ガンダムビルドファイターズ AS   作:Begierde

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phase:1 蘇る翼 前編

 いつだったか。

 ガンプラバトルなんて興味ない――そう思っていた時期があった。

 しかし。昨晩、あの映像を目にしてから、心の内に沸き上がる高揚感を、僕は抑え切れずにいた。

 

 「ガンプラバトルかぁ……」

 

 土曜の昼下がり。自室で自作のガンプラを弄りながらひとり呟く。

 

 「作るだけならなぁ……動かすの苦手だもんなぁ」

 

 事実、ガンプラ製作技術ならば多少の自信がある。

 過去にも、腕試しで出場したガンプラコンテストで、優秀賞に何度か入賞したことがあったくらいだ。

 しかし、ガンプラバトルで、いざ自作の機体を動かすとなれば話は別だった。

 別に、ビームライフルによる射撃が当たらないだとか、振るったビームサーベルがすっぽ抜けるだとか、そういった音痴というわけでもない。

 ガンプラファイターとしての腕前は、客観的に見ても平均くらいだろう。

 それでも、世界、いや、全国を目指すにはレベルが足りない。そう自負している。

 第一、僕の周囲には――。

 

 『おーい、アスカー!! いるかー?』

 

 玄関のチャイムが鳴ると同時、周囲を憚らない大声で僕の名前を呼ぶ声があった。

 僕は複雑な表情を浮かべながらも、騒音による近所迷惑を考慮し、速やかに階段を降りて声のもとへと向かう。 

 玄関に着くなり、勝手にドアが開く。そこから現れたのは、不敵な笑みを浮かべた韋丈夫だった。

 

 「……サカキ先輩。もういい歳なんですから、そんな夏休みで浮かれている小学生みたいに呼ばないでください……」

 

 「何を言うか。我々はまだ高校生だぞ? 充分学生の身分だ。小学生も高校生も子供には変わるまい。子供が子供っぽいことをして何が悪い」

 

 眼前で悪びれもせずにっこり笑う彼の名は、サカキ・カズマという。

 近所に住む、僕にとっての幼い頃からの兄貴分であり、優秀なガンプラファイターだ。

 加えて、僕の通う学園の三年生であり、その滅茶苦茶な言動からは信じられないが、同校にあるガンプラ部の部長でもあった。

 

 「それで、今日は何ですか? ツチノコでも見つけましたか?」

 

 「さらりと酷いことを言うな、君は。……話を戻そう。今日、君の家を訪れたのは他でもない。……例の件だが、考えてくれたか?」

 

 「……それは」

 

 僕は言葉に詰まった。

 例の件。その内容は至って単純ながらも、僕にとって一世一代の決断を迫られるものでもあった。

 

 「まだ決心がつかないか? まぁ、まだ時間はある。焦ることはないが……俺としては、是非君に出場して欲しいと思っている」

 

 そう、例の件とは何ということはない。

 一ヶ月後に開催されるガンプラバトル選手権に、僕が先輩と一緒に出場するかどうか、ということだった。

 しかも、今回の選手権は本戦とは別枠で、新ルールによる三人一組のチーム戦が実施されるという。

 そのための数合わせとして、僕に声がかかったという経緯がある。

 正直、先輩のお誘いはとても嬉しかった。

 本来なら、学園のガンプラ部に所属している部員から出場メンバーを引き抜いた方が、実力もあるし何かと融通が効いただろう。

 しかし、先輩はそれを呑んだ上で、わざわざ僕を指名してくれた。

 だからこそ、その誘いはできれば断りたくはなかったが――ここに来て、僕のファイターとしての実力が邪魔をする。

 

 「でも、先輩だって知ってますよね? 僕が……ファイターとしては弱いってことを」

 

 「当然。何しろ、ガキの頃からの付き合いだ。バトルで俺に勝ったことなんて、片手で数えられるくらいだったからな」

 

 「……うぐ。そこまでわかっているなら、なぜです?」

 

 「アスカ。昨日放映していた、第7回ガンプラバトル選手権大会――その決勝、いや、一部始終を、君は見ていたか?」

 

 瞬間、僕は知らずと息を呑んでいた。

 忘れもしない。あの光景は、しっかりと目に焼き付いている。

 

 「はい。……あの舞台で戦っていた彼は――イオリ・セイは、この地区でも有名なガンプラビルダーでしたから」

 

 「そうだな。通う学園こそ違えども、その制作技術の高さはこちらまで轟いていたほどだ。そんな彼が、ビルダーとして、ファイターとして、世界に名を上げた。……これを聞いて、見て、君は何かを感じ取っているんじゃないか?」

 

 先輩の指摘はもっともだった。

 たとえ、幼い頃からのガンプラバトルの戦績がボロボロだったとしても。

 僕は、今、猛烈に戦いたい。血の滾るようなガンプラバトルがしてみたい。

 あの決勝戦の映像を見た時から、自然と、そう考えるようになっていた。

 

 「先輩、僕は……」

 

 「ふっ。とりあえず、近場のバトルスペースまで行こうか。話はそれからだ」

 

 まるで心の内を見透かされたかのように、僕は先輩に言われるがまま、愛機を手に家を後にした。

 

 

 ◇

 

 

 イオリ・セイ。

 どことなく、僕と似通った存在でありながら、ビルダーとして大成した少年。

 その存在を知った時から、僕のなかに奇妙な対抗意識が芽生え始めていたことを、今でも覚えている。

 そして、それは今でも燻ぶり続け、遂には抑え切れなくなってしまっていた。

 だから、今日、サカキ先輩が僕の家を訪ねてきたことも、こうしてバトルスペースに足を運んだことも、きっと必然だったのだろう。

 

 「それじゃ、さっそく始めるとしようか。……こうして戦うのは、随分と久しぶりだな、アスカ。覚えているか?」

 

 「ええ、まぁ。……あまり思い出したくはないですけど」

 

 小学生の頃、初めてガンプラバトルを経験して以来、この先輩のおかげでコテンパンにやられ続けてきたのだ、忘れるわけがない。

 ただ、やられっ放しだったからといって、決してつまらなかったということはなかった。

 この近所に、僕と同年代の子供が少なかったせいもあるだろう。

 サカキ先輩は、学校が終わった放課後、僕とよく一緒にガンプラで遊んでくれた。

 それはきっと、先輩なりの心遣いだったのだろう。だから、僕はたとえ負け続けようとガンプラバトルで楽しく遊ぶことができた。 

 そして、それはサカキ先輩だけではない。何より――。

 

 「これで……シオンがいれば、懐かしの面々が勢揃いだったんだがなぁ」

 

 どこか遠くを見やる先輩。

 ふと思い出した人物が、まるでこの世を去ったかのような口ぶりだが――そうではない。

 

 「シオン姉ちゃ――いや、クジョウ先輩はまだ生きてますよ。勝手に殺さないでください」

 

 「……冗談だよ。まぁ、あいつもどこかでガンプラファイターとして名を上げてるだろうさ」

 

 「いや、どこかって、隣町ですけど……」

 

 相変わらず言動が無茶苦茶な人だった。

 そう、僕の幼馴染はもうひとりいる。名をクジョウ・シオン。

 僕よりひとつ年上のお姉さんで、中学校を卒業して以来、親の都合で隣町に引っ越してしまったのだ。

 彼女も、サカキ先輩と同じく、通っている学園のガンプラ部部長をしていると聞く。

 つまり、クジョウ先輩も優秀なガンプラファイターというわけだが――。

 思い返してみる限り、周囲のファイターのレベルが高過ぎたがために、僕はファイターとして平凡の域を出なかったように思う。

 だから、いつしかガンプラバトルから身を引き、ビルダーとして観戦する側に回っていってしまったのだ。

 

 「さて、思い出話は終わりだ。準備はいいな、アスカ?」

 

 「はい。ただし、一戦だけですよ」

 

 「ほう、一戦でいいのかな?」

 

 そう言って不敵に笑う先輩は、バトルシステムを起動させた。

 青白い粒子が装置から解き放たれ、徐々にフィールドを形成していく。

 選択された戦場は――荒野。

 身を隠すための大型の遮蔽物が少ないかわり、ガンプラの機動性を思う存分発揮できるフィールドだ。

 

 「……遂に、この時が」

 

 バトルシステムにGPベースをセットし、持参したガンプラを置く。

 僕が持参した愛機。丹精を込めて作ったガンプラ、名を――ビルドインパルス。

 『ガンダムSEED』シリーズに登場するインパルスガンダムの改造機だ。

 コアスプレンダーなどの分離構造こそ廃しているが、バックパックのシルエット換装によるマルチロール性はそのままにしてある。

 また、機動性向上のため、腰部には二基のテールバインダーを装備し、シルエットなしの状態でも高い機動性を発揮できるように改造を加えた。

 今回に限っては、シルエットなしの状態で戦うことにした。武装も、ビームライフルとビームサーベルだけのオーソドックスなもの。

 所詮、行き当たりばったりなガンプラ熱を冷まさせることが目的の戦いだ。先輩も、特に何も言及しないだろう。

 しかし、ファイターとして戦うのは本当に久しぶりだ。

 思えば、かのイオリ・セイは、優秀なファイターを相棒としていたと聞いている。

 僕には、そういった存在がいない。たとえビルダーとして優秀だろうと、たったひとりで戦わなくてはならない。

 過去に染み付いた操縦技術を思い出しながら、バトルスタートの合図を待つ。

 その瞬間は、一秒と待たず来た。

 

 「クゼ・アスカ、ビルドインパルス――行きますッ!!」

 

 『サカキ・カズマ、デルタガンダム・ワイルドウィーゼル――出撃する!!』

 

 カタパルトから射出され、蒼穹の空に向かって風を切る。

 

 「……そうだ、この感覚だ」

 

 随分と懐かしかった。忘れようにも忘れえない感覚。

 自らが作ったガンプラと一体になったかのような錯覚すら覚えさせる。

 

 「いや、思い出に耽っている場合じゃない……先輩を見つけないと」

 

 ミノフスキー粒子散布下では、レーダーが効かない。

 となれば、目視での視認が必要不可欠になるわけだが――。

 

 『――もらったッ!!』

 

 「……なッ!?」

 

 瞬間、何もない青空の一画から眩いビームが放たれていた。

 

 「くそ……ッ!!」

 

 機体を捻らせ、ビームを躱す。

 初撃にも関わらず、その狙いは恐ろしく正確だった。

 すぐさま、その発射源を特定する。そこには、熱く照りつける太陽を背に、一機のガンプラが宙を舞っていた。

 

 「……これが、サカキ先輩のガンプラ!?」

 

 濃緑に染められた機体。背負い込んだ巨大なバックパック。

 そして、突き付けられたビームライフルの銃口は、獲物を狙う狩人の如く。

 デルタガンダム――『MSV』に登場する可変試作MS、その改造機。

 ほぼ原形が見当たらないほど改造されているが、それはサカキ先輩のビルダーとしての技量の高さゆえだろう。

 

 『……言っておくがな、アスカ。こうしてフィールドに出た以上、いつ撃墜されても後腐れはなしだ』

 

 「わかってますよ……ッ!!」

 

 『ふっ、ならばかかってこい。君のガンプラの性能を見せてみろッ!!』

 

 言うや否や、正確無比なビームによる射撃が襲った。

 それを、際どいところで次々と躱していく。防戦一方だが、相手は現役のファイターだ。

 様子を伺い、攻め時を見つけるしかない。

 

 『さぁ、どうした。君のガンプラの性能は、その程度かッ!!』

 

 ビームによる槍衾は徐々に勢いを増していく。

 加えて、その狙いは正確。たとえ回避できても、こちらの体力が削られていくだけだ。

 

 「くッ……!!」

 

 駄目だ。空中戦は相手が得意とするところ。

 ましてや、遮蔽物が一切ない空間だ。躱し続けるにも限界がある。

 無理に付き合う必要はない。作戦変更。

 

 『ふっ、逃げる気か?』

 

 何とだって言えばいい。

 ビームの間隙を突き、機体を反転。スラスターで加速しつつ、一気に地表を目指す。

 地面ギリギリを滑空し、更に加速。手近な岩場まで後退する。

 

 『無駄だッ!!』

 

 直後、前方の地面にビームが直撃した。

 

 「この程度ッ……!!」

 

 一瞬にして凄まじい土煙と土塊が巻き上がるが、気にも留めない。

 蛇行し、上空から撃ち放たれるビームを寸でのところで躱す。

 背面飛行状態の機体をくるりと反転させ、ビームライフルを構える。

 土煙に紛れて、一瞬映った空中の敵機目掛け、トリガーを引く。

 

 『うおっとッ……』

 

 さすがに直撃はしなかったか。

 だが、多少の時間は稼ぐことができた。

 目標地点である岩場に滑り込み、身を隠すと同時に態勢を整える。

 

 「あの機体……完成度高いな」

 

 思えば、サカキ先輩は幼い頃から可変機が三度の飯より大好きな変人だった。

 そのこだわりようと言えば、シオン姉ちゃんが引くほどだったが、それでもガンプラの完成度の高さには目を見張るものがあった。

 あの機体――おそらく遠距離射撃戦が主体の狙撃機で間違いないだろう。

 高い機動性が与えられているのも、有利な射撃位置を先制して確保するために違いない。

 先手必勝ですぐさまこちらを補足したのも、その快速性あってこそ。

 

 「どう戦えばいい……?」

 

 理由はどうあれ、ファイターとして戦う以上、勝利を得るは必定。

 たとえ敗れようと、せめて一矢は報いたい。

 

 「ならば……ッ!?」

 

 刹那、眼前を極大のビームが襲った。

 

 「何ッ!?」

 

 咄嗟に、左腕に装備していたアンチビームシールドを展開、スライドした装甲の内部からビームシールドが形成される。

 凄まじい衝撃。シールドによる防御で何とか防ぎ切れているが、先程のビームライフルからの射撃とは、比較にならない威力。

 おかげで、身を隠していたはずの岩場は一部を除いて融解。そのほとんどが一瞬で吹き飛んでしまっていた。

 

 『見つけたぞ、アスカッ!!』

 

 直上から迫る敵影。

 サカキ先輩のデルタガンダムが、間髪入れず、真っ向から突っ込んできていた。

 

 「……そうか、ジェネレーター直結のビームキャノン!!」

 

 敵機のバックパックから、両肩にスライドするように二門の火砲が覗いていた。

 本体のジェネレーターと直結したビームキャノン。あれほどの威力、そう想定する以外にない。

 再び、その砲門が光り輝く。速射性能も高いということか。

 

 「でも、こっちだって……!!」

 

 刺し違える覚悟で、ビームライフルを連射する。

 砲撃態勢に入った機体は、どんな機体であれ隙が生まれる。

 そこを突ければ僥倖だったが――。

 

 『狙いが甘いな』

 

 瞬間、デルタガンダムから二条のビームが撃ち放たれた。

 

 「……間に合えッ!!」

 

 ビームライフルを投げ捨て、再びシールド構える。

 先程よりも正面から防御しているぶん、その衝撃力は計り知れなかった。

 シールドの耐久値が見る見るうちに減っていく。

 だが、このビルドインパルスには、手持ち式のシールド以外にも、両腕の肘にビームシールド発生器を仕込ませてある。

 たとえ、シールドが破壊されようとも、即座にビームシールドを展開させれば――。

 

 『正面ばかりに気をとられ過ぎだッ!!』

 

 「え……!?」

 

 眼前のビームを防ぐあまり、そこから、僕の意識は完全に消えていた。

 横目に映ったのは、投擲されたハンド・グレネード。放物線を描くようにして、ビルドインパルスの背中へと投げ込まれたそれは――。

 

 「……ッ!!」

 

 間髪入れず炸裂。防御が手薄になっていたバックパックを、完全に破壊してみせた。

 モニターには機体の出力低下を告げるメッセージ。けたたましいアラートが鳴り響く。

 しかし、完全に機体の推力が失われたわけではない。まだ、腰部のテールバインダーが残って――。

 

 『守るばかりでは、敵は倒せない』

 

 ようやく収まったビームキャノンによる砲撃。

 高空から落下するように迫るサカキ先輩のガンプラは、右手にビームサーベルを抜き放ち、今にも斬りかからんとしていた。

 

 「……う、うあぁぁぁッ!!」

 

 まるで、己の心を見透かされているようで。

 まるで、挑戦を諦め、安全を求め続けた心を責められているようで――。

 苦し紛れに胸部の20mmCIWSを猛射するが、その尽くを先輩はシールドで防いで見せる。突撃は止まらない。

 こちらもビームサーベルを抜き放ち、応戦の構えを取る。

 刺し違えても倒せばいい。倒せばいいはずなんだ。

 なのに――。

 

 『君の負けだ――アスカ』

 

 僕のビルドインパルスは、無惨にも胴体を真っ二つに両断されていた。

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