広場に突如出現した一匹の竜。
全身が体毛に覆われていて暗灰色の毛並みをしている。
身体のあちこちがゾンビみたいに腐りはててボロボロと崩れていて不気味な様をみせている。
「な……なんなんだ、あいつは!」
声が背後から聞こえ振りかえるとアッシュが呆然として呟いていた。
「ドラゴン……なのか?」
先程の俺と同様にドラゴンの毛並みを見て不気味な様を感じているのか慄然となって呟いた。
「肉が腐敗しているんだ……。」
……ついに原作開始だな。
このまま無理に介入しなくてもアッシュとエーコがいればかたがつくな。
……などと思っていた俺はすぐに後悔した。
何故なら原作通りにいかなかったからだ……。
聖ダーラム広場に突如もう一体の屍灰竜が飛来した。
「はっ!?」
呆然としてしまった俺。
二体目の屍灰竜は最初の屍灰竜より2倍もでかく気性も荒く広場の周辺の建物を尻尾でなぎ払っている。
「!?
まずい、まだ住人が避難しているのに……。
このままじゃ……。」
そう思った時だった。
原作通り最初の屍灰竜はアパートと喫茶店が入る建物を攻撃魔法で吹き飛ばした。
「そんな……。」
アッシュは呆然と立ち尽くした。
煙が晴れると建物を守るように一匹の竜と竜に跨がる竜騎士が立ちはだかっていた。
――――レベッカ・ランドール。
アンサリヴァン市で知らない者はいない最強の竜騎士の一人だ。
「レベッカさん!」
レベッカの名を呼ぶアッシュ。
「『喫茶 カフェ・エサロワ』には乙女の夢が詰まっている。
アンサリヴァンの生徒会長として絶対に阻止するぞ!!」
……まずいな。
原作通りならこのあとクー・フリンですら追い詰められアッシュはシルヴィアにランスロットに乗せてもらいエーコが模造した似非聖騎甲がアッシュを包み込み一時的に聖天竜騎士となったアッシュにより屍灰竜は倒されるが……。
まさか……もう一体の屍灰竜が飛来してくるなんて……。
一体でも苦戦した相手なのに二体相手では恐らくアッシュ達に勝ち目はないだろう。
誰かが相手をしないといけない……。
誰が?
……。
俺がやるしかないのか……。
「イヴ!!
頼みがある……。
聖騎甲を造ってくれ!」
イヴに聖騎甲(アーク)の製作を打診したがイヴの答えは予想通りに難色を示していた。
「ア、アンタ……自分が言っている意味分かってるの?
竜族にとって聖騎甲を献呈するということは、『己の全てを主人に捧げる』ということなのよ?
肉奴隷が何寝言をほざいているのよ……。
か、噛み砕くわよ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るイヴ。
だが事が事だけに引き下がれない俺は土下差をしてイヴに頼み込んだ。
「お願いだ、このままじゃこの街を守れない……。
頼む、お前の……イヴの力が必要なんだ。」
頭を地面につけて頼み込む……するとイヴは「はぁ~。」と溜め息を吐きヤレヤレと言わんばかりに首と手を振って承諾した。
「し、仕方ないわね……。
造らないと生身で行きそうだし……。
傷つくところを見たくないし……。
それに、このままだとクレープ屋も無くなっちゃうし……。
べ、別にアンタの為に聖騎甲(アーク)を造るわけじゃないんだからね!!」
と何やら最後の方はよく聞こえなかったがどうやらイヴは造る気になってくれたようだ。
さて、イヴが聖騎甲を造っている間にどうにかして時間を稼がないとだな……。
「ノア――――!!」
崩壊した建物の方からレベッカがボロボロになった身体を引きずり近寄ってきた。
「大丈夫かよ?
無理するな!!
休んでろよ。」
そう言うと何を勘違いしたのかレベッカは俺を抱き締めてきた。
……。
えっと……。
なんでこうなった?
……。
ま、不味い……。
心臓が……鼓動が速くなる。
血が身体の中心に集まっていく……。
ま、不味い……。
なる……なってしまう。
――――あのモードに――――。
ドクンドクン――――ドクンドクンドクドクドクドク……。
ああ、なって、しまった……。
――――あの、モード……ヒステリアモードに……。
ヒス化した俺は瞬時に現状の分析を始めた。
――――突然現れた二匹の謎のドラゴン。
――――ボロボロと崩れるゾンビの身体。
――――暗灰色の毛並みをしている。
――――原作通りなら二匹の謎のドラゴンの正体は……。
――――屍灰竜《ネクロマンシア》
遺灰を再構築することにより蘇ったドラゴン。
帝国軍の工作員――――ミルガウスの策略により襲いかかってきた災厄。
……原作が崩壊しているが……。
「俺が止めてやる。」