______ん。
意識が覚醒するのがわかった。
目を覚ますとそこはいつもの学院の自室……ではなく、魔導艦シルヴァヌスの一室、来客用の部屋の中だということがわかった。
起き上がり身体を起こしてから両手を上に広げて伸びをする。
身体を伸ばした途端、リラックス効果により寝ぼけていた頭が冴え始めた。
頭が冴えるのとほぼ同時に大きな欠伸をしてしまう。
「ふぁー」
よく寝た筈だがまだ寝足りないと身体がいっているかのような大きな欠伸が自身の口から出てしまった。
「んー。眠い……」
肉体的には然程疲れは感じたりしていないが、頭はかなり疲れているようで身体を動かす度に怠く感じる。
かといってずっとベットで過ごすわけにもいかないので怠い身体を起こしてベッドから離れようとしたその時、自身が着ているその格好に気づいてしまいその場で膠着してしまう。
「なっ、な、なな、なんじゃ、こりゃあ!」
自身が身につけている姿に、絶句し声を荒げてしまった。
「何故俺はネグジェリなんか着て寝てたんだよ!」
そう。俺の格好は女性が身につけるような薄い布地でできた肌着を纏っただけの姿で今、気づくまでこの格好で寝ていたという事になる。
「ちょっと待て!何だコレは……俺はこんなの着た覚えはない、どうなってるんだ?」
混乱してしまい、何故自分がこんな目にあっているのか、その理由を思い出そうと頭を両手で抱えて唸りながら記憶を呼び起こしていく。
まず、最初に思い出したのはヴェロニカ王女に艦内に連れて来られた事だ。
そこでメイドのプリムに着替えを渡されて……えっと、確か、下着を履くかどうかで鏡を見ながら悩んだんだよな?
ノーパンで過ごすか、女性下着を身につけるかの二社一択をさせられて仕方なく選んだんだ!
着てた服は洗濯させられたからな。
そして女物の服を身につけて……鏡を見た……この先が思い出せないんだよなー。
「んー。駄目だ思い出せない」
あの後自分は一体何かをしでかしたんだろうか。
覚えてない、記憶がないというのはかなり不安になる。
ベッドの上で頭を抱え唸る俺をよそに、部屋の戸が叩かれ外から聞き覚えのある人の声が聞こえてきた。
「おはようございます!
ノア様。入ってもよろしいですか」
入室を許可して一言かけると部屋の中にメイド服を着た侍女さんが2人入ってきた。
「おはようございます!ご加減はよろしいですか?」
「ノア様。おはようございます!
お久しぶりの目覚めはよろしいですか?」
声をかけて入室してきたのは王女付きメイド姉妹のシェリー姉妹だった。
「あ、おはよう。
コゼットさん、プリムさん」
挨拶を返しながら2人が部屋に入ってきた理由を推測してみる。
昨夜の記憶がないのにも関わらず何故か起きたら女物の服を着ていた。
そして、目覚めた日の朝にメイドの姉妹が部屋にやってきた。
これらを推測すると……。
「まさか、またプリムさんがやったんじゃ……」
「ひっ、ち、違いますよ!今回は私だけのせいではありません」
「今回
「あ、な、何でもないです!」
「プリム……さん?」
「ヒィー、ご、ごめんなさい」
問い詰めるとやはり面白がって俺に女物の服を着せたのはプリムさんだったようだ。
「申し訳ございません。姉がご迷惑をおかけしたようで……」
「ちょっとコゼット、その言い方は酷いです!」
「プリムお姉ちゃんはちょっと黙っててください」
「ごめんなさい」
プリムさんに何故俺を着せ替え人形の如く、女性用の服を着せたのか問い詰めようとしたがのらりくらりと躱されて肝心な理由を聞くことはできなかった。
「ごめんなさい。だけどあの姿のノア様はとっても素敵でしたよ!」
「そうですね。ノア様、今度一緒にご洋服を見に行きましょう!
きっとノア様にお似合いな服がたくさん見つかりますわ」
「え、何、デートのお誘い⁉︎」
知らない間にメイドさん達の好感度上がってる?
もしかして恋愛フラグバッキバッキに立っちゃった?
今日の俺ってひょっとしてイケテル?
寝て起きたら女物の服を着てたけど、何故かメイドさんにモテモテでしたっ!
……なーんて、思っちゃてたけど、そんなわけなかったんだよ。
「何時まで寝ているのだ!さっさと起きんか!」
俺が寝ていた部屋にノックもなしに入って来た人達がいた。
言わずとも知れた、この艦の主。ヴェロニカ王女殿下とその王女殿下の親衛隊長のグレン・マクガイアだ。
「昨日連れて来られた疲れがあるんだよ」
「3日も寝といて何を言ってるんだ!」
「3日⁉︎」
「むっ。3日前の夜の記憶はやはりないのか……あの夜はあんなに激しかったというのに」
「⁉︎」
ちょっと待て。
何でそこで顔を赤らめる?
まさか……いや、そんな馬鹿な。
「この間の責任は取ってもらうぞ?」
「責任ってなんだよ⁉︎」
え?まさか……本当に?
「閣下、からかうのはそのくらいで……。
最早あまり時間はありません」
「むっ。そうだな。
あの夜の激しかったうんぬんは冗談だが、私とノアの二人で飲み明かす約束を破った責任は取ってもらうぞ?
よいな!」
「うっ、わかったよ」
約束してたの忘れて寝たのか、俺。
約束した記憶は確かにあるけど……。
「以前話したように貴様には囮役をしてもらう。囮に群がるハイエナや狐を狩ってもらう。
ちょうどよく、たまたま、偶然にも、得た情報によるとあの《断罪のアヴドーチャ》がその日、反乱を起こすようだからな。
ついてるなー。我々は……!」
「そんな……茶番に付き合わせられるのかよ」
ウンザリしながらヴェロニカとグレンが立てた作戦を実行する為の手伝いに参加することになった。
グレンが作戦の説明をしたのち、要警戒相手の情報を話し始めた。
「ある筋から情報が入った。
原作では教会事件で目立たなかったイベントだが俺が相手するのはアヴドーチャではなく、奴ら不穏分子の方だ。
アヴドーチャはアッシュ達がなんとかするだろうから任せる。
「聞いての通り、我々、王女殿下の親衛隊と共にノア君には不審者の摘発をお願いしたい。
立場上は君は警備兵の一人として扱う。
怪しい奴がいたら片っぱしから職質してひっ捕らえてくれ!
それと、わかってると思うけど……妹と一緒だからっといって手出ししたら殺すからね」
「しねえよ!」
誰がそんな虎の尾を踏む真似をするか!
俺が配属されたのはアンサリヴァン市の中心にほど近いエリアだ。
アヴドーチャがテロを起こす教会にも近い。
配属先の部隊は全員で四名。確認したがそのうち
新入りとあって聞き取りや雑用を命じられているが何かあったら俺はまっさきに前線に出されるだろう。
一時間ほど、仕事の説明と雑用を終えた俺は街中を歩いていた。
通りを歩いていると様々な通行人とすれ違った。
フード付きのマントを被る男性、買い物帰りの女性、子連れの主婦、中には学院の生徒の姿もチラホラ見える。
「はぁ〜、イヴの奴、何してんのかな」
最近会えてない相棒のことを考えながら街中の警備にあたっていると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「いた!やっと見つけたわよ!」
後ろを振り返るとふくれっ面をしたイヴが突進してきた。
「こんなところで、何油売ってるのよ!」
「ごふっ!」
強烈な一撃を腹に喰らい、悶えてしまった。
なんとか耐えて膝をつくことはなかったがかなり痛かった。
「アンタ、今までどこにいたのよ!」
「いや、ヴェロニカ王女のところで……」
「王女のところですってー!」
イヴから放たれる絶対零度のオーラを感じてビクビクしつつ、俺はイヴに市内の警備をしていることを伝えた。
「ふーん。不審者の摘発……ね」
「ああ。頼まれたからにはやらないとだろう?」
「ま、いいわ!私もやってあげるわ」
「え?いいのか?」
「うん。その代わりクレープ5個よ!」
ウィンクして駆け出したイヴに苦笑いしつつ、俺は彼女を追いかけようと駆け出そうとした______その時。
「ヴェロニカの犬か?」
背後から殺気を感じ、咄嗟に屈み込んだ。
「ッ⁉︎」
______パァン。
銃声が鳴り響き、俺の顔がさっきまであった場所を弾丸が通過して、通りにある服屋のショーケースに弾が当たりショーケースガラスが砕け散った。
俺は屈んだ状態から地面を転がるように移動して物陰になりそうな遮蔽物、通りの端に置かれていたゴミ箱の影に隠れた。
隠れながら手に銃を取る。
通りの先、イヴが駆け出した方向とは逆の方向に一人の男が立っていた。
先程すれ違ったフードを被った男だ。
男の右手にはリボルバー式の銃が、左手には短機関銃が握られていた。
男は左手に持つ銃を俺が隠れている方向に向けながら大声で叫び始めた。
「ヴェロニカとヴェロニカの犬め、貴様らは俺が殺す!」