次話は2月に……。
当初の予定だととっくに2巻の内容終わっているはずでしたがあと3話くらいかかります。
私は聖ヴァレリア教会にたどり着いた。
この教会はここ、アンサリヴァンにあるロサ・マリア教の教会だ。
そんな歴史がある教会に私1人で来た。
姉上の命に従い、たった1人で、だ。
今日は侍女のコゼットすら連れて来ていない。
正直なところ、普段常に一緒に付き添うコゼットが側にいないのはかなり不安だが一国の王女という立場がある以上、我が儘を通すわけにはいかない。
それに、姉上の命に逆らってコゼットを連れてくる勇気は私にはない。
姉上を怒らしたらどういった事になるかは身を以て体験済みだからな。
入り口にいた神父やシスターに挨拶を済ませ教会の中に入ると、まず目に入るのは祭壇に置かれた聖女ヴァレリアの聖像だ。
聖女ヴァレリアは聖女ロサ・マリアに仕えた十二使徒の1人だと伝えられている。
ロサ・マリア教の聖典では、慈悲深き女性として描かれる一方で、法の番人の側面も持ち合わせていると言われている。
私は祈祷を捧げる為に祭壇に向かった。
祭壇に歩み寄ると、片膝をついて、祈りを始めた。
「聖女ヴァレリアよ……」
私が祈りを始めた、その時だった。
私のすぐ真横で、誰かがぶつぶつと祈っている声が聞こえた。
祈るのは構わない。
私以外にも多くの参拝客がいるのは当然だからだ。
多くの人が集まるここは観光地としての需要があるのも知っているからな。
ただ私が気になったのは……私の真横から聞こえるその声音に、どことなく聞き覚えがある気がしたからだ。
「いつか〈銀麗の騎士〉様が、わたくしを孕ませてくださいますように」
「お前は何を祈っているのだ⁉︎」
公共の場での、ありえない発言をした奴に、私は我を忘れて怒鳴りつけてしまった。
「ひゃんっ!」
私が怒鳴りつけた途端、相手は悲鳴をあげて尻餅をついた。
私は怒鳴つけてから改めて、相手の顔をまじまじと眺めた。
その相手は私より一つ年下の貴族的な佇まいを感じさせる少女だった。
オレンジ・ゴールドの髪を優雅に巻き、胸元に垂らし、切れ長の双眸は好戦的な光りを放ちメラメラと燃え盛る炎のような少女だ。
この少女には見覚えがある。
というより忘れたくても忘れられない奴だ。
「……やはり、ジェシカ・ヴァレンタインか!」
尻餅をついていたジェシカは体勢を立て直すと、私を見つめ返してきた。
「あらまあ。どなたかと思えば、シルヴィア王女ではありませんか。ってきり、今日はヴェロニカ王女の慰問に付き添っているのかと」
「くっ……付き添えなくて悪かったな!」
「な、何を怒っていますの?」
「うるさい! そんなことより、どうしてお前がここにいる?」
私が睨みつけながらそう言うと、ジェシカは戸惑った顔をしながら返事をしてきた。
「あら。私はただ、安産祈願のために……」
「ヴァレリア様は法の番人だ! お門違いも甚だしい!」
こいつ、法の番人であるヴァレリア様を何だと思っておるのだ!
「ふふん。わたくしは誰かさんと違って、小さなことにはこだわりませんわ」
「全然小さくないだろう!」
「はあ……そんなことでは、いつまで経ってもヴェロニカ王女には敵いませんわよ?」
うぐっ⁉︎
こいつ、言いたい放題言いおって……。
カッとなった私はジェシカに向かって怒鳴りつけていた。
「なんだと! お前になにがわかるっ⁉︎」
「見ていればわかりますわ。器の大きさが違いますもの」
「ぐっ! 人が気にしていることを……ぬけぬけと!」
「あら、気にしてましたの。まあ、王族としてはヴェロニカ様に遠く及ばず、
少しは大貴族の令嬢であるわたくしを見習ったらどうかしら?」
は、はあ?
こいつは何を言っているのだ!
姉上に及ばないのは自覚している。
そんなことはわかっている。
なら私が取るべき行動は姉上に従い、有力な貴族や騎士に嫁ぐことだ。
そんなことくらいわかっている。
だが、何故そんなことを大貴族
「なん……だと……?」
ぷちん。私の中で堪忍袋の緒が切れた。
まるでグレンとの婚約を勧められたような気がしたのだ。
だから私は冷静になれず、
「はっ! ランドール家の使用人ごときが、いう事欠いて自分を見習えだと?
笑止千万!」
そう言った瞬間、ジェシカの顔色がサッと青ざめた。
しまった、と思ったが遅かった。
「まさか、レベッカから聞いて……?」
バツが悪くなりながらもジェシカを宥めにかかった。
「安心しろ。会長から口止めされている以上、吹聴するつもりはない。ただし、虚飾で己の上っ面を塗り固めるのは、そろそろ自重したらどうだ?」
私がそう言うと、ジェシカはブルブルと震えながらも私をキッと睨みつけてきた。
「それなら……あなたは一切の虚飾とは無縁だと、そう断言できますの⁉︎」
「そ、それは______」
ジェシカに言われて気づいた。
私自身、虚飾しているではないか、と。
自分の臆病な部分を周囲に悟られぬように、気丈に振る舞っているのは何故だ、と。
騎士王家の姫として、「こうあるべき」という理想像を演じようと躍起になっていたのは誰なのか。
そういった行為。それもまた、一種の虚飾ではないか。
「あら、図星ですの?」
「ち、ちがっ______」
私が否定しようとしたその時。
______どぉん!
遥か頭上から、凄まじい爆発音が轟いた。
その爆発の衝撃で足場が揺れ、天井からは砂塵や小石が降り注いだ。
な、何だ⁉︎
何が起きているのだ?
解るのは階上で爆発が起きた事くらいだ。
そう認識した途端、言いようのない恐怖が私を襲った。
「きゃああああああああああっ!」
私は恐怖でパニックになり近くにいた誰かに抱きついた。
抱きついた相手も私同様、怖かったのか、お互い抱きしめあった。
厳かな雰囲気に包まれていた教会は、たった一つの爆発で阿鼻叫喚の巷と化した。
そして、そこに君臨するかのように、どこからともなく、巨大な影が現れた。
「あいつは______」
私はその影に見覚えがあった。
現れたのは女性だ。
漆黒の髪に、爛々と禍々しい光を帯びた双眸。
露出度の高い民族衣装から覗く、褐色に近い肌。
「その昔、聖女ヴァレリアは告げた______」
その女は妙に芝居かかった口調で切り出した。
「” 罪を憎んで人を憎まず,,とな。愚かなり!
弱き心こそが、諸悪の根源なのじゃ。
ありとあらゆる罪人に死を!」
その女は、右手に握っていた鞭を、ぴしりと鳴らした。
やはり間違いない。
あの女は______
「妾は” 断罪のアヴドーチャ,,じゃ!」
姉上が狙う百万エクルの賞金首。
《断罪のアヴドーチャ》が目の前にいる。
◇
強化された聴力により離れた場所から鳴り響く爆発音を聞きながら俺は自身の身に起きた変化に驚いていた。
先ほどから感じていた違和感。
ヒステリアモードに既になっているのにも関わらず俺が感じた、ヒステリア性の血流。
通常のヒステリアモードはヒステリア・ノルマーレ。
女を
だが先ほどから感じるこの血流は違う。
心の底から湧き出る増悪や嫉妬といった感情から起こるものだ。
このヒステリア性の血流について俺は覚えがある。
今、俺が感じている血流、これは______
ヒステリア・ベルセ______女を
俺は内側から湧き出る増悪を抑えきれなくなっていた。
「い ま な ん て い っ た?」
「なんて言っただと?
聞こえなかったのか?
死にぞこないの竜族なぞ、放っておけばよいと言っ……ぐがぁっ⁉︎」
セルゲイがそう返答した時には俺は既に銃を抜き発砲していた。
自身の大切なパートナーを傷つけられた俺の怒りや憎しみといった負の感情は止まらない。
「もういい喋るな。
それ以上口を開けば殺す!」