ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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キバット「“女教皇”。タロットカードの大アルカナに属するカード一枚で、カード番号は『Ⅱ』。女司祭長と呼ばれる事も有る。正位置では『知性』や『理解』、『清純さ』、『聡明さ』、『常識』と言った整然で穢れの無いものがイメージとして上げられる。逆に逆位置(リバース)だと、『思慮に欠ける軽率な行為』、『激情』、『無神経』、『我が儘』、『ヒステリー』等が上げられる。」

飛び去った後、『女教皇』のタロットカードを咥えて戻ってくる。

キバット「ペルソナやシャドウもこのアルカナを持っていて、奏夜の未来にあいつに近い位置にこのカードが有る。他にも何枚かあいつの近くにあるけど、今、あいつの仲間にこのカードと同じアルカナのペルソナを持っている奴は居ないんだぜ。」


第十二夜

「来るよ!!!」

奏夜が叫んだ瞬間、プリーステスはその長い髪のような物を操り、攻撃を仕掛けて来る。だが、

「ガルル!!! 重力魔法(グライ)!!!」

己の内より召喚した蒼き人狼『ガルル』の操る重力魔法(グライ)を此方へと襲いかかる髪の様な物へと叩きつける。それによってプリーステスの攻撃は奏夜達に触れる事無く、床へと叩きつけられた。

「順平、岳羽さん、今だ!」

「おっしゃぁ!」

「オッケー!」

二人が同時に引き金を引き、炎(アギ)と疾風(ガル)がプリーステスの本体へと襲いかかる。それにより、怯んだプリーステスの姿を一瞥せず、奏夜は己の中に座す物を『ガルル』から紫紺の巨人(ドッガ)へと変える。

そのペルソナが全身に与える『力』と『防御力』…スピードや反射速度等はガルルの与えてくれる恩恵には圧倒的に劣るが、そのパワーは正に無双…手持ちの他のペルソナを含めても並ぶ物は居ないだろう。

「フン!!!」

小剣程度では『ドッガ』のパワーに耐えられないであろうと推測し、炎と風の作り出した爆煙を抜けて至近距離まで近づいた奏夜の拳がプリーステスの体へと叩きつけられる。

(痛っぅ…でも、やっぱりこの剣じゃ使い捨てになる。)「…大地魔法(マグナ)!!!」

追撃とばかりに召喚器のトリガーを引き、『雷撃(ジオ)系』の魔法とは別にドッガのペルソナのみが所持する魔法『大地(マグナ)系』の魔法を叩きつける。何処からともなく岩石が出現し、それがプリーステスへと叩きつけられる。シャドウとペルソナの扱う魔法体系にないその魔法は確実にプリーステスにダメージを与える。

そのまま床を蹴る様にして後方へと下がる。『制限時間』という枷が焦りにならない様に冷静に戦っているつもりなのだが、ここの何処かに焦りは有る。

(…キバになれれば…。)

そして、奏夜に有る枷は順平とゆかりと違い『制限時間』だけではなく、『キバへの変身が出来ない事』と『大技が使えない』と言う二点も奏夜にとっては枷なのだ。

『ガルル』以外にも『バッシャー』と『ドッガ』にも存在している固有の必殺技(最強スキル)とも言うべき大技。今の奏夜では一日に一回程度が限界であろうそれは、残念ながら既に使ってしまった今となっては、使う事は出来ないだろう。

無理をすれば使えなくも無いだろうが、『迂闊に使ってしまって、相手を倒せずに自分が倒れてしまったら』と考えると、使う事を躊躇される。

そんな事を考えた瞬間…周囲の温度が急激に低下していくのを感じた。

(これは…。)「岳羽さん、順平、気をつけて!」

『車内の温度が急速に低下! 気をつけろ!!』

同時に響く奏夜と通信を通しての美鶴の警告の声…そして、距離を開けたまま岩(マグナ)の魔法の直撃を受けたプリーステスが置き上がると同時に攻撃体勢に入る。

「『凍結魔法(ブフ)だ!!!』」

警告の声が重なって響いた瞬間、奏夜は自身の中に宿る者の座する場所をドッガから碧の半漁人(バッシャー)へと変える。

その瞬間に膨れ上がった異様な力が破裂し、氷の刃を作りだし列車の車内を覆い尽くすそれが撃ち出される。

プリーステスが撃ち出した凍結魔法の名はブフでは無く『マハブフ』…ブフよりも一つ上位に辺り、破壊力こそブフとは大差がないが、その恐ろしさは効果範囲の広さに有る。特にこの狭い列車内やタルタロス内部では回避のしようがない。

「おわぁ!!!」

「キャア!!!」

「こいつ!」

ペルソナの持つ弱点とは違う為に、動けないほどのそれは受けなかったとは言えダメージを受けた二人に対して、ペルソナ『バッシャー』の耐性『凍結無効』により、ダメージを無力化させる。それでも、普通の人間相手なら一撃で即死しかねない魔法でさえもペルソナの恩恵により、その程度のダメージしかないのだ。

そう、耐性/弱点からも分かるようにバッシャーの得意な魔法は『凍結(ブフ)系』と『流水(アクア)系』の二つの魔法系統と回復(ディア)系の魔法なのだ。

「バッシャー! 治癒魔法(メディア)!!!」

引き金を引き撃ち出されたバッシャーから放たれるのは、広範囲に渡って降り注ぐ癒しの光(メディア)、それはゆかりと順平の受けたダメージを完全ではないが回復させる。

だが、大人しくそれを見送っていたプリーステスも反撃の準備を整えていた。プリーステスが耳障りな声を上げた瞬間、新たにニ体のシャドウ『囁くティアラ』が現れる。

その内の一体が奏夜の使った物のワンランク下の魔法でプリーステスの傷を癒し、残った物が奏夜達へと炎(アギ)を放ってくる。

「オワァ! なんだよ、こいつ等!」

「あー、もう! 邪魔!」

「それは同感!!!」

プリーステスの呼び出した護衛のシャドウ、ニ体の『囁くティアラ』に攻撃を阻まれてプリーステス本体への攻撃の手は緩めるしかない。そして、それを好機(チャンス)と見たプリーステスが放つ氷の刃(マハブフ)が迫ってくる。

「これじゃあ、手が出せない!!! 時間がもう無いってのに!」

それを阻む為に奏夜達も炎(アギ)、風(ガル)、雷(ジオ)で対抗するのだが、それでも防いでいる間に護衛達によってプリーステスのダメージを回復される。敗北は勿論、長時間戦っている訳にも行かないと判断した奏夜は自身の切り札の二枚目を使う事を決断する。

「余り多用したくないけど…仕方ない…力さん、任せました。ドッガ!!! 中位雷撃魔法(マハジオンガ)!!!」

奏夜が引き金を引いた瞬間、彼の精神力の大半を削り取るような疲労感が彼を襲い、続いて彼の内より撃ち出された紫紺の巨人(ドッガ)が力強く無双の腕力を誇る両腕を叩き合わせた瞬間、撃ち出された雷の束が護衛毎プリーステスを飲み込んでいく。

光が消えた瞬間、ニ体の護衛は消滅し、残っているプリーステスも全身が黒焦げになっている。

「す、すげェ…。」

「反側じゃないの…?」

その圧倒的な破壊力に呆然としている順平とゆかり…無理も無いと思いながらも、二人へと振り向く。だが、はっきり言って今のは『中位』攻撃魔法であり、攻撃魔法としては『高位』の魔法や、それよりも上に位置する攻撃魔法も存在しているのだ。

「順平、トドメだ! 岳羽さん、援護!!!」

「「わ、解った!!!」」

奏夜の指示を受け、ゆかりの放つ疾風(ガル)と矢の援護を受けながら、順平がプリーステスへと肉薄する。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

床を蹴り跳躍し、頭上まで振り上げた日本刀をプリーステスへと向けて一気に振り下ろす。

振り下ろされた日本刀はプリーステスの頭部を叩き割り、プリーステスは黒い泥が蒸発していく様に消え去っていく。最後に二つに割れた『Ⅱ』の文字が刻まれた『仮面』が乾いた音を立てて床へと落ちる。

「おっしゃゃゃゃゃゃゃゃゃあ!!!」

「やった!!!」

《『仮面』を残して》消え去ったプリーステスをみた瞬間、最後の一撃を打ち込んだ順平と、ゆかりが叫び声を上げる。だが、奏夜だけは真っ直ぐに運転室へと足を進める。

「って止まんねぇじゃんか!!!」

それも、ある種当然の事だ。列車は少しずつ減速しているが、先ほどまでの加速が手伝って、直に停止しそうには無かった。結果的に大元であるプリーステスを倒した事で暴走こそ止まったのだが、衝突を免れる為には…

「ブレーキ掛けないと、すぐには!」

ブレーキを掛けて停止させるしかない。

『待て!!! 奴はまだ“生きて”いる!!!』

通信機越しに美鶴の叫び声が聞こえてくる。その声に反応して後を振り向くといつの間にか後部車両への通路の間に“女教皇”の仮面が落ちていた。

その真下から泥の様な手足が伸びていき、子供が粘土を捏ねる様に人間と蛸を混ぜた様な形を作り上げていく…。顔の部分に割れたはずの仮面が修復されて収まるとその姿を『オクトパスファンガイア』の物へと変えていく。

「こんな時に。」

「な、なんだよ、ありゃ?」

「…………。」

半ば予想していた事とは言え、最悪のタイミングで再生してくれたファンガイアタイプを忌々しげに睨みつけると奏夜とゆかり。それに対して大型シャドウの『再生』とファンガイアタイプへの『変異』を始めて目の当たりにする順平は驚愕の声を上げる。

『あと一分を切った! 紅、もう奴の相手をしている時間は無い、先にブレーキを!』

「わかりまし…岳羽さん、危ない!!!」

「え? キャア!」

ゆかりを突き飛ばした瞬間、伸びたオクトパスファンガイアの腕に拘束され、奏夜はそのまま列車の外へと投げ出される。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「紅くん!」

『紅!!!』

「テメェ!!! よくも!!!」

ゆかりと美鶴の叫び声が響き、怒りに任せて順平がオクトパスファンガイアの姿をしたシャドウへと襲いかかる。だが、

「………!」

「ぐぁ!!!」

『アサルトダイブ』…シャドウもペルソナと同様に持つ物理攻撃スキルによって順平の体が弾き飛ばされる。

「きゃ!!!」

同様に自分を狙っていた、ゆかりの弓をオクトパスファンガイアの腕が弾き飛ばす。

「…ペルソナ…『シルフィー』!!! 中位疾風魔法(ガルーラ)!!!」

素早くペルソナをシルフィーに付け替えて、線路に魔法を叩きつけ落下の衝撃を完全に殺して体制を立て直す。

『……………。』

「桐条先輩…聞こえますか? 聞こえませんね。よし、これで…。」

「オウ、これで変身できるな! 流石、シルフィーちゃん、頼りになるぜ!」

自身の中に新たに宿ったシルフィーのペルソナの持つ能力は疾風(ガル)系の攻撃魔法だけではない。…それは『ジャミング』…美鶴からの通信や索敵を妨害できる能力なのだ。普段の戦闘には役立たずな能力だが…彼にとってこのペルソナは無くてはならない物だ。

奏夜は準備が整った事を確認すると、ポケットから飛び出して周囲を飛びまわっている相棒(キバット)へと視線を向ける。

「キバット。」

「ああ、キャッスルドランを呼んで追いかけるぞ、奏夜。ガブ!」

それは誰にも気付かれる事無くキバへの変身を行えると言う事だ。

キバットが奏夜の腕を噛んだ瞬間、ステンドグラスのような物が浮かび上がり、全身に魔皇力が迸り、同時に彼の腰にカテナが巻きつき、キバットベルトが出現する。

「変身!!!」

バックル部分にキバットが座した瞬間、奏夜の体を『キバの鎧』が包んでいく。この瞬間、彼は『仮面ライダーキバ』へとその姿を変えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、高層ビルの一角から龍の首が生えた。龍が咆えた瞬間、ビルの一部が怪しく光る。すると、ビルの一部がクルクルと巻かれ、まったく別の建物…西洋風の城が出現する。

咆哮と共に翼を羽ばたかせて飛翔するキバの居城『キャッスルドラン』、必要になるであろう、主の騎馬を届ける為に。

「くそ、紅! 聞こえるか、紅! ………ダメだ、返事が無い。」

何度も呼びかけるが、通信機から奏夜の言葉が帰ってくる事は無かった。

「甘かった。私のバックアップではやはり…ん?」

何かに気がついて美鶴は空を見上げる。彼女の瞳に飛び込んできたのは禍々しい月が浮かぶ空に、咆哮を上げて飛翔する龍の城(キャッスルドラン)。

それを見た瞬間、呆然として言葉を失ってしまう。

「なんだ…あれは?」

やっと出た言葉はその一言だけだった。

「キャッスルドラン? まだ呼んで居ない筈なのに。」

まだ呼んでもいないと言うのに己の元へと向かってくるキャッスルドランに対して疑問に思うが、それも直に氷解する。

「奏夜さま!!!」

キャッスルドランの中から聞き覚えの有る声が聞こえてくる。そこへと視線を向けてみると、そこには緑色の髪の美しい女性―シルフィー―が居た。

「シルフィー姉さん!」

「奏夜さま、貴方様の騎馬をお届けに参りました。お受け取りください。」

「ありがとう、シルフィー姉さん!」

「流石、シルフィーちゃん! ホント、頼りになるぜ!」

シルフィーが一礼するとキャッスルドランの城の部分から何かが疾走し、キバの前へと降りる。

「これは…。」

「そいつは『マシンキバー』。奏夜、渡が使っていた物だぜ。」

「これを…父さんが…。」

キバットの説明を聞きながら、キバは感慨深げに真紅の鉄馬(マシンキバー)の車体に触れる。

「って、こんな事話してる時間は無いぞ、奏夜!」

「そうだった、急がないと事故が…それに岳羽さんと…ついでに順平が危ない。行くよ、キバット!」

どうでも良いが…まだここ二回に渡る順平の勝手な行動に対してまだ怒っているようだ。

キバットベルトの腰の右のフエッスロットから金色のフエッスル『ブロンフエッスル』を取り出し、

「よっしゃ、行くぜ、奏夜! 『ブロンブースター』!!!」

キバットに加えさせる。そして、フエッスルの音色が響き渡ると同時に奏夜はモノレールを追跡するべく、マシンキバーへと騎乗する。その瞬間、キャッスルドランの口から黄金の魔像『ブロン』が出現した。

「奏夜、キバって行くぜ!!!」

「ああ!!!」

キバはアクセルを全開にし、マシンキバーを疾走させる。そして、魔像ブロンもまたマシンキバーと平走する様にマシンキバーを追いかける。

「奏夜様、御武運を。」

そのキバ達の背中をシルフィーは一礼して見送るのだった。

魔像ブロンのボディーが二つに割れ、それはマシンキバーと合体し、『ブロンブースター』となる。

「よし、行くよ!!!」

「おう!」

「「フルスロットルだ!!!」」

マシンキバーの最高速度の三倍近くの最高時速1550kを誇る『ブロンブースター』のスピードは一気に前方を走るモノレールの姿をキバ達の目に捉えさせる。

「追いついた。」

「どうするんだ、奏夜? って、おい、今からブレーキを掛けても間に合わねェぞ。」

既に追跡中のモノレールの前方には前を走っていた車両が見えていたのだ。今から戦ってファンガイアタイプのシャドウを倒したとしても…いや、直にブレーキを押したとしても間に合わないだろう。

「先にモノレールを止める。」

「おい、どうする気だ!?」

キバはブロンブースターを二台のモノレールの間に割り込ませ、ゆかりや順平が乗っている方の車両へ向けて方向転換させる。そして、

「行っけぇー!!!」

「って、おぃぃぃぃぃぃぃい!!! 無茶し過ぎだ!!!」

モノレールと同程度までスピードを緩めながらブロンブースターの先端を接触させる。そして、反対側へと進む同レベルの運動エネルギーを与え…前へと進む速度を相殺させる。

当然ながら少しずつとは言え減速しているモノレールなのだから、完全に同レベルに調整するのは難しい。だが、既にモノレールはオーバーランしているのだから、ブレーキ所か、逆方向に押し戻した所で、問題は無いだろうと判断するのだった。

「このォ! キャア!!! 今度は何!?」

「おわぁ、今度は何だよ!?」

オクトパスファンガイアの姿のシャドウと戦っていたゆかりと順平は突然の揺れにバランスを崩してしまう。それはシャドウも同様なのだろう、体勢を崩し攻撃の手を緩めてしまってた。

「マジかよ!?」

次の瞬間、乗客の居ない側の窓から飛び込んできた何かがシャドウをモノレールの外へと蹴り飛ばす。

「キバ…。」

ゆかりはキバの姿を一瞥して彼の者の名を呼ぶ。

キバはゆかりと順平を一瞥しつつ、オクトパスファンガイアの姿をしたシャドウを追いかけてモノレールから飛び出していく。

「私達…また…キバに助けられたの?」

『人類の敵』と聞かされていたはずのキバに二度も助けられたという事実…それは疑問となって彼女の心の中に刻まれたのだが…それは何を未来(この先)に齎すのかは誰も知らない事だ。

『何故、キバが我々を助けてくれたのかは解らないが…好都合だ! 今の内にブレーキを!』

「!? 解りました!」

「了解っス!」

モノレールの外へと投げ出されたオクトパスファンガイアの姿のシャドウにフルスロットルのブロンブースターをぶつけ、先ほど自分が投げ出された地点よりも先の場所へと移動させる。そして、

「行くぜ、ウェイク! アップ!!!」

キバがブロンブースターの上に立ち、ウェイックアップフエッスルを吹き鳴らしながら飛びまわるキバットがキバが振り上げた右足へと触れた瞬間、蝙蝠の翼を象った門『ヘルズゲート』が開放された。

そして、満月の影時間と言う夜の支配者がキバへと変わり、漆黒の空と巨大な三日月へと変わる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

ブロンブースターから飛び出したキバの必殺の一撃がオクトパスファンガイアの姿をしたシャドウへと突き刺さり、その勢いのままその先に存在していたビルの壁へと叩きつけられる。

―DARKNESS MOON BREAK!!!―

そして、右足のヘルズゲートが再び封印され、キバは叩きつけられたオクトパスファンガイアの姿のシャドウを左足で蹴り、線路へと舞い降りた。

「………………!!!」

声にならないシャドウの悲鳴と共にビルの壁に『キバの紋章』が刻まれ、シャドウは爆散する。

「…やっぱり…月が綺麗だな。」

魔性の魅力を持った満月を見上げながら、キバットがキバットベルトから外れると、キバの鎧は外れ、奏夜の姿へと戻る。それと同時にブロンブースターが光りに包まれ、キャッスルドランの元へと戻っていく。

直に自分のペルソナを『シルフィー』から、『オルフェウス』へと変える。これにより、妨害効果が解除され、美鶴からの通信が聞こえてくる。丁度後からは順平とゆかりの二人が走ってきた。

作戦室の無線に美鶴から作戦終了の連絡が入る。その場で待機しながら、その吉報を今か今かと待ち望んでいた明彦と幾月は直に応答した。

『こちら現場だ。たった今全て片付いた。モノレールにも目立った被害は無い。ただ…。』

「ただ?」

『敵大型シャドウがファンガイアタイプに変異した。そして…『キバ』が現れて、暴走するモノレールを停止させ、ファンガイアタイプを倒した。』

美鶴からの報告は要約すれば、『キバに助けられた』と言う物だ。…『人類の敵』と言う言葉を聞かされている彼らにして見れば(奏夜(キバ本人)を除いて)信じられない事だろう。

だが、それでも作戦終了の報告を受けて、二人揃って安堵の溜息を吐く。

「キバの事は兎も角。これなら、明日の朝刊に変な大見出しが出る様な事は無くて済むね。」

幾月は全身に感じる疲労を感じさせる事のない様に労いの言葉を投げかける。

『はい。彼等がよくやってくれました。短時間で驚くほど成長しています。』

「しかし、シャドウの様子……ただ事じゃないですね。モノレールを乗っ取るなんて、調子に乗りすぎている。」

明彦の言葉は他の者達が聞いても同意することだろう。戦闘能力の強化と思われる『ファンガイアタイプ』への変異は兎も角、明らかにモノレールを乗っ取ると言う『戦術』を行っているのだ。

「こちらでも調べてるよ。」

S.E.E.Sの上位陣の会話の中で幾月がそんな言葉を告げる。それは先月より二度に渡って出現して、キバに倒されている『ファンガイアタイプ』に変異した大型のシャドウの事についてだった。

『遂に…『始まった』という事なんでしょうか?』

「うーん……まだ早計には言えないけどね……。…ま、兎に角、先ずは現れる切欠を突き止めない事にはね。…それに『キバ対策』として『あれ』の準備を急いだ方が良いかもね。」

『始まった』…その言葉が何を意味するのかはその場に居ない奏夜達には知る術はない。

「いつもこんな土壇場まで分からないのは、どうにも拙いね。」

そんな事を言いながら幾月がタートルネックの襟元を正す様にしながら零す。見れば随分と汗をかいている。

『私にもっと力が有れば、みんなの負担を軽く出来るんですが……。』

「気にしなくて良いさ。君はよくやってくれてる。そんな事より、ね……。」

己の不甲斐なさを呪う様な美鶴を労わる様に言った後、幾月は深く溜息を吐くと、

「真田君さー……なんか、飲み物持ってない?」

「は……?」

突然の言葉に疑問符を浮かべる。

「……と言うか幾月さん、今日、何だか疲れてませんか?」

どうも彼は作戦室に入ってきた時から妙に疲れていた様な気がする。そこで一つの可能性へと思い当たる。

「まさか、表に停めてあった自転車……。」

「明日、いや、明後日辺り……筋肉痛かな? こりゃ……。」

明彦の言葉に答える様にその場で僅かに膝を折り、その疲労を一切隠そうともしない声で言った。

「……その…お疲れ様です。」

ただそう言うしか出来ない明彦であった。

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