ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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カイト「第3回BoBが行われている中で、死銃(デス・ガン)による犠牲者が出てしまった。これ以上犠牲者を出すわけにはいかないと俺たちは2手に別れて死銃(デス・ガン)を追うことに。そして、リュウとキリトの2人は因縁の敵……アビスとソニーと対面した」

シノン「しかし、アビスたちが用意したネクストトライドロンの攻撃により、リュウとキリトは爆発に巻き込まれてしまうのだった」

クライン「《ソードアート・オンライン Dragon Fang》完!」

レコン「今回から僕とクラインさんが主役の《非リア充、彼女できるってよ》が始まります」

カイト「そんなの始まるわけないだろ。何勝手に作品を乗っ取ろうとしているんだ」

シノン「リュウとキリト、そして私とカイトがまだまだ主役のGGO編第13話どうぞ」


第13話 シノンの過去

キリトとリュウと別れてから10分くらい経った時、《銃士X》を探していると大きな爆音がした。音がした方を見ると黒い煙が上がっていた。

 

「カイト、今の爆発ってキリトとリュウが向かった方じゃ……」

 

「大丈夫だ。あの2人はそう簡単にやられるような奴らじゃない。今の俺たちは銃士Xを倒すことに専念するぞ」

 

カイトがこう言えるのは2人を信じているから。だったら、私もキリトとリュウは無事だということを信じよう。

 

銃士Xがいる街の中央にあるスタジアムへとやって来た。スタジアムは試合もライブもできないくらい朽ち果てている。銃士Xがいると思われる付近を視力強化(ホークアイ)スキルの補正を活用して、ライフルの銃口みたいなものを見つける。

 

「いた、あそこ」

 

「リココを待ち伏せして出てきたところを狙おうとしているようだな。今の内に俺が後ろからアタックする。シノンはスタジアム手前のビルから狙撃の体勢に入ってくれ」

 

「1人で大丈夫なの?私も一緒に……」

 

カイトと離れたくないばかりに反論するが、カイトは強い視線で遮った。

 

「これはシノンの力を最大限に活かせる作戦だ。もしも俺の身に何か起こった時には、シノンがそのヘカートⅡで援護してくれると信じているからな。これまでもそうだっただろ」

 

「カイト……」

 

「俺はお前と別れてから30秒後に戦闘を開始する。この時間で足りるか?」

 

「うん、十分……。気を付けてね」

 

「ああ。頼んだぞ」

 

カイトはそう言い残して銃士Xがいる方へと向かう。

 

正直、カイトと別れて行動するのが嫌だった。今までもカイトと別れて行動することは何回もあったけど、こんなことは一度もなかった。もしかして私はカイトがいないとダメになってしまったのではないのか。不安からそんなことを思ってしまった。私なんかが彼の傍にいることも、彼に想いを寄せる資格もないっていうのに……。

 

心臓の奥がチクチク痛み始めるも無理やり呑み込み、ビルの壁面の崩壊部を潜ろうとしたときだった。背筋に強烈な寒気を感じ、振り向こうとしたら私の体が急に地面に倒れてしまう。

 

――何が起こったの……?

 

起き上がろうとするけど体が動かない。

 

攻撃を受けた左腕の方を見ると、ペイルライダーが喰らったのと同じ電磁スタン弾が付きささり、そこから発生した青白い糸のようなスパークが私の動きを封じていた。

 

――銃士X……死銃(デス・ガン)はスタジアムにいるはず……。今この近くにいるのは私を除くとカイトだけ。他のプレイヤーもまず不可能だ。でも、これを使うのは《あいつ》しか考えられない。

 

すると、私から20メートルほど離れたところの空間に、じじっと光の粒が幾つか流れ、空間を切り裂き、そこからペイルライダーを撃ったあのボロマント……死銃が現れた。

 

――あれはメタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)!!

 

それは自身を透明化して相手に姿を見せないという究極の迷彩能力だ。でもあれは、一部のボスモンスターしか持っていない能力。あの能力をプレイヤーが使えるなんて聞いたことなんてない。

 

死銃はゆっくりと近づき私の2メートル前で停止した。

 

「《紅蓮の刀使い》……カイト。仲間を殺され、復讐心を糧に、俺と戦った時のお前を、俺は、今でも、覚えている。この女を殺して、その時のお前を、もう一度、見せろ……」

 

死銃(デス・ガン)が何を言っているのか、今の私には理解できなかった。

 

だけど、このままやられるわけにはいかない。

 

右腕はなんとか動けそうだ。私は腰にある《グロック18C》のグリップを握る。

 

死銃(デス・ガン)は撃つ前に一度ハンマーをコッキングするはず。その隙を見て撃つんだと自分に言い聞かす。だけど、死銃(デス・ガン)が取り出した黒い自動拳銃を見た瞬間、私は凍り付いてしまう。その銃には拳銃のグリップの中央にある円の中に黒い星が刻まれていた。

 

あれは《黒星・五十四式》!?

 

あの銃を、私が見間違えるはずがない。5年前の事件で強盗が持っていた銃を…

 

――どうしてあの銃が……。

 

あの銃は、5年前にお母さんと小さな郵便局に行った時に来た強盗が持っていたもの。

 

お母さんを守ろうと無我夢中になった私は飛び掛かって銃を奪い、強盗を殺した。

 

ーーいたんだ。ここに、この世界に。私に復讐をするために……。

 

あの時の強盗と死銃(デス・ガン)が重なって見えてしまい、恐怖に包まれた私は《グロック18C》を右手から落としてしまう。

 

これは運命だ。逃れることは出来ない。GGOをプレイしていなかったとしても、この男は私を追って来る。シノンとしても私は強くなっていなかったんだ。

 

もう駄目だと諦めて目を瞑ったときだった。

 

ワインカラーのシャツの上に赤いアクセントカラーの黒いロングコートを着た、明るめの茶髪の髪をした大人びた雰囲気をした高校生くらいの少年の姿が思い浮かんだ。

 

―― 《強さ》や戦うことの意味。カイトの傍で、カイトを見ていれば、いつか必ず分かるはずなんだ…。諦めたくない…。カイト、助けて……!

 

そう願ったときだった。

 

数発の銃声が鳴り響く。

 

目を開けるとそこには右腕に数発の弾丸が命中し、よろける死銃(デス・ガン)の姿があった。

 

更に左腕を一発撃たれた死銃(デス・ガン)はその場を離れ、建物の柱に身を隠すと《黒星・五十四式》をしまい、《サイレント・アサシン》を構え、素早く弾倉を電磁スタン弾から338ラプア弾に変え、発砲音がした方に向けて撃つ。

 

直後、私と死銃(デス・ガン)の近くに灰色の缶ジュースのような筒が転がってきた。グレネードだと認識した死銃(デス・ガン)はこの場から逃げ、私は死を覚悟した。だけどそれは辺りに煙をまき散らすスモークグレネードだった。

 

体が動けない中、誰かが私のへカートⅡを肩にかけ、私を2本の腕で抱えあげた。

 

煙が消え、視界が回復すると1人のプレイヤーの姿を捉える。

 

「カイト……?」

 

カイトは高重量のへカートⅡを肩にかけ、私を抱えながら、死銃(デス・ガン)から遠ざかろうと走っていた。

 

だけど、カイトはSTRとAGIのバランス型。メイン武器の無双セイバーはGGOに存在する剣の中では重量はある方で、加えて私とヘカートⅡまで抱えていると、いつものように動くことはできないだろう。しかも、銃弾を受けたばかりの赤いエフェクトがいくつかある。GGOはアメリカ産のVRMMOでペインアブソーバのレベルが日本産より低いため、痛みはしなくても痺れは残っているはずだ。

 

「カイト、もう…いいよ。私を置いて、あなただけでも…逃げて」

 

「何馬鹿なこと言っている!お前を置いていけるわけないだろ!」

 

この様子では私が何を言ってもカイトは絶対に私を置いて逃げないだろう。

 

そのまま北側のメインストリートまでやってきた時だった。

 

突如、脇道から2台のバイクがエンジン音を上げて私たちの目の前に停まった。

 

青と銀のバイクの《ビートチェイサー2000》と黒いバイク《トライチェイサー2000》だ。それらに乗っているのは、リュウとキリトだった。

 

「カイトさん!シノンさん!」

 

「2人とも大丈夫か!?」

 

「なんとかな。だけど、かなりヤバイ状況だ。お前たちの方も見たところ、こっちと同じみたいだな」

 

よく見ると、2人とも服が所々焦げ、ダメージを負っている状態だった。恐らくさっきの爆発に巻き込まれつつも、何とか私たちのところに来たんだろう。

 

「ザザとソニーと一緒にいた3人目の奴は、エイビス……アビスだったんですよ」

 

「アビスだとっ!?アイツが……」

 

「詳しいことは後で話します!今は早くここから逃げないと!」

 

リュウは、ビートチェイサーのハンドルの中央に付いているテンキータイプのコントロールパネルを操作。

 

すると、ビートチェイサーのボディが青と銀から赤と黒へと変わる。更には、全長2メートルほどの赤い目を持つ黒と金のクワガタムシを模した飛行物体が何処からか飛んできてビートチェイサーと合体。ビートチェイサーは馬とイノシシを模した車体へとなった。

 

「これなら2人が乗っても大丈夫です。早く乗って下さい!」

 

「《ビートゴウラム》か。助かったぞ、リュウ」

 

カイトが私を抱えたままビートゴウラムの後ろに飛び乗った時、キリトがカイトに声をかける。

 

「カイト!あそこにある馬のロボットは何なんだ!?」

 

キリトが指さした方には、無人営業のレンタル乗り物店の前に繋がれているロボットホースがあった。

 

「あれはロボットホース!扱いはとてつもなく難しいが、突破力が普通の乗り物より格段に高い乗り物だ!」

 

「だったら、ザザがあれに乗って追いかけてくるんじゃ……」

 

「普通ならたとえ現実で乗馬経験があったとしても乗りこなすのは難しい筈だが、その可能性は否定できないな。シノン、お前のライフルでロボットホースを破壊できるか?」

 

「わ……わかった、やってみる………」

 

痺れの薄れてきた右手で左腕に刺さっている電磁スタン弾を抜き取り、震えの残る両手で右肩から降ろしたへカートを構える。

 

ここからロボットホースまでは約20メートル。普段の私なら、絶対に外すこともなく破壊できる。ロボットホースに狙いを定め、トリガーを引こうとする。しかし……

 

「え、何で……?」

 

「シノン、どうした!?」

 

自分の指がトリガーを引くことができないことに気が付いた。何度やろうとしても、トリガーを引くことができなかった。

 

「トリガーが引けない、何でよ……?」

 

今の私は氷の狙撃手や冥界の女神と言われているシノンではなく、現実の私……朝田詩乃へと同じになりつつある。

 

その間にもライフルのスコープ越しに、死銃(デス・ガン)がこっちに追いかけてくる姿を捉えた。

 

「2人ともしっかり掴まってて下さい!」

 

「ああ!シノン!しっかり俺に掴まってろ!」

 

カイトが私をしっかりと抱きしめ、リュウとキリトはアクセルを全開にしてバイクを2台のバイクがエンジン音を上げ、猛スピードでメインストリートを走る。

 

――これで逃げ切れる。

 

そう安心したときだった。

 

「マズイ!追掛けてきたぞ!」

 

キリトの叫んだ声がし、私も振り返って後ろを見る。

 

サイレント・アサシンを背負ったボロマント……死銃(デス・ガン)が《ロボットホース》に乗って追いかけてくる。

 

「くそ!嫌な予感が的中したな…まさか、本当に乗りこなしてくるとは!」

 

死銃(デス・ガン)があの時殺した強盗と重なって見えてしまった。

 

「何で……。追いつかれる!もっと速く!逃げて…!逃げて!!」

 

リュウはそれに応じるようにバイクの速度を上げる。

 

通常のビートチェイサーは障害物を乗り越え、悪路であっても難なく走行できるバイクだ。しかし、ゴウラムと合体したビートチェイサー……ビートゴウラムは速度が上がり3人乗りもできるけど、車体の重量が増す分アクロバティックな動きができなくなるデメリットも存在する。

 

リュウは道にある障害物を回避しながらバイクを走らせ、キリトも後を追うようにバイクを走らせて付いてくる。

 

「何なんだ、あれは……?」

 

今度はカイトが声を上げ、再び振り返る。私の目が捉えたのは、死銃(デス・ガン)の後ろから黒いボディに青いサイバーチックなラインが走る近未来的なデザインをしたベンツ……ネクストトライドロンが猛スピードで追いかけてくる光景だった。

 

「くそ!狭い路地に入って撒いたと思ったのにもう追いついて来たのか!!」

 

「キリト、リュウ!あのネクストトライドロンを運転しているのは、ソニーとアビスか!?」

 

「ああ!アビスの奴、あんなとんでもない車用意していたんだよっ!」

 

ネクストトライドロンは距離を詰めてきて、ついにはロボットホースと並んで走行する。

 

そして、死銃(デス・ガン)は黒星・五四式を取り出し、銃口を私に向けてきた。

 

「シノン!」

 

カイトが咄嗟に私を抱き寄せた直後、銃声がして弾丸が私の数センチ横を通過した。

 

「嫌ああぁっ!!」

 

恐怖に包まれた私はカイト胸に顔を押し付けた。

 

「やだよ……助けて……助けてよ……カイト……」

 

今の私は、カイトに小さい子供のように泣き付いて助けを求めることしかできなかった。

 

リュウが右手でホルスターからディエンドライバーを抜き取って乱射するが、死銃(デス・ガン)は弾丸を避け、ネクストトライドロンには少し傷が付いた程度だった。

 

「くそ!やっぱりダメか!」

 

悔しそうにしてディエンドライバーをホルスターにしまう。

 

死銃(デス・ガン)達は攻撃はしてこなくなったが、徐々に距離を詰めてきた。

 

すると、カイトが私を呼ぶ声が耳に入った。

 

「聞こえるかシノン!このままだと追いつかれる!お前がアイツらを撃つんだ!」

 

「む、無理だよ!」

 

「当てろとは言わない!牽制だけで十分だ!」

 

「無理!あいつは……あいつだけは………」

 

「だったらヘカートⅡを貸せ!俺がアイツらを撃つ!!」

 

そう叫ぶカイト。

 

だけどヘカートⅡは私の分身みたいなもの。いくらカイトでもそれは難しい。

 

――当らなくてもいい。一発だけでも私が撃つしかない。

 

覚悟を決めてヘカートⅡの銃口を死銃(デス・ガン)に向けることはできた。だけど、トリガーだけはどうしても引くことは出来なかった。

 

「撃てない……撃てないの。指が動かない。私……もう、戦えない……」

 

「絶対に撃てる!戦えない人間なんかいない!戦うか戦わないか!その選択があるだけだ!俺も一緒に撃つから、もう1度戦ってくれ」

 

カイトはそう言うと、右手で ヘカートⅡのグリップを握る私の手を包み込む。カイトの手の温もりが氷のように凍っていた私の指を溶かしていくのを感じだ。

 

だけど、心拍が乱れ、バイクが激しく振動しているせいで照準が上手く定まらない。

 

「だ、だめ……こんなに揺れていたら、照準が……」

 

「リュウ!一瞬だけでも揺れを止められるか!?」

 

「5秒後に止めます!行きますよ!2、1今です!」

 

その瞬間、ビードゴウラムはジャンプ台のような格好で路面に突っ伏したボロボロのスポーツカーに乗り上げ、ジャンプした。

 

――カイト、あなたがこうやっていられるのは、どんなに自分に不利な状況でもどんなに恐ろしい敵でも屈服することなく、全力で戦おうとしているから。それがあなたの強さなのね。

 

そう確信した瞬間、カイトと一緒にヘカートⅡのトリガーを引く。ヘカートⅡが火を噴き、放たれた弾丸は死銃たちがいる方へと飛んでいく。だけど、それは死銃(デス・ガン)たちから大きく外れる。

 

「外した……」

 

「いや、大丈夫だ……」

 

放たれた弾丸は路上に放置されているタンクローリーに命中。直後、死銃(デス・ガン)たちがタンクローリーの真横を通り過ぎようとした瞬間、奴らを巨大な爆炎が上がった。ネクストトライドロンとロボットホースの燃料にも引火し、二度目の爆発が起こった。

 

ジャンプを終えたビートゴウラムが着地して道にタイヤ痕を付けて停まった。キリトもトライチェイサーを停めて、死銃(デス・ガン)たちがいた方を見た。

 

―-これで倒せたの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都市廃墟エリアを抜け出して北部の砂漠エリアへとやってきた。

 

バイクから降りたカイトは私の方を振り返った。

 

「そういえば、アイツは急にお前の近くに現れたよな。何故だかわかるか?」

 

「メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)を使っていたからよ」

 

「メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)か。ボス専用の能力だと言われていたが、まさかプレイヤーでもあの能力を使えるとはな……。衛星に映らなかったのもそのせいか」

 

私と同様に半年ほど前からGGOをプレイしていたカイトは、メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)のことは知っていたため、聞いてすぐに理解した様子を見せる。

 

メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)のことを知らないリュウとキリトが何なのか聞いてきて、私とカイトが簡潔に説明する。その後に聞いた2人の話によると、死銃の仲間2人も同じものを使っていたらしい。

 

「でも、3人揃って姿を消せる能力持ちってなると厄介だな。いきなり現れて奇襲させる可能性も十分あるからな」

 

「それなら大丈夫よ。メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)は姿を見せなくさせるだけで、足音も足跡も消えることはない。ここは地面が砂だから、少なくともいきなり近くに現れることはないわ」

 

「なるほどな」

 

「じゃあ…足音を聞き逃さないように耳を澄ませとかないといけないですね」

 

私たちはスキャンを回避するために、近くにある洞窟に身を隠すことにした。

 

洞窟の岩壁に背中を預けたところで、私は呟いた。

 

「ねえ、さっきの爆発でアイツらが死んだって可能性は?」

 

「いや、アイツらはそう簡単には死にませんよ……。トラックが爆発する寸前に車と馬のロボットから飛び降りるのが見えましたからね……」

 

私の呟きに、リュウが疲弊した様子で筒状の緊急治療キットで体力を回復させながら答えてくれた。彼の隣にいたキリトも緊急治療キットで傷ついた体を回復させていた。

 

体力を回復させたキリトが立ち上がる。

 

「俺は入り口付近で死銃たちが来ないか見張ってくる」

 

「キリさん、俺も行きますよ」

 

「リュウ、大丈夫か?」

 

「敵は3人もいるし、万が一の時のために2人で見張りをした方がいいですよね」

 

「そうだな。じゃあ、カイトはシノンを頼む」

 

キリトはそう言い残して、リュウと共に洞窟の入り口付近に向かう。

 

この場には私とカイトの2人だけになった。

 

「ねえ、カイト。スタジアムのところにいた時なんだけど、あなたは外周の上に居たのにどうやってあんなに早く私を助けに来れたの?」

 

「銃士Xが死銃(デス・ガン)じゃないと一目でわかったからだ」

 

「どういうこと?」

 

「シノンと同じ女性プレイヤーだったからだ。キリトみたいなM9000番型とかじゃなく本物のな。死銃(デス・ガン)たちが女だというのは絶対にありえないからな」

 

「へえ」

 

「死に際に本人が言っていたが《じゅうしエックス》じゃなくて《マスケティア・イクス》と読むらしい。マスケティアを倒してスタジアムの上から南を見たら、シノンが倒れているのに気が付いて、 マスケティアが持っていたライフルとスモークグレネードを拝借してシノンのところに来たってわけだ」

 

「そう。私がもう少ししっかりしていれば……」

 

「過ぎたことだから気にするな。お前が撃たれずに済んだからな。本当は今すぐログアウトして欲しいが、大会中は出来ないからしばらくここに隠れていてくれ」

 

カイトは《無双セイバー》と《ベレッタ92》を取り出し、チェックし始める。

 

「カイトは、死銃(デス・ガン)達と、戦うつもりなの……?」

 

「ああ。奴ら…特にあのボロマントは俺が倒さないといけないし、リュウとキリトだけに任せるわけにはいかないからな」

 

「アイツらが怖くないの?」

 

「怖くないって言えば嘘になるな。何せ自分が本当に死ぬかもしれないんだ。俺も死にたくはないしな。だけど、これ以上奴らを放っておくわけにはいかない。このまま奴らを野放しにしていたら、奴らはまた他のプレイヤーの命を奪い続けるだろう。俺は自分の命が尽きるか、奴らを倒すまで戦い続けるつもりだ」

 

――やっぱりあなたは強いね……。

 

下手したら自分が死ぬかもしれないというのに、あの死神に立ち向かう勇気を失っていない。私は立ち向かう勇気を失おうとしているのに。

 

このままここに隠れていたらずっと自分が抱える闇に怯え続けることになるだろう。

 

「私、逃げない……。 私も外に出てアイツらと戦う」

 

「ダメだ。アイツの持つ拳銃に撃たれたら本当に死ぬかもしれないんだぞ。俺たち3人は近接戦闘タイプだから何とかなるが、お前は違う。さっきみたいに至近距離で不意打ちされたら、危険は俺たちの比じゃない。大人しくここで待っていろ」

 

「死んでも構わない」

 

「何…?」

 

「私、さっき凄く怖かった。死ぬのが恐ろしかった。5年前の私よりも弱くなって情けなく悲鳴を上げて、リアルでもゲームでもすっかりあなたに甘えちゃって……。そんな弱い私のまま生き続けるくらいなら、死んだほうがいい……」

 

すると、カイトは怖い顔をして低音ボイスで私に問いかけてきた。

 

「お前、本気でそう思っているのか?」

 

「もう怯えて生きていくのは……疲れた。別にあなた達に付き合ってくれなんて言わない。1人でも戦えるから。1人で戦って1人で死ぬ。これが私の運命だったから……」

 

そう言い残してから立ち上がろうとした。するとカイトが私の手を掴んだ。

 

「離して。私……行かないと」

 

「お前は間違っている。そんな理由で1人で行かせるわけにはいかない。お前が行くっていうなら俺も一緒に行く」

 

「そんなこと頼んだわけじゃない。私のことなんてもうほっといて!」

 

「お前とは半年もずっとGGOで一緒だったんだ!ほっとけるわけないだろ!!」

 

カイトと言い争っている内に、私の感情が爆発してしまい、片手でカイトの襟首に掴みかかる。

 

「なら、あなたが私を一生守ってよ!!」

 

とうとう今まで溜めこんでいた涙まで眼から溢れてしまい、地面に落ちる。

 

「私の事、何も知らないくせに!カイトは私と違って現実世界でも仮想世界でも強いからそんなこと言えるんでしょ!これは私の、私だけの戦いなんだから!例え負けて、死んでも誰にも私を責める権利なんかない!それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!? この……この、ひ……人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!?」

 

記憶の底から、私を罵る幾つもの声が蘇ってくる。

 

あの事件以来、クラスの子やその持ち物に触れたら、『人殺し!』、『触んなよ人殺しが! 血が付くだろ!』と罵られ、足で蹴られ、背中を突き飛ばされるようになった。私はそれから1度も自ら誰かに触れようとはしなくなった。

 

「私の手は血で染まっている……。そのせいで、好きな人に想いを寄せることも……このことを知られて彼に嫌われるのが怖いの……」

 

もう、シノンとしても朝田詩乃としても彼に関わることなんてできない。だって、彼も他の人たちみたいに、私のことを「人殺し」だと思っているんだから……。

 

今すぐにも私を突き飛ばして「俺の前から消えろ」とか言われるのだろう。

 

だけど私の予想に反して、カイトは後ろに両手を回して私を自分の方へと抱き寄せた。

 

「カイト……?」

 

「シノン、お前に何があったのかまだハッキリとはわからない。だが、お前がずっと苦しい思いをして1人で戦ってきたってことはわかる。俺なんかよりもよっぽど強いさ、シノンは。俺はお前の手が血で染まっていても握ってやる。だから大丈夫だ」

 

カイトの言葉に、私の中で何かが外れて彼の胸にうずくまってしばらくの間泣き続けた。その間、カイトは私を離さずにずっと抱きしめてくれていた。

 




今回のビルド風のあらすじ紹介は、「ドルヲタ、推しと付き合うってよ」をネタにしてみました(笑)
クラインとレコンは、ゼロワンに登場した縁結びマッチに頼んで相手を見つけてもらった方がいいかと(笑)

キリトが乗るバイクをシャドーチェイサーからトライチェイサーに変えたり、リュウ君が乗るビートチェイサーがビートゴウラムになって更にカイトとシノンが乗るなどバイク関連で、旧版からいくつか変更させていただきました。

リメイク版でもやっとカイトとシノンの運命が動き始めたような気がしました。本作のシノンにはカイトがいるからきっと大丈夫でしょう。そしてカイトにはアリシゼーション編に登場するアイツをボコボコにして欲しいなと思っています。

余談ですが、ここ最近カイトがfateに登場するエミヤと重なって見えてしまうんですよね(笑)。リュウ君もジーク君やシャルルマーニュと重なって見えてしまってますが(笑)

今朝のゼロワンでは遂にメタルクラスタホッパーの暴走の制御に成功。これまで登場したヒューマギアの登場したところはよかったですね。そして、前回の婚活中の1000%おじさんやマッチの放送禁止用語には爆笑しました(笑)

この前、アンダーワールド大戦の後半のアニメのPVが公開されましたよね。最後の三女神も登場しますし、今から放送が待ち遠しいです。
やっぱり本作のアリシゼーション編でリュウ君……特にリーファを絶望へと突き落とす最悪な展開を思い浮かべてしまいまうという。ですが、Burning My Soulをはじめ挿入歌を流したくなる熱くてカッコいいシーンも用意しているので大丈夫です。

次回もよろしくお願いします。

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