン)は俺たちが探しているプレイヤーのことだ。こんなところで向こうから接触してくるなんても思いもしなかった。しかも、奴には仲間までいたなんて……。

 

すると、キリさんがかすれた声で話し始めた。

 

「アイツら、俺たち3人の名前を知っていたんだ。しかも、アイツらの腕にはタトゥーがあったんだ。あの殺人ギルド……《ラフィン・コフィン》を表したものが……」

 

キリさんの口から出た最後の単語を聞いた途端、一度目とは比べものにならないくらいの二度目の衝撃が走った。俺だけでなく、隣にいるカイトさんも動揺を隠せなかった。

 

「「ラフィン・コフィン…!!?」」




今回の前半部分のギャグシーンは、今後の清涼剤になればいいなと思って執筆しました(笑)。全体的にビルドネタが多くなってしまいましたが。リュウ君が戦兎の台詞である「最悪だ」と言うのは、リーファの「刻むよ」みたいにすっかり定番になったなと思いました。この章のリュウ君は、野上良太郎、幸太郎みたいに運勢最悪ゾーンに突入しているのでしょう(笑)

リメイク版でもリュウ君とシノンが対面。旧版同様にキリトとは異なって特に問題はありませんでしたが、実はシノンに「ネカマ趣味の男と付き合っているホモ」と誤解されてしまう予定でしたが、流石にこれは可哀想だなと思って止めました。終わったら、ちゃんとリーファとのラブラブシーンもやるので、それで許して下さい。

次回もよろしくお願いします。

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