ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
俺とミラ、フラゴン、サイラムの4人は、フラゴンのギルドメンバー2人の悲鳴が聞こえたところへとやって来た。だけど、そこにいたのはフラゴンのギルドメンバーではなく、4体の巨人だった。その足元には彼らの物だと思われる武器の残骸が転がっていた。
4体のうちの1体は、他の巨人とは明らかに違う雰囲気が漂っている。大きさも倍はあり、何よりも肩まで伸びている黒髪、赤い目を持ち、不気味な笑みを浮かべている。
俺たちのことを獲物として見ているかのように……。
「見たところ、あの赤い目の巨人はこのフィールドダンジョンのボスモンスターようだな。他の皆はまさかアイツに……」
フラゴンが言う通り、他の皆はあの赤い目の巨人にやられた可能性もある。
だけど、リュウは無事だと信じるしかなかった。これはミラも一緒だ。
「どうする?あの赤い目の巨人から一旦逃げるか?」
「私もそうするべきだと思ったが、どうやらそうも言ってられないみたいだ」
「ファーラン、後ろ……」
ミラが服を引っ張ってきて、後ろの方を指さす。ミラが指さした方向から3体の別の巨人がやって来た。
「よりによってこんな時に他の巨人までやって来るなんて……」
「フラゴンさん、どうします!?」
「脱出経路が開いたらすぐにこのエリアから脱出するぞ!戦闘用意!!」
戦闘は避けられないようだ。各自、自分の武器を手に取り、戦闘態勢に入る。
だけど、転移結晶が使えず、悪天候で視界が悪くなっている中で、この数の巨人と戦うことになるとは……。4人でこの数の巨人と戦うのはかなり厳しいぞ。それにあの赤い目の巨人はどれほど強いんだ?
こうしている間にも1体の巨人が拳を振り下ろしてくる。
「攻撃来るぞ!かわせ!」
俺たちは攻撃をかわし、今攻撃してきた巨人を攻撃する。だけど、その間に他の数体の巨人が俺たちを攻撃してきた。
「ぐわっ!」
攻撃をもろに受けたサイラムは地面に転がる。
「サイラム無事か!?」
「はい、なんとか……」
フラゴンがそう呼びかけると、サイラムはゆっくりと起き上がろうとする。
無事だったようで安心した時だった。
赤い目の巨人がサイラムを掴んで、ゆっくり口へと運んでいく。
「何だ、コイツ!離せえええっ!」
「アイツ、サイラムを食おうとしているのかっ!?」
「何っ!?」
「そんなモンスターってSAOにいるなんて聞いたことないよっ!」
「俺だって聞くのは初めてだ!」
通常の巨人型のモンスターはプレイヤーを殴るか蹴るかで攻撃する。だけど、あの赤い目の巨人はプレイヤーをも捕食しようとするアルゴリズムがあるっていうのか。
サイラムの悲鳴が響き渡る。
「うわああああっ!!」
「サイラム!今助けるぞ!!」
「フラゴンさん、僕はもう駄目ですっ!早く逃げて下さい!どうか御無事で……」
最後まで言い終えることは出来ず、サイラムは赤い目の巨人に丸飲みにされて食われた。
「サイラム!」
フラゴンは叫び、俺の隣ではミラは手で耳を塞ぎ、目を閉じていた。
この間にも他の巨人たちが俺たちに迫ってきた。
フラゴンは先ほど攻撃してHPが減っている巨人に細剣スキル《オブリーク》を喰らわせる。硬直がなくなると、他の巨人1体の心臓目がけて突き技の6連撃《クルーシフィクション》を叩き込む。
2体の巨人がポリゴン片となって消滅する。
「サイラムたちの仇は取らせてもらうぞ!!」
巨人たちを倒そうと意気込むフラゴン。だが、この悪天候のせいで後ろから1体の巨人が近づいてきていることに気付いていない。
「後ろ!!」
「ぐはっ!!」
フラゴンは殴り飛ばされて、勢いよく地面を転がっていく。この衝撃で細剣は折れ、フラゴンは気を失って倒れてしまう。
そこへあの赤い目の巨人がやってきてフラゴンを掴み、自分の口へと入れて彼をサイラムと同様に丸飲みにして食った。
「フラゴンっ!!この野郎!!」
フラゴンを攻撃した巨人に、ミラと一緒にソードスキルを叩き込んで倒す。
「ファーラン、もうアタシたちしか残ってないよ!」
「落ち着け!大丈夫だ!」
いつもお気楽でいるミラでさえ、弱腰になっている。
流石に俺もこの状況はかなりマズイと思う。たった2人だけでこのピンチをどう乗り越えればいいんだ。
こうしている間にも赤い目の巨人が俺とミラにも狙いを定め、こっちに向かってきた。
俺たちは武器を持って構え、戦闘態勢に入ろうとしたときだった。
何者かが赤い目の巨人の足を斬り裂く。
足を斬られた奴はバランスを崩し、顔から地面に倒れ込む。
そこにいたのは、左手に片手剣を持ち、俺たちとお揃いのフード付きマントを羽織った少年だった。
俺とミラはその少年の名前を呼ぶ。
「「リュウ!!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
途中、1体の巨人型モンスターにタゲを取られてしまい、相手をしている内に遅くなってしまった。
急いで、悲鳴が聞こえた場所に向かうと、他の巨人の倍の大きさを持つ巨人がファーランさんとミラに迫っていた。
「あれが赤い目の巨人か」
俺は、《スラント》や《バーチカル》を発動させ、赤い目の巨人の足を攻撃。奴がバランスを崩して倒れたのを確認すると急いでファーランたちの元へと走って向かう。
「ファーランさん、ミラっ!!」
「リュウか!よかった、お前だけでも無事だったんだな」
「はい……。だけど、遭難したプレイヤーやフラゴンさんの仲間が何人かやられて……」
「こっちもだ、フラゴンと残りの仲間はやられた……。今生き残っているのは俺とミラだけだ……」
「そんな……」
フラゴンさん達が死んだことにショックを受けるが、今はそうしている暇は少しもない。
「今は感傷に浸っている場合じゃない!生き残った俺たちだけでも逃げるぞ!!」
俺たちに迫って来る3体の巨人を1人1体ずつ迎え撃つ。
フラゴンさんたちは救うことができなかった。せめてファーランさんとミラだけでも……。
短時間で終わらせようと、大型モンスターに有効な片手剣ソードスキル3連撃《サベージ・フルクラム》を発動。巨人の胴体に水平斬りで剣を突き刺し、下からの垂直斬り、最後に上からの垂直斬りを与える。
巨人はポリゴン片となって四方へと爆散した。
ファーランさんとミラの方を見ると2人はまだ戦っている。
硬直が終わったら、2人に加勢しなければと思ったときだった。
「リュウ、危ない!!」
「えっ?」
ミラがそう叫んだ直後、巨大な手がゆっくりと俺に迫ってきた。だが、気が付いたときにはすでに遅く、巨大な手はがっちりと俺を掴んだ。
「ぐわっ!!」
俺を捕えたのは、先ほど足を斬り付けて倒れているはずの赤い目の巨人だった。
奴は不気味な笑みを浮かべて俺の方を見て、がっちりと掴んでいる。
「リュウ!」
「今助けるぞ!くっ!!」
「邪魔しないで!!」
ファーランさんとミラはすぐに俺を助けに来ようとする。だが、他の巨人たちが2人を攻撃して邪魔している。
「くそ!離せええええっ!!」
必死にもがくが、がっちりと掴まれているため、抜け出すことができない。おまけに剣も捕まえられた時に落としてしまって今は武器がない。右手を動かすこともできなくて、メニューウインドウも開けない状況だ。
そうしている間にもゆっくりと赤い目の巨人の口の元へと持っていかれる。そして、巨人の巨大な口が開かれ、口の中に入れられそうになる。
俺は死への恐怖に包まれる。
「うわああああっ!!」
もう駄目だと思ったときだった。俺を捕えていた手が開かれ、誰かが俺の手を掴む。
目に飛び込んできたのは、片手剣を使って巨人の口が閉じられるのを防いでいるファーランさんと、巨人の手を片手斧で斬り付けたミラだった。2人は武器を持っていない方の手で俺の手を掴んでいる。
2人が先ほどまで相手していた巨人たちは倒されていた。
「リュウ、 しっかりして!」
「ゲームをクリアしてからも俺たちは仲間だろ。だからこんなところで、死ぬなぁぁぁぁっ!!」
ファーランさんは叫び、ミラと一緒に食われそうになった俺を巨人の口から投げ出した。
赤い目の巨人から解放された俺だったが、その直後に巨人はもう片方の手でファーランさんとミラを自分の口に押し込んだ。2人は俺と入れ替わるように巨人の口の中へと入っていく。
「ファーランさんっ!!ミラぁっ!!」
「「リュウ!!」」
ファーランさんたちに手を伸ばすが、2人には届くことはなく、奴の口が閉じられ、2人は食われてしまった。
地面に落ちた俺の目の前には、噛み砕かれたファーランさんの片手剣と盾、ミラの片手斧の残骸が落ちてきた。
それらに手を触れようとした途端、ポリゴンとなって砕け散る。
「ファーランさん、ミラ……」
この光景に俺は黙って見ていることしかできなかった。それと同時にずっと記憶の奥深くにしまい込んでいたSAOに捕らわれる前に起こった
この瞬間、俺の中で何かが壊れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今、この場は霧が包み込み、雨が降る音と赤い目の巨人の低いうなり声の音しかしない。
赤い目の巨人は不気味な笑みを浮かべながらリュウに狙いを定め、捕まえようと彼の方へと手を向ける。
だが、その直後、赤い目の巨人が向けた手は深く斬り付けられる。
すぐに戦闘態勢に入った赤い目の巨人の目の前には、左手に片手剣を持ったリュウがいた。だが、今のリュウの様子は先ほどとは明らかに違う。
赤い目の巨人は、再びリュウを捕まえようとするが、避けられてリュウが発動させた片手剣スキルの《シャープネイル》をまともに受ける。それでも怯む頃なく反撃しようとするが、その度に先ほどと同様に避けられて、顔を、右目を、腹を斬られ、それ以上の反撃を受ける。
斬られる度に、赤い目の巨人からは血のように赤いエフェクトが大量に飛び散る。
赤い目の巨人を攻撃するリュウの表情は、奴への怒りと殺意に満ち溢れていた。その姿はまるで鬼神……いや、逆鱗に触れられて怒り狂った龍のようにも見える。
リュウは、怒りと悲しみがこもった叫びをあげながら、逆鱗に触れられて怒り狂った龍が鍵爪や牙で敵を八つ裂きにするかのように、反動が少ないソードスキルも使って何十回、何百回も赤い目の巨人を斬り裂いていく。その剣戟の嵐は一切収まる気配がなく、勢いが増していく一方だ。
赤い目の巨人には反撃する隙もないまま、ついには左腕を斬り落とされてしまう。
『ギャアアアアアアアアア!!』
左腕を斬り落とされ、顔を何回も斬り裂かれた赤い目の巨人は苦しそうな叫び声をあげる。それでも奴はリュウを捕まえようと右手を向けてきた。
だが、リュウは奴の右手をバラバラに斬り刻み、捕まるのを防ぐ。そして、怒りと悲しみがこもった叫びをあげながら、右腕を斬り裂き、巨人のうなじの方に回り込み、今使える最大の威力があるソードスキルを使い、容赦ない剣戟を叩き込んだ。
流石に赤い目の巨人もこの攻撃には耐えきれず、首を斬られて息絶える。
肉塊となった赤い目の巨人の体はポリゴン片となって消滅した。消える直前に見えた奴の顔は、顔中に深く斬り裂かれた跡がいくつもあり、リュウに脅えていたかのような表情をしていた。
強力なモンスターを倒したことに歓喜の声があがることはなかった。
ただ1人生き残ったリュウは雨に打たれながら、涙を流してその場に立ち尽くしていた。
気が付くとリュウは、はじまりの街の広場に面している大きな宮殿《黒鉄宮》にある《蘇生者の間》にいた。当の本人はあそこからどうやってここまで来たのか覚えていない。
蘇生者の間はSAOがデスゲームになる前はゲーム内で死亡すると、ここで蘇生して再スタートする仕組みとなっていた。だけど、今はそのような機能はなく、《生命の碑》という金属製の巨大な碑がある。それにはログインしている1万のプレイヤーの名前が書かれており、死亡すると名前に横線が引かれ死亡原因が表示されるという仕組みになっている。
リュウはその中からフラゴンたち、そしてファーランとミラの名前を見つけるが、名前には死んだことを証明するかのように横線が引かれ、死亡原因が表示されていた。
「俺だけが生き残って皆は死んだ。ファーランさんとミラに至っては俺を助けようとして……。俺のせいだ。どうして俺だけが生き残ってしまったんだ……。どうして…………」
リュウの目からは涙が溢れ出し、涙は《生命の碑》に落ちる。そして、リュウは悲痛な叫びをあげて何度も《生命の碑》を叩きつけた。
デスゲームと化したこの世界でずっと共にしてきた仲間たちの死。このことはリュウの心に深く傷を残すものとなってしまった。
わかっていた人もいますが、アインクラッド編の1部は「進撃の巨人 悔いなき選択」を元にしています。あの赤い目の巨人は、悔いなき選択のアニメ版の最後辺りに登場した奇行種です。原作のような生命力はありませんが、それでもかなり強い存在となっています。一応、リュウ君がリヴァイ、そしてある人物がエルヴィンの立場となっています。
実は、フラゴン、そしてファーランとミラの退場は最初から決まっていました。今まで私が書く小説で死ぬのは、名前のないキャラや1話か2話くらいしか登場してないキャラだけだったので、こうやって何回も登場しているキャラの死を書くのは凄く辛かったです。
そして、リュウ君は普段とは想像がつかないほどブチギレて、巨人をズタボロして倒すという結果に……。
ある意味、黒猫団の全滅と並ぶくらいのトラウマ回となりました。
リュウ君はこれからどうなってしまうのか……。