第十三夜
プリーステスとの戦いの後、道を閉ざしていた迷宮(タルタロス)の道も、すぐに開かれる事となったと、ベルベットルーム…エリザベスから連絡があった。その言葉に従って、一日程休日を挟んだ後、タルタロスを登って見たら連絡の通りタルタロスの道は開かれていた。
「まあ、開かれた理由なんて考えるよりも、先に進んだ方がいいか。」
「そうだな。」
奏夜とキバットの考えとしてはそんな所だろう。はっきり言って、自分達自身現状と言う物が謎だらけなのだから、今は考えるよりも行動した方が早い。それに何より、一つだけ解っている事があるのだから。
「…ただ、あの大型シャドウ達がタルタロスと何か関係しているのだけは間違い無いだろうね。」
「ああ。だから、倒した事で道が開かれたって訳だ。」
たった一つ進展した事態としては、影人間の事についてだろう。プリーステスとの戦いの後、その事件がはっきりと減っていたのだ。それは、シャドウを倒していけば影人間となった人達を助ける事が出来ると言う希望を与えていた。
ゆかりと順平の二人はそれを聞いてやる気を見せているのだが、奏夜はそれほど事態を楽観的には見ていなかった。影人間をシャドウが作り出しているのは理解している。だが、その目的と言う物も見えていないのだから当然だろう。結果的に相手の背中を追いかけているのが限界と言うのが、自分達の現状なのだ。
そして、作戦後の会話に出て来た『今回は、キバに助けられたが奴の事は信用しない方が良い』…本当はもっと言葉としては遠回しな物だったが、そんな言葉が出て来た時点で先輩達、S.E.E.Sのトップ陣への疑念を強める結果となった。
実際、その時の会話では二度も助けられたゆかりは迷っているようだが、順平や明彦に至っては『向かってくるなら迎え撃つ』ではなく、すっかり『キバを倒す』という点に話しが至っているのだから始末に悪い。
「まあ、簡単に信用してもらえるとは思ってないけど…。桐条先輩…いや、理事長か…キバを敵にしたがっているのは。」
先日の会話の内容から、そんな方向へと考えを持っていく。実際、キバの事を議題に上げたのは美鶴で、キバ・ファンガイアタイプ対策の案を出していたのが幾月なのだから。
「…ホント、油断できないね…。それに厄介な事はそれだけじゃないし。」
「そうだな~。あのネーちゃんのサポートも限界みたいだしな。」
キバットの言葉通り、美鶴のサポートにも限界が来ているらしく、タルタロスの中ではサポート無しでの戦闘も余儀なくされていた。しかも、悪い事に上の階に進めば進むほど、出現するシャドウの力も増しているのだから、相乗効果で戦闘は辛くなっている一方である。
「ぼくも、未だにハウリングスマッシュとかの大技は一日一回が限度だし、ね。」
それでも、ガルル、バッシャー、ドッガ、シルフィーのペルソナの持つ強力な切り札級の技を使わずには勝利できているのは幸いなのだが、手持ちのペルソナ…特にオルフェウスの力には衰えのような物を感じてしまう。
「そろそろ、ベルベットルームに行って、新しいペルソナを作るか…手持ちのペルソナも力不足になってきたし…ペルソナとは言っても、次狼さん達に頼ってるばっかりじゃダメだしね。」
そう、四魔騎士(アームズモンスター)達のペルソナ以外には一種の『成長限界』とも言うべき物がある事には以前から気がついている。戦闘能力こそ僅かながら上昇するのだが、“スキル”を会得できない事が決定的なのだ。
もっとも、頼るとは言っているが、影時間になってからは何故かフエッスルを使ってもキャッスルドランから呼び出せずに、殆どフォームチェンジ出来ず、シャドウとの戦いはキバフォームだけで戦い抜いてきたのだが。
ペルソナを介した物理的な攻撃と、魔法とも言うべき強力な攻撃…それらを総合して“スキル”と呼んでいるが…オルフェウスを始めとする手持ちのペルソナは仲間達の者とは違い、成長に限界が有るように感じる。いや、仲間達のペルソナにも有るのだろうが…自分のペルソナは数が多い分、限界が早く来るのだろうと推測している。
実際、既にオルフェウスは一番最初に限界が来ていた。それでも、彼がオルフェウスを使いつづけているのは一種の愛着とでも言うべきだろうか? それは、奏夜本人にも分からない事である。
「…はぁ…。前途多難としか言えないね…これは。」
「そうだな~。それに、今はもっと厄介な問題があるんだろ~。」
そう、今の奏夜の目の前には『キバ』の…否…真なるキバである『黄金のキバ』の鎧、叔父が纏っていたファンガイア一族の王のみが纏う『闇のキバ(ダークキバ)』の力を持ってしても太刀打ちできない…学生のみが知る狂敵…その名は…
「うん。もうすぐ中間試験(テスト)なんだから、頑張らないと!!!」
「そうだぜ、キバって行けよ、奏夜!!!」
そう、その敵の名は『中間試験(テスト)』…日本中の学生達が苦しめられている最強の敵である。はっきり言ってキバの力だろうが、闇のキバ(ダークキバ)の力だろうが、こればかりはどうにも出来ない。
はっきり言って学生と兼任しているライダー達にとっては、ある意味どんな怪人よりも恐ろしい相手だろう。………このサイトのライダー達の大半がこれに分類されるが。
さて…先日のラウンジで特別課外活動部(S.E.E.S)の面々が顔を付き合わせて、話し合った結果、その時から試験が終了する一週間以上の間、特別課外活動部(S.E.E.S)の活動は他の部活と同じく、特別な事態(シャドウの出現)を除いて試験(テスト)対策の為に活動を一時停止となった訳である。
面倒な事では有るが、高校が義務教育でない以上はある程度の水準を保つ必要が有る。その事を理解している以上勉強しない訳には行かない。
「…転校して初めての試験(テスト)だから、悪い成績をとる訳には行かないんだよね;」
『絶対合格』という鉢巻と扇子を持って『フレー、フレー』と言って飛びまわっている、何処からツッコミを入れれば良いのか解らないキバットを全面的に無視しつつ机に向かう奏夜であった。どうでも良いが、中間試験(テスト)は合格とは関係ないのだが。
「ぜ、絶命タイムが王の判決で、その命神に返せェ!!! って、なにこれ?」
「いや、そこは『神に返しなさい』の方が良いんじゃないのか? 文法的に…。それで、次の文章は…。」
「『神は過ちを犯した』。でいいんだよね、これは?」
「しかし、何処かで聞いたようなフレーズばかりだな、この英文。」
シャドウを相手に獅子奮迅の活躍を見せるS.E.E.Sの面々も仮面ライダーキバも…やはり、試験(テスト)という脅威は恐れる物なのだろう。
その長い戦いにも遂に終わりを迎える時が来た。ある嬉しい知らせと共に…。
「…………。」
「南無~。」
「んー開放感っ!」
真っ白になって燃え尽きている(口から魂でも抜けているような気もする)順平と、そんな冥福でも祈っている奏夜、開放感から伸びをしているゆかりとそれぞれの言動が試験の出来を物語っている様である。
「どうだった、試験のデキは……。」
ゆかりは順平へと視線を向けるが…真っ白に燃え尽きて机に突っ伏しながら、奏夜に冥福を祈る様に拝まれている。
「…って、聞くまでもないか。」
「うん。見ただけで分かるね。『伊織センパイって、何ていうか……口も頭も軽いのねッ!』って言う言葉が今から聞こえて来そうな気がする。」
「なにそれ?」
「うーん…本人が言ってた台詞だから。」
後日張り出される彼の試験の結果に関しては…奏夜の予言通り『伊織センパイって、何ていうか……口も頭も軽いのねッ!』と言う下級生からの台詞が実際に聞こえてきた事から、推して知るべし。
「それで、キミは?」
「んー…赤点だけは免れたかな?」
そうは言っているが何気に学年トップの成績を収めているのが、奏夜なのだから、性質が悪い。本人曰く、『成績よければ、何やってても教師も静かだしね。』だそうだ。
「そうだ、真田先輩の検査入院、今日でおしまいなんだって、“おめでとう”くらいは言わなきゃね。」
ゆかりのその一言で、今だに燃え尽きている順平を“持って”明彦の退院祝いに行く事になった奏夜達(二年生トリオ)であった。
病院…
(…ん? 真田先輩以外の人の気配が…。)
「真田先輩、退院おめでとうございまー…。」
ギロリ
そう言ってゆかりが病室の扉を空けた瞬間、お見舞いに来ていたらしい明彦と同年代らしい少年に睨まれた。…まあ、ただ向こうは視線を向けただけかも知れないが…。
「真田先輩、退院おめでとうございます。」
「ああ、お前達か。」
改めて奏夜がゆかりが言いかけた言葉を言いなおす。
「アキ、もういいか?」
「ああ、参考になった。」
「……ったく、いちいちテメェの遊びに付き合ってられるか。」
“彼”はそう言って、病室を立ち去って行く。
「…ど、どうも…。」
バタンと言う音が響くと同時に順平は明彦の方へと向き直り、
「なんか、怖そうな人でしたけど…誰なんスか、今の?」
「…でも、確かに怖そうな人だけど、いい人だと思うよ。それに…あの人の“音楽”は…っと。」
奏夜の言葉に順平とゆかりの視線が奏夜へと集まった。
「紅君、音楽って何?」
「さあね。それで、真田先輩、あの人は?」
奏夜の言葉を疑問に思ったゆかりからの問いをそう言って少しだけ強引に誤魔化すと、明彦へと問いかける。
「ああ、一応同じ学校の生徒だ。すまんな、試験が終わったばかりだってのに。どうだ? デキの方は。」
奏夜の問いに苦笑を浮かべながら答える。だが…後に続いた明彦の言葉に順平が真っ白に染まる。
「…き、聞いたら拙かった?」
「よっぽどデキが悪かったんだね。」
彼の反応を見ただけで結果がよく分かるリアクションを見せてくれた真っ白になった順平に対してそう言う二人であった。
(それにしても…一応か…。あの人、休学でもしてるのかな? …それに、あの人の心は…『罪悪感』を奏でていた…。)
そんな疑問を浮かべながらも、人の事象を詮索するのも失礼かと考えて、そこで思考を切り上げる。
「それで、先輩の方はどうです?」
奏夜の言葉に答える様に明彦が拳を振るうと、空気を引き裂く音が聞こえた。
「この通り、体が疼いて仕方がない。復帰メニューが山積みだ。まる一月サボってた訳だからな。今夜辺りタルタロスに行かないか?」
ある種予想していた反応だが、戦線復帰が決まった事がよほど嬉しいのだろう。明彦もやる気を見せている。
「今日は遠慮しておきます。流石にテスト開けは、ゆっくり休みたいですから。」
「そうか、残念だな。」
実際、明彦の復帰は奏夜は心から喜んでいた。…最近はそれほどでもないが、暴走の危険の有る順平の扱いや、ファンガイアタイプや大型シャドウとの戦いで態と離脱してキバに変身すると言うのも面倒なのだ。
明彦がリーダーを引きうけてくれれば…少なくとも、経験、年齢ともに明らかに自分よりも上である明彦がリーダーならば、自分よりも順平の反発は少ないだろうと考えた結果である。
あとは美鶴や明彦に、ここ二回の命令違反に対する順平への罰を考えるなり、与えると言う考えを告げるなりすればいいと考えていたのだが…。彼の考えは無常にも裏切られる事となる。
復帰後は明彦にリーダーをお願いしようと話した時、このままリーダーを続けてくれと頼まれたのだ。曰く、『奏夜がリーダーを続けてくれるのならば、自分は力の上達に専念できる。』と言われてしまったのだ。おまけに奏夜がリーダーを続ける事は既に美鶴にも通っていた。………既に奏夜に逃げ場はなかった。
(はぁ、こんな事じゃ、後で話すべきだったかな? それに、次にキバに変身する時、本当にどうしよう。)
実際、これが原因で順平の暴走を助長してしまう事になるのではと思わず自分の迂闊さを恨みたくなる。そして、自分がキバに変身する際の戦線離脱…それは仲間にリーダーがいなくなると言う危険な瞬間を作ってしまう事にも繋がってしまうのだ。
そう考えて思わず頭を抱えてしまう奏夜であった。だが、それに付いては奏夜の見解が甘かったと言うしかないだろう。彼は動いていなければ、性に合わないという性格で有るのだから。そう言う意味でも、リーダーは他の者に任せておきたいと言う気持ちが有るのかもしれないのだから。
「急に無理すると、また折れちゃいません?」
「そうも言ってられない。」
心配するゆかりの言葉に明彦は一呼吸置く。次に続く言葉は奏夜達にとって予想外の言葉だった。
「新たなペルソナ使いも見つかったしな。」
その言葉に表情が変わる。奏夜、順平に続く新しい戦力と言う事だ。相手の意思にもよるが、影時間とシャドウの謎の解明の糸口を掴む為に戦力には大いに越した事はない。
だが、
「おお! 新戦力って事スか!? …………もしかして、女子とか!?」
順平だけは何時もと変わりない様子であった。
「……バカ。」
「……バカだ。」
見当違いな質問を始める順平に思わず溜息を付きながら、そう呟いてしまう。『他に聞く事が有るだろう?』と思いながら、順平に冷ややかな視線を向ける二人であった。
そんな順平の言葉に答える為に明彦が口を開く。
「お前達…“山岸(やまぎし) 風花(ふうか)”を知っているか?」
「いえ。」
初めて聞く名前に奏夜は首を傾げてしまうが、どうやら、ゆかりはその名前に聞き覚えが有るようだ。
「山岸…? 確か、隣のクラスE組の…。体が弱いとかで学校ではあんま見ないような…。」
それなら、転校生である自分が知らないのも無理は無いと重いながら頷いだ瞬間、明彦の言葉の意味を理解する。
「「…って、まさか!」」
「へ?」
それはゆかりも同様で合ったようで思わず口を揃えてそう叫ぶ。
「ああ、新しい適合者だ。ここの病院に来てた所、適正が見つかった………しかし。」
「適正が合っても、それじゃあ、戦いは無理そうですね。」
「ああ。……適正があっても身体がそれじゃ、戦いは無理だろうな……召還器も用意したんだがな。」
「当然ですよ。」
残念そうに言うゆかりと明彦に対して、奏夜は即座に…きっぱりと、そう言いきる。
折角の新戦力だが、戦いが無理ならばどうしようもない。事情を聞く限り…残念ながら、彼女が奏夜達の仲間になる事はないだろう。そんな体で無理に戦闘等させてしまったら、万が一の危険も有る。
そして、例え新たなペルソナ使いが見つかっても、無理矢理に巻き込む等と言う選択支は奏夜には無いそんな選択をしてしまったら、それこそ…キバを受け継ぐ者としても、父や祖父の名にも泥を塗る事にもなる。
なによりも、これは遊びではなく、死と隣り合わせの死闘…。それを知った上で仲間になるのならば、仲間として迎え入れる(それでも、リーダー権限で無理はさせる気は無いが)が、本人の意思を無視して仲間に入れ様等と言う考えならば、敵になる事も辞さないというのが、奏夜の考えである。幸いにも、明彦にはその気は無いようなので、奏夜の心配は無駄になってくれたのだが。
「ええ、もう諦めちゃうんスかッ!?」
だが、順平がそんな声を上げる。彼女が仲間に加われないのが不満なのだろう。流石に、その反応には…その場にいる全員が呆れた様子で、奏夜を除いて、生暖かい視線を彼へと送っている。
(………。)
絶対零度の冷たさの視線で拳を握り締めながら、順平を見る奏夜だが…。
「せっかくオレが、手取り、足取り、個人レッスンとか……。」
「「「…………はぁ。」」」
続けて出た言葉に思いっきり呆れて、声を揃えて溜息を付く三人でした。奏夜に至っては今までの緊張感が解けて、ずっこけてしまいそうな程で合った。
要するに、彼は新戦力とか、体が弱いとか関係無く…ただ単に女の子が仲間に加わると思ったら、それが叶わぬ夢だと知って、素直にそれを口にした。……ただそれだけった。
要するに彼は、山岸風花がペルソナ能力を持っているとか、身体が弱いとかは関係なかったのだ。『ただ単に女子が仲間に加わると思ったら、それが叶わぬ夢だと知った。』だから素直にそれを口にした。そういうことだ。
どこか哀れみの篭った目で彼を見る奏夜…それはゆかりも同じ思いなのだろう…哀れみを含んだ目で彼を見つめていた。
「ナニ? そのかわいそうな生き物を見る様な目は?」
「「……はぁ……別に……。」」
「……み…見んなよ……そんな目でオレを見んなよ……。」
順平の問いに特に示し合ってもいないのに、声を揃えてそう答えて視線を送りつづける。彼曰く…『かわいそうな生き物を見る様な目』で。やがてその視線に根負けしたかのように、順平がそう呟いたのだった。
そして、その後(のち)の5月30日…月光舘学園の校門前で倒れている少女が発見された事が……新たな事件の始まりを告げるのだった。