今回は、主人公がヒステリアモードに久しぶりになります。
なるんですが……どうしてこうなった?
頑張れ、ノア君!
「おかしい……何でこんな事になってんだ?」
魔導艦シルヴヌスの中でヴェロニカ王女から渡された衣装を手に持った俺は、鏡に映った自分の姿と手に持った女物の衣装を見てやるせやい気持ちになっていた。
俺は正式にテロリストとの戦いに参加することになった。
ヴェロニカとあの後、ワインの晩酌を共にする約束もした。
王女の世話係まで頼まれたのはまだいい。
本心ではヴェロニカ王女の世話や囮に使われるのを了承するのはかなり面倒で迷惑だと感じているが、王族に貸しを作る事は後々の計画を立てる上でいい交渉材料にもなりそうなので了承した。
日程的にも俺がテロリストを排除する当番はまだ2、3日先の手はずになっている。
その間、王女の身の回りの世話をする事自体はさほど問題はない。
むしろ少しでも家事を失敗しただけで『爆発魔法』をぶっ放すパルとの生活に比べたら安全で快適ともいえる。
だから世話係をする事には文句はない。
しかし、問題は世話係の服装だ。
一般的な男性使用人の衣装は、漆黒のテールコートと蝶ネクタイなどをつけた執事服と呼ばれる物だ。
だが何故か俺に渡されたのは女性使用人が着るメイド服だった。
……おかしい。
頭わいてんのかここの奴ら。
何で男性に女性用の衣装を渡すんだ?
俺に女装癖はない。
鏡を見ても興奮してヒステリアモードになったりは……しないと思う。
思うというのは過去にベレッカや母親や従姉妹に無理矢理女物の衣服を着せられた経験があるが着た後の記憶はほとんどないからだ。
強烈な眠気が襲ってきてその後の事はよく覚えていない。
意識を失う前に鏡で自身の姿を見たということしか覚えていない。
以前、学院でマックスから女性用の制服を渡されて着たがあの時は鏡に写った自分を見る余裕はなく、迫り来る死を撒き散らす変態集団に怯えていた為『恐怖』の感情しかわかなかったからな。
ハッキリ断言できないのが痛いが『俺が女装して鏡をみたらヒスるか?』なんていう検証なんかする必要ない……筈だ。
俺に女装趣味はないからな。
今回も女性の衣服を着る気は全くなかった。
だけど服を渡された時、固まった俺をヴェロニカ王女の命令を受けた騎士団員達が拘束し、王女専属のドジっ子メイドさんにより空き部屋に連行されて大きな鏡の前に連れてこられた。
まさか、こんな時にドジっ子メイドにしてやられるなんて思わなかったなあ。
プリムローズ・シェリーと名乗ったそのメイドは、シルヴィア専属メイド、コゼット・シェリーの姉にあたり、コゼットと似たおっとりとした雰囲気をしている。
もっとも身体つきはコゼットよりもふくよかで、手際のよさもお世辞にもいいとは言えないが……。
そんなドジっ子メイドさんは俺に衣装を渡した後に盛大なドジをしてくれやがった。
家具の上に置かれていた花瓶の水を取り替えようとして手に俺の服を持っていたのにも関わらず花瓶の水を取り替えようと片手で持ち上げて落とし、花瓶に入っていた水をかぶったんだ。
自分の手に俺の服を抱えて持っていたのに……な。
服が乾くまで仕方なく俺はメイド服を着て過ごす羽目になった。
今は身体中を覆いつくすくらい大きめのバスタオルを羽織っている。
男性用の使用人服はないのかと聞いたが他の使用人も騎士団員の奴らも『王女殿下の御命令ですから』と取り合ってくれなかった。
グレンの馬鹿なんて金髪のウイッグに女性用の下着まで持ってきやがった。
一発殴りかかったが避けられて逆に投げ飛ばされた。
普段の俺では鍛え抜かれた騎士団に所属するグレンには敵わないがまあいい。
ミシェルに頼んで後で馬鹿の処刑は傷みを倍にして執行してもらうからな。
「ノア様、申し訳ありませんが、私は新しく使用人になった男の子の所に行ってきますので着替えが終わりましたらそちらのウィッグをお付けになってお待ち下さい」
そう言って鏡台の上に置かれたウィッグ(カツラ)と女性用下着。
「ウィッグはともかく、下着は身につけないからな⁉︎」
「まあまあ、とってもお似合いですのに」
「そんなキラキラと輝かせた瞳で俺を見るなぁぁぁああああ_____‼︎」
シェリーさんは笑いながら部屋から退室していった。
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「似合わん……いや、似合いたくねぇけど」
魔導艦シルヴァヌスに連行された俺は、産まれて初めて男性使用人の衣装を着用する羽目となった。
シルヴィアの姉、ヴェロニカ王女とその親衛隊に拘束された俺は何故だか使用人の衣装を渡された。
理由を聞いたが「すぐに着替えろ」としか答えなかった。
仕方なく渡された、漆黒のテールコートや蝶ネクタイを付けていく。
左腕の包帯だけはぐるぐる巻きのままだけどな。
ヴェロニカ第一王女に勝手に決められた事に対するささやかな抵抗だ。
「アッシュ君、着替えは終わりましたかー?」
扉越しに、朗らかな声が聞こえた。
鏡の前で、呆然と立ちつくしていた俺が振り返った時にはもう、声の主はちゃっかりと更衣室に踏み込んでいた。
その女性は、メイド服を着用していた。
俺が魔導艦シルヴァヌスに連れられた時からヴェロニカ王女の命により俺の身を彼女に預けられていた。
このメイドさんは、底抜けに明るい笑顔を向けてきた。
その時だった。
笑った彼女の顔を見た瞬間、不思議な既視感を覚えた。
この人をどこかで見ている?
いや、違う。
この人に似た雰囲気の人と普段から接している?
ありもしない妄想が頭を過ったまさにその時だった。
「あらあら、アッシュ君
「そんな事を言われても、全然嬉しくないんですけど……」
「えー?どうしてですか?とっても素敵ですよ_____きゃうっ!」
なんの脈絡もなく、メイドさんはつるりと足を滑らした。
「危ない!」
俺は慌てて手を伸ばしたが、予想外の力でメイドさんがしがみついてきた。
しがみつかれた俺は勢いそのままにバランスを崩してしまった。
「うわっ!」
メイドさんの柔らかな感触に思わずドキリとさせられたのもつかの間、二人してドサリと倒れ込んでしまった。
「痛てて……。
ん?なんか柔らかいな?
あっ、ああ……」
なんとか起き上がろうとした俺は、自分の左手がメイドさんの胸を鷲掴みにしていることに気付いてしまった。
掴んだソレは柔らかくたぷたぷとして、俺の手のひらには収まりきらないほとあった。
掴んだと同時に、甘いフルーツを思わせる香りが漂ってきて頬が熱く感じた。
「すっ……すみま「何してんの?」せ……えっ、えっと、誰?」
慌てて謝り、立ち上がろうとした俺にメイド服を身につけた見知らぬ女性が声をかけてきたが俺はその女性には身に覚えはなかった。
「大丈夫?」
心配そうに倒れ混んでいるメイドさんに声をかけている見知らぬメイドさん。
腰までかかる金色のストレートロングヘアに、王家直属の使用人服であるメイド服を身に纏っていて顔は童顔だが、肌はキレイで神秘的な美しさがある。
顔つきはどこかの誰か、身近な人に似ている気もするが『アイツ』がこんな恰好をするわけはないのでそっくりさんか、親族の人なんだろう。
「大丈夫だった?
アッシュに変な事されてない?」
「い、いえ……転んだのはわたくしの責任ですから……」
「そう。気をつけてね、アッシュはああ見えて野獣だから……」
「って、ちょっと待て!
誰が野獣だ!」
「野獣じゃないなら……天然ジゴロ?」
「あらあら。そうだったんですねー」
「誰がジゴロだ⁉︎
貴女も納得しないで下さい!
ちょっと待って……何で俺の名前を知っているんだ?」
「知ってるわ。
貴方の事は昔からよく知っているわよ。
学院にいる誰よりもね……」
「貴女は……」
「あらあら。よく見たら貴方だったんですねー!
とってもお似合いですよー!」
「え?知ってる人ですか?」
メイドさん同士、知っていてもおかしくないのだが、なんだろう。
今の発言で何かが引っかかる。
「アッシュ君もよーく知っている人ですよー!」
「俺がよく知っている人?」
誰だ?
……脳内にとある友人の顔が浮かんだができればハズレていてほしい。
「くすっ……ほとんど毎日会ってるじゃない……。
私よ、私!」
「ほとんど毎日? ……駄目だ、解らない」
貴女は一体誰なんだ?
と、その正体を尋ねようとしようとしたが、そんな俺を他所にプリムさんは謎の少女に近づき、耳元で囁いた。
「とってもお似合いですよ!
……ノア君(ボソッ)」
「……誰それ?
私の名前はリアよ!」