模擬戦を一話で終わらせようと思ってましたが終わりません。
……もうちょっと続きます。
「な、なんだったんだ、一体……?」
ヴェロニカ王女が退室した後、俺はプリムさんとリアと共に再び艦内の様々な雑用を手伝うことになった。
「さあアッシュ様、の……リア様、参りましょう!」
ヴェロニカ王女の態度に呆けていた俺の心情などお構いなしに、プリムさんは俺の手を握り締めると、意気揚々と駆け出そうとして_____。
「ちょっ!そっちは壁だから!」
「へっ?」
俺の注意も虚しく、彼女は頭から壁に突っ込んだ。
リアは俺の隣でその様子を見て微笑んでいた。
止めろよ、リア……。
◇
私、プリムローズ・シェリーはヴェロニカ第一王女殿下の専属メイドをしています。
優秀な妹と違ってドジばかりしてしまってますが……。
そんな私にも、初めての後輩ができました。
それも2人も!
一人目はアッシュ・ブレイク君。
なにやら妹のコゼットとすでに面識があるようです。
妹の知り合いならなおのこと、メイドの教育をしっかりしてあげますわ。
もう一人はノア・リーシュブル君。
男の子なんですがヴェロニカ王女殿下の指示通り、きちんとメイド服を着せてあります。
私がヴェロニカ様の使用人になる前からヴェロニカ様とはお知り合いになっている方でヴェロニカ様の想い人と密かに囁かれている方です。
既に婚約者がいる身ですが、ご安心ください姫様。このプリムが姫様との仲を取り持ってみせます!
親しくなる為にはお互いの事をよく知ることから始めるべきですわ。
姫様には夕餉の後、模擬戦が終わり次第、アッシュ様をとある場所にお連れするように言われてますが彼については何も言われてません。恥ずかしいのでしょうか?
ならば私が姫様の想いを汲んで行動してみせましょう!
ということで姫様とノア君にはとっておきのサービスを私が準備致します。
その前に艦内のお仕事を終わらせないと。
プリム、姫様の為に一生懸命頑張ります!
◇
私は気づけば見慣れない部屋の鏡の前にいました。
鏡に映っている私の姿はというと流れるような金髪の長髪に、屋敷の従者が着ているような服。何故か下着が出しっ放しで置かれていましたが誰が置いたのかはわからなかりません。
いつ鏡の前に立ったのかすら覚えがありません。
少し前までの記憶はあやふやで私が覚えている事は些細な事。
私はアンサリヴァン騎竜学院の上級課程の一年生。
相棒は長い間生まれなかったけど『白羊宮の騎竜祭』でようやく誕生した。
私は相棒に『イヴ』と名付けました。
それは始まりの人類の名前。
竜族に付けるのにはどうかなあと思ったけど何故かあの子にはこの名前が似合うとそう思ったのよ。
『イヴ』は私達人間を下に見下して、主人である私にこう告げたわ。
『あんたが私の飼い主じゃないの、私があんたの飼い主なのよ!』ってね。
飼い主になったイヴは私の事を肉奴隷扱いしながらも少しずつ受け入れ始めた。
アンサリヴァン市が見たこともない巨大で、不気味な屍灰竜に襲われた時には複製とはいえ、聖騎甲を与えてくれたわ。
聖騎甲を進呈するということは竜族にとって身も心も捧げるのと同じこと。
プライドが高い彼女にとって苦渋の決断だったのね。
あれ以来出してはくれないけど近いうちに出してくれると信じてるわ。
彼女は私が長い間待ち焦がれた相棒だけあって賢く、勇敢で、そして_____とても可愛い。
私に妹がいたらきっとああいう感じね。
私には従姉妹はいるけど彼女達は何故か私と目を合わそうとしないのよ。
昔、従姉妹達と着せ替えごっこをした時のことは今でも覚えているわ。
彼女達は私が見つめてもすぐ目を逸らしてしまい、まともに会話もしてくれないのよ。
目があっても顔を真っ赤にしてしまい、気絶した事もあったわ。
私、彼女達に何かしたかしら?
何かした覚えはないわ。
あ、そうそう。
私には姉みたいな人がいるのよ。
その人は生徒会長を務め、学院最強の竜騎士であるレベッカ・ランドール。
彼女は私の知り合いで、学院の先輩の中でもっとも頼りになる人よ。
昔、まだ子供だった頃。
親友であり、姉のような存在のレベッカに従姉妹とのやり取りを相談した所、彼女も何故か顔を真っ赤に染めて意味がわからない事を言い出したの。
『リアと2人で』『婚約』とか『お姉様』とか『法律』とかブツブツ呟いていたけど一体何が言いたかったのかしら?
あら、話が逸れたわね。
私が見覚えのない艦内の鏡の前に立っていたのに気づいた後、私はある事に気がついたわ。
置いてある下着の下にメモがあったのよ。
私はメモの通り、部屋を出てとある客間に向かったの。
客間の扉についた私はまず部屋の戸を叩いてノックをしたわ。
ノックをしてしばらく待ったけど返事が返ってこなかったのでゆっくり戸を開け、中に入るとそこには_____。
燕尾服を着た見慣れた少年とその少年の下には、私が着ている服とよく似たメイド服を着た女性がいたのよ。
どうやら女性は少年に跨われて襲われていたみたいね。
少年は私に気づくと言い訳を始めたけど、私はバッチリ見てしまったわ。
女性の胸をしっかり鷲掴みにしていたのをね!
胸を鷲掴みにしている少年の名はアッシュ・ブレイク。
私の友人で私と似た境遇だった『問題児』。
長い間、相棒に恵まずに学院の『落ちこぼれ』と言われた不幸な少年。
学科の授業はイマイチだったけど、彼には私と似て特殊な才があるのよ。
なんと彼は他人の相棒に乗れたのよ!
それは普通ではあり得ない出来事。
竜族は通常、
他人が背に跨ることを極端に嫌がるわ。
無理に乗ろうとすれば乗ろうとした竜飼い人や竜騎士のみならず、周りの人々、建物、竜自身にも大きな被害をもたらす。
竜に乗るということは竜との信頼関係がなければ叶わない出来事。
だけど彼はそんな常識を覆したわ。
彼は他人の竜に乗れる。
実技の試験の成績は良く、よく友人の一人であるレイモンの相棒に乗っていたわ。
そんな彼に付けられたあだ名は_____。
『どんな竜にも乗れる男』
そんな彼にもついに相棒である竜が目覚めたのよ。
よりによって私の
彼の
何故なら竜の筈なのに人の姿で生まれてきたからだ。
これにはさすがに驚いたわ。
一体何が起きているの?
竜族なのに人の姿で生まれてきたエーコとイヴ。
彼女達は一体何者なのかしら?
私にはわからないわ。
解るのは夢の中でみるもう一人の私なら知っているということ。
確証はないし、どっちの私が私なのかもわからないけど、私なら大丈夫!
きっと私の相棒を導いてくれるわ。
もし、もう一人の私が無理からその時はこの私が彼を護るわ。
私にはその力があります。
義を貫いて大切な人達を護る力が私にはある。
だけど心配なこともあります。
私の記憶は途切れ、途切れで思い出せないことの方が多い。
もう一人の私は私のことを解るかしら?
きっと大丈夫よね?
私は彼を信じるわ。
彼なら大丈夫!
アッシュ達と一緒に艦内のお仕事を終わらせると私は約束通り、模擬戦をする為に訓練所にやってきました。
模擬戦の会場として使うのは学院の訓練所。
普段は学生の
私の目の前、訓練所内には対戦相手がすでにいました。
対戦相手の名はグレン・マクガイア。
ヴェロニカ第一王女殿下の親衛隊長を務める男で、聖天竜騎士です。
「ほう、逃げずに来たのか」
私の姿に気づいたヴェロニカ王女がそう叫んだ。
「はい、模擬戦がしたいと言ったのは私ですから」
「ふん。
「お構いなく」
「……本当によろしいので?」
グレン隊長が眉を細めて聞いてきました。
「ええ。私には人類が生み出した至高の武器がありますから」
そういって右手に持つ最強の武器を見せました。
「なるほど確かにそれも悪くはない。
だが万が一というのもある……。
おい、持ってこい!」
私の武器を見つめながらヴェロニカ王女はグレン隊長の部下の親衛隊員の一人に指示を出しました。
「あらあら。これさえあれば私は負けない自信がありますのに……」
全く過保護なんですから……と心の中で愚痴をこぼします。
「何、念のための保険だ!」
私には強さしかないのだから。
ヴェロニカ王女の部下の一人は私に刀剣と大鎌を差し出してきました。
気が進みませんけど王女の好意は無下にはできません。
一応、私もこの国の貴族の一人ですし。
「はふぅー」と溜息を吐きなぎら私は差し出された物を受け取りました。
刀剣を腰に携えて、鎌は左手に持ちました。
右手の武器はメイドのポケットに一旦しまいます。
これで準備は万端です。
「では始めよ!」
王女殿下の掛け声が響き渡り、私と彼の戦いは始まりを告げます。
試合開始と同時にグレンは呪文の詠唱を始めました。
「顕現せよ、疾風迅雷の魔剣!その銘はカラドボルグ!」
グレンの手に彼の聖騎甲によって生み出された固有魔装が出現した。
グレン隊長の固有魔装はグレン隊長の背丈にも匹敵する規格外な大剣。
そんな得物を軽々しく振り回す姿はまさに疾風迅雷ね。
グレンはそれを手に取ると私に向かって聖騎甲の魔力を解き放ち駆け寄ってきました。
鍛えあげられた肉体に、強靭な精神力。
相棒の竜との信頼関係も良好。
グレンはまさにお手本とすべき竜騎士の一人。
そんな彼が私に向かって駆け寄ってくるのは恐怖を感じるわね。
だけど感じるのは恐怖だけではないわ。
彼みたいな強者と戦いたいとそう思っている自分がいる。
ああ。
なんだか、とても楽しくなってきたわ。
一体どうやってグレンを沈めようかしら。
考えただけで胸がドキドキするわね。
グレンは私と20m離れた距離で立ち止まり剣を構えたまま、動きを止めました。
私は彼の目の前で一歩も動かないまま、左手の鎌を地面に置きます。
グレンが眉を細めますが、別に手を抜くつもりはありません。
この武器であの技を使うにはこの型、無形の構えが一番やりやすいのです。
グレンは一歩も動きません。おそらく初めて見るであろう構えにどう対処してよいのかわからないのでしょう。
さて、それじゃあ。
私も、とっておきの技を見せてあげるわ。
覚悟しなさい。変態隊長!