「あ、あの…紅くん…一つだけ聞いてもいいですか?」
奏夜と共に御伽噺の中でしか見られないような赤い絨毯が敷かれた西洋風の城の中を歩いている風花が彼にそう問い掛ける。
「ん? いいよ。」
「私達ビルの中に入ったんですよね…? それなのに、どうして今お城の中に居るんですか!?」
事情を知らない人間にとってはもっともな疑問だ。
奏夜に連れられた風花が入ったのは普通のビルだった。現に一階部分は普通のビルと代わらなかった。人も普通に歩いていた。それなのに今は自分達以外人気が無い石造りの西洋の城の通路を歩いているのだから。
「うん。ここが『キャッスルドラン』と言う、父さんから受け継いだキバの居城なんだ。」
キャッスルドランの説明に付属する『ドラン族』の事に付いても説明するべきかとも思ったが、それは後に廻そうと考える。…今でも混乱している風花には刺激が強過ぎるだろう…。これからもっと凄い連中(アームズモンスター達)にも会う事だし。
「そう、普段はこうしてビルに擬態してるんだぜ!」
「ああ、それで…。」
奏夜の肩に停まっているキバットが風花にそう説明すると彼女は何処か呆然としていながらも、納得した様子でそう呟いた。
「え…でも、お父さんから、お城を受け継いだって…紅くん…なんだか御伽噺の王子様みたいですね…。」
正しくは奏夜の場合『王子』ではなく『皇子』になるのだろうが…。
「あー…それって多分間違ってないかも…。」
「え?」
「正確には、奏夜には兄貴が一人居るからな、こいつは第二位皇位継承者って所か?」
「え…えぇぇぇぇぇー!?」
風花の言葉を肯定する奏夜とキバット…そして、それを聞いて思わず驚きを露にしてしまう風花。
風花が驚くのも流石に無理は無いだろう…。普通なら、同じ学校の同級生と言う身近な所に『本物』の『皇子』が居るとは夢にも思うまい。
「え…えーと、それってどう言う…。」
「まあ、今となっては…治めるべき民の居ない無価値な王位だろうけどね。」
風花の言葉を遮る様に苦笑を浮かべながら奏夜はそう言い切った。
「それって…。」
「…キャッスルドランはあの時に言った13の魔族の一つで最大勢力を誇っていた一族『ファンガイア一族』の王の居城だった。詳しい説明は省くけど…父さんの死の後にファンガイア一族は急激に数が減り始めた。ちょっと長くなるけど…。」
そこまで話した後、奏夜はゆっくりと語り始める。
人間の天才音楽家の祖父『紅 音也』と当時のファンガイア一族のクィーンの祖母『真夜』の出会いと種族を超えた愛。
その子供である父『渡』と、叔父である渡の異父兄弟の兄でファンガイア一族のその当時のキングである『登 大牙』の一つの悲恋の物語と兄弟の戦いと和解へ至る話。そして、ファンガイア一族が人間との共存が始まった事。
そして、父である先代の黄金のキバの死から急激なファンガイア一族の衰退と、奏夜と彼の兄、そして一部の『ネオファンガイア』と名乗り始めた者達を除いてファンガイア一族が絶滅した事。
それらを語った。
………風花が恋愛関連の部分を聞いてうっとりとしてたのは、ここでは割合して置く。…どうでも良いが、奏夜の中での音也のイメージはかなり美化されているのだ。
「まあ、そんな訳でネオファンガイアを追いかけて今兄さんは過去に旅だったって言う所だね。」
そう言って奏夜は父の物語を語り終えた。
「クォーターとは言えファンガイアのクィーンの血を引いた先代キングの身内で、数少ない生き残りのぼくと兄さんが今じゃ皇位継承権を持っているんだけど、まだ、ぼくも兄さんも皇位は継承していないって訳だよ。」
そう言った後、『キャッスルドランは
どうでも言いのだが…立場上奏夜は兄がネオファンガイアを追って過去に旅立った以上、現代に残った唯一のファンガイア一族。消去法では有るが、奏夜が立派に当代のキングに当るのではないだろうか…。
当の奏夜自身は『民の居ない
「そうだったんですか…じゃあ紅くんは…。」
「一人じゃないよ。ぼくと兄さんを引きとって育ててくれた母方の叔父さんも居るし、キバット達も居るから一人じゃないよ。」
「…『達』って…もしかして、あの時聞こえた…。」
「うん。…『ウルフェン』、『マーマン』、『フランケン』、『エルフ』と言った他の魔族の生き残りのみんなもここ(キャッスルドラン)で暮らしているしね。そんなみんなも合わせて、ぼくにとっては家族みたいな物だよ。」
前回のファンガイアタイプとの戦いの時、聞こえた声の主達…今日風花をキャッスルドランへと招待して紹介し様と思っていた者達の事を上げる。
「…そうなんだ…。」
何処か呆然とした様子で風花はそう呟く。これからの戦いでは
なら、こちらの事も知っておいてもらった方が良いだろうと考えて、彼女が寮に入った週の週末にキャッスルドランの招待した訳なのだが…。
「…まあ、驚くのは無理も無いけど、気を付けて…多分、これからもっと驚く事になるから。」
「え、それってどう言う…。」
風花を案内しながら、奏夜は苦笑を浮かべつつ一つの扉を開く。丁度仲間の四魔騎士が集まっている所だ。…普段は人間の姿をしているので少しは驚きも少ないだろう…部屋を開けて突然モンスターの姿でいるよりは…。だが、
「きゃあ!」
「……なんでその姿でババ抜きを……?」
部屋の中には思いっきり本来の姿でババ抜きに興じているガルル、バッシャー、ドッガの姿があった。
「ん? 奏夜か?」
「あ、いらっしゃい♪」
「いらっ、しゃい。」
「…取り敢えず…ツッコミ所が多いけど…なんでその姿でババ抜き…?」
「え、あ、あの…。」
ババ抜きを中断して奏夜に挨拶するガルル達、何でその姿でババ抜きしているかを聞く奏夜、現状に混乱している風花…その場に混沌とした空気が漂っていた。
「…あー…取り敢えず、その姿だと刺激が強い人が居るから…。あ、山岸さん紹介するけど…。」
奏夜が言いきる前にアームズモンスター達はそれぞれの人間の姿へと姿を変えて行く。
「『次狼』さんと『ラモン』さん、それから『力』さん。」
奏夜は風花にアームズモンスターの三人…タキシードを着崩したワイルドな風貌の青年『次狼』、セーラー服を着た少年『ラモン』、燕尾服を着た屈強な大男『力』を紹介する。
「始めまして。」
「始め、まして。」
「なるほど、そいつが前の戦いで…。」
次狼の言葉に奏夜は頷く事で答える。そして、今度はアームズモンスター達へと向き直り、
「彼女は山岸風花さん。前の戦いの時に次狼さんとラモンさんを呼ぶのに、彼女の力を借りたんだよ。」
「あ、はい。始めまして。」
風花の事を紹介する。
「そうか、あの時は助かった。」
「うん、ありがとう。」
「ありが、とう。」
「あ、いえ、そんな…。あのさっきのは…。」
「ああ、あれがこいつ等の本来の姿だ。流石に、行き成り見せたら刺激が強いよな。」
「あ、でも、良い人達だから。」
「そうですか…。」
キバットの説明を奏夜が苦笑を浮かべながらフォローする。キャッスルドランの中に入ってから知る事や見る事に圧倒されるばかりの風花である。
「そんなに驚いたか?」
「あ、はい。すみません…。」
「あ、気にしなくてもいいよ。」
次狼達はすっかり風花を歓迎するムードだ。これからの戦いの事を考えると風花には
どうでも良いのだが、以前は友達の居なかった風花だが…奏夜と関わってからは、人間じゃない者達(13の魔族)とまで親しくなった。それは、良い事なのだろう。
「…そう言えば、シルフ…春花姉さんは…。」
敢えて本来の名前である『シルフィー』と呼ばずに『春花』の名前でここに姿の見えない彼女の事を訪ねる。
「あいつか?」
「春花はお茶の用意に行ったよ、そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」
コンコン…
奏夜の言葉にラモンが答えるとドアをノックする音が響き、ゆっくりとメイド服を着た緑色の髪の女性が部屋の中に入ってくる。
「奏夜様、御出迎えが遅れてしまって申し訳ありません。それから、始めまして、私は奏夜様に御使えする四魔騎士の一人、『エルフ族』の春花と申します。風花さん、よろしくお願いしますね。」
微笑みながら、春花は奏夜に一礼し、風花へと向き直ると再び一礼して自らの人間としての名を名乗る。
「あ、はい、始めまして、山岸風花です。」
「なんか、今日のシルフィーちゃん、妙に怖くないか?」
「ああ、笑顔だけどな。」
「今日は特にね。あ、でも、二人には気付かせない様に気を配っているみたいだよ。」
「多分、奏夜が、原因。」
一箇所に集まって、ヒソヒソとそんな事を話している残りのアームズモンスター達とキバットの姿があった。
そんな事を話している間に、春花は次狼達や奏夜と風花の前にコーヒーの入ったカップを置くと再び一礼する。
「あの…紅くん…春花さんも次狼さん達みたいに別の姿が…。」
「正しく言えば、あの姿の事は、本来の姿と言うべきだけどね。」
「ええ、次狼達と同じく、私もこの姿は本来の姿とは違う人の中で生きる為の姿ですよ、風花さん。」
そんな会話を交わしながらコーヒーを口に運ぶ奏夜と風花。そして、春花が席に付くとゆっくりと本題に入る。
「…次狼達が前の戦いの時に聞こえた声の主…。山岸さんのペルソナの能力かどうかは分からないけど、君に介して貰う事でぼくはみんなの力を借りる事が出来る。」
「ああ、オレ達はあの時間になると、ここから出られなくなるからな。」
「それに、今までフエッスルの音も聞こえなかったしね。」
何故か、キャッスルドランの中に居る次狼達四魔騎士(アームズモンスター)達は人間と違って影時間の中でも象徴化しない代わりに、その時間の中ではキャッスルドランの外には出られなくなる。
しかも、今までは影時間の中ではブロンブースターやキャッスルドランは召喚できると言うのに、何度フエッスルを使ってもアームズモンスター達は召喚する事は出来ず、基本形態であるキバフォームだけしか変身できなかったのだ。……あの時までは。
「…これからの戦いだと敵も強くなってくる…。キバの力を使う戦いも有る……必ずね。前の戦いの時の様に次狼さん達の力を借りなければ勝てない戦いも起こるはずだ。だから、風花さんの力を貸して欲しい。」
「分かってます、私で良ければ、紅くんの力になります。」
強い意思で風花はそう答えてくれた。S.E.E.Sではなく、キバとしての奏夜に…自分達に力を貸して欲しいと言う願いを引き受けてくれたのは嬉しいのだが、
(…やっぱり、罪悪感が沸くな…桐条先輩の事も有るし…。)
内心そんな事を思ってしまう。
「あ…でも、桐条先輩の言っていた事とは全然違いますよね…。キバが敵だなんて…。キバは紅くんなのに…私だけじゃなくて、みなさんの事も、何度も助けてくれていたのに…。」
「まあ、それが有るからぼくも他のみんなには、この事は言い出せないんだよね。…あまり言いたくは無いけど…ぼく達の近くに、誰か意図的にぼく(キバ)を敵にしたがってる奴がいる…。」
「ああ、だから今はキバの事は、下手に伝えない方が良いだろう。」
「ったく、誰かは知らないけど、そんな事して何の得があるって言うんだよ?」
風花の言葉に奏夜がそう答え、続けて次狼、キバットが感想を述べる。
確信を持ってそう言い切れるのだ。そして、新しく仲間に入った風花は奏夜の姿を見た事もあり、自分を敵にしたがっている者ではないと信頼できる。
「まったく、腹立たしい限りです。奏夜様も、渡様も、その御力を持って多くの人々を守ってきたと言うのに、何者かにそのような汚名を着せられて。」
「ほんと、頭に来ちゃうよね。」
「許せ、ない。」
春花、ラモン、力の順にそんな言葉を零す。
「だから、今度の戦いの時もぼくがキバに変身している時は、みんなを上手く誤魔化してもくれると有りがたいんだよね。」
「分かりました。…何処まで出来るか分かりませんけど、頑張ってみます。」
そんな言葉を交わした後、奏夜の意識が思考の中へと沈む。
S.E.E.Sの面々の中で疑わしい人物…少なくとも、キバを敵にしたがっている者と接触している人間である可能性が高いのは二人だけしかいない。
…確証は無いが、消去法で否定する材料が無いのがその二人なのだ。
明彦と順平の二人は即座に除外できる。そもそも順平などはそんな事を考える(られる?)タイプではないし、仲間になったのは風花と同じく奏夜よりも後なのだから。
次に明彦も順平と同様に明らかに策を労するタイプではない。
続いてゆかりだが…最初に上げた二人と同じく彼女は最初の満月の夜の大型シャドウ、ファンガイアタイプとの戦闘までキバの存在を知らなかった。僅かとは言え、その反応を見ていたのだから、それは確信を持てる。
残りは二人…キバの存在を知っていて、奏夜よりも前からS.E.E.Sに関係していて、なにより…自分達の上位者と接触できる人間である…幾月と美鶴の二人しか残らない。
そして、その中で一番怪しいのは幾月だ。順平が仲間になった時、美鶴はキバの事を幾月に訪ねていた。その話の中で、キバは敵だと言われたのだから…他でもない、幾月の口から。
(…どう考えても理事長が怪しいんだよな…。…でも、桐条先輩の考えも分からない…。あの人の事を簡単に信用するのは危険かもな…。)
今までの行動と言動もそれに拍車をかけている。
…二人共それぞれ何らかの目的が有って奏夜達ペルソナ使いを集め、シャドウと戦わせている。100%の善意ではない、何らかの目的を持って。
「そう言えば、奏夜様、学校の方では文化部にも入ったそうですね。」
奏夜の表情が深刻な色に染まっている事に気付いた春花が彼の意識を別の方に向かわせる様にそう聞いた。
「うん、管弦学部にね。…部活とは言え、最近弾いてなかったし、自由に引ける場所が有ると便利だからね。」
最後に苦笑しながら、『寮だと他の人に気を使うんだよね。』と付け加える。
「私も管弦学部に入ってるんですけど、紅くんって、演奏も出来たんですよね。」
偶然帰宅途中に通りかかった時に見た管弦学部の部員募集の張り紙…迷う事無く即日入部したのだ。その中に風花が居たのには驚いたが…。
「ええ、奏夜様達のヴァイオリンは素晴らしいの一言に付きます。久しぶりに一曲弾いて行かれますか、奏夜様。御預かりしていた『ブラッディ・ローズ』は玉座の間に保管してありますよ。」
祖父である音也が作り上げ、父である渡から受け継いだヴァイオリン『ブラッディ・ローズ』…予備のヴァイオリンを寮に持ち込んだもののそれは春花達に管理を任せていたのだ。
「…素晴らしいって…まだまだ、兄さんや父さん、…それに祖父には適わないよ。」
春風の言葉に苦笑を浮かべながらそう答えると立ち上がり、
「そうだね、久しぶりに弾いてみようかな。」
「あっ、私も聞いてみたいです。」
そう答えると、奏夜は風花を伴って玉座の間へと移動していく。
後に残されたのはアームズモンスター達とキバットなのだが…。
「ふ…フフフフフフフ…。」
ダークオーラを纏って笑いを浮かべている春花の姿がそこに有った。
「…シルフィーちゃん?」
「こ、怖い…。」
「う、ん。」
「刺激しない方がいいな。」
春花のダークオーラに恐怖を感じているキバット達は、次狼のその言葉に即座に同意する。
「…前回の戦いの時も私を呼んでくださらなくて…。」
「いや、シープファンガイアモドキはシルフィーちゃんよりな…。」
「ぼくの方が有利って考えたからだと思うけどね…。ぼくとお兄ちゃんで倒した相手だし。」
「…私の力も遠距離攻撃型です…。…弓矢ですから…。」
単に奏夜も速射性が高いバッシャーマグナムを選んだだけなのだが…。
暗いオーラを纏ってorzな体制の春花は更に言葉を続ける。
「…あの子が私達に力を貸してくれる人だとは理解していますよ…。でも…でも…。」
春花に気付かれない様に静かに出て行くキバット達…。
「何で二人して恋人同士みたいに隣に座ってるんですかぁー、奏夜様ぁー!!!」
そんな絶叫がキャッスルドランの中に響き渡るのだった。
どうでも良いが…玉座の間で奏夜の弾くヴァイオリンの音色を聞いている奏夜と風花はその絶叫に気付く事は無い。
「また始まったよ。」
「…ホント、ああなると長いんだよな。」
「大、変。」
「頼りになるんだけどな…シルフィーちゃん。」
部屋の外に逃げたキバット達のコメント…。
…それはいつも通りのキャッスルドランの中の風景…今日もキャッスルドランの中はいつも通り平和だった…。