さて、先日の複数のペルソナが使えると言う事は『気が付いたら使えていた』としか言えなかった。自分にも解らない事だらけな上に実際に説明するとなると、ベルベッドルームやイゴール達の事も説明するしかないので、その辺は適当に誤魔化したが。
そして、説明の中で言ったのはバスタードライブとの戦いで見せた二つのペルソナ『バッシャー』と『ドッガ』の二つのペルソナだけだった。残る『ガルル』のペルソナはまだ見せていない事も有るのだが、他にも理由がある。もっとも、その理由は一応先の二つにも適応されるのだが。
その理由とは、『重力(グライ)』『大地(マグナ)』『流水(アクア)』と言う三つの属性の魔法攻撃ができると言う点に有る。奏夜の個人的な意見としては……『意味有るのか、それ?』と言った所だろう。
イゴール曰く『この三つの魔法は『失われた属性』』なのだそうだ。もっとも、シャドウ相手には耐性を持っていない事も有り、確実にダメージを与えられると言う長所は有るのだが。
さて、そんな訳で前回より一日ほど休息を挟んでのタルタロス探索…本日でそろそろ二十日目に突入すると言う状況なのである。
「行き止まりよね。」
「そうだね。」
現在、タルタロスF16…敵も存在せず、部屋も広くない階段らしき物が存在している部屋に、奏夜達S.E.E.Sの一年生トリオ三人はいた。
先ほどのゆかりと奏夜の言葉と『階段らしき物』と言う言葉の意味は単純に、壁に閉ざされて階段だと言う事が見えないのである。
「…これ以上は進めそうも無いね。」
『そうだな。よし、一度帰還してくれ。』
「了解しました。」
(…オルフェウスやガルル達以外にも手札は有った方が良いからね。)
タルタロスの探索中、シャドウを倒した後にイゴールの言葉通りに新しいペルソナを手に入れる事が何度か有った。そんな中でのタルタロスの終着……と言うよりも通行止めを受けた状況。『人工島計画』と言う書類を入手したと言うどうでもいい事は有ったが、現在は休憩中とも言える状況に有る。
さて、話は変わるが以前、奏夜の携帯にエリザベスから電話が掛かって来たのだ。番号を調べた手段こそ謎だが…『まあ、いいか。気にしたら負けだ。』と言う事で自分の心境に決着を着けた。その内容とは『お願いしたい事がございます。』と言う物だった。強力なシャドウの体の一部や、希少なアイテムを持ってきて欲しいと言う内容のお願いだった。
『人工島計画』と言う書類もその一つであり、丁度それをポロニアンモールの路地裏に有った扉を潜り、エリザベスへ届ける序でにイゴールにある事を頼んだ帰りと言う事だ。
イゴールが言うには複数のペルソナを合体して、全く異なる新たなペルソナを作り出すという秘術により、より強力なペルソナを生み出す事が出来るそうなのである。
だが、当然ながら強力なペルソナは、簡単には扱えない。新しいペルソナを得るにはそれを扱う最低限のランク…レベルまで奏夜自身も成長する必要があるのだ。
そして、もう一つ…ガルル達のペルソナには可能な合体は無いという事である。それは何故かと疑問にも思ったが、それはそれで問題無い、今は判断する材料が無いと考え、深く考えない事にしたが、それでも気になる事は気になる。
幸いにもドッガやバッシャーの力を借りる事でバスタードライブを倒す事は出来たが、今後はより強力なペルソナを得る必要が有る。今後は何度かこまめに足を運ぶ必要も有るだろう。
(…でも、あの書類…エリザベスさんが言うには他にも有るみたいだけど…後で叔父さんに連絡して調べてもらった方が良いかな?)
そんな事を考えていると、CDショップが目に入る。ワゴンで売られているのは古いCD…その中の一つが自分の意識の中に止まり、それを手に取る。
(…父さん…。)
気が向いたと言うべきか…そのCDを手に取り購入する。古いCDはそれほど高くなく500円でもお釣りが来るほどだった。
「キバット。」
「おう、どうした?」
何日目かの影時間の感覚…その中で奏夜は一枚のCDへと視線を向ける。
「…『影時間』…父さんが死んだ日の事…まだ思い出せない?」
「………ああ。」
落ち込んでいると言う事が簡単に理解できるほど沈んだ声での肯定。それをある種の当然として受け入れている自分自身…そして、『父の時には無かった』、キバの鎧の持つ第六の姿『漆黒のキバ』。自分自身の事なのに解らない謎もあるのだ。
(…先は長いか…。)
現在の自分が得られる謎の手掛かりが得られる可能性が有るのは『影時間』に関する事だけであり、それ以外の事は手掛かりすらも得られないと言うのが現状なのだ。そして、その手掛かりが有るとされるタルタロスでさえも現状ではその断片も得られていないというのが現状なのだ。
「やあ。そっちのコウモリ君とは初めましてって言った方が良いかな?」
「っ!? お前は。って、誰がコウモリだ!!!」
そんな聞き覚えが有る声が聞こえた先へと視線を向けると、そこには寮に来た初日に有ったあの少年の姿があった。
「ああ、久しぶりだね。それで今日はどうしたの?」
「それで…今日はどうしたの?」
自分だけでは無くキバットまでも接近されるまで気が付かなかった相手と言う時点で普通ではない…そんな相手が来たと言う事は、何か有ると警戒しながら、そう問い掛ける。
「もうすぐ満月だよ。」
「満月?」
「……気をつけて。また一つ、試練がやってくるんだから」
確かに少年が告げた様にあと数日が過ぎれば満月となるのは知っている。月を眺めるのは好きな方なのだが…そこまで詳しくは調べていなかった。
だが、何故それが『試練』と言う言葉と繋がっているのかが疑問ではあるが…。
「…満月と試練…どうして繋がるのか教えて欲しい?」
「満月はキミが試練に出会う日の事さ。試練はキミが奴等と出会う日の事さ。」
奴等と言うのは間違い無く『シャドウ』を指していると推測できる。態々『試練』等と言う言葉を使っているのだから、
(待てよ…前に変身した日は…。その日は確か…ぼくがここに来て、始めてシャドウと戦った日…ファンガイアタイプのシャドウと戦った日…。)
奏夜はキバットへと視線を向けなおして口を開く。
「キバット。」
「おう、どうした?」
「…こっちに来て変身した日の月って…。」
「確か…満月だったな。」
そこから導き出される答えは一つ、『ファンガイアタイプへと変化する可能性を持った大型のシャドウ』の出現を意味している。奏夜とキバットの言葉を聞いて少年は微笑を浮かべる。
「理解が早くて助かるよ。試練と向き合うには準備が必要だ。でも時間は、無限じゃない。」
少年の言葉に奏夜とキバットは頷いて見せる。時間が有限なのは理解している。今この時もゆっくりと時間は試練へと向かって近づいているのだ。
「じゃ、それが過ぎたらまた会いに来るよ。」
その言葉が告げられると同時に少年の姿は見えなくなった。少年の言葉から大型シャドウの出現時期はある程度絞り込める。だが…
「…あいつ、只者じゃないな。…でもなぁー…あいつって、どっかで会った事が有るんだよなぁー。」
「…会ったことが有る? まあ、それは今考える事じゃないか…。確証は無いけど、今は準備だね…薬の準備…タルタロスの中でのみんなの戦闘訓練…あとは満月の日を調べて、その前日は休んで貰おう。問題は…。」
「問題?」
そう唯一にして最大の問題がある…それは…。
「…この事どうやってみんなに説明しようか…?」
「あー。」
奏夜の言葉にキバットは納得してしまう。そう行き成り目の前に現れて言うだけ言って消えてしまった…下手をすれば怪談話になってしまいそうな少年の事も説明する必要がある。まあ、次の満月の日に大型シャドウが出現してくれればそれを理由に報告する事も出来るのだが。
『この場合『出て来てくれ』と祈るべきか? 出て来ないことを祈るべきか?』等と本気で悩んでしまう。
そして、数日の時が流れ、満月の日の当日、5月9日(土)
奏夜が部屋に有った砂時計を眺めながら、警戒心を露に無事に影時間が過ぎ去ってくれる事を祈っている頃、作戦室で、彼女…『桐条 美鶴』は一人で解析用の機材に手を加えていた。
「………ふぅ………。」
美鶴が零した重い溜息が、静寂に支配されている作戦室の中には良く響く。
(やはり、タルタロスの外部まで見張ろうとするのは、私では無理だと言うことなのか?)
そう思ってしまう。タルタロス内部では自身のペルソナと現行の機材でもかなりの精度で解析、索敵を行う事が出来ている。だが、それはタルタロス外部では範囲の広さからか、それとも、他の要素が原因なのかは不明だが、巧く行かない。
それも無理も無いだろう、本来彼女のペルソナは『索敵能力が高いだけ』の本来は戦闘向きのペルソナなのだ。それでも、索敵と言う分野で活躍できているのは、一重に彼女の努力による所だろう。
今までならば、タルタロスの中だけでも問題は無かっただろう。
さて、何故彼女がそんな事をしているのかと言えばその理由は二つ、一つは未だに正体も、居場所も分かっていないキバの存在と、一ヶ月前に寮を襲撃して(明彦を追い掛けて)きた大型シャドウが原因だ。
彼女の中に有る漠然とした不安、それは一ヶ月前のそれが最後とは思っていなかったのだ。
そして、もう一つ、ここ数日の影人間の急激な増加と言う事実。それから判断するとそう遠くない日に何かが起こるはずと言うのが、彼女の考えなのだ。故に美鶴はこうして万が一に備えて、タルタロス外部に出現するシャドウの反応を捉える事が出来る様に色々と手を尽くしているのだが、巧く言っていないと言う所だ。
「なんだ…まだやってたのか?」
「…まあな。敵は何時来るとも限らない。」
その声に答える。明彦も美鶴がタルタロスの外までシャドウの反応を探ろうとしていたのは知っていた。
「タルタロスの外まで見張ろうなんて、そう簡単に出来る物なのか?」
明彦のその言葉に顔を伏せて沈黙してしまう。『そう簡単に出来る物ではない』その厳しい現実に今現在、突き当たっていた所なのだ。無言のままで答える美鶴に『剛健美茶』と書かれた缶を投げ渡す。
「…本音を言えば…。」
彼女は投げ渡された缶を受け止め、そう口を開く。その事実は彼女自身理解している…。だが…
「本音を言えば…力不足だな。私の『ペンテシレア』では、情報収集はこの辺が限界かもしれない。」
『ペンテシレア』…それが彼女の持つペルソナの名。そのペンテレシアをその身に宿しているから、彼女の情報収集能力は飛躍的に跳ね上がっている。その能力を持って彼女は奏夜達のサポートを行って来たのだ。
「元々、『ペンテレシア』は索敵用ではないしな。」
だが、重ねて言うが、本来彼女のペルソナ『ペンテシレア』は元々、奏夜のペルソナ『オルフェウス』や順平の『ヘルメス』と同じく戦闘用…遭えて分類するならば『万能型』と言う分野に属するペルソナである。故に特化していない為(・・・・・・・・)、その情報収集能力は限界が有る。
そして、今現在、その限界へと突き当たってしまっているのだ。
(いや。こんな事で弱気になっていてはダメだな。)
弱気になる頭の中で、首を振って弱気を振り払う。仮に奏夜の持つペルソナの中に索敵用のペルソナが有ったとしても、彼は戦闘には欠かせない存在なのだ。故にチーム全体の事を考えるならば、自分が限界を超えると言う選択肢しかない。
(今までは上手くやってきたじゃないか。)
そう、美鶴は今まで幾月に従ってS.E.E.S(特別課外活動部)を立ち上げる事に尽力し、ペルソナ能力の解明や、召喚器の開発にも積極的に協力し、自分自身を最初に確認されたペルソナ使いとして、被検体として自分自身を提供してきた。
結果、それ等の努力は全て実を結ぶ事となってきた。だから、『この程度で根を上げては居られない』と決意を新たに、顔を上げて明彦へと向き直る。
「しかし、ペルソナの力と言うのは、想像していたより大分幅広い物らしい。何しろ、次々とペルソナを替えながら戦える者まで現れたくらいだ。」
『ペルソナの力』と言う言葉から浮かび上がってきたのは、奏夜の『特殊』な力。様々なペルソナを自由に操り、強敵を打倒したその姿は衝撃的なものだったのだ。
今までペルソナ能力の研究は様々な角度から行われてきたが、複数のペルソナを持つという事例は今回が始めての事なのだ。
「彼の能力には特別な物を感じる。まだ、覚醒して間も無いと言うのにな。」
「確かに、あんな奴が現れるとは驚きだ。」
美鶴の言葉に明彦も相槌を打つ。現在見たのは『バッシャー』と『ドッガ』と呼んだ二つのペルソナだけだが、まだまだ他にもペルソナを持っている可能性も有る。
だが、それだけではない。本来、ペルソナは『神話の中に存在する』『神』や『英雄』『悪魔』しか確認されていないのだが、奏夜の見せた二つのペルソナに該当する存在は確認できていない。
そこから奏夜が複数のペルソナを操る理由を調べられないかと調べてみたが、一向に解らない。それも、童話や絵本、民話と可能な限り調査の幅を広げてもイメージの元になった存在にはたどり着かなかった。……ただ一つだけ手掛かりは有る…だが、
(確かに…似てはいたが…当てには出来ないか。)
そもそも、ペルソナの外見は持ち主のイメージにも由来している。だから、外見は手掛かりにはならないと判断していた。キバと共に立つ奏夜のペルソナと『似た姿』の怪物の画像が古い記録から確認できたが、その程度なのだ。
(…ん?)
そんな事を考えながら、明彦から渡された缶ジュースに口をつけ、目の前の機材へと手を伸ばした瞬間、僅かなノイズと共にその反応を捉えた時、美鶴に緊張が走った。それを間違える訳も無い。
「これは! シャドウの反応!?」
「なにっ!?」
美鶴の言葉を聞いた瞬間、明彦にも緊張が走る。
「ホントに見つけたのか!?」
「その様だ。でも待て、反応が奇妙だ、大き過ぎる。こんな敵は今まで…。」
そこまで言った後、美鶴の中に先月の『大型シャドウ』と『ファンガイアタイプ』の事が思い浮かぶ。そう、大き過ぎるシャドウの反応には一つしか思い浮かばない。
「まさか、先月出たのと同じ、『デカいヤツ』かッ!?」
明彦の叫びは奇しくも、正しく美鶴の心中を代弁していた。
「間違いないだろう。」
「そうか……思いがけず、楽しめそうじゃないか。」
怪我をしている事も忘れ、明彦は何処か試合の前にも良く似た緊張感を感じていた。
『自分が何処まで強くなれるのか?』という、その疑問の答えを得る事が出来るかもしれない。正に、その課題に適した相手とも言えるからだろう。
明彦はすぐに緊急事態を知らせる為、装置を作動させると、他の者達を作戦室へと呼び出す。
「お待たせしました。」
「何スか!? 敵スか!?」
「………。」
作戦室に飛び込むと同時に叫ぶゆかりと順平の二人。そんな二人とは対照的に、奏夜は無言のまま落ち着いて作戦室の中に入っていく。
彼が落ち着いているのは当然だろう、奏夜としては『予告』されていた結果なのだ。
「タルタロスの外でシャドウの反応が見つかった。」
「「「ッ!!!」」」
美鶴の言葉に驚きの感情を浮かべる順平とゆかり、そして奏夜は『予想通り』と言う考えが頭の中に浮かぶ。
「先月出たような『大物』の可能性が高い。外に出て来た敵は仕留め損なう訳にはいかない。」
奏夜の予想は美鶴の言葉と一致していた。あの少年の言葉から考えると、ほぼ間違い無く大型シャドウだろう。最悪…変身できない状況でファンガイアタイプのシャドウと戦う事になるのだ。
「影時間は大半の者にとって『無い』物だ。そこで街が破壊されたりすれば『矛盾』が残る。それだけは絶対に避けたい!」
美鶴の言葉にも認めたくないが、納得してしまう。突然、街が破壊されていたと言う状況よりは、悪い言い方だが、『突然、人が死んでいた』方が矛盾は無い。
だが、奏夜としても『人が犠牲になる』と言う事態だけは絶対に避けると心に誓っているのだ。
「要は倒しゃいいんでしょ? やってやるっスよ。」
「またあんたは…。」
「はぁ…。」
能天気に言い放つ順平に対して、呆れた様に呟くゆかりと、同じく呆れた様に溜息をつく奏夜。
「言い心掛けだ、伊織!!! 今回はオレも!!!」
やる気満々と言った様子で立ち上がり、片手を掌に叩き付ける。だが、
「明彦はここで理事長を待て。」
「当然ですね。」
「なッ!?」
美鶴の言葉と奏夜の同意に思わず言葉を失ってしまう。彼にしてみれば、不覚を取って戦線離脱してしまった者と同じタイプの敵、そんな相手との待ちに待ったリターンマッチ。しかも、タルタロスの探索も出来ずにやる気が空回りしていたと言う追加条件も有るのだ。
「冗談じゃない! オレも出る!!!」
「いや、真田先輩。まだ怪我が完治してないんでしょう?」
「紅の言う通りだ。まずは身体を治す方が先だ。足手纏いになる。」
「なんだとッ!!!」
美鶴の言葉に声を荒げるが、それは美鶴に利する事になってしまう。それに加えて、自身の実力に自信を持っている明彦には認められない『足手纏い』と言う言葉。
奏夜は美鶴の言葉通り、明彦の怪我は完治していないが、待ちに待ったこの状況で指を咥えて見ている等納得出来ないのだ。
「真田先輩…自分の怪我を治す事も戦士には必要な事だと思います。残念ですけど、今の真田先輩のするべき事は治療です。」
「その通りだ。彼らだって戦えるさ。少なくとも、今のお前よりはな。」
「ッ!」
二人の言葉に歯噛みする。明彦自身理解している。確かに、今の自分よりは奏夜達の法が戦えるのだ。だが、仮に理解していても納得できる物ではないのだ。
「もっと彼らを信用してやれ。みんなもう実戦をこなしているんだ。」
(…仕方ないな。)「真田先輩。恐らく大型シャドウは今回で終わりと言う事はないと思います。だから、今回はぼく達に譲って下さい。その代わり、次の戦いには嫌でも、参加してもらいます。頼りにしてますよ。今回の露払いはしておきますから。」
心の中で『怪我が完治したらですけどね。』と付け加えておく。実際、今回の戦いも恐らく『露払い』等と言う楽な戦いになる事はないだろうと言うのは断言できる。だが、あえて今回は『露払い』と言う。
それは参加できない事への悔恨の念が有る明彦を参加させない為の方便だが、頭に血が上っていた明彦は言葉の裏に隠されている奏夜の真意を理解し、頭に上っていた血が冷えて行く様な気持ちだった。
「スマン。」
そう一言だけ洩らした。実際、奏夜の言葉に明彦自身少しは気は楽になっていた。
「任して下さい! オレ、マジ、やりますから!!!」
次に聞こえてきた叫び声は奏夜の物ではなく、順平の物だった。順平は順平なりに自分の力で役に立ちたいと考えているのだろう。だが、明彦にははっきり言って『不安』と言う言葉が浮かんでいた。
「…まだ反省してないのかな…順平。」
奏夜の呟きは正に明彦の不安に的中していた。順平の力が奏夜に比べて劣っていると言う訳では…………いや、実際、圧倒的にとは言わないが奏夜の方が順平の前に立っているが、それが問題なのではない。仲間を纏めるリーダーとしての資質、状況を判断し、時には退く事も考えるような判断が必要なのだ。
彼の場合、自分が活躍する事を意識し過ぎ、前回の戦いではその結果、リーダーである奏夜の指示を無視して勝手な行動を取り、仲間を窮地に追い込んでしまったのだ。
「……仕方ないな。紅、現場の指揮を頼む。」
奏夜へと視線を向け、そう言いきる明彦の言葉に思いっきり凹む順平だった。
「やっぱコイツかよ。」
「頼むぞ、出来るな?」
「やってみます。」
順平の言葉を無視する訳ではないが、今の状況でこれ以上時間を取られる訳には行かない。美鶴と奏夜はそんな会話を交わす。
「初探索から二週間、君はリーダーとしてよくやってくれている。できるさ、自信を持ってくれていい。」
「つーか、なんかお前、このままリーダーが定位置になりそうだよな……ま、別にいっけど……。…いいよな、隊長さんは認められててサ。」
『嫉妬心』も露にそんな事を言う順平を横目で見る。『やっぱり、前回、殴って済ませるんじゃなくて、もう少しキツイ罰でも与えるんだったかな? …また変な事にならないと良いけど。』等と考えてしまう。
「何ひがんでんのよ。」
「アテッ。」
ゆかりが順平の腹を肘で小突く。そんな様子を見て今まで浮かべていた暗い考えが払拭された様に感じた。
「ありがとう。」
奏夜は彼女に対して、聞こえない様にそう一言だけ呟いた。
(なんだよ、オレだってやれるっつーの…。)
横目で奏夜を睨みつけながら順平はそんな事を考えていた。だが…
(…少しは考えて欲しいんだけどな。…虚栄心なんて物でリーダーの立場なんて…ダメに決まっているだろう。)
自分の能力から考えてリーダーの立場は枷でしかないのだが、彼の様な考えの人間に、リーダーの背負う責任の重さを理解していない人間に、全員の命を預かると言うこの立場を任せる訳にはいかなかった。
「よし、三人は先行して出発だ!」
「駅前で待っていてくれ、準備が整い次第直に追い着く!」
先輩二人の言葉を聞き、一度装備を整えに戻る。奏夜はともかくゆかりと順平の二人は突然の呼び出しだったので、服も着替えていない。
「キバット…。」
ゆかりや順平に先行して玄関に逸早く到着した奏夜はキバットへと声をかける。
「おう、どうした?」
制服ポケットの中から顔を出して聞き返してくるキバットに奏夜は、
「…第二幕…もう直始まるね。」
「…第二幕…ね。オレはまだ序曲の中盤…良くて終盤だと思うぜ。」
まだ始まったばかりだと言うキバットに対して無言で肯定の意思を示す。
「…そう…。……キバット……今度も『ファンガイアタイプ』に変化するシャドウが出てくる可能性は…。」
「まだ一回しか見てないんだ、確実な事は言えないけどな…。間違いなく出てくるだろうな。」
「…最悪、生身で倒すしかないか…。」
キバットとの会話をそう言って切り上げた時、丁度、ゆかりと順平の二人が降りてくる。そして、合流した三人は現場へと向かう…今宵の舞台へと…。