ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第二十三夜

影時間…一日と一日の狭間に位置する時間。時が流れ続ける限り、それは必ず訪れる。

どんなに賑わっている場所もその時間だけは“静寂”の中へと沈んで行く。あらゆる機械がその機能を停止し、人々は棺へと象徴化していく。

「…………な。」

バックストリートで、そこに一人の少年が迷い込んでしまった。

「なんだこりゃ、それに……。あ…れ、俺、いったい…?」

不幸にも象徴化を免れ、影時間を体験してしまったその少年は周囲を見て驚愕する。先ほどまで話していた仲間達は消え、それと代わり周囲には棺がひしめき合っているのだから、この反応も当然の事だろう。

「驚きましたか? 今は“影時間”。一日と一日の狭間に有る隠された時間。」

そこに新たな登場人物の存在が現われる。

少年に問い掛けたのは、本当に血が通っているのか疑問に思えるほど、白い肌の少年。

「自覚できない者は棺桶に入って眠ったままですが、ここは本来、誰もが毎晩訪れている世界なのですよ。」

白い肌の少年と共に、眼鏡を掛けた少年と赤い髪の少女も現われる。

あらゆる生命が棺桶の中で眠る影時間にも関わらず、四人もの人間が一堂に会している。全員がペルソナ使いで有ったとしても、偶然に集まる可能性はゼロに近いだろう。まして、ストリートの少年はペルソナ使いではない…。

「いきなりでスマンが、これ見てみい。住所、氏名、年齢、職業、諸々オマエで間違いないな?」

そう言って眼鏡の少年はストリートの少年に一枚の紙切れを見せる。

「な…なんだよ、コレ? どこから持ってきたんだよ!? だいたい…なんだよ、いったい!? アンタ達、誰だよ!?」

ストリートの少年は驚愕する。そこに記されていたのは、間違いなくあらゆる自分に関する項目。しかも、それは名前、住所、年齢、職業を始め、正確過ぎるものであり、何処かで調べたにしても、完璧過ぎる。

「そんなことはどうでもいいのです。あるのは、あなたを恨んでいる人がいると言う事実。」

そう、ストリートの少年は“影時間へと堕とされた”のだ。他でもない…三人組によって、ある目的の為に…。

「恨んでる? なんだよそりゃ。覚えなんてねーぞ。」

その言葉にストリートの少年は馬鹿にしたようにそう問い返す。

「さて…それは私達にはわかりません。」

白い肌の少年の雰囲気に押されて下がっている内にストリートの少年は金網へと追い詰められた。

「あなたが自覚している悪意と相手が感じている悪意とは無関係……。人はみな、聞きたいように聞き、信じたい事だけ信じるものです。」

「意味わかんねーよ! なんだよそれ…わかるように説明しろよ!」

「必要有りません。」

ストリートの少年の罵声をそう切り捨て、白い肌の少年は…

「重要なのは、今。」

“それ”をストリートの少年へと突き付ける。

「あなたが抱いている感情だ!」

少年へと付きつけられたのは拳銃…。周囲を照らす禍々しい月がその銃口を怪しく煌かせる。

「来るな…来んなよ! なんなんだお前ら! だいたいそんなもので脅されても。」

一縷の望みを賭けてそう叫ぶが白い肌の少年は無情にも…

「言っておきますけど、この銃は……。」

残酷な真実を告げる。

「本物ですよ。」

「う………うあ…っ……くっ……来るなぁーーーーーーー!!!」

「素晴らしいですよ、その声! その感情こそが重要なのです!」

誰かに助けを求める様に絶叫する。ただ、叫びながら必死に銃口から逃げようとする。だが、影時間の中には、救いの手は存在していない。

そして、乾いた銃声が響き渡り、少年が崩れ落ちる。“復讐”…影時間を利用し、それを行う代行者達はその復讐を遂げたのだ。

「……まだ死んでない。」

冷たいアスファルトへと倒れ伏す少年を眺め、今まで口を開かなかった少女が呟く。

「どうでもええて。死んでも死なんでも。」

心底どうでも良いと言う様に眼鏡の少年がそう零す。復讐の内容自体が対象の死を望んでいないのかもしれない。

「どうせ、なんや他の事件に置き換わって記憶される。」

そう、影時間の中…目撃する者も居らず、起きた事件は全て違う出来事へと置きかえられてしまう。故に…あらゆる罪が“裁かれる”事はない。

その真実を知る事が出来るのは、この時間に生きる事を許された一握りの者達だけなのだから。

「…最近、この影時間に私達と似た様な存在が居るようですね。彼等は私達の敵かどうか…。そろそろ会ってお話でもしてみましょうか。」

そう呟くと三人は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7/7…七夕の夜

影時間の作戦室…

ペルソナ、ルキアの中、祈りを捧げるような姿で目を閉じる風花。その周囲には数人の人影がその姿を見守っていた。

(…最初が『Ⅰ』の『魔術師』、次が『Ⅱ』の『女教皇』、続くのは…『Ⅲ』の『皇帝』と『Ⅳ』の『女帝』…。順番的に次に出てくるのは『Ⅴ』…『法王』のシャドウか…。)

『皇帝』の所で微かに表情に不快感を浮かべながら今まで戦ったシャドウとタロットカードに置けるカードの順番を奏夜は思い浮かべる。今まで順番に従って出てきたのだから、次もそうである可能性は高い。

「どうだ、反応は有るか?」

中々反応のない風花の索敵に、遂に待ちきれなくなったのか、明彦が彼女に問い掛ける。

出来る事なら、何事もなく影時間が過ぎ去ってくれと思いながら、奏夜も彼女へと視線を向ける。

「待ってください……。」

明彦の言葉に風花は静かに答える。目的のものを探し当てる為に彼女は尚も意識を集中しつづける。

「見つけました! 市街地に大型のシャドウ反応!」

奏夜の願いも虚しく、大型シャドウの反応を捕らえたのだ。

(…“イクサ”…ぼく達に力を貸して下さい……お爺ちゃん。)

「ホントにキタ!?」

かつてイクサを纏っていた己の祖父へと祈りを捧げる様に、奏夜がそんな事を考えていた時、順平がそんな事を叫んだ。順平の言葉はある意味奏夜を除くこの場にいる全員の総意だった。

その事実にある種の確信を持っていた奏夜は例外として、全員が満月の夜に大型シャドウが現われると言うのは半信半疑だったのだろう。

「フーム。これで四度目か……満月の件、どうやら確実と見て間違いないね。」

幾月が確認の意味を込めて呟く。その声に反応した奏夜が彼の方へと視線を向けると…静かな…抑えてはいるが“狂喜”の表情が浮かんでいた。

(…今聞こえたあの人の心の音楽…なんて、不快な音だ…。)

幾月から微かにとは言え聞こえた音楽と言うには全ての音楽に対して最大限の非礼に当たるとも思えるほどに不快な心の音。それを今は頭の中から消し去り、大型シャドウとの戦いに集中すべきと意識をそちらへと向ける。

「場所は巖戸台、ええと……白河通り沿いのビルです。」

風花が反応の有った場所を告げる。

「白河通りか……ここ数日、影人間がよく二人一組で見つかるって聞いてたけど……。」

「成る程……白河通りか。」

幾月の言葉に美鶴も納得した様にそう呟く。

さて、本編を進める前に今回の事件について解説しておこう。今回現われる影人間の特徴は一つ。男女セットで現われる事だ。その為か、『もてない人間による恨みが原因でカップルを影人間にしている』と噂されている程だ。

「二人一組……そう言う事か。」

何かに気が付いたのだろう少し顔を赤くしながら美鶴がそう呟く。

「白河通りって、どんな所でしたっけ。私、あの辺あまり行かないもので……。」

「ぼくは聞いた事は有るけど、その辺には行かないからね。」

「聞いた事はあるけど……。」

光と共に彼女のペルソナは消え去った風花は本当にどう言う場所か知らないのだろう、そんな疑問を口にする。奏夜も苦笑を浮かべながら聞いた事は有るが言った事は無いと答え、ゆかりは顔を俯かせ、ぼそぼそと零すのみだった。

「あ、そっか。ホテル街んとこか。だから二人一組な訳ね。風花も知ってんだろ? ほら、ホテル街だよ、ホ・テ・ル・街!」

白河通りの意味する事に気付いたのだろう、ニヤリとして順平はそう言った。

「え、えっ……。」

順平の言葉で風花も理解したのだろう、風花は俯き、瞬時に真っ赤になる。はっきり言って可愛らしい反応である。

「一応、言っておくけど…順平は山岸さんの護衛だからね。」

「分かってるよ。」

本当に分かっているのかは疑問だが…。多少不安に思いながら、ゆかり達の方へと視線を向けると。

「おいおい、何を妄想してるんだ? 内装が凝ってるだけの単なるホテルだから。うん、言って見ればアミューズメント・ホテル?」

幾月の言葉に数名ほど噴出してしまう。笑っていない者達の中に居るゆかりが、

「なーんか、今回はヤな予感がする……行くのヤメよっかな……。」

「まーた、ゆかりッチ、意外なトコ子供なんだから…。」

「ちょっ、子供はどっちよ! オッケー、行こうじゃん。どっちが子供か、ハッキリさせてやるんだから! 私、今回の作戦は前線で戦うの予約します。」

順平の言葉に簡単に挑発されたゆかりが彼へと牙を向きつつ、手を上げてそんな事を宣言してくれた。

「あのー…岳羽さん…元々今回の作戦って、順平が留守番って決まってる事忘れてる?」

「それはどうでもいいっての! …さあ、現場の指揮は誰がやるんですか?」

どうでもいいと切り捨てられた順平に視線を向けてみると、orzな体制で落ち込んでいた。…流石に今回ばかりは同情してしまう奏夜だった。

「そうだな。これまで通り、紅に任せよう。」

「分かりました。」

順平に同情の視線を向けている時、そう言われて美鶴へと向き直ると表情を引き締め一礼しつつそう答えた。

キバへの変身がし難くなるのは問題だが、それは引き続いての事で大して気にする必要もない。風花と言う協力者も居るのだから、以前よりも楽にはなっている。

「それとバックアップは、今回から作戦時も山岸に頼む。」

「はい、頑張ります!」

風花の参戦後にバックアップを彼女と交代する形で美鶴も晴れて前線に復帰した。これで、前線の戦力は、奏夜、ゆかり、順平の二年生トリオに加えて上級生の明彦と美鶴の二人を加えた五人となったのだ。

もっとも、現在は順平が罰の為に前線からは外れているが、今回の作戦終了時には正式に前線へと復帰する。

「それから…紅。これを使う者を今の内に決めておいてくれ、戦いながら渡すのは難しいだろうからな。」

そう言って美鶴は奏夜にイクサナックルを差し出す。イクサの武器から考えて後方型のゆかりは除外…選ぶべきは…

「じゃあ…真田先輩、お願いします。使い方は分かってますね。」

「任せておけ。」

奏夜からイクサナックルを渡され自身を持って明彦はそう答えるのだった。

「で、本当にあいつで良かったのか、奏夜?」

「うん。真田先輩には悪いけど、紅くんの方がもっと…。」

寮の入り口…先にこの場に来た奏夜とキバット…そして、風花がそんな会話を交わしていた。

「確かに…ぼくが使えば“聞いた事が有る”って言うレベルだけど知っているし、他の人よりも使いこなせる可能性も有るだろうね。」

キバットと風花の言葉に苦笑を浮かべながら奏夜はそう答えた。そもそも、イクサカリバーとイクサナックルが主用武器のイクサにボクシングスタイルのバトルスタイルの明彦では多少相性も悪いだろう。それに対して奏夜は特殊な物を除いて様々な武器を操る事か出来る。ならば、奏夜の方がイクサナックルを使いこなせる可能性は高い事は間違いない。

「でも、ぼくにはキバの鎧が有るからね。ぼくがイクサを使うのは飽く迄キバの鎧を纏えない時だけだよ。それに、みんなにもイクサに慣れていてもらわないとね。」

キバの存在や自分を保険にしつつ、後々の戦力を強化する為に敢えて今回は明彦を装着者に選んだのだ。

「でも…。」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。山岸さんのお蔭で皆の力も借りられるんだから…。簡単には負ける気はしない。」

「はい!」

それでも、まだ不安そうにしていた風花を安心させる様に力強く言うと、彼女も安心した様にそう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル内

『紅くん、聞こえる?』

「うん、問題ない。それで、ターゲットは?」

『えっと……三階に巨大な反応があります。至急向かって下さい!』

ホテルの入り口を潜り、留守番に順平を残した一行(パーティー)は薄暗いホテルの廊下を歩いていく。

戦力的には申し分ない。イクサナックルの存在も考えれば…今回はキバに変身する事無く、大型シャドウを倒す事が出来るかも知れないと言う考えさえ浮かんできてしまう。

(…油断は禁物だな…。ルークやビショップ級の相手に出て来られたら、今のぼくじゃ勝ち目は無いんだし。)

…そう、奏夜はまだ本来の黄金のキバ(エンペラーフォーム)にはなれないのだから、そこまでの強敵には太刀打ちできないのだ。そう考え、甘い考えを霧散させ、シャドウの襲撃を警戒しながら、三階を目指す。

影時間の為にエレベーターは使えず、階段を利用して奏夜達は一階から二階、二階から三階へと登って行く。幸か不幸かまだシャドウの姿は確認できていない。

(…妙だな…。)

シャドウの襲撃が無いことに流石に疑問に思ってしまう。『罠か?』とも思ってしまうが、それでも回避すると言う選択肢は取れないのだから、敢えてその中に飛び込み、シャドウを討つしかない。

そして、風花の指示によって一行は一際大きな部屋の前に辿り着いた。

『この扉の向こうに、巨大なシャドウの反応を感じます!』

奏夜が扉を見上げると風花が指示した部屋には『法皇の間』と書かれていた。…順番通りならばこの先に居るのは『法皇』…。

(…随分と分かりやすい所に居るもんだね。RPGのラスボスじゃないんだからさ…。)

冷たい表情でそんな事を考えながら、武器の小剣を強く握る。

「分かった。…みんな、準備は?」

そう言って振り返ると各々の武器を構えながら、他の三人も頷く。

「それじゃあ……行くよ!!!」

奏夜の叫び声を合図に一行は勢い良く扉を開き部屋の中に飛び込んでいく。

そこは、相当な大金を支払ったVIP専用の部屋なのだろう、十分に戦いやすい広さを持っている。

そして、その先に立ち、この部屋の主人は己だと言うように中心に座している一体のシャドウ。太った体に二体の女性のようなパーツを従えた…法皇(ハイエロファント)のシャドウ。

「VIPルームにご招待どうも。さあ、招待客も揃った事だし…始めようか? 戦い(パーティ)を!!!」

「こんな所に出現するから、とんでもない事してくるかと思ったけど……まあ、良いや。すぐに片付けて帰らせてもらうよ!」

奏夜とゆかりの言葉を号令として、

「…山岸さん…分析を…。」

『はい!』

戦闘を開始する。

(頼んだよ、次狼さん。)

奏夜は自身の中に座する者をガルルへと変える。満月の夜にその戦闘力を上昇させるガルルは様子見には一番使いやすいのだ。

そして、剣を振るいハイエロファントに斬りかかる。それと同時にゆかりも弓を放った。

二人の攻撃が直撃し、ハイエロファントは大きくのけぞる。それと同時に、

『敵、法皇タイプです! 電撃は反射されます、使わないで下さい! …光、闇は無効化されます!』

「了解! 真田先輩は前に出て、ぼくと一緒に直接攻撃を主体に、岳羽さんは後方から援護を…ああ、回復の方を優先して、美鶴先輩は魔法攻撃で援護を。」

「了解!」

「オッケー! 手伝って、イオ!」

「了解した! 行くぞ、ペンテレシア!」

指示を出している間に今までのけぞっていたハイエロファントは起き上がる。

中級疾風魔法(ガルーラ)!」

中級氷結魔法(ブフーラ)!」

同時に放たれた風の刃と氷の礫がハイエロファントを襲う。

「ドッガ…。」

「ポリデュークス…。」

二つの中級魔法の直撃に苦しんでいるハイエロファント懐に飛び込んだ奏夜と明彦は引き金(トリガー)を引き、己のペルソナ-奏夜はガルルからドッガへとペルソナを変えたが-を呼び出し。

「「ソニックパンチ!!!」」

同時に同じスキルを叩き込む。二つの剛拳…それによって、ハイエロファントは大きく吹き飛ばされながら耳障りな悲鳴を上げる事となるのだ。

そして、奏夜と明彦の二人は素早くハイエロファントから離れる。ペルソナの恩恵によって優れた身体能力を得ているとは言え、流石に人知を超えた化け物相手に体力勝負を挑む気は無い。

奏夜のドッガと明彦のポリデュークスの二つのペルソナの魔法は雷撃(ジオ)系を持ち、それらの魔法は雷撃反射の耐性を持つハイエロファントには使えない。だが、奏夜のドッガのも魔法は雷撃が全てではない。

奏夜達の一斉攻撃を受け、倒れていたハイエロファントが起き上がり、奏夜達に顔の様な部分を向け、『今度はこっちの番だ』とでも言う様に癪に障る不気味な笑い声を上げる。

『攻撃来ます! みんな避けて!』

風花の叫びが響く。相手が雷撃を反射する耐性を持つ以上…得意とする魔法は…。

雷撃(ジオ)系か!?)「岳羽さん、桐条先輩、ぼくか真田先輩を盾にして!」

「っ!? そうか、分かった!」

「え、ええ!? うん!」

奏夜の指示にゆかりは奏夜の、美鶴は明彦の後ろに隠れた瞬間、上空から何本もの雷撃が襲う。

(っ!? しかも、マハジオンガか!?)

奏夜のペルソナ『ドッガ』も会得している全体攻撃可能な中級の雷撃魔法が、上空から降り注ぐ。モノレールの時と同様に上空から降り注ぐ雷を全て回避する手段は無い。特に雷撃が弱点のペルソナを持つゆかりには致命的だが…防ぐ方法はある。

奏夜達一行(パーティー)が雷に飲み込まれたのを見て嘲笑する用にハイエロファントが笑い声を上げる。だが、

「!?」

その顔面に岩が叩きつけられる。

「…悪いけど…この程度の雷撃はぼくには通用しないよ。」

自分とゆかりを護る様に前方に紫紺の巨人(ドッガ)のペルソナを出現させた奏夜がそう宣言する。

ドッガのペルソナの持つ耐性は『雷撃無効』、目の前のシャドウの反射とは違うが、それでも完全に無効化できる。

仲間達にはそれは事前に説明済みであり、故に雷撃を弱点とするゆかりは奏夜の影に隠れたのだ。

「あ、ありがとう、紅くん。」

「どういたしまして。」

『良かった、みんな無事で。』

風花の安心したような声が響く。彼女の言葉に横へと視線を向けてみると……そこには軽減は出来てもしっかりとダメージを受けている明彦と無傷な美鶴がいた。

「明彦、すまない。」

「く、紅…オレはお前と違ってダメージは受けるんだぞ。」

「あ、あはは…; すみません、真田先輩。」

それでも、耐性の無い美鶴が受けるよりもはるかに被害は軽減できる。だが、盾にされた身にしては溜まった物ではないのだろう。

美鶴が回復魔法を明彦にかけている間に奏夜は再び引き金を引き、ペルソナを出現させる。

「さてと…これはお返しだよ。中級大地魔法(マハマグナス)!!!」

奏夜の指示と共にドッガが両腕を叩きつけ、大きく振り上げた右腕を床へと叩きつけた瞬間、巨大な岩石の雨がハイエロファントの上空から降り注ぐ。

「これはおまけよ! イオ! 中級疾風魔法(マハガルーラ)!!!」

岩石の中から出てきたハイエロァントをゆかりのペルソナのイオが放った風の刃が追撃とばかりに切り刻む。

「そうだな、私もお返しをさせてもらおうか。ペンテレシア!!! 中級氷結魔法(マハブフーラ)!!!」

続いて氷の飛礫が突き刺さる。大地、風、氷の三種の魔法の連続攻撃…。ダメージを与える目的も有ったが、奏夜達の攻撃の本来の目的はそれではない。

確かに今までのシャドウと比べて強力な魔法を操り、耐久力も有り、明らかにその強さを増している。だが…この時点で既に勝敗は決していたのだ。

「真田先輩、トドメ任せます!!!」

「任せろ!!!」

耐性がある為にハイエロファントの雷撃の盾にされた明彦がその怒りをハイエロファントへと叩き付ける様に奏夜の放った岩石を足場にシャドウへと肉薄、拳をその仮面へと叩きつける。

砕けた法皇のタイプを象徴する仮面が乾いた音を立てて床へと転がり、耳障りな悲鳴を上げてハイエロファントのシャドウは霧散していく。

「ふぅ…。」

霧散したシャドウの姿を眺めつつ、今までの事を考えるとこの程度で終わるはずが無いのが、大型シャドウとの戦いなのだ。

『気を付けて下さい、敵の反応…まだ消えてません!』

(やっぱりな。)

風花の声に全員が気を引き締める。シャドウの再生は既に四回目…再生したシャドウは数の上では今回のハイエロファントで五体目なのだから、驚きは無い。

部屋の隅へと移動した砕けた仮面はすぐに視界の中へと入った。

砕けた法皇を意味する仮面が黒い泥のような物を引き上げながら浮かび上がり、その形を修復する。

そして、黒い固まりが子供が作った粘土細工の様に人の形を作りだし、続いてその形をヒトデを模した形へと練り上げて行く。『シースターファンガイア』の物へとその形を変えた泥に仮面が装着されると同時に焼き上げられた陶器の様に、硬さと色彩を得る。

五体目のファンガイアタイプ…『シースターファンガイアタイプ』がその場に現われたのだ。

「ああ、ここからが本番って所だな!」

何処か嬉しそうに明彦はイクサナックルを取り出し、それを左手の掌へと叩きつける。

《レ・デ・ィ・ー》

告げるべきは奏夜のそれと同じく力を与える言霊。

「変身!!!」

それを叫びベルトへとイクサナックルを装着させる。

《フ・ィ・ス・ト・オ・ン》

ベルトより現れた十字架が白い人型の騎士を作り上げてそれが明彦の体と重なっていく。そして、十字架を象った頭部が開くと、その中から赤い瞳が現れる。

(…これが父さんや叔父さんの仲間だった名護さんや、お爺ちゃんの使っていた…イクサ。)

現われたるは人の生み出したる魔に対抗する科学の聖騎士(の量産試作型)…その名は『仮面ライダーイクサ簡易型』

(…聞いていた物とは全然違うような…? なんて言うか…力強さに欠けるって言うか…本物なのか疑いたくなる気がするな。)

その姿を眺めつつイクサへと視線を向けながら、奏夜はそんな事を考えていた。

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