触れ合う手   作:さおすけ

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若干短めです。

一話目も短めなのに更に短いとは一体…?


初めての飛行

世界樹への旅、すなわち冒険を始める前に、会得しなければならない技術があった。

それはコントローラーなしで空を飛ぶ、随意飛行という技術だ。

別に随意飛行が出来なくとも構わないらしいのだが、強くなる為には随意飛行を可能にする事から始めなければならないらしい。なぜならALO内で活躍するプレイヤーの中に随意飛行が出来ないという者がいないからだ。

すなわちこの世界で戦うということは、必然的に随意飛行を会得しなければならないという事になる。

 

「コツとしては肩甲骨の辺りを意識することですね」

「……肩甲骨を意識?」

 

まずはコントローラーから飛行を始めてみるのが基本なのだが、コントローラーなしでもすぐに出来ると思っていた俺は随意飛行というものを少し侮っていたようだ。

ランが細かいところまで説明してくれるのだが、元より感覚派の俺は彼女の説明を聞いても中々上手く行かない。

するとそれを察したユウキが、周りが聞けば全く理解出来ないアドバイスをしてくれる。

 

「うーんとね、こう、グッときてギューンって感じだよ!」

「ユウキ……」

 

効果音を口に出しながら、飛行をするユウキ。それを呆れた顔でランが見ているが、飛行しているところを見せてくれるというのは俺的にありがたかった。

 

「…こうか」

 

先程ユウキがしたように、背中の羽を少しずつ動かしていく。

そしてついに足が地面を離れ、少し体が宙に浮く。

初めての感覚に戸惑うが、少しずつ慣らし、戸惑いを無くしていく。

そして少しずつ、高度を上げながら動き、辺りを一周する。

これは癖になる。全プレイヤーが滞空制限を無くしたがる訳がよくわかる。

 

「そうです!直ぐに出来るなんて…凄いですよ!」

「そ、そうかな」

 

素直な賞賛に少し頬を赤く染める。

ユウキは未だに上空を飛んでいて、何かをこちらに向かって叫んでいる。

 

「早く行こうよ!ヴォルフ!姉ちゃん!」

「全くもう……」

「くくっ、元気だな……………ん?姉ちゃん…?」

 

ユウキの無邪気な笑顔を見ると自然に笑みがこぼれ、流しかけたが、確かにユウキが言った。ランのことを姉ちゃん、と。

つい聞き返してしまうが、ここでは現実(リアル)の事情の詮索はマナー違反だという事を思い出す。

 

「…ああ、悪い。マナー違反だな」

「いえ、大丈夫です。実は私達、姉妹なんです」

「へえ…」

「あれ、反応薄いですね」

 

ランは意外そうな顔で驚いていた。

薄々感じていたからか、自分でも驚くほどに反応が薄くなった。

やはり姉妹だった。ユウキをなだめるランの姿が長年付き添った者の雰囲気を醸し出していたので、もしかしたら、とは思っていた。

 

「元気で可愛い妹だな」

「……ええ。本当に元気、なんですよ」

 

返答に少しの間があり、ヴォルフは怪訝そうにランを見る。ランは何処か思い詰めた表情をしていた。

現実世界でも知り合いだったならば、どうしたのか聞いただろう。だが、ここは本当の肉体を持たない世界だ。そんな世界で知り合ったばかりの俺は彼女の相談相手になる資格も、立場も持ち合わせていない。

会話がいきなり終わり、沈黙に包まれたこの状況をどうしたものかと考えていると、空を飛んでいたユウキが猛スピードでこちらへ下降して来る。

 

「もう!何やってるのさ二人共!早く行こうよ」

「あ、ああ。そうだな。じゃあ改めて頼むよユウキ、ラン」

「はい、頼まれました」

 

微笑むような笑顔の彼女は了承の意を表明した。

 

「じゃあ行こう!」

 

ユウキは掛け声と共に飛行を開始した。それに着いて行く様に俺とランも続く。

闇妖精族の領地付近の森の上を飛びながら、世界樹へと向かう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

飛行を開始して数分すると、領地とはかなり離れ、森を抜けた。

このままずっと飛んでいたいが、滞空制限がある為、一度下へと降り、少ししてからもう一度飛行を開始する。

すると高度を上げた所でモンスターと遭遇した。

モンスターの名前は《イビルグランサー》。数は三体であり、割と多めだ。イビルグランサーは羽の生えた大きいトカゲの様な体をしており、色は紫。ランによると中々強いモンスターで初期装備ではまず勝てないと言っていた。だが、三人で三体相手をすると考えれば、一人一体だ。多少強くとも、勝てる筈だ。

なぜなら過去にはこれよりもずっと理不尽な場面が何度もあったのだから。

それだけではないこの世界(アルヴヘイム)は浮遊城《アインクラッド》が存在する世界とは違い、数字だけで全てが決まる世界ではなく、反射神経や運動能力といった現実でのプレイヤーの能力が関係してくるプレイヤースキル依存型VRMMOだ。

それらを踏まえて、俺は勝てると確信している。

 

「一人一体、それでいいか?」

「えっ、初期装備じゃ勝てないと思いますよ…?」

「まあ、無理そうだったら助けてくれ」

 

そう言って都合良く三方向に散らばり始めたイビルグランサーの所へと向かう。

すると三体の内、一番右側のイビルグランサーが俺の存在に気づき、猛スピード近づいて来る。

まずは向かってくる敵を軽くあしらい、相手の速さと攻撃力を確かめる。

 

「やっぱり大したことないな」

 

実際に剣で流してみると、速さも力も予想より下回っていた。

やはり前の世界(アインクラッド)とは比べ物にならない。死んでも構わない世界でこの難易度はいささか低すぎるのではないだろうか。

躱されたイビルグランサーは進行方向を一瞬で真逆に変え、もう一度こちらへ飛んで来る。

今度は躱さず、受け止める。

 

「ふっ…!」

 

そして腹部を数回斬りつけ、敵が体勢を立て直す前に離脱する。

防御も予想より脆く、一撃で目に見える程ヒットポイントが削れた。

そこで周りを見ると、ランとユウキは既に戦闘を終え、こちらへと向かって来ていた。

 

「じゃあ、こっちに来る前に片付けますか」

 

今度はこちらから。と言わんばかりの速さでイビルグランサーとの距離を縮め、先程とは比べ物にならない程、力を込めて斬りつける。

するとヒットポイントはどんどん削れて行き、十数秒で削り切った。その後、イビルグランサーは直ぐに青色のポリゴン片へと姿を変え、消滅した。

 

「こんなもんか。やっぱり二ヶ月も動かしてないと鈍るよなあ……」

 

そう呟きながら、二人の方を向くと、二人は同じ表情でこちらを見ていた。

その表情は信じられないといった様な物で、正常に動き出すまで時間が掛かった。

 

「え、えっと…強いね!ヴォルフは……」

「……どうやってあの装備で…?」

 

若干引かれていた。

流石初期装備といった強さなので、実際かなり性能は低い。前の世界(アインクラッド)で使っていた装備が恋しいほどに。だがしかし、言って仕舞えばあんな物は工夫でどうにかなるレベルだ。

先程の戦闘を見れば、ユウキもランも規格外の強さを誇っている事がわかる。闇妖精族でも高い立場にあるのだろう。なのでそこまで引く要素も無い筈なのだが。

 

「……そんなに驚くことか?」

「は、はい…。少なくとも私は見たことがありません……。初期装備でイビルグランサーを倒すプレイヤーなんて」

「ん…?ならどうして装備を買う前に領地の外に出たんだ?」

「本当は少し飛ぶ感覚に慣れたら、一番弱い敵を倒してから装備を買う予定だったんだけど……その必要は無いみたいだね」

 

彼女達は世界樹までの道のり、俺のALOプレイヤーとしての始まりの道筋をよく考えていてくれていたようだ。

しかし、俺はそれら全てを台無しにしてしまったのだ。そう思うと少し申し訳なくなる。

 

「強くて損はしないからね!」

「そうですよ、これなら世界樹に早く辿り着けます」

「…おう。じゃあ引き続き案内をよろしく頼む」

「はい」

「うん!」

 

彼らの冒険はまだ始まったばかりだ。

 




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