触れ合う手   作:さおすけ

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闇妖精始めました

仮想世界での生活から離れ、既に二ヶ月が経過した。だが、未だ仮想空間に囚われ続けている三百人ものプレイヤー達。原因は不明で、今も尚、調査が行われている。

囚われている彼らに共通点はあらず、性別や容姿、年齢は関係がないとされている。

一部では茅場を疑う声もあったが、それはその後、一瞬で消え去る事となった。なぜなら茅場の死体が発見されたからだ。

元々、仮想世界で生きてきた者たちに茅場を疑う者はいなかった。

全員が感じていた。あの男はそのような事をする男ではないと。

 

「……?」

 

横たわっていた体を起こそうとした瞬間、愛用しているパソコンから受信音が聞こえた。

数個、アドレスを所持しており、このアドレスは私的な事に使うアドレスなので、メールが来る事はそう無い筈なのだ。

 

「よっぽど親しくないと教えないんだけど………っ!」

 

差出人の名はエギルと書かれていた。

そして、画面を見た俺は自分の目を疑った。

そこに添付されていたのは、一枚の写真だった。

そこに写っているのは綺麗なブラウンの瞳に頭髪、雪のように白い肌をした少女の姿だった。

そう、俺はこの少女に似ている人物を知っている。

 

「アスナ……」

 

無意識に名前を呟きながら、メールの続きを読む。

画面をスクロールすると、地図を添付したメッセージが書かれていた。

場所は割と近場の台東区御徒町の裏通りで、地図によると、そこはバーのような所だという。

仮想世界での商人エギルは現実(リアル)でも商売人だったのだ。しかしよくもまあ、あの面で接客業が出来るものだ。

あの巨漢が接客をしている状況だとすれば俺なら間違いなく逃げるだろう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

地図通りに進み、路地裏を抜けて行くと、一つの落ち着いた雰囲気を醸し出している店を発見した。

Dicey Cafe(ダイシーカフェ)》。それが店の名前だった。それが目的地だと確認すると、俺は勢いよく扉を開けた。

扉を開ける軽快な音と店内の落ち着いた雰囲気のギャップに少し戸惑う。

 

「よう、ヴォルフ」

「…やめてくれ。現実(リアル)だと死にたくなるからな。…俺の名前は真神 葵だ」

「俺の本名はアンドリュー・ギルバート・ミルズだ。改めてよろしく、葵」

 

来店した俺を迎えたのは、ニヤリと笑う見慣れた禿頭の巨漢だった。

二年間使い続けていた名を訂正し、軽い自己紹介をする。勿論、性格などはお互い知っているので、本名だけの紹介だが。

エギルの言った、ヴォルフというのは仮想世界での俺の名前だ。この名前の由来は俺の本名にある。俺の本名は先程エギルに言った様に、真神 葵と言う。ヴォルフは神話上に真神という名の狼が存在する事から来ている。

 

「ところで、用件はなんだ?からかう為に呼んだわけじゃないんだろ?」

「当たり前だ。お前は送った写真を見て来たんだろう。用件はそれだ」

「…あれは何処だ?」

「それはとあるゲームの中だ。そしてそれはプレイヤーが撮影した写真だ」

「ッ!!」

 

つまりアスナが目覚めない理由はそこにあるという事になる。

だが、何故ゲームの中なのだろうか。

SAO事件を巻き起こした茅場は既にこの世にはいない。なら、誰がそんな事をする事が出来るのか。

 

「で、そのゲームの名前は?」

「これだ」

 

カウンターの下から出されたのは長方形のパッケージだった。ゲームの名は《Alfheim Online》と書かれていた。これでアルヴヘイムと発音するらしい。そしてそこには《AmuSphere(アミュスフィア)》なるロゴが印刷されていた。

アミュスフィアは俺たちが仮想世界に閉じ目込められている間に発売されたナーヴギアの後継者である新ハードだ。

事件を起こし、悪魔の機械とまで言われたナーヴギアだが、これまで夢見たフルダイブ型ゲームマシンの需要は計り知れず、何人たりともこれを禁止する事は不可能だった。今度こそ安全が保障されているアミュスフィアが全世界的な人気を博している。

それらの事情は耳に入っていて、プレイしてみたいという衝動に駆られてはいたが、この二年で周りに遅れを取った事は多く、それらを片付ける前にプレイする事は出来なかった。

だがしかし、今回は例外だ。

なぜなら、それはあの世界で共に生きた、共に命を預け合った本物の関係を前には簡単に崩れ去るからだ。

必要ならば共に行こう。未だ囚われ続けているならば俺は必ず助けに行こう。唯一俺が信頼出来る存在なのだから。

 

「その中にアスナはいるんだな」

「ああ。恐らくとしか言えんがな」

「いいさ。同じ血盟騎士団副団長として、そして友人として、俺は助けに行くよ。あいつが何処にいても、な」

 

勿論、エギルも同じだからな。

そう言って店を出た葵。

時間帯の事もあり、葵が店を出た今、エギル一人となった店内には静寂が訪れた。

そんな中、エギルは感心と共に嬉しさを感じていた。

 

「…お前は本当に面白くて真っ直ぐな奴だよ、葵」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

帰宅した後、俺はまたメールが届いている事に気づく。

宛先人の名は、キリトだった。

内容は大体予想できるが、一応開く事にした。

内容はやはりアスナの事であり、俺に力を貸してくれといった用件で、もし協力してくれるのなら数時間後、その世界(アルヴヘイム)にある世界樹の近くで会おうとの事だった。元よりそのつもりだった俺は即座に準備を済ませ、二ヶ月ぶりに仮想世界へと旅立つ。

 

「リンクスタート」

 

現実世界の体から仮想世界への体へと変化する刹那を、俺は懐かしんでいた。

あの世界(ソードアートオンライン)に二年も囚われ、生死を賭けた戦いを続けたにも関わらず、俺は何処かあの世界を憎み切れないのだと思う。勿論、彼のした事は犯罪であり、多くの人の命を奪ったことに違いはない。だが、仮想世界自体に罪はない。それに彼が想い焦がれる気持ちもわからなくもないのだから。

 

「……っと、種族設定か」

 

種族は合計九種類だ。

火妖精族(サラマンダー)水妖精族(ウンディーネ)風妖精族(シルフ)土妖精族(ノーム)闇妖精族(インプ)影妖精族(スプリガン)猫妖精族(ケットシー)工匠妖精族(レプラコーン)音楽妖精族(プーカ)

これだけ種類があれば、迷うのは当たり前だろう。

だが、サラマンダーやノーム、シルフはプレイスタイルに合わない種族なので却下とした。

回復力はあまり必要ないのでウンディーネも却下。

プレイスタイル的にはスプリガンかインプが合っていると感じたが、スプリガンはキリトを連想させるので止め、インプに決定した。

その後、細やかな設定を終え、新たな世界(アルヴヘイム)へと入場する。

 

「ここはどこだ?」

 

俺が初めて降り立った場所は、当然見知らぬ地だった。

辺りの建物や人々の装備にはすべて紫が主に使われていた。状況から察するにここは闇妖精族の領地といったところだろう。

だとすれば話が早い。まずウィンドウを開き、ユルドーーこの世界の硬貨ーーがあるかを確認する。1000ユルドと書かれた欄があり、それを確認すると、俺は酒場へと足を運ぶ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

軽快なリズムを奏でる店内の音楽を背景に、昼過ぎだというのに騒ぎ、踊り、話す多くのプレイヤーがいた。

その中で、カウンター席にいる二人で何かを食べているプレイヤー達に声をかける。

 

「すまん、少し聞きたいんだが」

「はい、なんでしょう」

「ああ、この二人に何か飲み物を出してやってくれ」

 

NPCの少女にそう告げ、話を始める。

 

「実は今さっきログインしたところでさ、このゲームの事を知らないんだ。よかったら教えてくれないか」

「ええ、大丈夫ですよ」

「お兄さんは何が知りたいの?」

 

具体的な内容を問う少女は先程の少女と比べると、割と幼いという印象を与えた。

先程の少女は大人びていて、落ち着いた雰囲気を纏っていた。

そんな少女達に、俺は今回の目的を簡潔に話す。

 

「世界樹の上に行きたいんだ」

 

こちらを不思議な物を見るかのように眺める二人。俺が冗談を言っている訳ではない事がわかると、やがて口を開き始めた。

 

「……それは恐らく全プレイヤーが思っている事といいますか、それがこのゲームのグランド・クエストなんです」

「……なるほど。それをクリアするとどうなるんだ?」

「滞空制限が無くなるんだよ!世界樹の上にある都市に到達すると《妖精王オベイロン》に会うことが出来て、その上その種族は《アルフ》っていう高位種族に生まれ変われるんだ!」

 

そう言って嬉しそうに、はしゃぎながら語る少女を慣れた手つきでなだめるもう一人の少女。彼女達を見ていると、自然と笑みがこぼれる。

現実世界では姉妹なのだろうか。

 

「そりゃいいな。上に行く方法は判明してるのか?」

「はい。世界樹の内部を登るのですが、上への道を守っているNPCのガーディアンが強過ぎるんです」

「へえ…そんなに強いのか。ありがとう、取りあえず世界樹の前まで行ってみることにするよ」

 

笑顔で一言礼を告げ、立ち上がる。

そして出口へと体を向ける。が、しかし体はすぐに元の方向へと向けられることになる。

 

「……なあ、世界樹ってどっちだ?」

「……」

「あははははっ!お兄さん面白いね!ふふっ……あははっ」

 

少女に大笑いされ、少し恥ずかしくなり、頬が赤く染まる。仮想世界の感情表現は大袈裟な物で、少し恥ずかしく感じると顔が赤くなってしまうのだ。

またもや、それを見たもう一人の少女が笑う彼女をなだめる。

そして俺にとって最高に魅力的な提案をしてくれる。

 

「もしよければ、世界樹までご一緒しましょうか?」

「本当か!?ありがとう!俺はヴォルフ、よろしく!」

「あっ、はい……ランって言います。よろしくお願いします…」

「僕はユウキ!よろしくねお兄さん!」

 

ランは先程の俺のように、いや俺より頬を赤く染めていた。俺は少し遅れてそれを認識し、数秒後、自分が何をしているのか気づき、咄嗟に手を離す。

 

「っ!悪い!」

「い、いえ……大丈夫です。…じゃあ、行きましょうか」

「ああ」

「冒険ってわくわくするよね!」

 

ここから三人の闇妖精の冒険が始まる。

 

 

 




ランの扱いが難しい……。
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