ガンダムビルドファイターズ AS   作:Begierde

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phase:3 闘争の果てに 前編

 『その程度で、このTR-Xのスピードに追い付けるものかよッ!!』

 

 漆黒の闇に呑まれた宇宙空間に、一筋の雷光が奔る。

 否、それは雷光ではない。熱を帯びた、青い噴射炎が為す軌跡。

 一機のガンプラが、天より落ちる稲妻が如き速さで宇宙を駆けているのだ。

 

 「……確かに、そのスピードは驚異的だ」

 

 敵機の挙動を認め、改めて僕は感動した。

 かつて僕がいた世界では、決して知り得なかっただろう新たな世界の片鱗が、今、そこで宙を舞っている。

 素晴らしい。斯様なガンプラと、そして、ファイターと鎬を削り合えるとは。

 

 「だったら、それに応えなきゃ意味がない!!」

 

 スロットルを操作。機体各部のスラスターを全開。

 更に、バックパックのウイングを展開し、ヴォワチュール・リュミエールを起動。

 一対の翼から赤い粒子が放出される。

 

 「行くぞ、ビルドインパルス……ッ!!」

 

 刹那、莫大な推進力を得たビルドインパルスは、宇宙空間に漂う小隕石を縫うように避け、一挙に敵機へと肉薄してみせた。

 

 『な、なんだと……!?』

 

 敵機のファイターから驚愕の声があがった。

 どうやら、相手もスピードに関してはかなりの自信があったようだ。

 実際、敵機の姿を間近で見ると、機動性に優れたパーツ構成をしていることがわかる。

 ジオン系MSを思わせる流線型のボディ。機体外部に張り出すように取り付けられた、合計四基のシールドブースターとプロペラントタンク。

 その外観は、おそらく『AOZ』に登場するTRシリーズを踏襲したであろうシルエットで、機体色も俗にティターンズカラーと呼ばれる濃紺色だった。

 一見、かのバーザムにも似た頭部を有しているが、目元まで覆う強化センサーユニットが取り付けられているため、その詳細はわからない。

 

 『チッ、その程度でつけあがるなよ。高速戦闘の神髄ってモンを教えてやる!!』

 

 あと一歩というところで、敵機は反転。

 併走状態だったこちらを置き去りにし、遥か彼方まで距離を取った。

 かと思えば、再びこちらを目指して加速。眼前を通り過ぎ、更に反転して再接近。

 

 「く、撹乱か……!?」

 

 確かに、こう目まぐるしく動きまわられては照準はおろか、追随すらできない。

 こちらが術中にはまったと見たのか、敵機は撹乱と同時に短銃身のビームライフルによる連続射撃を加えてきた。

 狙いは決して正確ではない。しかし、ばら撒くように放たれるそれは、四方八方から繰り出されることによってこちらの回避行動を一層困難にした。

 迫り来るビームの嵐を、闘牛士のように身を捻って躱す。

 

 『ハッ!! そうやって惨めに避け続けるがいい!!』

 

 調子に乗ったのか、敵機はあえてこちらの急所を狙わず、わざと嬲るような攻撃を仕掛けてくる。

 

 『このスピードには付いてこれまい!! 反撃もできず、体力が尽き、弱ったところを美味しく――――ぐあッ!?』

 

 直後、敵機の脚部に取り付けられていたプロペラントタンクの一基が爆発した。

 

 「あ、当たった……?」

 

 ビームライフルを構えたまま、茫然と呟く。

 別に、反撃ができなかったわけではない。

 敵機が最も接近した瞬間を狙って射撃しただけの、まぐれ当たりも同然だったが――。

 

 『な、貴様ッ……よくもオレをコケにしやがって!! オレを誰だと思っていやがる!!』

 

 なぜだか、逆上した敵機のファイターから罵声を浴びていた。

 

 「え、いや、タウンカップの一参加者じゃ……」

 

 『き、貴様……オレを愚弄する気か!! いいか、よく聞け!! オレはな、このタウンカップ常連にして――』

 

 「――万年三位の半端者、でしょ?」

 

 その時、バトルシステムの外から、澄んだ声音が割って入った。

 

 「……え?」

 

 その声は、聞き覚えのある声だった。

 凛とした響きのなかに、力強い芯の通った懐かしい声。

 バトル中にも関わらず、僕は無意識のうちに、その声の主を凝視してしまっていた。

 

 「……シオン、姉ちゃん?」

 

 「久しぶりね、アスカ」

 

 艶やかな、長い黒髪。きりっとしたまなじりに、澄んだ瞳。

 大和撫子という言葉がよく似合う彼女こそ、僕のもうひとりの幼馴染――クジョウ・シオンに他ならなかった。

 

 『クジョウ、貴様……言ってはならないことを言ってくれたなぁッ!? お前やサカキのせいで、オレは何度この大会で苦渋を飲めば――』

 

 「はいはい、その言葉も聞き飽きたわよ。……ま、その諦めない姿勢と根性は認めるけどね。アスカ、さっさとケリを着けて、勝ち上がってきなさい」

 

 「あ、う、うん」

 

 『貴様ら……このオレを差し置いて堂々と会話とは――万死に値するッ!!』

 

 激昂したと見える敵機は、誘爆を防ぐためか全身のプロペラントタンクをパージ。

 身軽になったその状態で、真っ向から接近してきた。

 

 「くッ……!!」

 

 引き剥がされていた意識をバトルに集中させる。

 ビームライフルを構え、照準。すかさず、トリガーを絞り込む。

 しかし、敵機はバレルロールを巧みに用いて、発射されたビームの切っ先を器用に躱す。

 相手のファイターの言動こそ滅茶苦茶だが、さすがはタウンカップ常連と言ったところか、その操縦技術は確かなものだった。

 

 『フン。クジョウの知り合いだか何だか知らんが、悲願の優勝のため、オレの踏み台になってもらうッ!!』

 

 敵機はビームライフルを連射するとともに、空いた左手でビームサーベルを抜刀。

 更に増速し、こちらとのすれ違いざまにビームサーベルを振りかぶった。

 

 「させるかッ……!!」

 

 刹那、眩い電光が二機の間を奔った。

 

 『チィッ……!!』

 

 即応し、敵機のビームサーベルに、こちらも左手で引き抜いたビームサーベルをぶつける。

 

 「僕にだって、負けられない理由がある……ッ!!」

 

 互いに鍔迫り合ったまま、敵機の隙を伺う。

 

 『ハッ!! 新参者がよく吼える。その程度の執念で、この先を勝ち進めるなどと思うてくれるなよッ!!』

 

 「……くッ!?」

 

 一喝と同時、敵機は出力を上昇させたのか、結び合ったビームサーベルが次第に押し返され始めた。

 ジリジリと迫る敵機の眼光。しかし、この鍔迫り合いに無理に付き合う必要はない。

 そう判断した僕は、わざと押し負けるように、結び合ったビームサーベルを一息に振り払った。

 代わりに、右腕の肘を突き出し、ビームシールド発生器を展開、防御のためのシールドを形成する。

 当然、敵機はそのままの勢いで、ビームサーベルを押し込んで来るかと思われたが――。

 

 『――その単純さが命取りだッ!!』

 

 敵機の挙動は、僕の予想とは違っていた。

 無数の噴射炎が煌めくと同時、敵機はそのまま宙返りし、こちらと距離を取ったかと思えば――。

 

 『我が必殺の一撃、とくと味わえッ――!!』

 

 機体各部に取り付けられていた、加速用のシールドブースター四基をこちらに向け指向。

 直後、間髪入れずにその全てを文字通り撃ち出していた。

 

 「……なぁッ!?」

 

 そういった攻撃方法もあるのか、と驚愕するも一瞬。

 それは奇想天外ながら、この距離では致命的だ。

 幾らビームシールドを張っているとはいえ、あれだけの質量を持った物体が四基も直撃されては無傷では済まない。

 

 「……それでも」

 

 ここで負けるわけにはいかない。

 右手のビームライフル、そして、左手のビームサーベルを投げ捨てる。更に、ビームシールドの展開を中止。

 代わって、デスティニーシルエットに装備されたレーザー対艦刀――アロンダイトを引き抜き、両手で構える。

 

 「いくぞ――ッ!!」

 

 ウイング展開。赤い粒子が、虹色の煌めきとなって放出され、ビルドインパルスの周囲を包み込んだ。

 恐怖はない。この機体ならばやれる。それだけの自信が、今の僕にはある。

 そして、たとえ相手にどのような理由があろうとも、こちらにだって負けられない理由――約束があるのだ。

 だから、これくらいの窮地、乗り切って見せねば友に見せる顔がない。

 

 「見切った――ッ!!」

 

 刹那、閃く四つの残光。

 正面から飛来していた四基のシールドブースターは、一瞬にして真っ二つとなり、計八つの残骸となって後方に抜けていった。

 

 『な、なな、き、貴様ッ……今のを、全て斬り捨てたというのか……あの一瞬で!?』

 

 「僕だって、この大会を前に、ただ手をこまねいていたわけじゃない」

 

 加速し、そのままの勢いで敵機に迫る。

 シールドブースターがもたらす推進力に頼っていたと思しき敵機は、それが無くなった今、ただ闇雲にビームライフルを乱射するだけの木偶に成り下がっていた。

 

 『……く、来るなァッ!!』

 

 「僕だって、好き好んであんな地獄みたいな特訓したくなかったのに――ッ!!」

 

 『うわああぁぁッッ!?』

 

 その瞬間、勝負は決していた。

 

 

 ◇

 

 

 「おお、アスカ。実にいい試合だったぞ。大会初参加ながら、中々に魅せる試合だったじゃないか」

 

 タウンカップ開催当日。一回戦が終了した僕を待ち受けていたのは、サカキ先輩だった。

 相も変わらず不敵な笑みを浮かべているが、昨日までの地獄のような苦しみを味わわせてくれていたのは、この先輩なのだ。

 

 「でも、先輩の特訓のおかげもあるのかなぁ……」

 

 「何か言ったか?」

 

 「いえ、何も……」

 

 この話題は忘れよう。もう終わったことだ。

 それよりも、今の僕には確かめるべきことがある。

 

 「あの、サカキ先輩。さっき、シオン姉ちゃ――クジョウ先輩を見かけませんでしたか?」

 

 先程の一回戦、予期せぬ再会の仕方だったが、試合中、とにかく気になって仕方がなかった。

 

 「ああ、さっき会ったぞ。何年ぶりの再会にもなるというのに、相変わらず素っ気ない態度だったが」

 

 「らしいといえばらしいですけどね。それで、今はどちらに?」

 

 「――あそこだ」

 

 そう言ってサカキ先輩が指差した先、他の出場者の一回戦が行われているであろうバトルスペースにその特徴的な黒髪の後ろ姿を見つけた。

 しかし――その姿は妙だった。

 

 「えっと、あれってクジョウ先輩で間違ってないですよね?」

 

 「ああ、間違っていないとも。間違ってはいないが……アスカ」

 

 「……はい」

 

 「あいつは……あんな格好をする趣味の持ち主だったか?」

 

 サカキ先輩の言葉に、僕は無言で首を横に振っていた。

 絶句とは、こういった状況を言うのだろうか。

 確かに、その後ろ姿は間違いなくクジョウ先輩のもの。

 しかし、彼女はあろうことか――赤い制服に身を包んでいた。

 否、厳密に言うなれば、それは『ガンダムSEED』シリーズに登場する組織――ザフト軍の女性士官用制服だった。

 

 「巷で流行ってる、コスプレってやつですかね……?」

 

 「それも、ザフトの赤服とはな。しかも、スカート着用タイプだぞ。まぁ、エリートっぽいところはらしいが……アスカ、よく見ろ。あいつ、顔が真っ赤だぞ。大丈夫か?」

 

 サカキ先輩に指摘され、目を凝らして見ると、確かにクジョウ先輩は耳元まで頬を朱に染めていた。

 加えて、どうみても早く試合を終わらせたいというオーラが立ち昇っている。

 先程、試合中の僕に激励の言葉を投げ掛けてきた人物とは、まるで別人のようだった。

 

 「……これは、何かの陰謀でしょうか?」

 

 「ありうるな。彼女の背後、おそらく、同じ学園のガンプラ部のメンバーだろうが……これ見よがしにシオンを激写しているな。そのほとんどが女子ばかりというのも謎だが」

 

 事実、羞恥のさなかにいるであろうクジョウ先輩の周囲には、瞳の中にハートでも浮かべていそうな女子が大勢たかり、黄色い歓声をあげていた。

 その光景を見て、僕は何となく察してしまった。

 サカキ先輩と視線を交わすと、彼もまた、察してしまったらしく、僕たちふたりは無言で頷き合い、それ以上その話題に触れないようにした。

 

 「だが、やはり侮れんな。見ろ、あの対戦相手。シオンのガンプラに傷ひとつ、いや、危機感すら負わせられていない」

 

 二機のガンプラが飛び交うバトルスペース。それを見て、サカキ先輩は感嘆とも畏敬ともとれる呟きを漏らしていた。

 

 「……ネガ・フリーダム」

 

 懐かしい機体だった。

 そして、それがクジョウ・シオンの愛機。

 『ガンダムSEED』シリーズに登場するフリーダムガンダムをベースとした改造機で、基本の兵装はそのままに、同作に登場するデスティニーガンダムの要素を一部取り入れたハイブリッド機となっている。

 黒を基調としたカラーリングに塗り替えられたこのガンプラは、クジョウ先輩が幼少の頃から使い続けてきた、まさに相棒のような存在だった。

 

 「思い出すなぁ……」

 

 思えば、僕がインパルスベースの機体を愛機としているのも、クジョウ先輩の一声あってのものだった。

 僕の名前が『ガンダムSEED』シリーズに登場するキャラクターと似ているから、という理由だけで勧めらたガンプラがインパルスだったのだ。

 その勧めを馬鹿正直に今まで使い続けてきた、と言えば単純だが、当時の僕にはそれがとても嬉しかった。

 数少ない幼馴染の言葉であればなおさら、意地でも使い続けようとここまで来たのだ。

 

 「――どうやら、終わったみたいだな」

 

 サカキ先輩の呟きで、僕は我に返った。

 見ると、クジョウ先輩のネガ・フリーダムが放った一斉射撃によって、相手のガンプラが撃ち抜かれている瞬間だった。

 

 「試合時間は――おおよそ三分と言ったところか。相手にしては持った方だな」

 

 「う、やっぱり“瞬雷”の渾名は伊達じゃないかぁ。勝てるかなぁ……」

 

 「おいおい、今から弱気になってどうする? それに、まだ二回戦が先だ」

 

 背に圧し掛かるプレッシャーの重みを理解し始めた時、僕たちふたりの後ろから近付く影があった。

 

 「――なぁ、クジョウ・シオンとチームを組みたがってる友人ってのは、君らのことかい?」

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