ゲームの後、しばらくしてからだがソーナは本格的にうちの屋敷に住むことになった。
ただ眷属は全員元人間なためか、このまま駒王学園に通わせることにしていた。まぁこの辺は個人の自由だし、オレも口出しする気はなかったな。
そしてスルー出来るかもと思っていたコカビエル襲撃事件だが、こっちは起きてしまった。リアス一人だけでも標的としては十分だと判断されてしまったらしい。
最終的に白龍皇がコカビエルを回収するところは原作通りだったが、それ以外は大幅に変わったがな。
まず駒王学園で戦う際に余波が漏れないよう結界を張る必要があった。それをリアスがソーナに依頼して、学園に通う眷属にやってもらったことで情報が洩れ、オレも眷族を結界担当に派遣した。これでグレモリー家はマルバス家とシトリー家に借りが出来たわけだ。
次にオレが連絡したため
その次のイベントである駒王学園での三勢力の会議だが、結界担当で現場は見てないし、あくまで手伝ってただけのオレとソーナは不参加だ。グロース曰く「原作とほぼ変わり無し。木っ端の魔法使いを片付けてる間に終わってた」とのこと。まぁイッセーがヴァーリに目をつけられるだけのイベントだし変化はなくて問題ない。
で、次なるイベントだがこれには関わる気がなかったんだが巻き込まれたようだ。
「あー、新鋭若手悪魔の会合? なんでオレまで呼ばれんの?」
「自分の立場を理解してください。バルバソンさまが呼ばれないようなら、呼ぶに値する者なんかいなくなりますわ」
報告に来たのはオレの『女王』を務めるレイヴェル・フェニックス。元々病を治せるマルバス家と傷を即座に治せるフェニックス家だけで医療機関は共同運営するはずだったが、シトリー家も参加したので側室で我慢してもらった相手だ。その代りと言ってはなんだが、『女王』の駒を渡して「社交的にはシトリー家が上の扱いだが、実務上はフェニックス家が上」な状況を作っている。本人やフェニックス家的にはこっちのほうが美味いし文句なし、とは言っていたがな。
「まー、それもそうだがよ。オレ後方支援担当じゃんか。旧序列の1位と2位に魔王を輩出した家系の次期後継者とかの前線で活躍する連中だけじゃダメ?」
「ダメに決まってますわ! マルバス家は再興途中の家系なのですから、こう言った場できちんと人脈を築いていきませんと」
会合に参加しなくても目ぼしいやつは向こうから挨拶に来るから別に困りはしないんだがな。とはいえレイヴェルにへそを曲げられると実害が出る。素直に参加しとくか。
「分かった。じゃあ眷属に集合かけといてくれ。半分以上人間界暮らしだからな」
「元人間だからって好きにさせ過ぎだと思いますが……わかりましたわ。当日の朝にはこちらに来るよう指示しておきます」
「おう、頼んだ」
待合室に着くと、そこは重苦しい空気に包まれていた。
その原因はグロースとリアス。双方の後ろにはそれぞれの眷属が控えており、一触即発の雰囲気を醸し出している。
まぁこの二組がこうなっているのは予想通りだ。すでに正式な次期当主である他と違って、この会合でよその家から次期当主と認識された方が正式な次期当主に大きく近づくことになる。相手が抜け駆けしたり、勝手な約束をグレモリー代表として行わないようにらみを利かせているつもりなんだろうな。
さすがにこの空気の中でふざけた言動をするのはまずいと察したのか、凶児と呼ばれ粋がっているゼファードル・グラシャラボラスも大人しくしていた。到着が最後になってしまったオレ達も他に倣って大人しく会合が始まるのを待つとしよう。
ギスギスした空気だったせいか原作のような若手悪魔同士の事前の会談もなく、オレ達は会合を行う場所に通された。
お偉いさんたちの席はかなり高い所に設置されていて、一番上に魔王さまが座っており、それより下は地位が高い順に並んでいるようだ。
上から見下ろされている状況に圧迫感を感じている者もいるようだが、オレとしてはお客さんが何人も混ざっているのでそういうのは感じない。親族の病気が治って喜んでボロボロ泣いてた姿を見た後だと、威圧感を覚えるような表情も仕事頑張ってるんだなー、くらいにしか思えないのである。
「よく集まってくれた。此度は次世代を担う貴殿らの顔を改めて確認するために、集まってもらった。これは一定周期ごとに行う、若き悪魔を見定める会合でもある」
参加するにふさわしい家に子供がいなかったり、そもそも周期が開きすぎてたりでろくに開催されたことのない会合だけどな。今回も、旧序列1位と2位に、四大魔王を輩出した家系に同年代の悪魔がいるのは奇跡みたいなものだし、かなり開催時期を早めたとかの話しも聞いたことがあるくらいだし。
その後はお偉いさんや魔王さまのありがたいお言葉が続き、途中でオレら若手悪魔でレーティングゲームやる話が出たりした。
退屈を我慢しながら会合は続き、最後にサーゼクスさまから質問を投げかけられた。
「最後にそれぞれの目標を聞かせてもらえないだろうか?」
「俺は魔王になるのが目標です」
真っ先に答えたのはサイラオーグ・バアル。若手悪魔で最強と言われているやつであり、オレの異母兄に当たる相手だ。
サイラオーグの境遇は原作とは違い母親の治療はオレが行ったうえ、バアル卿に「ゼクラムさまは『消滅』の魔力を持たないサイラオーグを当主にすることはないという考えだ」と伝えることでバアル卿とマグダランの母の態度を軟化させたためマシなものになっている。その影響で鍛え方に差が生じたかもしれないが、かなり友好的な関係を築けている。なので彼が魔王になりたいというなら支援は惜しまないつもりだ。
「わt―――」
次にリアスが発言しようとして、グロースが魔力で目立たないよう殴って止めた。原作だともっとも影響力のある魔王の妹であり、グレモリー家の次期当主だったから発言は二番目だったが、この世界では次期当主候補の一人にすぎないので発言するのは後である。リアスの認識ではグロースは妾腹の子に過ぎず、自身が原作同様の立場にいると思っていて発言しようとしたのかもしれないが、そんなのをグロースが認めるはずがない。
次に旧序列第2位のアガレス家次期当主、シーグヴァイラ・アガレスが発言し、さらに次がオレだ。
「オレの大目標はマルバス家の再興と安定です。医者としてのマルバス家の役割はどうにかこなせるようになったので、荒れたマルバス領の再開発と後継者作りが現時点での目標になっています」
「私の目標もマルバス家、シトリー家の後継者を産む事です。私自身はマルバス家に嫁ぐ身であり、現状シトリー家は後継者不在になっていますので急務ですから」
オレの発言に合わせてソーナが発言した。これに対しお偉いさん方は大きく頷き同意した。
「うむ、血筋を絶やさぬことは貴族としてもっとも大事なことだ。良くわかっているようでなにより」
「セラフォルーさまの妹は夢見がちだと聞いていましたが、大分落ち着いたようで。冥界に戻ったことで元の聡明さを取り戻せたようですな」
後ろで匙が何やら悶えているが、お偉いさんたちへの受けはかなり良かった。懸念だったセラフォルーさまも「ソーナちゃんがそういうなら、それでいいか」と手出しはしてこないつもりのようだしな。
その後も順に発言していき、最後にグレモリー家の番になった。先に発言するのは男子であるグロースだ。
「俺の目標はグレモリー家を継ぎ、より発展させることです。まだ漠然とした目標ですが、俺こそグレモリーを名乗るにふさわしいと言ってくれる父や家臣団のためにこれは譲れません」
ここでグロースがぶっこんだ。リアスはサーゼクスさまやグレモリー夫人に次期当主として推されているが、決定権を持つのは現当主であるグレモリー卿だ。そのグレモリー卿から次期当主に推されていると言ったのだ。今後、社交界ではグロースが次期当主として扱われるようになるだろう。
当然、リアスは黙って聞いていられず、グロースに噛みついた。
「グロースッ! それどういうことよッ!?」
「どういうことかと言われても、そのまんまだ。父上からは俺が次期当主に推されている。リアスが聞いてないのは、次期当主候補として父上は考えてなかったからじゃないか? リアスは正直、グレモリーとは言い難いくらいバアル家に近い魔力だし。それに『消滅』の魔力を持った奴にグレモリー家継いでもらいたいなら、全ての面でリアスの上位互換なミリキャスいるしな」
グロースが煽りかえす。言ってることは何も間違ってないが、リアスとしては一番言われたくなかったことだろうに。そんなこと言ったら余計キレるぞ。
ただまぁこの件に関してはサーゼクスさまは表立って意見することはないし、問題ないと言えなくもない。
個人的に話す程度ならともかく公式な場でグレモリー卿の考えに反する意見を言えば魔王による過干渉になり、本来なら起きなかったはずの問題が噴出するだろうから我慢するはずだしな。余計なことをされる前に外堀を埋めておくのは悪い手ではないだろう。
その後、これから行われるレーティングゲームで次期当主を決めることをセラフォルーさまに提案されるが、リアスが負けた時に釣り合うだけのものを出せないことを理由にグロースが拒否。結局収拾がつかず、リアスだけ目標を語らないまま会合は終了した。