RAIL WARS! ~After story~ 作:EF81
深夜一時、暗がりの長岡駅に停車しているEF81 142号機の中に一人の男が佇んでいた。彼の名は高山直人、今日から一人乗務となった新米機関士である。寝台特急「北陸」、それは、彼がこれから運転する列車だ。
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午前二時十分、勾配線区用の國鉄EF64 1000番台電気機関車に牽かれて「北陸」がゆっくりと長岡駅に到着する。ここからは直流用のEF64ではなく梶屋敷~糸魚川間の交直切り替え区間通過のため、交直流電気機関車の國鉄EF81形が牽引するので、長岡駅で機関車交換が行われる。
到着した列車からEF64がゆっくりと切り離されて留置線へと向かう。
「そんなに緊張しないな」ふとそんな声が漏れる。これは師匠のおかげだろう。
無線の誘導に従って留置線から本線へと出て14系客車に近づいていく。窓から顔を出して後方を見ながら機関車を推進させる。
「あと10メートル、9、8、7、6、5、停止!!」
連結作業員が機関車のステップから降りるのを確認するとまた無線が入る。
「あと5メートル」ブレーキを緩めて2ノッチまでいれる。「4、3、2」ここでノッチを切ってブレーキをかける。「1、連結完了!!」 上手くいったようだ。ひと安心である。
逆転器ハンドルを後進から前進に切り換えて出発準備をする。運転台に取り付けた懐中時計が二時二十五分を指すと、車掌さんから無線が入る。
「3001列車運転士さんどうぞ」
「こちら3001列車運転士ですどうぞ」
「3001列車発車」
「3001列車発車」
ゆっくりと電流計を見ながら一段一段ノッチをいれていく。電車のように一気に進段することはできない。ノッチをいれていくと機関車が動き出す。これは寝台列車なので無論乗客を起こさないように慎重に客車を引き出していく。次の停車駅は糸魚川で四時三十四分到着だ。客車列車なので電車と違ってゆっくりと加速してゆく。
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列車は糸魚川に近づいて行く。俺は自弁に手をおき、ブレーキを掛けた。列車はそのまま減速していき糸魚川に到着する。
「糸魚川到着定時!!」
俺が停車時に気を付けていることは衝動を発生させないことだ。そのために止めるときは出来るだけ自弁のみを使うようにする。これは師匠からのアドバイスだ。自弁だけだと停止前の微妙な調整が非常に難しいので、見習いを始めたばかりの時は補助的に散々単弁を使って師匠に怒られた。あの人はその場で怒るようなことはないのだが、機関区や詰所に戻ってからの反省会(主に説教会)で静かに「単弁~回使用」と言ってくるのだ。俺はそれが悔しくて死に物狂いで習得したため、見習いが終わる頃には呼吸をするように簡単に単弁を使わずに停まることができるようになっていた。
デッドセクションを越えて交流区間に入ったので、糸魚川に着くと前のパンタグラフを下げる。パンタグラフが下がったことを確認して運転席に座るとちょうど車掌さんから無線が入った。
「3001列車運転士さんどうぞ」
「こちら3001列車運転士ですどうぞ」
「3001列車発車」
「3001列車発車」
車掌さんから発車合図が出たので「出発進行」と指差喚呼をしてノッチをいれていく。次の停車駅は富山だ。
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その後なんとか金沢駅に到着する。
「金沢到着定時!!」時刻表を指差し、運転台の懐中時計を見ながら喚呼する。
乗客が降り、車内点検が終わると推進回送で金沢車両所へと列車を引き上げる。
今日の乗務はこれで終わりだ。「初の一人乗務にしてはなかなか上手くできたんじゃないか?」などという感想が漏れると同時に結構な疲労を感じた。あまり緊張していないと思っていたが、実は大分緊張していたようだ。
機関車から降り、点検を済ませて「お疲れ様、今日もありがとう」と機関車に一声掛ける。
そのまま車両所の建物に入って報告を済ませ、金沢駅から普通電車に乗って國鉄の職員寮がある富山に戻った。
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寮に戻ると師匠が俺を待っていてくれた。師匠は大阪に自宅があるので、この寮に住んでいるのだ。
「お疲れさん、初めての一人乗務はどうだった?俺がいなくて寂しかったか?」などと茶化しながら聞いてきた。師匠は仕事の声と普通の時の声を分けている。乗務後の反省会が終わった後はいつもこんな感じのいいおじさんなのだ。
「あんまり緊張ないと思ったんですけど、実は緊張してたみたいで疲労がすごいですよ。寂しくはなかったですけど、中島さんが隣にいないのは少し不安でしたね。すみません、今日はもう疲れちゃったんで休ませて貰いますね。」
「おう、それがいいよ。明日の乗務に疲れを残すなよ。」
「はい、それじゃあ失礼します。」と部屋に行こうとしたところを呼び止められた。
「高山、自己分析で今日の疲労の原因は分かっているみたいだが、今日の疲労を忘れるなよ。疲労を感じるってことは緊張してるってことだ。慣れてきて気が緩んだ時に事故ってのは起こるもんだからな。乗務が終わって疲れを感じなくなったら危険信号だと思って気を引き締め直すんだぞ。」と師匠は仕事用の声で言った。
「はい!!」俺は敬礼しながら大きな声で答えた。
俺の親方日の丸一生安泰國鉄人生は始まったばかりだ。明日からも安全運転で頑張ります。
次話の投稿は3月以降となると思いますので、気長にお待ちいただければ幸いです。