シープファンガイアタイプの消滅を確認し、キバへの変身を解き、元の姿に戻った奏夜はタルタロスの中へと戻っていく。
「紅、無事だったか!?」
「はい。キバには“また”助けられましたけど。」
「では、もう一体の方のシャドウも…。」
「はい。キバに倒されました。」
「またしても…キバか。」(私達が歯が立たなかったファンガイアタイプを簡単に二体も倒したのか…やはり、キバやファンガイアタイプと戦うには、“あれ”を使う必要が有るか。)
奏夜の言葉を聞いて美鶴は思考を進めて行く。
これまで、キバとは直接刃を交えた訳ではないが、寮、モノレール、そして今回と、現われた、強敵としか呼べないレベルに有るファンガイアタイプや、それを簡単に葬るキバと言うもう一つの(彼女達にとっての認識の中では)脅威に対抗する為には今の戦力ではダメだと判断する。
どうでも良いが、キバもフォームチェンジが出来る前はファンガイアタイプ相手に十分過ぎる程苦戦していた。
「敵……他に敵は……?」
「もう心配ない。」
息も絶え絶えと言った様子でまだ周囲の敵の存在を感知していた風花にシープファンガイアタイプとの戦闘で受けたダメージを回復させた明彦が立ち上がりながら告げる。
「……風花……あんた……。」
「森山さん…け、怪我は、ない?」
ただでさえ体力を消耗する影時間の中に閉じ込められていた事、そんな状態での始めての実戦、既に立っているのも辛いだろう。だが、それでも風花は自分の身の前に夏紀の事を心配していた。
夏紀が頷くと彼女は安堵の溜息を吐き、
「………良かっ、た…。」
「風花!!!」
そう言って彼女はその場に崩れ落ちる…
「お疲れ様。」
前に奏夜が彼女の体を受け止めていた。その体はとても軽い。容易く抱き上げられそうな位に華奢で、それを受け止めた手に感じながら、奏夜は優しげな微笑を浮かべる。
(…軽いな…こんな華奢な体で良く頑張ったね。)「…今はゆっくり休んでいて…。」
そう告げて、奏夜はゆっくりと受け止めていた彼女の体を床へと寝かせる。
戦っている時にも聞こえていた彼女の心から奏でられる音楽は安心できるほど優しい物だった。
(…久しぶりだな…こんな気分になれたのは。)
床に寝かせると彼女の髪を優しく撫でる。
「…………。」
そんな彼の仕草に何処か面白く無さそうな表情を浮かべている少女が一人いるのだが、それは置いておいて。
「風花……。」
奏夜が寝かせた風花の体へと、涙を零し、彼女の名前を呼び続けながら夏紀が縋り付く。
「桐条先輩、山岸さんは大丈夫ですか?」
「ああ、心配はない。疲れが祟っただけだ。」
「良かった。」
「森山さん……。いいんですか? 全部見ちゃって……これから。」
未だに泣きながら彼女にすがり付いている夏紀に視線を向けながら、ゆかりが先輩二人に問い掛ける。
「いや。」
ゆかりの問いに答えたのは、明彦の方だった。
「彼女はオレ達の様に“自覚”していない。影時間での事は記憶に残らない…夢の様にな。」
「…なるほど。都合は良いですけど、ねぇ。」
明彦から告げられる都合が良すぎる状況に奏夜は思わず苦笑を浮かべてしまう。
「じゃあ…山岸さんが恩人だった事も忘れちゃうってことですよね…。そんなのって…。」
「いや、そうなっても大丈夫そうだよ。」
奏夜の言葉にゆかりと順平は風花達の方へと視線を向けた。
「ごめんね……ごめんね……風花、ごめんね…ごめんなさい…。」
嗚咽交じりに風花に謝罪している夏紀の姿を見つめながら、
「…彼女も自分がどうすればいいのか…どうするべきなのか、もう分かっているみたいだからね。…記憶は忘れてしまっても、“心”は忘れない。…彼女が奏でる音楽は…おっと。」
そこまで言いかけた後、奏夜は言葉を止める。
「なあ、紅、音楽ってなんだよ?」
「さあ、なんだろうね?」
順平の問いに苦笑を浮かべてそう答える。
(…なんだか、紅くんも変わったみたい…。)
そんな事を感じてしまう。今まで以上に奏夜から感じられる穏やかさ、それを確かに感じながら、ゆかりは奏夜に訪れた、本人も気付いていない変化を感じ取っていた。
だが、
『………。』
禍々しい満月を背負いながら、そんなタルタロスを見下ろしている異形の影が有った事は誰も気付かなかった。
《こうして、怪談騒動は終わりを告げました。今回の一連の事…生徒の行方不明を黙っていた事やイジメの事でE組の担任は“処分”されたらしいです。まあ、自業自得なので同情はしないですけど。順平はブツブツと『良かったオレ、“処刑”にならなくて…。』なんて言ってたっけ。影時間の中に落ちた人達も無事意識を取り戻しました。それと、山岸さんは体は至って健康で、イジメが原因で不登校になっていたみたいで、ぼく達に協力してくれる事になりました。
父さん…今回の事で少しだけ、父さんがキバとして何を守りたくて戦っていたか分かった様な気がします。まだ少しだけで、全部分かったなんて言えません。でも、その答えは見つけられそうな気もします。キバとして、『紅 奏夜』として戦っていきます。だから、心配しないで下さい。
紅 奏夜》
神社の境内で手紙を読みなおした後、奏夜は『紅 渡様へ』と書かれた封筒に入れて火を点けて燃やす。
完全に手紙が灰になった事を見て、水をかけると立ち去って行く。
(…ただ、やり方が気になるんだよね。)
ふと、奏夜は影時間の中で消耗し入院して療養する事になった風花と夏紀…二人共順調に回復していった後、風花が退院する事となった日の事を思い出す。
主にエンペラーとエンプレス、そして、ニ体の大型シャドウが姿を変えた《ファンガイアタイプ》、プローンファンガイアとシープファンガイアの姿をしたシャドウとの戦いの数日後。
『彼女を交えて話が有るので、放課後作戦室に集合して欲しい』と言う連絡を受け、作戦室にS.E.E.Sのメンバーが揃う事になった。
「みんな、本当にご苦労だったね。山岸くんの件、よく突き止めてくれた。」
先ず最初に受けたのは幾月からの労いの言葉だった。ここで他の被害者達と、行方不明事件がここまで大事になった元凶である教師の処理を、前者は幾月から、後者は美鶴から聞かされた。
前者の言葉を聞かされた時に風花の言った言葉『良かった……。』と言うのを聞き、彼女が心から彼女達の回復を喜んでいる事は、よく分かる。その彼女達からイジメを受けていたと言うのに、本当に人が良いと思わず苦笑してしまったほどだ。
特に内心、彼女達の回復はどうでもいいと思っていた奏夜としては、多少耳が痛い気分では有ったが。
彼自身としては、自分の知る父ほど人間を好きになっていないのだ。切り捨てるべき人間は見捨てるべきと何処かで考えている節も有る分、父の知り合いから言われた事も有るが、自分の性格は父と言うよりも叔父に近いのかも知れないと考えていた事も有る。
もっとも、黄金のキバであった
そして、幾月の話しによると、彼女達は警備員が帰宅する0時近くを待ち、学校へ行っていたらしい。そして、校門前で影時間…0時を迎え、影時間の中に落ち、シャドウに襲われたと言う訳である。
騒ぎになったのも、昔からある怪談と偶然にも状況が一致してしまった為、発展してしまったと言うわけだ。
「まったく…オンリョウなんて、実際有りっこないですから。」
「まあ、今回はシャドウの仕業だったけど、まだ断言するのは早いと…ごめん。」
ゆかりの言葉にそう告げるが、ゆかりに睨みつけられた事で、即座に謝罪した。
(…岳羽さんには黙っておこうか…キバの事は話しても…。)
事件の調査を始めた時は知らなかったが、怪談話しを調査する時に『フェロモンコーヒー』と言う物をお土産にキャッスルドランの中に入った時、次狼からファンガイアを含む『13の魔族』の中には『ゴースト族』と言う霊体の一族も居る事を聞いた上に、事件の後にキバットから聞いた話しにも…過去の一度、祖父である『紅 音也』の霊が父に憑依した事も有るそうなのだ。
それらの事実から、『幽霊は存在する』と言う絶対の確信と共に思う。この事は絶対にゆかりには話せないと。
「私が………悪いんです。」
奏夜がそんな事を考えている時、風花が呟いた。
「って、なんでそうなるのよ! あなた、被害者でしょ!?」
「でも、何日か休んだくらいで、死んでるとか変な噂になっちゃったのは、私のせいだし……。」
「それは違うよ。」
顔を俯けながら言った風花の言葉を奏夜は否定する。
「今回の一件で、君は完全な被害者だ。噂も突き詰めれば言い出した張本人と、それを信じた者全員の責任で、そこに君の非はない。だから、気にする事はないよ。」
「紅くん…。」
そう、原因が何にせよ、噂を広めて行った者達が加害者で、広められた風花は被害者でしかないのは揺らぐ事のない事実なのだ。
「キミが居なければ、私達は勝てなかったかもしれない。キミは私達の命の恩人だ。だから、もっと自信を持っていい。」
「…そうだよ。キミのおかげで勝つ事が出来たんだからね。」
美鶴の言葉に奏夜も言葉を続ける。奏夜の言葉の中にはキバのフォームチェンジの事も含まれている。
彼女が居なければフォームチェンジも出来ず、プローンファンガイアタイプも倒せなかっただろう。それ所か、彼女がペルソナを召喚していなければ、エンペラーやエンプレスにさえ、勝つ事は出来なかったとも考えてしまう。奏夜にとっては二重の意味で彼女は命の恩人なのだ。
「ああ。キミには人の支えになれる特別な力が有るんだからな。」
美鶴が告げたその言葉に風花が顔を上げる。
「…特別な……力…?」
「私達はペルソナと呼んでいる。君の能力は、今の私達に必要なのものだ。是非、力を貸して欲しい。」
美鶴の言葉に奏夜も心の中で僅かに同意してしまう。風花のペルソナの解析能力は美鶴のペンテレシアのそれを遥に凌ぐ物だ。同時に美鶴達にも存在を隠している奏夜のペルソナ『シルフィー』のジャミング能力も通用しないのだろう。
(…彼女の力は確かに欲しい…。)
前回の戦いの様に情報を伝えてもらえれば、戦いはかなり楽になる。そして、キバに変身した時も、彼女の力を借りられれば、今まで使えなかったフォームチェンジも使える様になるだろう。
だが、彼女の性格を考えると協力するとは思えない。ならば、フォームチェンジもあの一夜のみの奇蹟と割り切るしかない。少なくとも、好き好んで異常に跳び込む人間ではないと判断できる。そして、その理由もないのだから。
血筋から始まり、肩まで異常に使っている人生を歩んでいる奏夜とは違うのだから。まあ、望んで加わると言うのならば、喜んで歓迎しよう。
(…それでも、全部彼女が決める事だからな…強制は…って、あれ? なんか、この話しの流れって…。)
そんな考えを浮かべながらも、戦う事を選択するのは、彼女であり強制すべきではないのだと考えていると、美鶴の勧誘の内容を思い出しどこか引っかかる物を感じていた。
「それって……私が先輩達…紅くん達の仲間に?」
(あれ?)
風花の言葉に奏夜は再び引っかかる物を感じてしまう…
順平の方から妙な視線を感じてしまうが、それは良しとしてしまおう。by.奏夜
「あの…何で私にこのような力があるのか分かりませんが、お手伝いできるのなら喜んでします。」
奏夜の予想に反して風花は協力すると申出てしまった。何故か彼女の声はフォームチェンジの時にキャッスルドランの中の次狼達にフエッスルの音色を届ける事を頼んだ時の様に聞こえた。
(…そうか…。)
そこまで考えた後、奏夜は内心納得してしまったのだ。彼女は今まで自分の力を必要とされた事など無かったのだろう。そして、キバとして戦った時の奏夜に、美鶴と、何度も人にその力を求められているのだから、それが嬉しいのだろう。
(…だったら、ぼくも原因かな…?)
「ヨッシャ!」
奏夜がそんな事を考えている時、順平が喜びの声を上げていた。
「ハァ。山岸さん、君は本当にそれでいいの?」
「はい。…今までの私は自分に何が出来るのか分からなかった。でも、こうやって人には無い力を手に入れて、誰かの役に立てるって事が出来るなら…。」
ここまで決意が固いのなら、奏夜には反対する理由は無い。彼女を仲間として受け入れるだけだ。
(…弱みに付け込んだ気がするのは気のせいじゃ無いな…。)
そう考え、奏夜は自然と鋭くなる視線を美鶴へと向ける。今になって振り返ってみれば明らかに今の会話は風花が協力する様に意識を誘導していた様にも思える。しかも、結果的に特に自覚しなかったとは言え、奏夜自身もそれに協力してしまっていたのだ。共犯者である自分に彼女を責める資格は無いと割り切る。
その後の会話は大型シャドウの事へと向かい、今回の一件で『満月の夜』に大型シャドウが出現すると言う事で、今後の活動はそれを一種の目安にする事が決まった。
次の満月の夜は七月七日の七夕の夜…それが次の決戦の時、
そして、
2-E…風花のクラス。数日振りの登校になった風花が教室に入ろうとした時、
「あ、ユーレイの子だ。」
「……やめなって。」
彼女へと向けられる視線と心無い声が響く。入ろうとした足を止めて顔を俯かせていた時、
「…。」
「何突っ立てるのよ…。」
そんな風花の背中に誰かが声をかける。
「……森山さん。」
声をかけたのは、夏紀だった。
「風花、あんた寮に入ったんだって?」
「………うん。」
「…あいかわらずくっらいの。いろいろ事情があるんだろうけど。…ま、何か有ったら相談しなよ。いつでも…さ。」
「…え?」
彼女から向けられた声にそう言って顔を上げる。
「どうせ、頼れる相手も居ないんでしょう?」
「……森山さん。」
彼女から向けられている言葉の意味…それは、
「カッタいなー、その呼び方…ナツキでいいから。」
「ナツキ…ちゃん。」
「それじゃあね。」
そう言って教室の中に入っていく、夏紀。…この時、一人の少女に新しい友達が出来た。
「ありがと…ナツキちゃん。」
彼女は笑顔を浮かべながらそう言うのだった。
現在
(…桐条先輩、信じたいのは山々だけど、はっきり言って不信感しか沸かないよな。)
状況だけでとは言え、はっきり言ってS.E.E.Sの上位陣、特に美鶴と幾月に対しては不信感しか沸いていないのだ。
自分がS.E.E.Sに協力したのは、完全な利害の一致からだが、今回の事から考えると飽く迄仮定の話しだが、要請を断っていたら、脅迫の一つでもしてきたであろう事は容易く想像できる。
そう考えるとそんな方向に話しが行く前に風花が協力したのは喜ぶべき事だろう。
(…そうなると、先輩には自分だけでなく他人の命を危険に曝してでも、シャドウ退治をする理由が有ると言う事か?)
自分もシャドウ退治にキバットと共に戦っている以上、人の事は言えない(もっとも、キバットや四魔騎士達は死の覚悟も有る戦士だが)が、そう考えると怒りを感じずには居られない。
(…ファンガイアタイプを除いても…間違いなくこれまでの戦いで命の危険も有った…。)
キバの力が有るだけに、最悪は奏夜がキバに変身すれば回避できる可能性でしかないが、間違いなく今までの戦いには命の危険も有った。何故かその危険の殆どが順平の暴走であるのだから、頭が痛い問題である。本気で『リーダー辞めようかな?』と考えている今日この頃。
自分と風花、美鶴以外のメンバーの参加理由…メンバーの中で恐らく一番古参に当たる明彦の参加理由はわからない。ゆかりも同様だが何か理由が有るのは理解できる。だが、その中で一番覚悟と考えが足りていないのは順平だ。
そんな順平まで参加させているのだから、それだけ人手が足りてないのだろう。
(…最悪…少なくても、桐条先輩と戦う事になる事くらいは覚悟しておいた方が良いかな…。)
仲間への不信感から浮かんできた考えだが、キバとしてか、奏夜としてかは分からないが…美鶴と敵対する日は来る事程度は覚悟しておこうと考えておく。
(…桐条先輩…貴女がそこまでする理由をぼくは知らない。でもね…場合によっては、『黄金のキバの鎧』を纏ってでも…ぼくは、邪魔をさせてもらう。)
最後に『そうならない事を祈っている』と付け加えて、奏夜は心の中で美鶴へとそう警告する。
(…それにしても、またあの子も出てきたっけ…確か名前は…。)
数日前の夜
「覚えているかな…?」
眠っている時、現われた少年からかけられた声で奏夜は目を覚ます。
「前に僕が言った事…。あれからまた少し思い出したんだ…。多分…“終わり”は避けて通れない。たとえ、魔皇の力を持ってしても。」
「…魔皇…?」
「キバの事かよ? ったく、何処まで知ってんだ、おまえは?」
ベッドから奏夜が置き上がり、自分の寝床から飛び出したキバットが奏夜の肩に留まり、少年に向かってそう言った。
「…でもね。」
そんな二人の言葉に答えず少年は言葉を続けて行く。
「不思議なんだ。君を…君達を見ていると、それとは反対の……大きな可能性を感じるんだ。」
そう言って少年は微笑みながら、
「ねぇ、良かったら、僕とトモダチになってよ。君とそっちのコウモリモドキ君、君達に凄く興味があるんだ。」
「って、何がトモダチだよ、「君の名前は?」…って、おい、奏夜!」
「…そっか、名前。名前が必要なんだね。僕の名前は…『ファルロス』。ファルロスだ。よろしく。」
そう言って握手を求めて差し出される少年の手、奏夜はそれを、
「うん。僕は奏夜。紅奏夜。」
握り返した。
「っ!?」
その瞬間、奏夜を妙な感覚が襲った。自分の中に新しく生まれ様としている“力”、それも…
「おい、どうした、奏夜!?」
(…今のは黒いキバになった時の…あのペルソナを発動した時の…。)
「それじゃ今日はこれで帰るよ。今日は友達になれて嬉しかった。また次に会える日が、今から楽しみだ。」
そう言い残して少年…ファルロスの姿は消えて行った。
「おい、大丈夫なのか、奏夜?」
真上を飛び回るキバットが心配そうに声をかける。だが、
「うん、大丈夫。」
異常は無い。寧ろ、
(…この感覚は黒い死神のペルソナに…黒いキバ?)
薄っすらとした影…まだその程度のレベルだが、確かに『黒い死神のペルソナ』の存在を微かに自分の中に感じられたのだ。
(…ファルロスか…彼は本当に何者なんだろう?)
自身の中に確かに…だが、微かに感じられる強大な黒い死神の力…まだその力を使うのは力不足と言う所なのか? それとも、まだ何かが欠けているのだろうか、それは分からない。
「おっと。」
思考の中から戻り、時計を確認すると既に風花との待ち合わせの時間が近づいていた。
「拙いな、急がないと。」
「そうたぜ、奏夜~。女の子との待ち合わせってのは、相手を待たせちゃ行けないんだぜー。」
「って、キバット、デートじゃないんだから。…それに、人通り少ないからって昼間から出て来て良いの?」
「いいじゃねえかよ、奏夜。部屋に閉じ篭りきりってのは、結構退屈なんだぜ~!」
「まあ、それは分かるけどね;」
キバットの言葉に思わずそんなツッコミを入れてしまう。そんな事を話している間に待ち合わせ場所のポロニアンモールが見えてきた。
「ごめん、待った?」
「あ、はい。私も今着いたところですから。」
噴水の前で奏夜と出会うのは風花…。先日約束したのだ、キャッスルドラン…あの戦いの夜聞こえた声の主達と会わせる事を…。
「それじゃあ、行こうか、山岸さん。招待するよ…ぼくの仲間達の居る場所…キャッスルドランへ。」
「はい!」
どうでも良いのだが…この二人、デートの待ち合わせにしか見えないという事に自覚は無いのだろうか…? 多分、否、間違いなく…少なくとも奏夜にはその自覚は無かった。